英ウェールズ・アングルシー島での原発反対運動に福島から応援団

大倉純子(アイルランド在住)

日立が原発を輸出しようとしているウィルヴァの地元アングルシー島でフォトショップを営む写真家のジュリアンさん作成のポストカード。同島内の古代遺跡の写真。説明文は「この青銅器時代のスタンディングストーンから1マイルと離れていないウィルヴァで作られる日立の放射性廃棄物、それは、このストーンが過ごした年月の百倍の時間をかけないと消えない」「私たちの子どもたちのために、そして何世代にもわたる子孫のために、今こそ核の悪夢を止める時だ」

英ウェールズ北西部アングルシー島に、日立が原発輸出を計画している(事業者は現地子会社ホライズン)。

5月末、ウィルヴァ原発の地元住民反対運動団体PAWB(People Agianst Wylfa B)の代表3名が日本政府への反対署名提出のために訪日した際、福島県農民連代表の根本敬氏らが「福島の経験に学んでほしい」とウィルヴァ現地訪問を申し出た。7月半ば、アングルシー島および周辺地域計5ヶ所での講演会、記者会見、農業関連の話題を紹介する地元テレビ番組のインタビュー、アングルシー州議員との面談、農場訪問などが行なわれた。

アングルシー州議会にて(写真提供:藍原寛子)

訪問メンバーの一人、馬場績氏は福島原発から30kmの浪江町津島地区で畜産・米畑作を行なうとともに、この28年間町議を勤めてきた。帰還困難区域にある自宅・田畑の荒れ果てた現状や、避難時の混乱について話された。事前合意にもかかわらず東電から事故の連絡は何もなく、浪江町独自の判断で住民は津島地区へ避難したが、実はそこは高線量地区であったこと、食料も医薬品もガソリンもない状況で、避難の最中に亡くなった方がたくさんいることを写真を見せながら話された。また、アングルシーから本土に行くには二本の橋しかないことから「緊急事態になったらどんな混乱が起こるか」と懸念を表された。

根本さんは二本松市で米畑作を営む農家。事故後、福島の農民で自殺した人が何人もいること、人間だけでなく家畜たちも悲惨な末路をたどらざるをえなかったことを話された。農民連の太陽光発電事業を紹介し、「百姓たるもの食とエネルギーは自給すべし、後世に廃炉や廃棄物の負担を押し付けるな」と熱く語った。

故郷の福島から情報発信を続けるフリージャーナリストの藍原寛子さんは、ご自分も編纂にかかわった「福島10の教訓」を説明し、また、マーシャル諸島大統領が核推進側を評した言葉「Lie, Deny, Classify(うそ、否定、機密扱い)」(今、PAWBの間で流行っている)や、アイリーン・美緒子・スミスさんの「水俣と福島に共通する10の手口」を紹介された。

ところで、この原発の名前のアルファベット表記はWylfa Newydd。発音はウィル「ヴ」ァ・ニューイッ「th」。英語ではなく、ウェールズ語だからだ。「イギリス」は、実は国政の中心イングランドと、ケルト文化圏に属するウェールズ、スコットランド、北アイルランドの4つの国からなる連合国で、それぞれが独自の文化・言語を持つ。そのうち、明確に脱原発を打ち出し、独立の機運も高いスコットランドや、紛争の後遺症が続き、また隣のアイルランド共和国も関わってくる北アイルランドは、ヘタに刺激できないからか、原発関連のお荷物はウェールズに押し付けられがちのようだ(セラフィールドのあるカンブリアも、現在はイングランドだが地名の語源はウェールズ語)。

地図でもわかるように、アングルシーはウェールズの北西の端だ。島の住民の大半がウェールズ語で生活しており、自分たちの言語・文化への強い誇りがある。30年前にPAWBが結成されたときも、その母体はウェールズ語協会だったそうだ。一方、人口・産業は200km以上離れた首都カーディフがある南部に集中している。

実際の政策決定は、第一にロンドンの英国会(与党:保守党)、次にカーディフのウェールズ議会(与党:労働党。支持母体の労働組合が雇用を理由に原発に賛成しているため、労働党も賛成)のトップダウン。日本の原発に見られる中央-周辺の差別構造が、ここでも顕著に現れている。

ウェールズにはプライド・カムリ(ウェールズ党)という民族政党があるが、原発への意見は党内で分かれている。「PAWBにはプライド・カムリ支持者が多いが、党の上層部は支持者や一般党員の意見を聞かない」とPAWB設立メンバーのディランさんは歯噛みする。現にアングルシー州議会はプライド・カムリが与党だが、明確に反対を表明するのは1人か2人。福島の訪問団との面談でも「自分たちにはなんの決定権もない」と言い訳ともつかない発言をしていた。しかし、緊急避難計画策定責任はアングルシー州にある。このような危機感のなさで、どんな計画ができるのか心配だ。

アングルシーの主要産業は農業と観光。美しいビーチやヨットハーバー、貴重鳥類の営巣地があり、世界一長い名前で有名な駅やアイルランド共和国へのフェリー港もある。内陸は広々とした牧草地が広がり、吹き渡る風が気持ちいい。人々はとてもフレンドリーで、落ち着いた穏やかさが印象的だ。それでも経済的に「貧しい」地域とされ、「雇用創出」が第一の政策課題とされる。

カルナーヴァンにてPAWBメンバーと。後ろに見える龍の旗はウェールズ国旗(写真提供:藍原寛子)

英国では原発立地への政府からの交付金制度はないが、日立・ホライズン社のばら撒き工作は始まっている。私の宿泊先にもホライズン社のPRパンフが配布されてきていた(英語とウェールズ語半々。現地の文化軽視批判への対策らしい)。コミュニティ支援としてサッカー施設などに3千万円を寄付したことや、アングルシー出身者のホライズン社への幹部登用、若者たちの日本への招待旅行などが載っていた。

地元の小中学校ではホライズン社員による授業がカリキュラムに組み込まれ、昨日の新聞には、ウィルヴァ原発建設に必要な技術習得コースを地域の専門学校内に設ける、という記事が出ていた。

PAWBのロブさんは「地域の開発計画はすべて『ウィルヴァ』ありき。原発に限らずたった一つのプロジェクトに地域の将来をかけるのは無謀」と指摘する。

実は、記者会見会場に予約してあったホテルから、前日になってキャンセルされる事件があった。「過激な人たちが抗議行動をしようとしている」という電話があったとのこと。「このホテルはこれまでいろんなイベントで使ってきたのに」とPAWBメンバーは残念がる。日本の原発予定地が味わってきた、露骨で汚いコミュニティ分断工作がここでも行なわれるのかと思うと胸が痛む。

原発予定地で唯一ホライズンへの土地売却を拒否したジョーンズ夫妻との面談では、農業や原発への世代間の意見の相違など、国を超えた共通の話題が出た。ジョーンズ家では息子さんが後を継ぐことを明言しており家族の結束は固いが、多くの若者は他の仕事をやりたがるという。ジョーンズ家には2011年夏に土地売却の打診があった。非常に高圧的で、断ると様々な嫌がらせがあったが、地元新聞が報じたことでやっと収まったという。同地ですでに廃炉になったウィルヴァA原発による健康被害に関しては、ご自身の娘さんが悪性リンパ腫、また孫の親友は白血病だという。この地域はガンの割合が非常に高いと病院などでも言われるが、行政は否定する。人口も少ないため証明が困難とのこと。「実は原発に反対している人はたくさんいるのに、メディアは報じない」と苦言を呈する。敷地の一部をリゾート会社に貸し出そうとしたが、原発に近すぎるということで断られたそうだ。

英国全体でも原子力への逆風は激しい。高騰する費用、見通しのつかない地層処理、一方で再生可能エネルギーのコスト低下。しかし英政府は原子力に不合理なほど執着している(ロブさんは「軍用核技術保持のため」と推測する)。

「私たちが土地を所有するのではない、私たちが土地に属しているのだ」(注)というジョーンズ夫妻の言葉に共感できる者同士の連帯。これしか核の狂気を止める方法はないのかもしれない。
*注:元はアボリジニの、彼らと大地のスピリチュアルな関係を表す言葉

(7月31日記。英国の原発計画や今回の訪問は、東京新聞・朝日新聞のデジタル・サイトに関連記事が出ているので、チェックしてほしい)

(ノーニュークス・アジアフォーラム通信No.153より)

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★ノーニュークス・アジアフォーラム通信153号(8月20日発行、B5-24p)もくじ

・慶州市民の汗と涙が成し遂げた、月城1号機の廃炉決定 (イ・サンホン)
・台湾第四原発で呉文通さん楊貴英さんに会う (さとう大)
・台湾における原発推進派の巻き返し (陳威志)             
・英ウェールズ・アングルシー島での原発反対運動に福島から応援団 (大倉純子)
・原発に関するトルコでの報道 (森山拓也)
・東電刑事裁判 ― 驚くべき新事実も次々明らかに (佐藤和良)
・東海第二原発の20年運転延長を認めない!~首都圏連絡会のとりくみ~
埼玉県議会の意見書に抗議する県民のとりくみ (白田真希)
・島根原発3号機「新規稼働」申請と周辺自治体の権限を考える (水藤周三)
・ほろのべ 核のゴミを考える全国交流会 報告 (衛藤英二)

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★本『原発をとめるアジアの人々』推薦文:広瀬隆・斎藤貴男・小出裕章・海渡雄一・伴英幸・河合弘之・鎌仲ひとみ・ミサオ・レッドウルフ・鎌田慧・満田夏花http://www.nonukesasiaforum.org/jp/136f.htm

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・インドネシア・台湾への原発輸出反対運動の記録他
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■ ノーニュークス・アジアフォーラム通信(No.1~144)
■ ストップ原発輸出キャペーン通信
■ 第1回NNAF報告集(全国28ヶ所で集会。高木仁三郎・藤田祐幸・金源植など各国からの発言)
■ 神戸・環太平洋反原子力会議報告集
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★NNAF通信・国別主要掲載記事一覧(No.1~153) http://nonukesasiaforum.org/japan/article_list01

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