トルコ -政治的混乱の下でも原発プロジェクト加速か?- 2つの裁判闘争とアックユ原発プロジェクトの再開

専門家の現地調査が行なわれる間、原発敷地前のゲートで抗議活動を行なう人々(7月11日、アックユ)

専門家の現地調査が行なわれる間、原発敷地前のゲートで抗議活動を行なう人々(7月11日、アックユ)

トルコでは、地中海沿岸のアックユと黒海沿岸のシノップで、原発建設プロジェクトが進められている。本レポートではトルコの原発建設プロジェクトに関する最近のできごとについて報告する。

裁判闘争により、原発反対運動の活性化が期待できるかに思えた。だが、クーデター未遂事件とその後の政府の権限強化、ロシアとの関係修復により、原発反対運動にとっては厳しい状況が到来している。

■ 原発建設計画をめぐる裁判闘争

日本政府・企業も深く関わるシノップの原発建設プロジェクトに対し、裁判闘争が開始された。訴訟を起こしたのはトルコ技術者・建築家会議所、都市計画者会議所、電気技師会議所、シノップ反原発プラットフォーム、シノップ環境の友、そして地元住民らだ。

5月31日、原発建設計画は開発事業に必要な環境設計計画で示されておらず、原発建設プロジェクトの存在が人々から隠されているとして、行政裁判所で環境都市開発省に対する訴訟を起こした。

現在の環境設計計画は2015年に作成されており、その時点で2013年に日仏企業連合によるシノップ原発建設が決まってから2年が経過している。だが環境設計計画には原発建設プロジェクトが示されていない。原発が建設される予定の地域は、環境設計計画では貴重な生物の生息域として示されている 。

告訴人であるシノップ反原発プラットフォームのゼキ・カラタシュは「この訴訟はシノップだけの訴訟ではなく、トルコ全体にとっての訴訟だ。シノップの声を大きくし、国全体で力を合わせるときだ」と訴えた 。シノップでは現在、原発プロジェクトの実施可能性調査が続いている。

専門家の現地調査が行なわれる間、原発敷地前のゲートで抗議活動を行なう人々(7月11日、アックユ)
専門家の現地調査が行なわれる間、原発敷地前のゲートで抗議活動を行なう人々(7月11日、アックユ)

原発建設プロジェクトに対する裁判闘争は、ロシアの協力によるアックユ原発プロジェクトについても続いている。

アックユ原発の事業主体であるアックユ原発電力生産社は、原発プロジェクトの環境影響評価を2013年に環境都市計画省へ提出した。環境影響評価は一旦拒否されたものの、2014年12月に結局のところ承認された。

環境影響評価の承認に対し、トルコ技術者・建築家会議所やグリーンピースが、環境影響評価は十分な能力を有したスタッフによって行なわれていないことや、放射性廃棄物管理計画が不透明であることなどを訴え、2015年に訴訟を起こした。

この訴訟をめぐるプロセスの一環として、専門家による原発建設地の現地調査が7月11日に行なわれた。憲兵隊の警備する敷地入場ゲート前でNGOメンバーや地元住民らが抗議活動を続ける中、調査を行なう専門家や告訴人、弁護士らが敷地内に通された。

敷地内では調査のための用地ツアーや、会議所での会談が行なわれたという 。地質学、水生生物学、公衆衛生学、電気技術などの専門家たちは、用地選定に関する誤りや計画の非経済性などを専門家委員に訴えた。法律家たちは、環境影響評価プロセスが法に反した形で行なわれたと訴えた。

これに対し被告側であるプロジェクト企業と環境都市計画省の弁護士は、環境影響評価報告の内容に間違いはなく、告訴人たちの訴えは具体的ではないと主張し、告訴人への回答を拒否した 。

日本では司法の判断による稼働中の原発停止の事例があるが、トルコでは係争中のプロジェクトに対して裁判所が停止命令を出すことはできない。たとえば、アックユ原発建設にも関わるジェンギズ・ホールディングによるチャナッカレの火力発電所プロジェクトに関し、肯定的な環境影響評価の取り消しを求める訴訟が2012年以降続いてきた。環境影響評価は行政裁判所によってくり返し撤回させられたが、4回目の環境影響評価に対する訴訟は受理されなかった。環境影響評価が3度にわたって撤回させられた裁判プロセスの間も、火力発電所の建設は絶え間なく続けられた 。

■ 2016年7月のクーデター未遂と非常事態宣言

7月15日夜、トルコ軍兵士の一部が反乱を起こし、クーデターを宣言した。だが市民の抵抗などにより反乱は翌日にはほぼ鎮圧され、一時は危機に陥ったエルドアン大統領も復権を果たした。

クーデター未遂の背景について全ては明らかになっていないが、政権は米国在住トルコ人宗教指導者ギュレン氏とその信奉者による犯行であるとし、非難を強めている。ギュレン氏の信奉者と見られる人々への厳しい取り締まりや関連組織の閉鎖が続けられる中、エルドアン大統領や与党の支持者らが大規模なクーデター抗議集会をくり返している。

7月20日には「テロ組織関係者を排除するため」として3か月間の非常事態が宣言された。大統領を議長とする閣僚会議は国会審議を経ずに政令を発することができるようになるなど、エルドアン大統領は大きな権力を手にした。国内には政権に批判的なことを発言しにくい雰囲気が広がっている。

非常事態宣言に関連して、トルコ西部イズミール地方の環境都市開発管理局は、廃棄物処理場や養鶏場など9件の開発計画について、非常事態宣言の期間中、環境影響評価報告は必要ないと発表した。この決定は投資事業の停滞を防ぐためだという 。非常事態宣言は自然環境を保護するためのプロセスにも影響を与えている。今後、原発建設計画になんらかの影響が生じることも考えられる。

■ ロシアとの関係修復

8月9日、エルドアン大統領はロシアを訪問し、プーチン大統領との会談を行なった。

両国は対シリア政策を巡って対立していたが、昨年11月にシリア国境でトルコ軍がロシア軍機を撃墜して以降、関係悪化が深刻化していた。両国は相互に経済制裁を発動し、ロシア側は制裁の一環としてアックユ原発プロジェクトの停止もちらつかせていた。

両国関係の全面的回復で合意した今回の会談では、アックユ原発プロジェクトも主要な話題の一つとなった。原発建設の再開が確認されたほか、原発プロジェクトに戦略的な投資インセンティブが与えられることになった。原発建設プロジェクトには関税免除、保険割引、有利な土地割り当て、有利な貸し付け率、付加価値税の払い戻しなどのインセンティブが与えられ、全体で90%もの税割引を得ることが可能だという 。

(記事/写真:NNAFJ事務局)  ノーニュークス・アジアフォーラム通信No.141より

ⅰ T.C. Çevre ve Şehircilik Bakanlığı. “Sinop – Kastamonu – Çankırı Planlama Bölgesi”. http://www.csb.gov.tr/gm/mpgm/index.php?Sayfa=sayfaicerik&IcId=497. Accessed 13 August 2016.
ⅱ VİTRİN HABER. Nükleer Karşıtları Dava Açtı. 2 June 2016. http://www.vitrinhaber.com/cevre/nukleer-karsitlari-dava-acti-h15618.html. Accessed 13 August 2016.
ⅲ Yeşil Gazete. Akkuyu bilirkişi keşfi göstermelik mi?. 13 July 2016. https://yesilgazete.org/blog/2016/07/13/akkuyu-bilirkisi-kesfi-gostermelik-mi/. Accessed 13 August 2016.
ⅳ BİR GÜN. Nükleer felakete bir adım daha. 12 July 2016. http://www.birgun.net/haber-detay/nukleer-felakete-bir-adim-daha-119523.html. Accessed 13 August 2016.
ⅴ BİR GÜN. Akkuyu NGS keşfi: ‘Nükleer karşıtı mücadele bir Sisifos Görevi mi?’. 13 July 2016. http://www.birgun.net/haber-detay/akkuyu-ngs-kesfi-nukleer-karsiti-mucadele-bir-sisifos-gorevi-mi-119813.html. Accessed 13 August 2016.
ⅵ Umut. OHAL doğayı da etkiliyor: 9 ‘ÇED Raporu gerekli değildir’ kararı verildi. 30 July 2016. http://umutgazetesi2.org/ohal-dogayi-da-etkiliyor-9-ced-raporu-gerekli-degildir-karari-verildi/. Accessed 13 August 2016.
ⅶ Milliyet. Akkuyu’ya % 90 vergi indirimi. 11 August 2016. http://www.milliyet.com.tr/akkuyu-ya-90-vergi-indirimi-ekonomi-2292899/. Accessed 13 August 2016.

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★ノーニュークス・アジアフォーラム通信141号(8月20日発行、B5-32p)もくじ

● オーストラリアのアボリジニの人々が立ち向かう、放射性廃棄物をめぐる戦争
(ジム・グリーン)
● 台湾「第四原発凍結予算」5億元削除!(原発廃止全国プラットフォーム)
● トルコ、2つの裁判闘争とアックユ原発プロジェクトの再開
● クダンクラム原発の引き渡しとインド政府の「感謝」(PMANE)
● 中国・連雲港で使用済み核燃料処理施設の建設に市民らが抗議
● 平岡敬元広島市長のハプチョン・テグ訪問記(高野聡)
● 核、次世代に渡せぬ 原爆投下71年 伊方原発(大分合同新聞)
● 伊方原発運転差し止め広島裁判について(堀江壮)
● 原発をとめるための2つの方法(小坂正則)
● 大間原発反対現地集会と大MAGROCK(中道雅史)
● 原発メーカー訴訟・第一審判決を受けて(島昭宏)

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