UAEのバラカ原発:炉型、時期、場所、すべてが誤り

2018年3月、1号機前で(文在寅大統領も)

UAEのバラカ原発:炉型、時期、場所、すべてが誤り
JP Casey(Power Technology 20年4月17日)

UAE(アラブ首長国連邦)は、同国初のバラカ原発について、数か月以内に稼働を開始する予定であると発表した。バラカ原発はUAEの電力需要に中心的な役割を果たすことを期待されているが、地政学的に緊迫した状況下での実用性、安全性に関する疑問は残されたままだ。

アブダビ首長国のガルビヤ地方から53キロ離れた地点に位置し、200億ドルをかけたこの事業が開始されたのは2012年。ついに完成の時が近づいている。韓国電力公社などの韓国企業連合によって建設され、APR1400という炉型の原子炉4基から成るこの原発の出力は560万kWにのぼり、UAEの電力需要の四分の一を満たすことになる。

バラカ原発は、「増大し続けるエネルギー需要に応える」「二酸化炭素を排出しないクリーンエネルギーの割合を増やす」「完成すれば世界第6位の規模となるこの原発が、中東のエネルギー革命の幕を切って落とす」などと、期待を込めて語られている。

しかしそうした華々しい主張の背後で、このプロジェクトは議論の的となり続けている。マクロの視点からは、このような地政学的に緊張感の高い場所に原発を建設すること自体が帯びる固有の危険性があげられる。バラカ原発そのものに対しては、格納容器のコンクリートに亀裂、空隙が生じていることなどだ。このプロジェクトに関しては、批判の声が上がり続けている。

バラカ原発に関して極めて懐疑的な見解を持つ専門家の一人、英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン上席研究員のポール・ドーフマン博士は言う。

「原子力分野への投資が大規模な財政損失を生み出すという事実を考えると、人びとはバラカ原発建設には『他の隠された理由』があるのだろうかと疑問に思うでしょう。とくに湾岸諸国にとっては、原発は経済的にごく小さな意味しか持たないように見えます。砂漠地域の王国なのだから、太陽光発電については世界で最も恵まれた環境を手にしています。太陽光発電は原発よりもずっと安価な投資額と発電コストが可能なのに」

一方、世界原子力協会(WNA)の上級報道官ジョナサン・コブ氏は、「バラカ原発はすべての必要な要件を満たしており、韓国電力公社からの強力な安全認証が出ています。韓国電力公社が設計開発したAPR1400型原子炉は、実際に2016年から韓国で運転開始されています」と述べる。

「FANR(アラブ首長国連邦原子力規制機関)による精査のみならず、1号機は『起動前審査(PSUR)』にも合格しました。これは、世界原子力発電事業者協会(WANO)によって策定された国際的な基準によって運用されている審査です」とコブ氏は語る。

しかし、ドーフマンはそれらの安全性に関する認証に再び疑念を投げかける。原子力産業においては安全性に関する規制については概して緩やかなアプローチがとられているからである。

「原子炉の設計は進化しましたが、バラカ原発にはそれに伴って追加されるべきカギとなる安全機能が追加されていないのです。フランスのアレヴァ社の最高経営責任者はバラカ原発の設計に関して『エアバッグとシートベルトのない車』と表現しました。バラカ原発の設計は、事故あるいは飛行機の衝突や、軍による攻撃の場合の大規模な放射性物質の放出に対しては不十分な防衛しか持ちあわせていないのです。とりわけ心配なのは、コアキャッチャーがないということです。緊急炉心冷却装置の故障が発生した場合に、コアキャッチャーがあれば圧力容器から溶け出してきた核燃料を支えることができるのです。その上、4基とも格納容器のコンクリートに亀裂、空隙があり、設置されているパイロット式逃がし安全弁も欠陥があります」

彼はさらに、2013年に発覚した一連のスキャンダルによって韓国電力公社の評判が損なわれていることも指摘する。韓国の原発において、部品の安全性に関わる書類を偽造(2287件)したとして、安全審査に関わる上級職員らが実刑を受けた。最終的には100人が起訴され、韓国で運転中だった23基のうち6基が2012年から14年にかけて閉鎖を余儀なくされた。

UAEはこの原発建設で韓国電力公社と200億ドルで契約した。それは他の入札企業の提示額よりもかなり安い金額だった。これも不安な点だ。2008年、シナプス・エナジー社が、新規原発建設は110万kW規模の原発1基あたり90億ドルまで跳ね上がるだろうと予測した。この予測に従えば、バラカ原発の建設費用は450億ドル程度となり、韓国電力公社がこの原発に投資した額の2倍以上となる。

不確実な安全性認証は、これらのリスクにもかかわらずバラカ原発を承認した世界の原子力規制機関の信用を著しく損なう可能性がある。ドーフマンは、この原発の窮状は、「義務的であるよりも裁量的」である原子力規制の本質を明るみに出していると語る。原発をもった国のみが、運転と安全性の基準を守る責任を負わされ、強大な国際組織はそれを支援しないという構図になっているのだ。

「国際原子力機関(IAEA)は、誰にでも命令できるわけではない。イラン、パキスタン、イスラエルなどで起きてきたことを見ればわかるとおりです」

原発の安全性というのは、他のエネルギー源による発電とは全く異なるありかたで、各国の政策やその地域の地政学と分かちがたく結びついているといえる。

ドーフマンが指摘するのは、イエメン内戦の例だ。反政府勢力のフーシ派が2015年に、アブドラッボ・マンスール・ハーディー大統領を倒した。そして、フーシ派は17年、UAEのイエメン内戦への干渉に対する警告として、バラカ原発に向かって巡行ミサイルを発射したと発表した。

核施設に対して軍事攻撃が加えられた場合、明白な政治的、人道的緊急事態になるということが予想される。

「19年のフーシ派によるサウジアラビアの石油精製施設に対する軍事攻撃でもわかるとおり、緊迫した湾岸諸国の戦略的地政学は、地球上の他のどの地域よりも、原発建設をより論争の的としています」と、ドーフマンは語り、その地域で暮らす人々やその地域の安定性に対して原発が課す脅威は解決されないままであると要約した。

「バラカ原発が本格的に発電を開始したら、意図されたものであれ偶発的なものであれ、大きなリスクが発生するでしょう。バラカ原発は、誤った時代に、誤った場所に建てられた、誤った原発です」

 

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