オーストラリア、核燃サイクルの上流と下流 ― アボリジニーの大地と日本の原発のかかわり ―

(NNAFJ集会での講演より)

細川弘明(京都精華大学)

私は、オーストラリアの先住民族の文化を研究しています。初めてオーストラリアに長期滞在して調査を行なった当時は、ほとんど原発問題に知識はありませんでした。しかし、滞在中にチェルノブイリ事故が発生し、東欧などから人々がオーストラリアに避難・移住して来られたのです。そうした人々から話を聞き、原発事故がどのようなものかを知って認識が大きく変わりました。

オーストラリアでの調査を進めていくうちに、各地でウラン鉱山開発が行なわれていることを知りました。また、アボリジニーの人々をはじめとして多くの人々がそれに反対していることもわかってきました。

当時は日本の政府機関である「動燃」(動力炉・核燃料開発事業団、その後、統合再編を経て現在は、日本原子力研究開発機構)がさかんにオーストラリア各地でのウラン探査に関わっていたので、日本国民の税金によってこのような活動が行なわれている実態を目の当たりにして、自分の責任も感じるようになり、原発問題を深く考えるようになりました。

■ アボリジニーの人々

ある男性は、植民地時代に「野蛮人の見本」としてイギリスなどに持ち帰られて博物館や医大の倉庫などに収蔵されているアボリジニーの遺骨や遺髪などを丹念に調査しています。交渉を行ない、返還に応じたところについては現地に赴いて引き取り、出身地がわかればその土地まで持ち帰って埋葬するという活動を20年間続けています。

ある女性は、最近自伝を出版しました。西オーストラリアの沙漠地帯の人です。人類学者が話を聞いて一緒にまとめたものです。南オーストラリア州でイギリスが核実験をしたときに、その地域のアボリジニーの人々を強制移住させた先の地域にもともと住んでいた人々の一人です。自分たちの地域に、いきなり核実験難民がたくさん移住してきて、様々なトラブルがあったという歴史が描かれています。

オーストラリアでは、英国流の議会政治の慣例で、新人議員に初議会で一人20分ほどの個人演説の機会が与えられます。2016年7月に上院議員になったアボリジニー女性のマランディリ・マカーシーさんは、北部準州の戦後のアボリジニーの労働運動史を活き活きと描くスピーチをしました。同じく2016年に当選したリンダ・バーニーさんの初議会演説のときには、傍聴席に並んだ家族が彼女を議場に迎え入れるためにアボリジニーの歌を歌いました。これまでアボリジニーの国会議員は比例代表制をとる上院で当選することが多かったのですが、リンダさんは小選挙区制をとる下院でアボリジニー女性として初めて当選した人です。

アボリジニーのあいだでも、フェイスブックやツイッター、ブログなどを使いこなす人がどんどん増えてきています。アボリジニーや先住民族と言ったときに、皆さんがもつイメージは、かなり「シンプル」なものだと思いますが、実はアボリジニーの人々と言っても実に多様性があって、いろいろな分野で活躍をしている人がたくさんいることを知ってほしいと思います。

■ 核実験とウラン鉱山と植民地支配

144-11

星印が、核実験が行なわれたところ。地図をご覧ください。イギリスはオーストラリアで核実験をやりました。フランスは、最初はアルジェリアで、その後はタヒチで行ないました。ソ連はカザフスタンで。中国の核実験も漢民族ではなくウイグル民族の居住地域で行なわれました。アメリカの核実験もアメリカインディアンの土地やマーシャル諸島でやりました。核実験というのは、帝国主義的なものです。自分のところではやらない。少数民族が住んでいるところ、または植民地で行なっています。南アフリカも、ナミビアでやっています。インド核実験も少数民族地域です。

ウラン鉱山はどうでしょうか。ニジェールにウラン鉱山地帯があります。東京電力が購入していた産出地で、ベルベル系のトゥアレグ人の地域です。彼らは遊牧民で、国境をまたいで行き来していますが、そのアルジェリア側のサハラ砂漠で核実験が行なわれましたし、核廃棄物の処分場も計画されています。

世界のウラン鉱山の分布を見ると、核実験場のある国や地域、そして核廃棄物の処分場や不法投棄が大規模に行なわれてきたところにぐっと寄り集まっています。先住民族の地域に集中しています。

中国も、チベットでウランを掘って、ウイグルで核実験をして、廃棄物はチベットに捨てようとしています。非常に露骨です。

ちなみに北朝鮮は、ウランを自国で掘っています。もともと日本軍が開発したウラン鉱山です。戦前に日本も核兵器を作ろうと研究して、そのときに使われたウランです。日本が撤退した後に、北朝鮮が再開発をして、ウランを自給しています。

一つひとつ話していくと、この問題だけでも一晩かかってしまいます。先住民族の地域には、ウラン採掘だけではなく核開発のいろいろな段階が凝縮されているのです。

■ 南オーストラリアの核実験場

南オーストラリアの核実験場は、汚染のため長らく閉鎖されていました。もともとそこに住んでいたアボリジニーは、南と西に移住させられました。南に移住した人はコミュニティを作りました。もとの実験場がマラリンガという地名(意味は「雷鳴の響くところ」)でしたが、海岸沿いに新たに作ったコミュニティもマラリンガと命名されました。元の土地に帰りたい人たちはたくさんいますが、まだ除染が完了していませんし、移住先で長年生活してきたので、子どもたちの世代ではもう帰らないという人も多いです。西に移動させられた人たちはもっと悲惨でした。移った先でもウラン鉱山開発の話が持ち上がり、再び移動させられたケースもありました。同じ人たちが、核開発のしわ寄せをくり返し受けるということが起きています。

■ あらゆる段階で生み出される放射性廃棄物

原発を巡るサイクル図の中で、一般的に発電所に至るまでを上流といい、発電所から後を下流と言います。電事連(電気事業連合会)のコマーシャルなどでは、上流と下流がきれいに循環しているような図がよく使われます。こうした図の問題点はいろいろありますが、大きな問題は、廃棄物が出る段階が二つしかないかのように描かれていることです。原発が運転したあとに低レベルの核廃棄物が出て、そして、再処理をしたあとに高レベル廃棄物が出る、と。

実際はそんな単純なものではありません。同じことを違うレイアウトで描くと、各段階で核のゴミが出てきます。事故が起きていない場合ですよ。各段階で、違った性質の核のごみが出て、それらをすべて何らかの方法で処理しなければならない。ウラン採掘の段階でも、製錬の段階でもそうです。さっきの電事連の図では、そのことが省かれています。描かれていないと、私たちはなかなか考えません。核のごみが自分たちの身近に置かれないからです。どこか知らないところに持って行かれると、こちらの意識の外になってしまいます。

ウラン鉱山はウラン鉱石の純度(品位)が高いところから先に開発されて採掘されます。オーストラリアのウラン開発には日本からも三菱や住友や丸紅が関わっています。将来、ウランが足りなくなって値段が上がって、それでも原発をやる、核兵器を作るという国があればウランは売れるので、今すぐは掘らない鉱脈も、鉱山会社は押さえています。

普通なら鉱石を掘り出して地上で粉砕して硝酸や硫酸など強い酸で洗ってウランを抽出するのですが、南オーストラリア州のオリンピックダム鉱山に近いハネムーン鉱山では、ウラン純度が低いのに無理やり採掘するので、地下に直接、酸を注入して溶かして吸い上げるという方法をとっています。コストが安く抑えられるのですが、地下水を激しく汚染するので大問題です。

■ 狙われるキンタイヤ鉱山

私が一番気にしているのは、西オーストラリア州のキンタイヤです。潜在的な資源量としては、世界一ともいわれるウラン鉱床が存在します。ここには三菱も関わっています。この地域にもアボリジニーの人々が暮らしていました。

南オーストラリア州には、核実験場の他に、大陸間弾道ミサイルの実験場がありました。イギリスの核兵器を載せるためのミサイルの実験場です。そこから3000キロくらい離れたところ、ミサイルを飛ばして落とす地点がキンタイヤだという計画になったので、人々は海沿いのポート・ヘットランドという町に強制移住させられていました。

ミサイルを飛ばす元の場所でもアボリジニーを強制的に移住させるし、ミサイルを落とす先でもアボリジニーを移住させたわけです。人々を立ち退かせて空っぽになったところに、ミサイルを撃ち込むという実験でした。

ミサイル実験のために移住を余儀なくされていたアボリジニーがやっと自分たちの土地キンタイヤに戻れることになり、戻ろうとしたら今度はウラン鉱山開発の問題が持ち上がったのです。本当に踏んだり蹴ったりです。

■ 先住民族の声に耳を傾けない社会

核実験、ウラン採掘などにアボリジニーが巻き込まれて、同じ人たちがくり返し強制移住をさせられたり、汚染地域に住まわせられたりしているということをお話ししてきました。オーストラリアの場合は詳細がある程度わかりますが、世界の他の地域で研究している人たちの話を聞くと、世界各地でも同じようなことが起きているようです。

これはたまたまそうだというよりも、世界の核開発を進める構造の中で、先住民族が文句を言っても聞いてもらえないという世界の構造があるからまかり通ることなのです。先住民族の声にわれわれがちゃんと耳を傾ける社会なのであれば、そうそうまかり通るはずのない事態です。そのことを理解することが重要だと思います。

■ アボリジニーの神話について

ウラン鉱山は、水を大量に消費します。南オーストラリアでは、あちこちに点々と存在しているマウンドスプリングスと呼ばれる多数の泉が次々と枯れはじめています。ウラン鉱山操業のために地下水を大量にくみ上げてパイプラインで送り出すためです。観光資源としても大切だった泉が枯れてきて大きな問題となっていますが、地下水脈でつながりあう多くの泉が枯れてきていることをアボリジニーの人たちは非常に深刻に受け止めています。

オーストラリア大陸の東部の山脈に降る雨が地形の関係で南オーストラリアの大きな地下水源に流れ込んでいるのです。地上はからからに乾燥しているのに、掘れば水が出てきます。入植したヨーロッパ人が乾燥地で牧羊産業を展開できたのは、この地下水を利用したからでした。しかし、その地下水が枯れるほど、ウラン鉱山操業で水が使われているのです。

アボリジニーの人たちは、景色を見るとその意味を考えます。この泉はどうしてできたのだろうか。この泉と隣の泉はどのような関係なのだろうか、と。それぞれの泉に責任を持っている家族がいて、その泉の歌を代々伝えます。そしてその歌をつなげていくと一つ長い物語になるのです。転々と連なる泉が、アボリジニーの神話とつながっているのです。アボリジニーの神話は、出てくる地名がすべて実在のものです。泉にはすべて名前がついていて、神話に歌い込まれています。

アボリジニーの神話は、一か所で何かがあったというものではなく、ここでこれがあって、次にそこに進んで、と移動しながら事件が続いていくのが特徴です。するとあるところから別の民族になるので、別の言語になりますが、そのストーリーは続いていきます。神話を守るためにはとなりあった民族が仲よくしなければなりません。喧嘩をしたり戦争をしたりしてしまうと、神話の継承が途切れてしまいます。神話が途切れると泉が枯れたりすると考えられています。アボリジニーの神話というのは、ある種の安全保障装置というか、平和構築の媒体であるといえます。

彼ら自身はお互いに喧嘩もしていないのに、ウラン鉱山開発によって泉が枯れてしまっています。

■ 福島事故の衝撃

2011年4月、レンジャー鉱区とジャビルカ鉱区の地元のアボリジニーであるミラル人が、福島原発事故を受けて声明を出しました。「自分たちの土地で掘り出されたウランでできた核燃料によって日本で大事故が起きたことに非常に心を痛めている。ウランの採掘を中止してほしい」と求める内容です。この声明は国連のバン・ギムン事務総長(当時)にもレターとして提出されました。

実際にはレンジャー鉱山のウランは主に関西電力に来ていて、東電はオリンピックダム鉱山からのウランを購入しているので、まさにミラル人の土地で掘られたウランが福島で、ということではないのですが、彼女たちにとっては、アボリジニーの土地で掘り出されたウランが日本で多くの人々を追いやり、苦しめる事故を起こしたということで、外交辞令ではなく本当に心を痛めておられます。病気で寝込む人も出てしまうほど、彼らにとっても大きなインパクトをもった事故でした。

■ アボリジニーの人々から学ぶこと

アボリジニーの人々から私たちが最も学ばなければならないことは、ある景色を見たときに、その景色のもつ意味を考えることです。即物的に考えたら景色に意味はありません。しかし、なぜそこに泉があるのか、なぜそこに川があるのか、それを考えずにはいられないのがアボリジニーの人々です。その土地で長く暮らし、口伝えしてきた出来事を彼らなりに再構成して、ストーリーを紡いで、それを神話として共有します。ここから先がアボリジニーの非常に独特なところですが、その神話をパーツに分けて、みんなで分担して責任を持ちます。責任を分担した人たちがそれぞれ責任を果たして初めて、神話がまとまった全体として伝えられます。だれかがさぼって途切れると、景色が壊れてしまう、という発想をします。

この文化は、私たちにもじゅうぶん共有可能だと思います。もちろんアボリジニーの人たちほど突き詰めて考えるのは難しいかもしれません。写真にとってしまうと固定した一つの景色にすぎなくなります。でもその背景にいろいろな動きがあり、その地域の環境や一年の季節があります。なぜ雨季になるとそこに水がたくさんあるかは、アボリジニーの人々にとっては神話的な理由があります。そういうストーリーを共有していると、同じ景色を見ても違って見えてくるものです。

ここに上関原発予定地の写真があります。これを見て、こんなきれいな湾が埋め立てられて原発がたってしまうなんて、と想像することも大事です。でもこの写真を見て、浅くて暖かい水をたたえたこの海で稚魚が生まれ、そこではぐくまれて大きな魚になること。祝島の人たちから見たら、埋め立てられる方向から朝日が昇るので、毎朝そちらに向かって拝んでいること。話を聞いて、そういういろんな営みを知っていると、一枚の写真からいろいろな意味が語りかけられてくるようになります。景色を見ながら、その背後にある意味を想像する、地元の人たちから話を聞いて想像できるようになるという機会をもつことが非常に大事だと思います。

阿武隈川の写真を見て、「ここは汚染されています」と言うことはできます。しかし、もともとそこは汚染されてなくて、周囲の人たちにとっては、小さな子どもを連れていく憩いの場所で、子どもたちが転げまわれるよい場所だったし、季節によって違う景色を見せる吾妻連峰を眺められる場所だったのです。

そういういろいろな地元の人たちの語りがあります。それを私たちが共有していくことがとても大事だなあと思います。

アボリジニーの人たちが景色からさまざまなことを読み取るので、私もそういう癖がついてしまいました。知らないところから勝手に読み取ろうと思っても、とんちんかんなことしか読み取れません。地元の人の話を聞くということがとても大事だと思います

144-8
2016年10月15日、「国際的な放射性廃棄物処分場」建設計画に反対する集会。3000名が参加、南オーストラリア州議会前

(ノーニュークス・アジアフォーラム通信No.144より)

************************
★ノーニュークス・アジアフォーラム通信144号(2月20日発行、B5-36p)もくじ

●「日印原子力協定の国会承認に反対します」(日印原子力協定国会承認反対キャンペーン)

●南オーストラリア州は、世界の核のゴミ捨て場にはなりません(ジム・グリーンほか)

●オーストラリア、核燃サイクルの上流と下流 ― アボリジニーの大地と日本の原発のかかわり― (細川弘明)

●4月に迫る国民投票とトルコの開発プロジェクト(森山拓也)

●台湾、2025年までに原発ゼロ社会?(陳威志)

●韓国:全国脱核活動家大会 開催、「2017年、脱核元年」を決意(小原つなき)

●もんじゅ廃炉を活かし、核燃料サイクル阻止、新たな闘いを!(池島芙紀子)

●嘘とまやかしの核燃料サイクルにとどめを!(佐原若子)

●高浜原発うごかすな!1000人が関電本店を包囲(木原壯林)

●伊方原発広島本訴訟3回公判・意見陳述(小倉正)

●ノーニュークス・アジアフォーラム通信 No.109~143 主要掲載記事一覧

●ノーニュークス・アジアフォーラム(1993~2016)全記録DVD

年6回発行です。購読料(年2000円)
見本誌を無料で送ります。事務局へ連絡ください
sdaisuke@rice.ocn.ne.jp

★NNAF通信・主要掲載記事(No.1~143) http://www.nonukesasiaforum.org/jp/keisaikiji.htm

★本『原発をとめるアジアの人々』推薦文:広瀬隆・斎藤貴男・小出裕章・海渡雄一・伴英幸・河合弘之・鎌仲ひとみ・ミサオ・レッドウルフ・鎌田慧・満田夏花http://www.nonukesasiaforum.org/jp/136f.htm

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です