韓国 2020年の脱核課題は 2021年に続く

韓国・脱核新聞編集委員会  (脱核新聞84号より)

1.使用済み核燃料管理政策の「密室」公論調査


2019年5月に市民・社会(団体)や利害当事者を排除して発足した産業通商資源部(経産省にあたる)の「使用済み核燃料管理政策再検討委員会」は、19年11月から専門家の意見収集を始めた。

また、使用済み核燃料中長期管理政策に関する全国からの意見収集は、2020年5月23日から8月2日まで実施され、「月城(ウォルソン)原発使用済み核燃料の乾式貯蔵施設」(以下、マクスター)建設の可否を問う慶州地域の意見収集は、6月27日から7月19日までの3週間行われた。

専門家で構成された検討グループの11名は20年1月に、「形式的な手続きとして行われる公論調査(公論化)を廃棄すること」を要求し、辞退の記者会見を開いた。

全国の市民・社会は5月23日、全国の意見収集のための説明会の開催に抗議し、14地域中、12地域でデモをした。慶州地域住民説明会は、住民と市民社会の抗議で白紙に戻された。

その過程でチョン・チョンファ再検討委員長は、6月26日、公論調査の公正性の担保が難しいとし、委員長職を辞任した。

産業部と再検討委は、キム・ソヨンを新任再検討委員長に任命し、「コロナ19」を言い訳に密室の中の公論調査を続けた。

全国脱原発陣営は、政府に抗議し、大統領府の前で「使用済み核燃料のでたらめな公論調査の無効を宣言」した。

再検討委は21年上半期に「使用済み核燃料管理政策意見収集の最終勧告報告書」を産業部に提出する予定だ。

2.5万人が参加した蔚山住民投票

蔚山(ウルサン)市は、月城(ウォルソン)原発の基準放射線非常計画区域内に属し、約100万人が暮している。しかし、産業部と再検討委は、マクスター建設賛否意見収拾の過程から蔚山を排除した。

蔚山市民社会と労働組合などはこれに抗議し、「月城原発の使用済み核燃料保存施設(マクスター)の追加建設賛否を問う蔚山北区住民投票」を実施した。住民投票は5月28日から6月6日まで、事前投票、オンライン投票、本投票と、3段階で行われた。蔚山北区有権者の17万5138人のうち、5万479人(28.82%)がこの投票に参加した。投票者のうち、94.8%に当たる4万7829人がマクスター建設に反対した。

住民投票運動本部は住民投票以後、大統領府が投票結果を受け入れるよう求め、7月27日から8月25日まで、大統領府前で座り込みをした。

蔚山北区住民投票では、本投票の投票所を34か所に設置した。また、選挙事務員とボランティアは合計1081名が参加した。延べ3千人を越えるスタッフで開催した自主住民投票であった。

3.マクスター建設反対のたたかいは現在進行形

産業部と再検討委員会は、7月24日、慶州地域の意見聴取の結果を発表した。「145人の市民参加団のうち、81.4%がマクスター建設に賛成した」と。

産業部はこれを首相に報告し、首相は計画通りにマクスター建設をすすめることを指示、韓水原は7月31日にマクスターの建設着工式を行った。

しかし、慶州(キョンジュ)市と陽南面(ヤンナムミョン)、蔚山市の住民と市民団体は、「市民参加団」に韓水原の利害当事者が20人以上参加した事実を証拠として提示した。募集団の分布を反映しない市民参加団の構成など、公論操作疑惑を提起した。陽南・慶州・蔚山住民と市民団体は、産業部と国会に「公開検証」を要求したが、行われなかった。

住民と市民団体は今でも、月城原発の前で「マクスター反対」毎週ピケットデモと、海上デモなどをしている。全国833人の市民は、原子力安全委員会を相手にマクスター建設許可の取り消し訴訟も行っている。

4.台風で止まった核発電所

9月4日の台風9号の影響で、古里(コリ)1~4号機と新古里1・2号機の外部電源を喪失し、非常ディーゼル発電機が起動した。このうち運転中だった4基が運転停止した。新古里3号機も、台風で屋根の一部が損傷し、大気補助変圧器が停電した。9月7日の台風10号の際には、月城2・3号機もタービン発電機が停止し、運転停止した。

原子力安全委員会は、古里1~4号機は機械用変圧器に塩分が吸着し「フラッシオーバ」現象が発生し、スイッチヤードにある遮断機が開放され、外部電源を喪失したと発表した。新古里1・2号機は、送電するジャンパー線が送電塔に近づいたことによってフラッシオーバが発生し、外部電源を喪失したとした。

市民社会は真相調査委員会の設置を求めたが、原安委は再稼働を容認した。

新古里3・4号機は、7月23日の集中豪雨の際にも、スイッチヤード管理棟と送電設備が浸水した。

5.大田、都心の河川に放射能が流れる

20年1月、大田(テジョン)市の都心に位置する韓国原子力研究院の周辺の雨水管と河川の土壌で、セシウム137、セシウム134、コバルト60などの放射性物質が検出された。研究院の裏手の雨水管の入口では、セシウム濃度が最高138ベクレル/kgまで検出されており、これは平均濃度の59倍に達する。

3月20日、原子力安全委員会は、原子力研究院でセシウム汚染水が毎年約400~500リットルずつ、30年で1万5千リットル、河川に流れたと発表した。原子力安全委員会は、放射性物質が原子力研究院の内部の廃棄物自然蒸発施設から流れたことを確認した。

6.古里原発1号機の解体計画の公聴会

韓国水力原子力㈱が、20年7月1日から60日間、「古里1号機の最終解体計画書」の供覧と説明会を行った。さらに、住民たちの要求によって11月20日から、釜山広域市、釜山機張(キジャン)郡、蔚山市蔚州(ウルチュ)郡、蔚山広域市を対象に公聴会を行った。

韓水原は、2022年に古里1号機の解体計画が承認されれば、2025年までに使用済み核燃料を搬出し、2031年には敷地の復元に着手、2032年12月に解体を終了するという計画だ。

古里1号機の解体計画に関する全ての説明会や公聴会では、住民たちが「使用済み核燃料を十分に処分できないなら、完璧な解体とは言えない」と反発した。これに対し韓水原は、使用済み核燃料を政府政策に則って処分すると述べた。使用済み核燃料の処分をめぐって今後の難航が予想される。

7.霊光ハンビッ原発3号機、再稼動

格納容器で空隙が多数発見された霊光(ヨングァン)のハンビッ3号機が、20年11月14日から再稼動した。

ハンビッ3号機は、2018年5月11日から始まった計画予防整備期間(919日)において、格納容器で空隙、グリス漏油、鉄板腐食などが確認された。韓水原は124か所の空隙と、184か所の鉄筋露出部を反映した構造健全性評価を通じて、格納容器の健全性に異常がないことを確認したと発表した。

しかし、脱核エネルギー転換全羅北道連帯と全羅北道民衆行動などは、「3号機の構造健全性評価は、拙速・不良・セルフ評価であり、グリス漏油による亀裂要素と空隙の進行性の有無が反映されなかった」と主張した。また、建設工事の欠陥の責任を問わなければならない韓国電力技術㈱に、構造健全性評価を任せた過ちを批判して、責任者処罰を要求した。

8.ハンビッ原発5号機、原子炉ヘッド不良溶接

ハンビッ5号機の原子炉ヘッドの貫通管の不良溶接が、20年7月25日に初めて確認された。当時、作業者は、溶接材質が作業指示書に書かれたインコネル690材質ではない、ステンレス材質であることを確認し、7月26日の真夜中にこれを報告した。原子力安全委員会は、2日後の7月29日になって、不良溶接部の削除および再溶接を許可した。

当時、原子力安全委員会と韓水原は、これを作業者のミスだとした。しかし、10月29日、情報提供者を通じて、原子炉ヘッド不良溶接が、すでに明らかになったもの以外にも存在するということが分かった。

以降、原子力安全委員会は、84の原子炉ヘッドの貫通管のうち、3つの不良溶接を確認した。また、25の貫通管は映像不良などで確認できていない。さらに、原子力安全委員会は、手抜き工事に関連して、12月1日、光州(クァンジュ)地検に捜査を依頼した。

市民社会は原子力安全委員会が、7月に不良溶接をきちんと検証せず、作業の再開を許容したことに対して批判し、真相調査や責任者処罰を要求している。

9.新古里原発5・6号機訴訟、新古里原発4号機訴訟

グリーンピースと全国の市民など合計560人が原子力安全委員会を相手に提起した新古里5・6号機建設許可処分取り消し訴訟の二審判決が、2021年1月8日、ソウル高等裁判所で行われる予定だ。

この訴訟は、2016年9月に始まっており2019年2月に行われた一審(ソウル行政裁判所)では、重大事故の場合の放射線影響に対する評価が正しく行われなかったことなど、原子力安全委員会の一部の違法を認めたが、建設を中断した場合の損失が大きく、公共福利のために建設許可を取り消すことができないという「事情判決」を下した。

これとは別に、新古里4号機の運転許可取り消し訴訟も進行中だ。この訴訟は蔚山、釜山、慶州などを中心に全国732人が共同訴訟に参加し、2019年5月1日、原子力安全委員会相手に起こした訴訟であり、現在、一審裁判が進められている。

10.甲状腺がん共同訴訟、一審の最終段階

甲状腺がん共同訴訟の一審裁判が詰めの段階にさしかかっている。20年10月14日、釜山地方裁判所で裁判が開かれて以後、未だ弁論期日は決まっていないが、裁判部は、弁論を終結する意向をちらつかせた。

核発電所地域対策委員会らは、11月3日、「甲状腺がん被害者国会証言大会『ここに人がいる』」を開催した。核発電所地域対策委と市民社会は一審の裁判終結に先立って989人の嘆願書を集めており、これを裁判部に提出する予定だ。

この訴訟を触発した「ギュンド家族の訴訟」は、一審では勝訴したが、二審で敗訴、最高裁に上告したが、最高裁は、「審理不続行」として上告を棄却した。ギュンド家族の訴訟の二審で裁判部は、原発の周辺地域の住民の甲状腺がんの発病について、原発が排出する放射性物質との因果関係を証明できないとし、韓国水力原子力の側の主張を認めた。

11.福島原発汚染水対応

日本政府は、20年10月末、福島原発汚染水の海への放流の決定を延期した。11月20日、在韓日本大使館当局者は韓国の記者たちとの懇親会で「断言はできないが、今年中に放流案を決定する可能性がある。2022年夏頃を放流の時点として想定している」と明らかにした。

汚染水海洋放出の計画に対して、日本をはじめ、国際的な反対の声が高まっている。環境運動連合は「福島汚染水の海洋放流反対キャンペーン」を進行中であり、グリーンピースも持続的な反対活動をしている。

日本の市民団体である原子力資料情報室は、汚染水貯蔵タンク増設、または汚染水固体化を代案として提示している。

福島汚染水の海への放出について、福島県内の基礎自治体の約70%が「反対」および「慎重な対応」を要求している。

12.「大韓民国の津々浦々まで持って行け、核廃棄物」

核廃棄物のドラム缶の模型をトラックにいっぱい積んだ「大韓民国の津々浦々まで持って行け、核廃棄物」キャンペーン団は、10月24日から9泊10日の日程で、釜山・蔚山・慶州・蔚珍・大邱・霊光・大田・ソウルを走り回った。

キャンペーン団は、「使用済み核燃料管理政策の再検討」の問題点と核廃棄物の実態を市民に知らせ、社会的責任を訴えた。

キャンペーン団は、各地域で脱原発団体と共同して、核廃棄物のドラム缶を押して街頭行進をくり返し、サイレンが鳴ると地面に倒れるというパフォーマンスを行った。

しかし11月2日、警察の制止のため、彼らは大統領府前の広場にはドラム缶を押して入ることができなかった。同日、全国の脱原発団体は、大統領府への進入路で「拙速・でたらめ・密室 公論調査(公論化)の無効を宣言」する記者会見を開いた。警察は同日、記者会見を集会法違反とし、環境運動連合の活動家に出頭要求書を送った。    (訳/小原つなき)

「大韓民国の津々浦々まで持って行け、核廃棄物」キャンペーン、9泊10日の旅

核廃棄物がなくなるその日まで
「大韓民国の津々浦々まで持って行け、核廃棄物」キャンペーン、9泊10日の旅

キム・ヒョンウク(釜山エネルギー正義行動)  脱核新聞83号より

 核廃棄物ドラム缶の模型をトラックに載せた「大韓民国の津々浦々まで持って行け、核廃棄物」キャンペーンが、10月24日に釜山(プサン)を出発し、ソウルまで10日間のキャンペーンをくり広げた。蔚山(ウルサン)、慶州(キョンジュ)、蔚珍(ウルチン)、大邱(テグ)、霊光(ヨングァン)、大田(テジョン)を経由し、核廃棄物の問題を全国の市民にアピールした。
 釜山で開催した出帆式には、コロナ禍にもかかわらず60人あまりが参加した。そのあと、20個の核廃棄物ドラム缶の模型を引きながら3kmほど離れた宋象賢広場まで行進し、「10万年の責任」である核廃棄物の問題点を釜山市民にアピールした。市民からは、「(コロナ禍の)こんな時期に集会を開くなんて」「道路まで占拠して」などという批判の視線も注がれたが、実物大の「核廃棄物ドラム缶の模型」は、釜山市民らの脳裏に焼き付いたはずだ。実は、前日の夜、ドラム缶を載せたトラックをマンションの駐車場に止めておいたところ、警察に通報されるというハプニングもあった。結局、深夜にトラックを他の場所に移さなければならなかった。翌25日、釜山の代表的な観光地である海雲台や広安里海水浴場で、ダイイング・パフォーマンス(死のパフォーマンス)をし、蔚山に向かった。

 蔚山市北区では、今年の6月に民間主導で行われた住民投票で、94.8%の住民がマクスター(使用済み核燃料の乾式貯蔵施設)の建設に反対するという結果がでた。しかし、マクスターの追加建設は決まってしまった。それでも蔚山市民たちは挫折せず今も熱烈にたたかっている。毎週月曜日には、慶州のナア里の住民たちと共にマクスター建設反対のスタンディングを行っている。
 蔚山では26日に記者会見を開き、蔚山市庁前の車道を30人あまりが行進した。道路全体の車線を占拠したときは、少々解放感のようなものも感じられた。

 次の慶州で、「月城(ウォルソン)原発隣接地域移住対策委員会」のファン・ブンヒさんは「キャンペーンを見た多くの慶州市民が、漠然としていた核廃棄物のイメージを現実のものとして感じることができたようです。心の奥底で回避し忘れようとしていた存在を自覚することになったと思います。今回のような「核廃棄物ドラム缶行進」を、今後も、月に一度でも実施できればと思います」と語った。ファン・ブンヒさんの切実な思いが伝わってきた。

●「私、知っているよ、これ核廃棄物でしょ」

 ドラム缶を載せたトラックは、また走り始めた。蔚珍に到着した晩、私たちは、明日の記者会見に出席する方が運営する宿舎に泊まった。蔚珍社会政策研究所の所長がわざわざ宿舎を訪ねてくれて、蔚珍の現在の状況を私たちに説明してくれた。蔚珍は、新ハンウル原発3・4号機の建設計画が撤回されて一安心していたが、先日、郡議会の原発特別委員会が文書を発表したという。「新ハンウル原発3・4号機の建設の再推進を要求」する内容だ。こうした中、私たちキャンペーン団が蔚珍に来てくれたのは大変ありがたいと彼は言った。そして、彼は「全国の脱原発活動家たちと連携し、核廃棄物の問題についてももっと深く地域社会で議論しなければならない」と語った。
 蔚珍では地域住民と密接に話をすることができ、最も記憶に残った。
 また、蔚珍市場では、露店商のおばあさんたちが予想以上に、キャンペーンに興味を示してくれた。「私、知っているよ、これ核廃棄物でしょ」といいながら、マッコリをくれた。喜んで一杯いただき、歌も一曲歌ったら、これまでの疲れがすっかり解消した。
 10月28日は、大邱に向かった。大邱では懇談会が設けられた。大邱は反核運動が「不毛の地」だと言われてきたが、2011年の福島事故以後から現在まで毎週「脱原発火曜デモ」をくり広げている。合計で264回に及ぶという。懇談会では、新規の原発建設と原発の寿命延長の禁止を法制化しなければならないという意見を交わした。「脱原発基本法」草案を作り、実際に法制定まで進めることができれば、核廃棄物の問題に全国のすべての市民が正しく責任を負うことになるのではと感じた。

● 投げつけたい核廃棄物

 29日、霊光を訪れた。キャンペーン団が釜山を出発し霊光に到着するまでのあいだに、霊光にあるハンビッ原発5号機がまた稼動停止した。180日間の整備期間中に数百億ウォンをかけて蒸気発生器を交換して、再稼働するやいなや数日後に問題が生じたのだ。全羅道では数年前から「『核廃棄物をソウルに持って行け』という運動が必要だ」と主張されてきた。原発で生産される多くの電気はソウルと首都圏のために作られているにもかかわらず、その責任は原発が立地する地域住民たちに押し付けられようとしているからである。しかし原発立地地域の活動家たちにとって、「核廃棄物をどこかに持っていけ」という言葉を簡単に発することはできない。核による危険と不平等を誰よりもよく知っているからだ。本当に核廃棄物を投げ出したくなってしまった。
 30日、大田に向かった。大田の韓国原子力研究院の前で、地域の政党や市民社会団体らとともに記者会見を行った。
 ソウルへと向かう途中の世宗市では、産業通商資源部(経産省にあたる)の核廃棄物処理再検討委員会(以下、再検討委員会)が行った全国民の意見収斂の結果を発表する説明会と討論会が行われた。私たちは、世宗市政府総合庁舎に向かった。私たちは、「止めろ!でたらめ公論調査」と、声を張り上げて叫び、各地域の声明書も朗読した。しかし、再検討委員会は、「公論調査で国民の60%が『原子力の持続的な発展が必要だ』という結論を出した」と発表した。我々は抑えられない憤りを胸に、終着地のソウルに向かった
 31日、終着地のソウル駅では多くの人たちが私たちを出迎えてくれた。核のドラム缶の模型を引っ張って駅舎の中に入った。国会議事堂前にも行った。

 11月1日には、朝から雨が降り始めるなか、ソウル大学正門を訪れた。光化門(クァンファムン)では、雨が激しく降っていたが、パフォーマンスを始めると、うそのように雨がやんでくれて、まるで我々を助けてくれているようだった。

● 大統領府前の噴水広場、公権力が私たちを阻止

 11月2日、ついに大統領府前に到着した。しかし大統領府に行く道は険しかった。警察に囲まれ、一歩も動くことができなかった。警察は「集会はだめ、道路占有もだめ」で、何もかもだめだと主張した。私たちも一歩も引くことはできなかった。これ以上怒りを我慢できなかった。この日は、「脱原発市民行動」や「高レベル核廃棄物全国会議」など全国の脱原発団体が産業部の推し進めた再検討委員会と公論調査の過程を糾弾する記者会見を行った。各地の原発地域の住民も集まった。大統領府前では、ダイイング・パフォーマンスをしなかった。警察の前で、通り過ぎる市民もない中、パフォーマンスを行う理由はなかった。
 原発40年間の歴史の苦痛と痛みをだれよりも知っているからこそ、簡単に口にしたくなかったその言葉、「持って行け、核廃棄物」。みんなが責任を負わなければならない核廃棄物をどうするのか、国民すべてが自分の問題として共に悩み、その責任について共に話し合おうと、釜山を出発し全国を回り、ついに大統領府前まで行ったのに、結局、「持って行け核廃棄物、大統領が責任を負え」はスローガンだけで終わった。大統領府の前の噴水台広場には、結局、進入できなかったのだ。
 「大韓民国の津々浦々まで持って行け、核廃棄物」キャンペーンの9泊10日の旅は、こうして終わった。私たちは、いつか再び、核廃棄物の問題を訴えるためにソウルに向かうはずだ。10万年の責任を真剣に議論するその日まで、これ以上核廃棄物が発生しないその日まで、私たちは止まらないだろう。キャンペーン団と各地域で出会った皆さんに心から感謝します。

― 解説 ―
 現政権は、前朴槿恵政府が作った「高レベル放射性廃棄物管理基本計画」の問題点を認識し、2017年に「公論調査を通じて使用済み核燃料政策を再検討する」とした。
 2018年、主管部署である産業通商資源部は、市民社会と原発地域をメンバーに迎えて「再検討準備団」を構成した。しかし、産業部は再検討準備団内で合意しなかった事案を残したまま、2019年5月、一方的に市民社会と原発地域を排除し、「使用済み核燃料管理政策再検討委員会」を発足させた。
 再検討委員会は、月城原発使用済み核燃料保存施設である「マクスター」追加建設について、「地域実行機構」を構成したが、放射線非常計画区域内に含まれる蔚山市を地域実行機構の構成から除外した。
 また、再検討委員会と慶州地域の実行機構が20年7月に「建設賛成が多数」という結果を発表した「月城原発使用済み核燃料保存施設の建設賛否を問う地域公論調査」では、慶州市民だけで構成した145名の市民参加団のうち、韓国水力原子力(株)の利害当事者が20名以上参加したという「公論操作」疑惑が浮上している。
 「大韓民国の津々浦々まで持って行け、核廃棄物」キャンペーンは、現政権が「国民と疎通し、核廃棄物管理政策を樹立する」と約束した計画が、拙速で不誠実に実施されていることを批判し、高レベル核廃棄物の危険と社会的責任を市民に知らせるという趣旨で企画された。 (訳/小原つなき)

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★ノーニュークス・アジアフォーラム通信167号
(12月20日発行、B5-32p) もくじ

・ロシアの反核運動:諸問題、抗議活動とそれに対する報復の数々<前編>
 (ロシア社会エコロジー連合/地球の友ロシア)

・「大韓民国の津々浦々まで持って行け、核廃棄物」キャンペーン
 (キム・ヒョンウク)
  
・光州で世界人権都市フォーラム「原子力発電所と人権」 (キム・ジョンピル)
    
・オーストラリア上院が放射性廃棄物処分場計画を拒否
       
・子どもたちに核のゴミのない寿都を! (本田英人)
                
・「県民は同意していない!」
― 村井宮城県知事の女川2号機再稼働の「同意」に抗議の嵐 ― (舘脇章宏)
       
・原発バックフィット・停止義務づけ訴訟 
(青木秀樹) 
              
・12月4日 大阪地裁判決
原告勝訴! 大飯原発3・4号の設置許可取り消しを国に命じる
(島田清子)     

・「老朽原発うごかすな!」10・11・12月連続闘争 
(木原壯林)            

・老朽原発再稼働の地元同意に当たって慎重な検討を求める申し入れ 
(関電の原発マネー不正還流を告発する会・関電株主代表訴訟原告団・脱原発弁護団全国連絡会)                                   

・第2次「黒い雨」広島地裁判決控訴に抗議し 取り下げを求める共同声明に賛同を   

・東日本大震災と福島原発事故を題材にした小説を語る(6) (宇野田陽子)    

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韓国 自然災害に無防備な原発 ― 台風により10基の原発で事件・事故 ―

ヨン・ソンロク (韓国・脱核新聞より)

コリ原発

自然災害により、原発はいともたやすく停止を余儀なくされた。至上最大規模といわれた今回の台風は、主に韓半島の東海岸に位置する原発の安全に大きな影響を及ぼした。台風や大雨、猛暑など、今後ますます頻繁になると考えられる異常気象に備え、原発の安全対策を強化し、早急な脱核が必要だという指摘がでている。

台風9号「メイサーク」によって、9月3日と4日、釜山の古里(コリ)原発1・2・3・4号機と新古里原発1・2号機で、外部電源を喪失する事故が発生した。発電所の外部電源が切れると同時に、これら6基の原発のすべての緊急ディーゼル発電機が起動した。このうち運転中だった4基は自動停止した。

新古里3・4号機は、稼動が中断することはなかったが、変圧器の停電が発生し、新古里3号機のタービン建屋の屋根の一部が破損した。

6基の発電所の外部電源が喪失した正確な原因は、9月14日まで発表されなかった。韓国水力原子力(韓水原)と原子力安全委員会は、送変電の設備異常、塩分流入などが原因だという一部の内容を発表した。

9月7日には、台風10号「ハイシェン」の影響で、慶州の月城(ウォルソン)原発2・3号機が稼働中断した。タービン発電機が停止したため、原子炉の出力を減少させ運転を停止した。

続いて7日午後、慶北の蔚珍(ウルチン)にあるハンウル原発1・2号機の液体放射性廃棄物の蒸発器で放射線警報が発生した。14日現在、ハンウル1・2号機は正常稼働中であり、韓水原と原子力安全委員会は、放射能の外部漏れはないことを明らかにした。

原発の外部電源の喪失事故は大きな事故につながる可能性がある。原子力安全委員会によると、現在、国内の原発は、外部電源の喪失に備えて、各号機ごとに緊急ディーゼル発電機2台と代替交流発電機、1MW級の小型移動型発電機を備えている。また、発電所ごとに3.2MW級の移動型発電車を備えている。緊急ディーゼル発電機は、自動起動が可能であり、代替交流発電機は、運転員が手動で操作しなければならない。

台風によって原発の事件・事故が多く発生したことで、専門家のあいだでは、事故原因の調査を事業者と規制当局のみに任せず、外部の調査委員会を構成する必要があると指摘している。韓水原が台風に備えて事前に原子炉を手動停止しなかったことも批判の対象となっている。

原発が台風で一時停止したのは今回が初めてではない。2014年には局地的集中豪雨により古里2号機の循環ポンプ室が浸水し原子炉が停止した。2003年9月の台風「メミ」の際には、古里1〜4号機と月城2号機が停止する事故があった。

■ 釜山と蔚山で原発の安全対策強化を要求
― 原発の早期閉鎖と脱原発を訴える ―

9月3日と7日に直撃した台風により、国内原発26基のうち10基で事件・事故が発生した。これにより、釜山と蔚山(ウルサン)をはじめ全国で、原発の安全対策の強化と、早期閉鎖など早急な脱原発と、透明な情報公開などを政府に求める声が高まっている。

脱核釜山市民連帯は、台風9号「メイサーク」により古里原発の稼動が中断される事故が起きるやいなや、緊急に声明を出した。続いて9日には釜山市役所で記者会見を開き、政府に早急な脱原発の推進を促した。記者会見では「台風の被害がでた日から悪夢のような日々を送っている」と訴え、釜山市に対しても対策を促した。「釜山市は、原子力安全条例を通じて、原発事故の危険から市民の安全を積極的に保護する任務を明文化したにもかかわらず、今回の件について釜山市民に何の情報も通知せず、現場調査や事態の把握にも積極的に動かなかった」と批判した。そして、これら原発の被害状況を市民が直接確認し、原因と後続措置の状況が正しく確認され履行されるように、官民合同の真相調査団を構成することを要求した。

脱核プサン市民連帯の記者会見

■ 原子力安全委員会に安全対策の強化を要求する公文書提出、
蔚山市には外部調査委員会の構成を要求

脱核蔚山市民共同行動は、9月3日、4日、7日と相次いで3回にわたって声明を発表した。そして10日には、原子力安全委員会に公文書を送り、公式懇談会の開催と安全対策の強化を要求した。また、原発の安全性を高めるために、▲外部電源喪失に備えた緊急発電設備の強化、▲集中的に立地する原発の安全性評価の実施、▲原発再稼働への自治体の同意権を明記する法改正、▲放射能漏れに対応した「行政機関の対応マニュアル」のほか、「市民行動マニュアル」の作成と配布の義務付け、▲気候危機による安全設備の強化と放射能漏れ事故対応マニュアルの強化、▲テロ防止のための原発の設備強化などを要求した。

脱核蔚山市民共同行動は、報道機関に配布した3日の声明で、気候危機と台風に対し原発は安全性を担保することができないとし、政府に対し、月城2・3・4号機と古里2・3・4号機の早期閉鎖の決断を促した(月城1号機と古里1号機は寿命によりすでに閉鎖されている)。4日には、古里3・4号機で外部電源の喪失が追加的に発生すると、「6基すべての外部電源を喪失するのは初めての事態」であり、原発の安全基準の強化を促し、市民の知る権利のために原発の事件・事故に関して携帯のメッセージ通知を行なうように促した。7日には、月城2・3号機でタービン発電機の異常が確認されたことにより、蔚州郡と蔚山市が先頭に立って外部調査委員会を構成しなければならないと促した。

また、環境運動連合とエネルギー正義行動、緑の党なども声明を出し、「気候危機の時代において、原発は危険を抱えているに過ぎず、決して代案とはならない」と主張し、政府に早急な脱原発を促した。

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★ノーニュークス・アジアフォーラム通信166号(10月20日発行、B5-20p)もくじ

・韓国 自然災害に無防備な原発
― 台風により10基の原発で事件・事故 ―  (ヨン・ソンロク)

・トルコ シノップ原発、肯定的な環境影響評価に市民が抗議 (森山拓也)

・フィリピン 「バターン住民は原発再開を断固拒否する」

・声明:日立製作所の英ウィルヴァ原発事業からの完全撤退を歓迎
(FoE Japan)

・核のごみ最終処分場の建設は許さない (佐藤英行)

・女川原発の再稼働を止めよう! 9.26宮城県民大集会の報告 (多々良哲)

・「老朽原発うごかすな!大集会in おおさか」に1600人が結集 (木原壯林)

・関電原発不正マネー 検察捜査で真相に迫れるか (末田一秀)

・「黒い雨」控訴に関する抗議声明 (ひだんれん他)

・東日本大震災と福島原発事故を題材にした小説を語る(5) (宇野田陽子)

・【声明】いまこそ日韓関係の改善を

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「民衆の長いたたかいの歴史のうちの、ほんの一部分」 佐藤大介(反核アジアフォーラム日本事務局)インタビュー

韓国・脱核新聞 19年12月号(聞き手・まとめ/ヨン・ソンロク編集委員、原文:韓国語)

第20回反核アジアフォーラム韓国開催準備のために、佐藤大介さんが11月に韓国を訪問した。彼は、ソウル、光州(クァンジュ)、蔚山(ウルサン)、プサンをまわり、韓国の脱核活動家たちに反核アジアフォーラムの歴史と目標、意義を説明した。
彼がどんな生活を送ってきたか知りたくて、個人史を含んだインタビューを行なった。

■ 韓国5・18光州抗争の「映像」に接して、朝鮮語学科ぐるみの断食闘争

佐藤さんは、金芝河の詩集を1976年に書店で偶然目にした。死刑囚の詩集だとしてその本を買ったが、韓国の政治状況は全く知らなかった。そして1977年に大阪外国語大学の朝鮮語学科に入る。

1980年6月、日本に5月光州抗争の映像が入ってきて、各地で上映会が行なわれた。そして彼は、死刑宣告された金大中らを救援する運動を始めた。朝鮮語学科の学生たち数十名で断食闘争をした。彼は、金大中が死刑になり、韓国に暗黒の時代がくれば、光州市民や学生たちを二回殺すことになると思った。彼は光州で死んでいった人々を大切にするならば何でもしなければならないという気がした。朝鮮語学科ぐるみの断食闘争は、めずらしい運動で、毎日新聞、雑誌「世界」などで紹介された。当時、全港湾労組も韓国民衆に連帯し1日ゼネストを行なった。

■ 被曝労働現場に日雇い労働者を紹介しない合意

佐藤さんは1981年に労働福祉センターに就職した。大阪の釜ヶ崎、2万人の日雇い労働者の街だ。彼は全港湾労組に所属した。全港湾労組は、建設業、日雇いなど色々な職種を組織していた。

彼は福祉センターで、仕事の紹介、労災相談、賃金未払い相談などの業務を行なった。原発の定期検査などでのずさんな被曝労働についての相談もたくさんあった。彼は労働組合として当局と交渉をくり返し、被曝する現場には日雇い労働者を紹介しないことで1982年に合意した。その合意は今でも維持されているという。

■ 日本で解雇撤回要求する韓国労働者闘争に連帯

日本の左派労働組合は、経済闘争だけでなく、反戦・反核・反原発、そして日韓連帯運動も行なってきた。佐藤さんは1980年代、全港湾労組として、反原発運動、日韓連帯運動を行なった。日本のアジアスワニーという会社が韓国の工場を撤収し、韓国労働者が日本まで行って解雇撤回を要求する闘争をしたとき、彼はこの闘争を支援した。

■ 1988年から反原発国際連帯

佐藤さんは1990年代以降、労働組合運動より反原発運動に集中したという。日本各地の原発現地で反対運動する住民たちから学ぶことが多かったという。

韓国反核運動との交流は1988年から始めた。当時、アジア各国で原発を推進するために、そして、日本がアジア各国に原発を輸出するために、日本原子力産業会議が主導して「アジア地域原子力協力国際会議」が行なわれていた。日本がパブリックアクセプタンス(住民受容)のノウハウなどを他国に教えていた。たとえば韓国や台湾の原発PR館は日本のPR館とそっくりだった。

そのころ韓国の反核活動家から反原発国際連帯をしようという提案を受けた。推進派が活発に国際連携しているので、反対派も国際連帯しなければなければならないと。それが反核アジアフォーラム出発点になった。

■ 韓国と日本が率先して反核アジアフォーラム開催

第1回反核アジアフォーラムは日本で、第2回反核アジアフォーラムは韓国で開催することにした。日本の多くの団体、人々が、反核アジアフォーラム実行委員会を作った。第1回反核アジアフォーラムは1993年、日本にアジア各国から30人を招いて、4人ずつチームを組んで7つのコースをまわり、全国28か所で集会を行なった。反核アジアフォーラムは、常に原発現地を重要視することとした。

第2回反核アジアフォーラムは1994年に韓国で開かれた。霊光(ヨングァン)、古里(コリ)、蔚珍(ウルチン)の原発現地や、核廃棄場建設に反対した固城(コソン)、清河(チョンハ)などで集会を行なった。

以後、反核アジアフォーラムはほとんど毎年、台湾、インドネシア、フィリピンなどの地で、今まで開催されている。

■ 運動的な哲学

佐藤さんは加害者になりたくなかったという。1965年の韓日協定以後に日本企業が韓国を搾取する状況があった。そのため日本が韓国の独裁政権を支えてきた。日本がアジア民衆を搾取する経済構造もあった。また、原発は貧しい労働者を被曝させ、貧しい地域に建設される。都市住民は加害者と言える。

彼は、放射能の被害者にも加害者にもなりたくないと、日本の多くの人たちとともに、1992年から2018年まで、インドネシア・台湾・ベトナム・インド・トルコへの原発輸出に反対するキャンペーンをした。署名運動、三菱・日立・東芝の不買運動、国会での質問、政府交渉、対象国から活動家を呼んで集会、対象国を訪問して集会などだった。

彼は「民衆の長いたたかいの歴史のうちの、ほんの一部分」「いつかは原発も核兵器もなくなる」という。

佐藤さんとイ・サンボム蔚山環境運動連合事務局長(写真左上)は、2000年に新古里(シンゴリ)3・4号機建設反対闘争で縁を結んだ間柄だ

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★ノーニュークス・アジアフォーラム通信165号(8月20日発行、B5-24p)もくじ

・韓国 全国の市民社会、使用済み核燃料の公論化に対し無効を宣言 (ヨン・ソンロク)

・「民衆の長いたたかいの歴史のうちの、ほんの一部分」
佐藤大介インタビュー (韓国・脱核新聞)

・アルメニアの原発に攻撃の脅し (山崎久隆)

・被災原発・女川原発2号機の再稼働をめぐって (篠原弘典)

・広島原爆「黒い雨」裁判:その全面勝訴と国の控訴を考える (湯浅正恵)

・コロナと原発事故 (石地優)

・関電株主代表訴訟へ ~ めちゃくちゃでっせ関電 ~ (滝沢厚子)

・東日本大震災と福島原発事故を題材にした小説を語る(4) (宇野田陽子)

・「老朽原発うごかすな大集会 in おおさか」(報告とお願い)

・老朽原発うごかすな (中野宏典、小熊ひと美、けしば誠一、木村雅英、
堀田美恵子、中沢浩二、瀧川順朗、柳田真)

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全国の市民社会、使用済み核燃料の公論化に対し無効を宣言

使用済み核燃料「でたらめ公論化」を中断せよ! 慶州でデモ・ダイイン、7月18日

韓国の産業通商資源部(経産省にあたる)の「使用済み核燃料管理政策再検討委員会」が、月城(ウォルソン)原発の使用済み核燃料の一時貯蔵施設(マクスター、乾式)増設のための地域公論調査の最終結果を7月24日に発表した。「選ばれた慶州市民参加団145人の81.4%がマクスター増設に賛成した」とのことであるが、この公論調査は操作された疑いがある。月城原発に隣接する陽南面(ヤンナムミョン)住民の反対は、39名中たったの1人だった。6月にハンギルリサーチが陽南面住民891人を対象に調査した結果では、55.8%が反対していたので、意図的に賛成住民を中心に市民参加団を構成した疑いがあるのだ。また、市民参加団に韓国水力原子力の協力会社の従業員が数十人参加していたという状況も明らかになっている。

■ 「全国の市民社会、使用済み核燃料の公論化に対し無効を宣言」

ヨン・ソンロク (韓国・脱核新聞より)

全国の市民社会、宗教界、地域、専門家、政党などは、産業通商資源部が推進した「使用済み核燃料の管理政策に関する再検討」 全国公論化と地域公論化に対して無効を宣言した。彼らは、公論化を推進した再検討委員会が公正性と透明性などを喪失し、産業部が公論化を失敗に導いたと主張した。

文在寅政府は発足初期に国政課題の一つとして、「高レベル放射性廃棄物(使用済み核燃料)管理基本計画」の再検討を進めることを明らかにした。これは、朴槿恵政府が樹立した高レベル放廃物の管理政策が核産業界の立場を一方的に代弁したものであり、再公論化を通じた政策の見直しが必要だという市民社会の要求を現政権が受け入れた結果だった。

しかし、核産業界の主管部署である産業通商資源部は、公論化を推進するなかで、再検討委員会の人員構成に関して原発立地地域と市民社会の代表者などの利害当事者を排除した。市民社会は、文在寅政府のもとで行なわれる公論化も、スタートから中途半端な公論化となることを憂慮し、再検討委員会の人員の再構成などをくり返し要求してきた。しかし産業部は公論化を強行した。

産業部は、全国公論化を通じて、全国民とともに、国家的な難題である使用済み核燃料の処分案に対する話し合いを進めなければならないにもかかわらず、永久処分場が確保できないまま稼動されている核発電の問題点について国民に知らせるどころか、核発電所敷地内に「臨時貯蔵施設(乾式)」を建設することに問題の焦点を矮小化していった。

産業部が、市民社会の不参加のもと公論化を強行する中で、1 年以上再検討委員会を率いてきたチョン・チョンファ委員長をはじめ、委員 15名のうち、5人が辞任する事態となった。チョン・チョンファ委員長は、「慶州月城原子力発電所の使用済み核燃料貯蔵施設の増設可否を問う月城地域実行機構」が、再検討委員会と相談もしないで意見収斂の内容を一方的に変更したとし、公正性と透明性を担保できないと主張した。

「密室操作公論化 無効」

● 使用済み核燃料の問題の核心を国民に正確に示さないなら、対政府闘争は避けられない

7月30日、大統領府前で開かれた「使用済み核燃料でたらめ公論化の無効宣言」と題された記者会見では、「高レベル核廃棄物全国会議」のファン・デグォン代表が冒頭発言で、「ろうそく革命を通じて誕生した政府を前に、ろうそくを再び掲げる心情でこの場に立った」と吐露した。また、「脱原発を約束した大統領の下で、このようなでたらめな公論化を推進した産業部を到底理解できない」と批判した。彼は「もし、このすべての過程が産業部の過ちなら、大統領が産業部長官を解任しなければならない。また、もしこれが大統領の意思なら、対政府闘争をするしかない」と怒りをあらわにした。彼は「再検討委員会は、核廃棄物の臨時貯蔵施設の推進にしか目がない」「公論化は、韓水原の社内施設として勝手に管理することができる臨時貯蔵施設の建設を容認するためのものだ」と批判した。

緑色連合のチョ・ヒョンチョル代表は、「産業部の公論化過程を見る中で、この政権が暴力的になったと思った」と切り出した。彼は「産業部が、高レベル核廃棄物の中長期政策について全国の意見を汲み上げる前に、地域の公論化を終えたのは、産業部が公論化の目的を月城核発電所の敷地内に臨時貯蔵施設の建設を進めることに焦点を当てている証拠だ」と主張した。彼は「再検討委員会が、使用済み核燃料に関する全国的な議題はそっちのけにして、地域の議題だけにこだわり、とくにマクスター(使用済み核燃料貯蔵施設)の増設にのみ熱中した」と批判した。彼は合意を破って一方的に密室で推し進めた公論の過程は、真の公論化にふさわしくないと批判した。

環境運動連合のチェ・ジュンホ事務総長は、「こんなに重要な問題について市民たちはろくに知ることもできず、また、産業部はこれを伝えるための努力をしていない」と批判した。また、「核発電所の問題の本質について明らかにしないまま処分問題を論議し、核発電所の周辺地域の住民の被害と苦しみを無視しつづけている」と指摘した。

参与連帯のシン・ミジ選任監査は、「高レベル核廃棄物の問題は、市民の安全と直結する問題であり、一度や二度の議論で決定できるような問題ではなく、議論の対象を地域住民に縮小してはならない」と指摘した。また、「時間がかかっても文在寅政府は、まともな公論化の場を作り直さなければならない」と主張した。

● 国民参加のない一方的な発表では、気候危機と脱原発の大転換は難しい

宗教環境会議のヤン・ギソク共同代表は、気候危機と核発電問題について、「世界各国が苦境に直面する中で、数日前、韓国政府は『グリーン・ニューディールに160兆ウォンを投資し、韓国社会における大転換の契機にする』と断言したが、どれほど多くの費用を投資しても、アプローチしなければ気候危機と核発電問題において、韓国社会は変化せず、依然として危険である」と主張した。また、「核廃棄物問題も一時保存ではなく、核発電所存亡そのものについて国民が悩む時間を作るべきだ」とした上で、「それが行なわれるとき、韓国社会が持続可能な社会に進むための大転換となる」と話した。また、「政府が依然として民主的でない方式で少数の選別された人たちのなかで意図された結論を導き出そうとする行為は社会変化を引き出せない」と指摘した。

このほかにも進歩党のキム・ジェヨン代表や、緑の党のソン・ミソン運営委員長も記者会見に参加し、産業部の公論化の問題点を指摘し、でたらめな公論化は無効であることを宣言した。

「慶州月城原子力発電所使用済み核燃料貯蔵施設に関する地域公論化」の懸案地域から、「月城核廃棄場反対 蔚山(ウルサン)住民投票運動本部」のイ・ウンジョン共同代表が、産業部と再検討委員会の問題点を指摘した。イ・ウンジョン代表は、月城原発から半径7km~30km圏域に位置する蔚山市民の意見を収れんしないことに対して、文在寅大統領は産業部に責任を問い、まともに公論化を推進するよう働きかけなければならないと要求した。

「月城原発核廃棄場追加建設反対 慶州市民対策委員会」のイ・サンホン執行委員長は、「朴槿恵大統領のもとで行なわれた公論化よりもひどい公論化を、これ以上続ける意味があるでしょうか?」と疑問を投げかけ、「文在寅政府は、多くの市民たちの期待や熱望、努力と汗と信頼を裏切った公論化を中断しなければならない」と訴えた。彼は「2005年に行なわれた中・低レベル放射能物質廃棄場の誘致に関する慶州市住民投票で私を絶望させたのは、誘致が決まったことよりも、むしろ盧武鉉政府のもとで行なわれた広範な不正投票だった」と当時を回想した。加えて、「現在、生徒が学ぶ社会教科書には、中・低レベル放射能物質廃棄場の慶州市住民投票が、大韓民国初の住民投票で、民主的葛藤解決の模範事例として紹介されているのを見るたびに血が逆上する」と主張した。彼は「なぜ民主主義は、民主政府のもとでさらに蹂躙されなければならないのですか」と訴え、「でたらめな公論化によって再び核廃棄場が慶州に建設されるのを黙ってみているわけにはいかない」と切実な思いを伝えた。彼は、文在寅大統領が慶州地域での公論捏造の真相を明らかにし、公論捏造の犯罪者を厳罰することを要求した。

全国の市民社会、宗教界、地域、専門家、政党などは、市民宣言文を通じて、「今回の公論化は、民意を徹底的に無視して歪曲した」「慶州地域の公論過程で行なわれたハンギルリサーチの調査結果では、慶州市陽南面(ヤンナムミョン)の住民の過半数以上が核廃棄施設の増設に反対したにもかかわらず、産業部の地域公論化の過程では市民参加団の陽南面住民の反対が 39名中たったの1人だったことは『公論操作』である」という疑惑を提起した。

また、蔚山市の人口のうち約100万人が放射線非常計画区域内に属しているにもかかわらず、核廃棄場の増設の可否を問う意見収集対象から除外したことも、今回の公論化過程の大きな誤りだと指摘した。蔚山の場合、産業部と再検討委員会が蔚山市の意見を収れんしなかったため、民間主導で住民投票を実施し、5万人以上が投票に参加して94.8%が使用済み核燃料貯蔵施設の追加建設に反対したが、この住民投票の結果は全く反映されなかった。

全国の市民社会などは、熟議の過程の拙速性に加えて、公論操作の疑惑まで提起されている慶州地域の意見聴取の結果は無効であり、徹底した真相究明を通じて、産業部と再検討委員会および地域実行機構の責任者は処罰されなければならないと要求した。

全国市民宣言への参加者は、「核廃棄物に対する責任ある管理計画を掲げることよりも、慶州月城の核廃棄物臨時貯蔵施設の追加建設という目的を達成するための手段として公論化を利用した産業部を糾弾する」「私たちは、民意も熟議もなく、公正性と透明性、客観性と収容性など、どれ一つ満たしていない密室での公論化、使用済み核燃料管理政策を根本的に準備できない公論化は無効であることを宣言する」と叫んだ。

全国市民宣言への参加者は、朴槿恵政府に続き、再び破綻した公論化をくり返した政府に次のような要求事項の履行を促した。

「でたらめ公論化の無効宣言」

【全国市民宣言参加者の要求事項】
1. 慶州地域の意見聴取の結果は無効だ。 公正性検証委員会を構成し、慶州地域公論の操作疑惑の真相を調査せよ。
2. 慶州月城臨時貯蔵施設(マクスター)建設反対 94.8%、蔚山北区住民投票の結果を受け入れよ。
3. 文在寅政府の国政課題である「使用済み核燃料管理政策の再検討」を破綻させた産業部長官を解任せよ。
4. 核廃棄物の問題について全国民が熟考して共に討論する過程を通じて、解決策を見出せる形での公論化を再設計せよ。
5. 大統領直属の独立的な機構として、地域と市民社会などの利害当事者が参加するまともな公論化として再スタートせよ。
(訳/小原つなき)

 

UAEのバラカ原発:炉型、時期、場所、すべてが誤り

2018年3月、1号機前で(文在寅大統領も)

UAEのバラカ原発:炉型、時期、場所、すべてが誤り
JP Casey(Power Technology 20年4月17日)

UAE(アラブ首長国連邦)は、同国初のバラカ原発について、数か月以内に稼働を開始する予定であると発表した。バラカ原発はUAEの電力需要に中心的な役割を果たすことを期待されているが、地政学的に緊迫した状況下での実用性、安全性に関する疑問は残されたままだ。

アブダビ首長国のガルビヤ地方から53キロ離れた地点に位置し、200億ドルをかけたこの事業が開始されたのは2012年。ついに完成の時が近づいている。韓国電力公社などの韓国企業連合によって建設され、APR1400という炉型の原子炉4基から成るこの原発の出力は560万kWにのぼり、UAEの電力需要の四分の一を満たすことになる。

バラカ原発は、「増大し続けるエネルギー需要に応える」「二酸化炭素を排出しないクリーンエネルギーの割合を増やす」「完成すれば世界第6位の規模となるこの原発が、中東のエネルギー革命の幕を切って落とす」などと、期待を込めて語られている。

しかしそうした華々しい主張の背後で、このプロジェクトは議論の的となり続けている。マクロの視点からは、このような地政学的に緊張感の高い場所に原発を建設すること自体が帯びる固有の危険性があげられる。バラカ原発そのものに対しては、格納容器のコンクリートに亀裂、空隙が生じていることなどだ。このプロジェクトに関しては、批判の声が上がり続けている。

バラカ原発に関して極めて懐疑的な見解を持つ専門家の一人、英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン上席研究員のポール・ドーフマン博士は言う。

「原子力分野への投資が大規模な財政損失を生み出すという事実を考えると、人びとはバラカ原発建設には『他の隠された理由』があるのだろうかと疑問に思うでしょう。とくに湾岸諸国にとっては、原発は経済的にごく小さな意味しか持たないように見えます。砂漠地域の王国なのだから、太陽光発電については世界で最も恵まれた環境を手にしています。太陽光発電は原発よりもずっと安価な投資額と発電コストが可能なのに」

一方、世界原子力協会(WNA)の上級報道官ジョナサン・コブ氏は、「バラカ原発はすべての必要な要件を満たしており、韓国電力公社からの強力な安全認証が出ています。韓国電力公社が設計開発したAPR1400型原子炉は、実際に2016年から韓国で運転開始されています」と述べる。

「FANR(アラブ首長国連邦原子力規制機関)による精査のみならず、1号機は『起動前審査(PSUR)』にも合格しました。これは、世界原子力発電事業者協会(WANO)によって策定された国際的な基準によって運用されている審査です」とコブ氏は語る。

しかし、ドーフマンはそれらの安全性に関する認証に再び疑念を投げかける。原子力産業においては安全性に関する規制については概して緩やかなアプローチがとられているからである。

「原子炉の設計は進化しましたが、バラカ原発にはそれに伴って追加されるべきカギとなる安全機能が追加されていないのです。フランスのアレヴァ社の最高経営責任者はバラカ原発の設計に関して『エアバッグとシートベルトのない車』と表現しました。バラカ原発の設計は、事故あるいは飛行機の衝突や、軍による攻撃の場合の大規模な放射性物質の放出に対しては不十分な防衛しか持ちあわせていないのです。とりわけ心配なのは、コアキャッチャーがないということです。緊急炉心冷却装置の故障が発生した場合に、コアキャッチャーがあれば圧力容器から溶け出してきた核燃料を支えることができるのです。その上、4基とも格納容器のコンクリートに亀裂、空隙があり、設置されているパイロット式逃がし安全弁も欠陥があります」

彼はさらに、2013年に発覚した一連のスキャンダルによって韓国電力公社の評判が損なわれていることも指摘する。韓国の原発において、部品の安全性に関わる書類を偽造(2287件)したとして、安全審査に関わる上級職員らが実刑を受けた。最終的には100人が起訴され、韓国で運転中だった23基のうち6基が2012年から14年にかけて閉鎖を余儀なくされた。

UAEはこの原発建設で韓国電力公社と200億ドルで契約した。それは他の入札企業の提示額よりもかなり安い金額だった。これも不安な点だ。2008年、シナプス・エナジー社が、新規原発建設は110万kW規模の原発1基あたり90億ドルまで跳ね上がるだろうと予測した。この予測に従えば、バラカ原発の建設費用は450億ドル程度となり、韓国電力公社がこの原発に投資した額の2倍以上となる。

不確実な安全性認証は、これらのリスクにもかかわらずバラカ原発を承認した世界の原子力規制機関の信用を著しく損なう可能性がある。ドーフマンは、この原発の窮状は、「義務的であるよりも裁量的」である原子力規制の本質を明るみに出していると語る。原発をもった国のみが、運転と安全性の基準を守る責任を負わされ、強大な国際組織はそれを支援しないという構図になっているのだ。

「国際原子力機関(IAEA)は、誰にでも命令できるわけではない。イラン、パキスタン、イスラエルなどで起きてきたことを見ればわかるとおりです」

原発の安全性というのは、他のエネルギー源による発電とは全く異なるありかたで、各国の政策やその地域の地政学と分かちがたく結びついているといえる。

ドーフマンが指摘するのは、イエメン内戦の例だ。反政府勢力のフーシ派が2015年に、アブドラッボ・マンスール・ハーディー大統領を倒した。そして、フーシ派は17年、UAEのイエメン内戦への干渉に対する警告として、バラカ原発に向かって巡行ミサイルを発射したと発表した。

核施設に対して軍事攻撃が加えられた場合、明白な政治的、人道的緊急事態になるということが予想される。

「19年のフーシ派によるサウジアラビアの石油精製施設に対する軍事攻撃でもわかるとおり、緊迫した湾岸諸国の戦略的地政学は、地球上の他のどの地域よりも、原発建設をより論争の的としています」と、ドーフマンは語り、その地域で暮らす人々やその地域の安定性に対して原発が課す脅威は解決されないままであると要約した。

「バラカ原発が本格的に発電を開始したら、意図されたものであれ偶発的なものであれ、大きなリスクが発生するでしょう。バラカ原発は、誤った時代に、誤った場所に建てられた、誤った原発です」

 

アジア各国の団体が、放射能汚染水放出に反対

台北、5月13日

■ 国際署名に、48か国、3392名が署名

「福島第一原発で貯蔵中の汚染水の海洋放出方針を撤回し、地上での保管と固化方針への切り替えを求めます」 Demanding that contaminated water being stored at the Fukushima Daiichi Nuclear Power Station NOT be discharged into the sea, and instead stored on land and solidified.

福島第一原発の事故の後始末で発生している汚染水を環境に放出する計画が政府によって進められています。

汚染水は現時点で約120万㎥に達し、中に処理装置でも取り除けないトリチウム(放射性水素)が860兆ベクレル含まれています。現在、タンクにためられている水の7割以上に、ストロンチウム90、ヨウ素129などの放射性物質が、全体として排出濃度基準を超えて含まれています。これらの放射性物質は二次処理をしても、完全に取り除くことができません。政府・東京電力はこれ以外にも建屋内に1200兆ベクレルのトリチウムが存在しているとしています。放出量は将来的にも増えていくと考えられます。

政府案は海洋もしくは大気中への放出ですが、最終的には海洋放出を決定したいと考えています。

環境の放射能汚染の増大は将来の生命への脅威となります。

これに対して、福島県沿岸の漁業協同組合の人たちが強く反対しています。漁業への打撃は彼らの死活問題です。また、南側隣県の茨城県も反対の声を上げています。しかし、政府は環境への放出を強行しようとしています。福島県での形式的な意見聴取や一般からの意見募集を経て、この夏までに環境放出を正式に決定する予定です。

これに対して国内のいくつかの市民グループも同様に反対し、なんとか海洋放出の方針を撤回させ、地上での保管と固化処理という方針に切り替えさせたいと考えています。

2020年4月22日
呼びかけ:原子力資料情報室、FoE Japan、No Nukes Asia Forum Japan

*国際署名継続中です。日本からも署名できます。 http://chng.it/bKCJxgSz2w

■ 日本経産省への意見書

韓国の市民放射能監視センターと環境運動連合は、5月12日に日本大使館の前で記者会見を行ない、声明を発表しました。
「日本政府は放射能汚染水を薄めて放流すれば安全だと話すが、放射性物質の総量は変わらない。福島漁民らと周辺国への被害を最小化する方法を探さなければならない。放射能汚染水の海洋放出はやめてください」

ソウル、5月12日

台湾の23団体*は、共同で、5月13日に日本台湾交流協会(大使館に相当)に申し入れと、記者会見を行ない、放射能汚染水の海洋投棄に反対しました。
「汚染水の太平洋への投棄はロンドン条約の理念に反することであり、放射能の汚染を国境を超えて拡散させることになり、福島近海の漁業や、近隣諸国の自然環境、人々の健康を危険にさらすことになり、台湾の人々にとっては大変憂慮する事態です」

また、台湾環境保護聯盟と、フィリピンのNFBM(非核バターン運動)も、放射能汚染水放出に反対する意見書を、日本経済産業省に提出。

オーストラリアの環境保護団体FoEオーストラリアも、放射能汚染水の環境中への放出に反対する意見を経済産業省に4月28日に提出。
「日本政府は、オリンピックの選考過程で、福島原発の状況はコントロールされていると言って、世界を欺こうとした。今回の放射能汚染水の放出計画も、日本政府が未解決の問題をじゅうたんの下に隠そうとしている一例である。東京電力と日本政府は、原子力災害のコストを海洋環境に押しつけることを許されてはならない」

さらに、日立の原発輸出計画に反対していたウェールズの住民団体PAWB(「ウィルヴァB原発に反対する人々」)が、放射能汚染水の海洋放出に反対し、陸上での保管を求める意見を経産省に提出しました。
「私たちは過去に福島を訪問して、メルトダウンが起こした環境や人々の生活への悲惨な影響を目撃しました。福島県漁連の海洋放出案に対する反対意見に賛同します」

*台灣環境保護聯盟、綠色公民行動聯盟、媽媽監督核電廠聯盟、北海岸反核行動聯盟、地球公民基金會、人本教育基金會、綠色和平、環境法律人協會、蠻野心足生態協會、桃園在地聯盟、屏東縣好好婦女權益發展協會、永社、彰化縣環境保護聯盟、主婦聯盟環境保護基金會、台灣人權促進會、台灣環境資訊協會、宜蘭人文基金會、350台灣、生態關懷者協會、荒野保護協會、看守台灣協會、台灣非核亞洲論壇、台灣基督長老教會

下記は、台湾環境保護聯盟の意見書です
—————————————
尊敬する日本国経済産業省大臣

貴殿が公示された公聴会およびパブリックコメントによると、福島第一原発の事故後に蓄積された放射能汚染水を海洋に廃棄するそうですが、私たちはそのことに大変驚くとともに、そのような行為に断固として反対します。

私たちは2011年の福島第一原発の爆発と放射性物質の漏洩という不幸な事故に心を痛めるとともに、この悲惨な事故をくり返さないようにと考えています。ですから、台湾の多くの団体が原発の建設や核エネルギーの使用に反対しています。原発はコントロールや安全性を確保することが難しく、万が一事故が発生した場合の影響は極めて甚大で、現状回復が困難だからです。

放射性物質を含む塵や廃水は国境を越えて大気や海を汚染し、海洋生物や海産物、そして土壌や人体の健康に危険をもたらします。多数の人々や社会生活に多大な脅威をもたらします。日本政府がそうした影響の防止と低減に努力されていることは存じあげますが、現実には巨額の財政負担を以てしても、人体やコミュニティへの影響を完全に回避することはできません。

台湾社会、そして政権与党(民主進歩党政権)は、このことを充分に理解する立場から、北海岸(貢寮)で建設されて20数年が経つ第四原発、および運転中の第一、第二、第三原発を(2025年までに)段階的に閉鎖し、「非核家園」に向けた努力を進め、現在のエネルギー政策を「再生エネルギー開発」にシフトしています。これは1986年のソ連のチェルノブイリ原発の事故や福島第一原発の事故から教訓を得たことでもあります。

私たちは、119万立方メートルの汚染水を海洋に廃棄することに反対します。廃水に含まれる放射性物質が海洋生物の体内に取り込まれ、生態系連鎖を通じて、人体に取り込まれる可能性があるからです。この生態系連鎖は広範囲に累積されるものです。

もし、119万立方メートルもの放射能汚染水が海洋に廃棄されたら、日本近海産の海産物に対する不安は高まり、わたしたちは消費者にボイコットを呼びかけることになるでしょう。改めて海洋廃棄には反対の意を表明します。

台灣環境保護聯盟 敬具

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■ノーニュークス・アジアフォーラム通信164号(6月20日発行、B5-28p)もくじ

★アジア各国の団体が、放射能汚染水放出に反対
「台湾23団体、韓国、フィリピン、オーストラリア…」

★月城原発の核廃棄物臨時貯蔵施設の追加建設の賛否を問う蔚山北区住民投票
(ユン・ジョンホ、小原つなき)
「使用済み核燃料の乾式貯蔵施設、住民投票に50479人が参加、95%が反対」

★UAEのバラカ原発:炉型、時期、場所、すべてが誤り
「数か月以内に稼働開始予定。フーシ派は17年、UAEのイエメン内戦への干渉に対する警告として、バラカ原発に向かって巡行ミサイルを発射したと発表」

★トルコ・シノップとメルスィンで同時記者会見ー私たちは核の泥沼に引きずり込まれているー
「建設中のアックユ原発と建設予定のシノップ原発、廃棄物の処分方法が未解決」

★南オーストラリア・キンバでの放射性廃棄物処分場計画に関する最近の動き
「地元のアボリジニの人々が反対するキンバを処分場と明記する法案が国会で審議中」

★女川原発反対闘争 (阿部美紀子)
「津波で流された我が家跡に、父宗悦と2人で、ガレキの中から拾ったモモヒキに『全ての原発廃炉』と書いて掲げたのでした」

★六ヶ所再処理工場の現状 (山田清彦)
「福島原発で30年かけて薄めて海洋放出するとしているが、六ヶ所再処理工場からは大量のトリチウム汚染水が次から次に押し寄せてくるようになる」

★原発メーカー国賠訴訟 (島昭宏)
「自らの職責と誇りを放棄した最高裁の行為を見過ごすことができないと考えた原告38名は3月10日、国を被告とする賠償請求訴訟を提起した」

★関電旧役員を2172人で追加告発 (末田一秀)
「これらの行為は業務上横領等にあたると、6月9日、大阪地検に追加で告発状を提出(第一次告発は3371名)」

★「外出自粛要請、自分で考える」と朝日新聞に投稿した大学院生・西脇彩央さんへ
(水戸喜世子)
「コロナウイルスが収束するまで福井の7原発を停止せよ、という仮処分訴訟の原告になりました」

★東日本大震災と福島原発事故を題材にした小説を語る(3) (宇野田陽子)
『アウターライズ』『避難所』

★老朽原発うごかすな(松久保肇、二木洋子、仁尾和彦、庄司修)

「9.6老朽原発うごかすな! 大集会inおおさか」に全国から賛同を

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韓国各地で福島原発事故9周年の記者会見

ヨン・ソンロク  (脱核新聞より)

3月11日、福島原発事故から9年目を迎え、韓国各地で事故を記憶し、脱原発を求める記者会見が開かれた。ソウルでは様々な団体が連帯するネットワーク組織である脱核市民行動が日本大使館の前にある平和の少女像の前で記者会見を行なった。原発立地地域である慶州(キョンジュ)、蔚山(ウルサン)、プサン、霊光(ヨングァン)でも、各地で記者会見を開き、地域の懸案事項を糾明し、脱原発を求めた。コロナ19の感染で困難に直面しているテグと慶州は、インターネットでの記者会見を行なった。緑の党など政界も論評を発表し、福島事故9周年の意味をふり返った。

■ ソウル、原発から一刻も早く退却しよう

ソウルなど各地域の31団体のネットワーク組織である脱核市民行動は11日、平和の少女像の前で、日本政府の事故収束作業の問題点を指摘し、東京オリンピックの開催は、多くの人を放射線にさらすことになるだろうと述べた。また、日本政府は福島事故の教訓を忘れ去っているが、韓国の最大野党の未来統合党も、永久停止した月城(ウォルソン)原発1号機の再稼働を求めるなど、「脱原発政策の廃棄」を総選挙の公約として発表したことを強く批判した。

さらに脱核市民行動は、福島の事故が示したように原発はたった一度の事故でも取り返しのつかない被害を与えるだけでなく、高レベル核廃棄物は処理方法がなく深刻な状況だとし、月城2・3・4号機の早期廃炉を要求した。そして、脱核宣言文を読み上げ、「私たちの安全と未来のために、原発から一刻も早く退却する道を共に歩もう」と述べた。

■ 慶州、マクスターに関する住民投票を慶州市に公式要請

慶州共同行動は、3月11日の記者会見で、慶州市と慶州市議会に対して、月城原発に使用済み核燃料の乾式貯蔵施設であるマクスターを建設することへの賛否を問う住民投票を公式要請した。

また、住民の意見集約のために昨年11月21日に設置された「月城原発地域実行機構」の10人の委員の構成をめぐり意見対立が激しく、発足から4カ月が経っても市民と全くコミュニケーションをとらないなど信頼性と公正さを失ったと指摘し、解散を求めた。

そして、マクスターの追加建設は慶州市民に多大な影響を及ぼす政策であるだけに、住民投票を通じた意見集約だけが意見対立を最小化することができるとし、26万人の市民が公論化の主役として参加できる唯一の方法は住民投票であると、その提案理由を説明した。

慶州共同行動は、11日に慶州議会議長と慶州市長へ「月城原発のマクスターに関する住民投票要求書」を渡し、3月20日までの回答を求めた。

住民投票要求に向け、3月12日から27日の午前8時30分から1時間、慶州市役所前で出勤時間に合わせたプラカードアピールを行なう予定だ。さらに、共同行動に参加する13団体は、3月から住民投票を要求する横断幕掲示運動を開始した。3月18日で97回となる脱原発巡礼は住民投票を要求する内容で行なう計画だ。脱原発巡礼は、毎週火曜日の午後2時に慶州駅広場から出発する。

■ 霊光、リスクを認める社会は不可能なのか

3月11日は、全羅南道霊光郡にあるハンビッ原発4号機が運転を停止してから1029日目となる。2017年5月18日に計画予防整備と呼ばれる点検作業を開始したハンビッ4号機の格納容器で、157cmに達する巨大な空隙など、121個の空隙が発見された。ハンビッ3号機の格納容器でも124個の空隙が発見され、整備中だ。

「ハンビッ原発対応湖南圏共同行動(全北、全南、光州)」は3月11日、霊光郡ハンビッ原発正門前で、「リスクを認める社会は不可能なのか?」というタイトルで記者会見を行なった。湖南圏共同行動は、ハンビッ1号機が昨年原子炉出力が急上昇する事故があったにもかかわらず再稼働中であり、3月6日には低圧給水加熱器のチューブから漏水が発見されたと指摘した。続いて「私たちが立っている正門の後ろでおぞましくそびえ立つ原発建屋の中に隠されたリスクは1つや2つではない」と述べ「なぜ私たちはこのようなリスクを取り除くことができないまま、不安の中で暮らさねばならないのか」と反問した。そして、ハンビッ1・3・4号機の閉鎖を要求し、福島事故による命の痛みと苦しみに慰労の意を伝えた。

■ プサン、不可逆的な脱原発実行要求

脱核プサン市民連帯は3月11日、プサン市役所の前で記者会見を行なった。市民連帯は、ムン・ジェイン政権が福島の警告と韓国の地震という脅威の前で脱核時代を宣言したものの、新コリ5・6号機の建設が再開され、脱核時代は60年後に延期されたと批判した。

また、現政権が国民の生命と安全に言及しながら、他国に原発を輸出し、他国民の生命と生活を脅かす矛盾した事態となっていると指摘した。

市民連帯は、韓国の核廃棄物の半分以上を抱えながら暮らす月城住民、甲状腺がんなど様々な病気に苦しむ原発周辺地域住民、送電塔建設の犠牲となった住民の苦悩について言及した。さらに、原発で働く下請け労働者の声は小さいながらも存在していると述べ、この苦痛は将来の世代にまで及びうると指摘した。そして、一日も早く原発時代から抜け出すことが福島事故の教訓だと強調した。

■ 蔚山、持続可能な生き方をめざし 脱原発をしよう

脱核蔚山市民共同行動は3月11日、蔚山市役所のプレスセンターで記者会見を行なった。蔚山共同行動は、まず、福島事故から9年が経過した日本の状況を説明した。

蔚山共同行動は、韓国社会が放射能災害に直面した場合、どのような事態に見舞われるかを推察してみたが、蔚山市と区・郡のマニュアルを確認した結果、災害弱者や一般住民の避難方法が現実的ではないと指摘した。

また、産業通商資源部が推進する「使用済み核燃料管理政策再検討」の公論化は、蔚山市民を意見集約から排除していると述べ、使用済み核燃料管理政策再検討委員会と慶州実行機構の解散を要求した。

そして、全国民的に原発と核廃棄物の処分方法に関する公開討論を行なうことを求め、持続可能な生き方をめざし、脱原発への大きな道へ進もうと述べた。
(訳/高野聡、次の記事も)

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【脱核プサン市民連帯 記者会見文】

福島を記憶せよ! 不可逆的な脱原発の実行を求める!

2011年の今日、福島原発事故が発生しました。9年が経ちましたが、放射能に汚染された海と土、水と大気は回復していません。除染作業が終わったとされる福島では依然として強い放射能の警告音が鳴り響きます。

日本政府は自然と人間の営みを徹底的に破壊した福島原発事故の記憶を消そうとしています。福島の復興を叫びながら、東京オリンピックを推進しています。福島は終わっていません。福島は9年の間、原発が人類の生存と命を破壊することになるという警告のメッセージを送り続けています。福島を記憶し、福島が送るメッセージに、人類は、原発を止めるという具体的な行動で応えなければなりません。

韓国は40余年もの間、答えのない核のゴミを生み出し人類を脅かす原発を稼働し続けてきました。福島の警告、地震という現実的な脅威の前に、コリ原発1号機は永久停止し、ムン・ジェイン政権は脱原発時代を宣言しました。しかし脱原発時代はコリ1号機の永久停止で止まりました。新コリ5・6号機は公論化という名の下、建設が再開され、脱原発時代は60年後に延長されました。また、国民の生命と安全に言及しながら、他国に原発を輸出し、他国民の命と生活を脅かす矛盾した事態が発生しています。

答えのない核のゴミに関しては、再公論化によってしっかりと10万年の責任について話し合わなければならないという市民社会の要求が、議論の見直しをもたらしました。しかし、昨年5月に発足した再検討委員会は、もっぱら臨時貯蔵施設の建設によって原発の稼働が止まらないようにすることのみに汲々としています。

総選挙が近づくと、脱原発を宣言したことはないと言い出す「共に民主党」議員の発言が飛び出すかと思えば、核融合の科学者を候補に担ぎ出す事態まで起こりました。

脱原発宣言は、政治家、官僚、産業界、メディア、学者などいわゆる核マフィアの強固なつながりを断つという、従って二度と脱原発から後退したり、逆行してはならないという宣言でなければなりません。しかし私たちは、脱原発時代を宣言したムン・ジェイン政権下で、脱原発に矛盾した行動、後退と逆行を目撃しています。脱原発政策は可逆的であってはなりません。私たちは不可逆的な脱原発政策の実行を強く要求します。

韓国の半分以上の核のゴミを抱えながら生きていかなければならないウォルソン住民と、原発により生業を奪われた住民を忘れてはなりません。原発と甲状腺がんの関連性について、放射能基準値だけを云々する者たちに「私たちの体が証拠だ」と憤り、叫ぶ住民たちを忘れてはなりません。送電塔問題をたどってみると原発に行き着いたと言い、脱原発の教えを伝えてくれたミリャンのおばあさんやおじいさんの声は今もはっきりと生き続けています。原発で命を削りながら被曝労働をしている下請け労働者の声は小さいながらもこの社会に存在しています。

原発に苦しめられてきた人々の声は、原発の歴史と共に存在してきました。そしてその苦しみの声は、現世代だけでなく将来の世代にまで継続せざるをえません。一日でも早く原発の時代をやめなければなりません。それが福島事故9周年の教訓であり警告です。

世界中で気候危機非常事態が宣言されています。現在まで人間が作ってきた、人間が順応してきたシステムへの問題提起をしなければなりません。

今までのシステムは、無限の利潤を求めて無限の競争をし、過剰に生産するシステムでした。生産の原動力となる燃料は、石油や石炭など、自然に対する略奪や搾取を基盤としてきました。それとともに、クリーンで安全で安いエネルギーという触れ込みで、原発も現在のシステムと共存し、核マフィアの権力を堅固なものとしてきました。

脱原発と気候危機への対応は切っても切り離せない関係にあります。システムと構造を根本的に変えない限り、解決への道は開けません。

「未来がないのに勉強に何の意味があるんだ」と街頭へと繰り出す少年・少女の声に注意を傾けなければなりません。将来世代が作り出そうとしている世界は、現在のシステムを打破してこそ可能です。現世代が作り出し、順応してきたシステムに対して、ノーと言いましょう。将来世代と共に、脱原発時代を開き、正義にかなったエネルギー転換によって、持続可能な未来を作っていきましょう。
2020年3月11日
脱核プサン市民連帯

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★ノーニュークス・アジアフォーラム通信163号(4月20日発行、B5-24p)もくじ

・韓国各地で福島原発事故9周年の記者会見
(ヨン・ソンロク)

・福島を記憶せよ! 不可逆的な脱原発の実行を求める!
(脱核プサン市民連帯)

・福島の教訓を忘れないで
(台湾・全國廢核行動平台)

・東海第二原発の再稼働の是非を問う「県民投票」の実現をめざして
(姜咲知子)

・宗教者が核燃料サイクル事業廃止を求める裁判
(大河内秀人)

・関電役員の追加告発人を募集中
(末田一秀)

・新潟県津南町議会が「除染土再利用の省令案の再考を求める意見書」を採択
(小木曽茂子)

・福島第一原発事故によるタンク貯蔵汚染水の陸上保管を求める共同声明

・『ノー・ニュークスで生きる権利-原発メーカー訴訟から新しい社会へ』
(島昭宏)

・東日本大震災と福島原発事故を題材にした小説を語る(2)
(宇野田陽子)

・老朽原発うごかすな
(アイリーン・美緒子・スミス、吉田めいせい、稲村守、高橋精巧)

ノーニュークス・アジアフォーラム通信は、年6回発行。購読料:年2000円。
見本誌を無料で送ります。事務局へ連絡ください→
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老朽原発うごかすな

(宮下正一・木戸惠子・中嶌哲演・藤本泰成・林広員・草地妙子・東山幸弘・井戸謙一・小橋かおる・末田一秀・滝沢あつこ・笠原一浩)
*ノーニュークス・アジアフォーラム通信・号外(2020年3月20日発行)より

■ 全国のみなさんの参加を心よりお願いします

 宮下正一(原子力発電に反対する福井県民会議)

2019年9月27日に、関西電力の会長や社長など幹部役員20名に3億2000万円ものお金が工事請負会社から還流されていたことが明らかになった。

この報道にとてもビックリした。「原発マネー」は、原発を建設・運転するために自治体首長や地域の有力者あるいは国会議員などに使われているものと思っていたからだ。

わかっているだけでも3憶2000万円の巨額資金が、こともあろうに発注者である関電幹部役員に還流されているとは思いもよらなかった。

電力会社は私企業であるが、市民一人一人が電気料金として支払っていることから極めて公共性が高い。さらに、電力事業者は、決して赤字にならないように法律によって守られている。

そのような関電の幹部役員たちのなかで、私腹を肥やす行為が蔓延していたのだ。「こんなこと絶対許せない!」と全国から集まった3,371名により2019年12月13日(翌年の1月31日も含め)、大阪地方検察庁に「事実を明らかにして関係者を処罰してほしい」と告発した。

3月14日に行なわれた関電の第三者委員会の最終報告では、森山氏から関電役員たちに渡された金品により、吉田開発などに不正な工事発注がなされていたことを認めている。

告発状は受理されていないが、ここまで来たからには、大阪地検に対して「直ちに告発状を受理し、捜査を開始すべき」と要請を強めていく。私たちは、今回せっかく掴んだ巨悪の尻尾は絶対離さず、その正体を見るまで、闘い続けよう。

関西を中心とした反原発団体は、高浜1・2号機や美浜3号機など、運転から40年間を超える老朽原発の再稼働を絶対許さないと、昨年11月からリレーデモなどを行ない、運動を強めている。

そして、大阪市の中之島公園で、「老朽原発うごかすな!大集会inおおさか」を1万人以上の参加を求めて行ない、老朽原発再稼働反対のうねりを大きく広げていきます。全国のみなさんの参加を心よりお願いします。

■ いまこそ、老朽原発を止めるチャンス

 木戸惠子(若狭の原発を考える会)

●若狭の老朽原発再稼働は、全原発の60年運転への道

福島原発事故は、人の営みを根こそぎ奪い去ることを、尊い犠牲の上に教えました。避難者は今でも故郷を追われて、苦悩の生活を強いられています。

それでも関電は、45年、44年、43年超え老朽原発、高浜1・2号機、美浜3号機の再稼働を画策しています。老朽原発では、取り替えることのできない圧力容器が大量の放射線に長期間曝されて脆化(固く脆くなり壊れやすくなる)し、配管の減肉(やせ細ること)や腐食が進み、事故の確率は格段に高くなります。全国に先駆けて関電が企てる老朽原発再稼働を許せば、全国の原発の60年稼働への道を拓くことになります。なんとしても止めねばなりません。

●40年超え運転は約束違反

「若狭の原発を考える会」では、原発立地・若狭の集落から集落へ反原発を訴えるチラシを配り歩く活動「アメーバデモ」を月2回、各回1泊2日で行なっています。アメーバデモが5年目になる昨年は主として老朽原発再稼働反対を訴えましたが、「関電は45年にもなる危険な高浜1号機を動かそうとしています」と言ってチラシを渡すと、地元の方から「約束違反やな」「若狭の原発は40年で廃炉になると聞いていた」「アカン、アカン、あんなもん動かしてどうするんや!」「政府も40年超え運転は“例外中の例外”と言っていたはず」など、老朽原発再稼働への怒りの声が数多く返ってきました。

昨年9月、私たちの電気料金で支払われた工事費が、関電幹部に還流され、福井県職員、小浜警察所幹部、元高浜町長などにも金品として贈与されていたことが明らかになりました。また、4月から電力会社の思いのままの原発稼働を可能にする「新」新検査制度が始まります。金にまみれ、企業倫理が地に落ちた関電に、危険な老朽原発をうごかせる能力も資格もありません。

●老朽原発を止めるのは、市民一人ひとりの行動

老朽原発うごかすな!の怒りの声は、昨年10月から11月の「老朽原発うごかすな!キャンペーン期間」に各地で行なわれた集会やデモ、11月23日から16日間の「高浜原発-関電本店リレーデモ」「12.8関電本店包囲全国集会」(161号参照)へと続きました。

「大飯原発運転差し止め」の仮処分を命じた樋口英明元裁判長は、「原発を止めるのは、首相や立地自治体の首長に原発を断念させること、裁判で原発を差し止めること」、そして「最も大切なのは市民一人ひとりの行動」と話されています。

安倍政権や関電の原発60年運転の野望を打ち砕くために、1万人を超える総結集で「老朽原発うごかすな!大集会inおおさか」を成功させましょう!

■ 第二のフクシマを未然に防ぐために

 中嶌哲演(原子力発電に反対する福井県民会議)

関西圏の大量の電力消費のために若狭に集中した15基もの原発群のうち、7基の廃炉は決定しているが、まだ8基の再稼働・延命が強行、画策されている。8基中7基は関西電力のそれ、とくに40年超の老朽炉の美浜3号機と高浜1・2号機の延命は許しがたい。

4000億円近くの巨費を投じた「安全対策工事」も終盤にさしかかっており(私が昨春12日間の断食で訴えたのは、その工事中止だったのだが)、高浜1号が6月ごろ、美浜3号が8月ごろに再稼働を強行突破しようというもくろみのようだ。

原発マネーの関電への不正還流を大々的に報道したメディアのはたらきと、それを告発した広範な世論と運動が、ついに関電経営陣のトップを辞任にまで追い込んだ。

老朽原発の廃炉をめざす「老朽原発うごかすな!大集会in大阪」が開催される。その大結集へ向けて、あらゆる大中小の団体・グループ、個人有志がこれまでに地道にとりくみ続けてきた個別の課題とも結びつけながら、共同・協働の輪を一気に広げよう。

地震や火山爆発は止められなくても、原発や核燃料サイクルを止めることはできる!

第二のフクシマの惨禍を未然に防ぐために!

■ ここに、日本の悲劇がある

 藤本泰成(原水爆禁止日本国民会議)

関西電力による会社ぐるみの収賄事件の第三者委員会の最終報告が出た。記者会見で但木敬一委員長は「刑事告訴は困難」と述べた。「不正の請託」が立証できないとの趣旨を述べているが、関電による「森山関連企業」への不正発注は事実であり、公共性の高い電気を独占的に販売してきたことを考えるならば、会社法による収賄罪や特別背任にあたるのは当然ではないか。明らかになった多くの事実があっても何らの処罰も受けないのは、電気を関電から買わされてきた市民にとっては納得がいかない。

電力業界は納得のいかないことばかりではないか。福島原発事故から来年は10年を迎える。巨大津波の可能性を指摘されていたにもかかわらず、何ら対策をとらずに事故を引き起こした経営陣は、無罪だという。フクイチは、未だに人を寄せつけない。事故収束の目処など全く立たない。周辺地域には住むこともできない。フレコンバックがあちこちに置かれている中に、一部住民は帰還を余儀なくされている。原発の危険性は明らかなのに、政府や電力会社は原発をあきらめない。

世間は原発などもってのほかと考えるから、どこにも新規原発はつくれない。つくれないとなると今度は、驚くことに、もっと危険な老朽原発を動かそうとする。しかも、40年を超えて60年超も認めようとの声が聞こえる。開いた口が塞がらない。

安倍政権に、将来を見据えた展望は全くない。原発などない方が良いし、石炭火力もない方が良い。そんなことは自明の理だ。であれば、10年、20年後のエネルギーをどう賄っていくのか誰しもが考えるが、考えない。あげくは、恥ずかしげもなく「日本の原発は世界一安全」を謳い文句に、売れないにもかかわらず、世界に原発を売り歩く。先を見る目が全くないのか見ないのか、今だけの政治がまかり通る。そこに、日本の悲劇がある。

■ 関西電力に原発を動かす資格なし

 林広員(オール福井反原発連絡会)

「関電問題は福井の恥です」と福井県民に怒りが広がっています。この怒りは、原発マネーを基に関電と立地自治体と政界が「持ちつ持たれつ」で、私たちの税金や電気料金を食い物にしているところからです。

第三者委員会報告では、役員報酬カット分を後で補填していることが明らかになりました。国民には電気料金を上げて負担を増やし、自らは内々に報酬を戻している関電の姿に、一般の企業のモラルなどありません。このような金まみれの関西電力に原発を動かす資格などありません!

金品の流れは福井県にも広がり、顧問弁護士を委員長にする内部の「調査委員会」が結果を発表。県の幹部109人が金品を受領したことや、杉本知事、西川前知事は贈答品を含めて金品の授受はなく栗田元知事は中元や歳暮を受け取っていたと公表。

これでは身内が身内を調べたもので不十分と、私たちは第三者委員会を設置せよと迫りました。しかし福井県は内部調査の発表で打ち切りにしています。

「老朽原発動かすな!福井県実行委員会」が県内の各自治体議長あてに「関電の原発マネー還流問題の真相究明を求める」請願を行ない、高浜町、勝山市、越前市、鯖江市で採択され全県で問題となっています。

このような腐敗構造を生んだ根本には、安倍政権の原発推進政策があります。「国策」として「原発推進政策」を行なう安倍政権は、エネルギー基本計画で原発をベースロード電源と位置づけ、将来全電源の20~22%を原発が占めるように策定。その中心を担わせた関電の問題に対して、安倍総理は「関電は民間企業だから。第三者委員会の調査に委ねる」との態度に終始。国として真相究明に背を向けています。

大集会を成功させて、関電と国・規制委員会、立地自治体首長など「原発推進共同体」を包囲し、世論と運動を盛り上げ、追い詰めましょう!

■ 見過ごせない!老朽原発の杜撰な審査

 草地妙子(老朽原発40年廃炉訴訟市民の会)

私たちは名古屋地裁で、関西電力の老朽原発3基に出された「運転期間延長認可」の取り消しを求めて裁判をしています。原子力規制委員会が杜撰な審査で認可していたことを明らかにし、当該原発を廃炉にすることをめざしています。

老朽原発が潜在的に危険なことはだれの目にも明らかです。それをあたかも「特別な審査」をしたかのように装い、お墨付きを与えているのが規制委員会です。老朽化最大の懸念事項である原子炉容器の劣化に関する審査においてさえ、試験の元データを見ることなく、関西電力の審査書の結果を鵜呑みにしていました。指摘されると、あろうことか「関西電力の品質保証体制を確認しており、信頼できるから問題ない」と開き直る始末です。関西電力の金銭不正受領事件で、企業としてのガバナンスやコンプライアンスの欠如が明らかにされた今、市民の納得はとうてい得られない本当に苦しい反論だと思います。

提訴からまもなく4年が経ちます。裁判が行なわれている間にも、関西電力は再稼働に向けた工事を進めてきました。進捗状況の詳細はわかりませんが、関西電力が再稼働するにあたっての障壁は少なくない状況に追い込まれてきていると思います。

あらゆる方面から様々な手段でさらに追い込んでいくために私たちの力を結集していきたいと思います。福井・関西の皆様をはじめとする全国的な運動に、名古屋からも参与できますことを大変意義あることと受け止めています。この輪をさらに大きく広げていくために共に頑張りたいと思います。

■ 危険な原発は廃炉に

 東山幸弘(ふるさとを守る高浜・おおいの会)

1月6日に定期検査のため高浜3号機は停止しました。前回定検のときに見つかった蒸気発生器細管の傷を原因不明のまま運転していました。そして、昨年10月に定検に入った4号機でも3台ある蒸気発生器のすべてから計5つの損傷が見つかりました。これも傷付けた原因不明のまま、栓をすることで原子力規制委員会は「良し」と許可し、早々に1月30日に起動してしまいました。何よりも恐れたことは、再度3号機の蒸気発生器細管に傷が見つかると、もう4号機は運転できません。そのため起動を急いだのです。やはり、またもやというべきか、2月18日に2つの蒸気発生器で各1本、2カ所に損傷が見つかりました。安全など二の次で、一日でも多く動かすことしか頭にありません。許すことができません。

加圧水型原発の最大の弱点は「蒸気発生器」で、1器3千本以上ある細管が応力割れや支持金具部での磨耗損傷を起こしており、「栓をする」ことで切り抜けています。しかし、1本でも破断すれば、一斉に制御棒が挿入されて緊急停止するとともに、緊急冷却装置ECCSが働き、冷却水が補給されます。現に1991年2月9日、美浜2号機で細管破断(支持金具との接触摩耗が原因と発表あり)によってECCSが働くという日本で初めての経験をしています。核燃料棒が溶解するメルトダウン一歩手前の状況でした。

関電は老朽原発延命のため、取り替えられるものすべてを取り替えているから「安全」だと宣伝していますが、一番重要な「原子炉圧力容器」は取り替えられません。長年の運転による中性子照射のため脆性化しており、ECCSが作動すると、強固なはずの圧力容器が、あたかも熱せられたガラスコップに冷たい水を注げばパリッと割れることと同じ状況になります。

原子炉破壊の危険度ワーストテンを順に並べると、玄海1号(廃炉)、高浜1号(40年超)、大飯2号(廃炉)、美浜2号(廃炉)、美浜1号(廃炉)、川内1号、高浜4号、伊方1号(廃炉)、美浜3号(40年超)、高浜2号(40年超)となります。近々稼働予定の高浜1号は日本一、危険な原発です。何としても再稼働させない、廃炉にすることです。

■ 壮大なウソ

 井戸謙一(福井原発訴訟<滋賀>弁護団)

福島地裁で行なわれている子供脱被ばく裁判、2020年2月14日には福島県立医大鈴木眞一教授の証人尋問が、3月4日には福島県健康管理アドバイザー山下俊一氏の証人尋問がそれぞれ行なわれました。

鈴木氏は、福島県民健康調査で発見された小児甲状腺がん患者の大部分の摘出手術を担当した医師ですが、すべては手術が必要な症例であったと証言し、過剰診断、過剰治療であるとの考え方を明確に否定しました。他方、福島県で小児甲状腺がんが多発しているとの見方を否定しましたが、「他の都道府県でも同じ割合で小児甲状腺がん患者が潜在しているとすれば、全国で1万人をこえる子どもたちが手術を待っていることになる、その子どもたちを救わなくてもいいのか」という質問に対しては、明確な回答はなされませんでした。

山下氏は、福島原発事故直後に行なわれた福島県内の講演会で、「100ミリシーベルト以下の被ばくでは健康被害がない」と言ったのは誤りで、正しくは「証明されていない」であること、「水道水からセシウムが出ない」と説明したのは誤りで、検出されること、「1ミリシーベルト被ばくをすると遺伝子が1か所傷つく」と説明したのは誤りで、「1ミリシーベルトの被ばくをすると遺伝子が37兆か所で傷つく」が正しいこと、すなわち37兆分の1の過小評価であったことを認めました。当時、未知の不安にさいなまれていた多くの人たちが、壮大なウソによって被ばく地に縛り付けられたことが明らかになった瞬間でした。

被ばく問題についてのウソ、それは今も大手を振ってまかり通っています。

■ 老朽原発を動かすな

 小橋かおる(さよなら原発神戸アクション)

高浜原発1・2号機、美浜原発3号機は、それぞれ運転より45年、44年、43年を超える原発です。本来の原則では、運転から40年を超えた時点で、廃炉となっていなければならない老朽原発です。この原則を外して老朽化した原発を動かすことがいかに危険であるかは、東京電力福島第一原発1号機を見れば明らかでしょう。

福島第一原発1号機は、1971年3月26日より営業運転を始めました。2011年には運転より40年を迎えるため、本来は廃炉になる原子炉でした。しかし、2010年3月から定期点検・点検停止していた1号機は10月に再稼働。そして、経済産業省原子力安全保安院は2011年2月7日、さらに10年間運転を延長する保安規定の変更を東京電力に認可し、3月11日、東日本大震災発生。そしてあの3月12日の水素爆発が起きたのです。

2010年当時の私は、その数年前から六カ所村の再処理工場に関心を持ちだし、原発については少し知っている程度でしたが、福島第一原発1号機の40年超えを認める再稼働には、とても憤りを感じていました。そして、福島第一原発事故。あの再稼働さえなければ、40年超えさえなければ、1号機が事故を起こすこともなく、2号機、3号機という連鎖的な事故も起きなかったのではないかと、今でも悔やみます。

同じ後悔をするわけにはいきません。私が住む神戸からも90キロほどしか離れていない高浜原発、そして美浜原発。あの40年超えの老朽原発を動かしてはなりません。関西電力という企業の経営収支のために、なぜ私たちの故郷、暮らし、健康、人生、未来が危険にさらされなければならないのでしょう? いったん事故が起きれば、近畿だけでなく、周辺何百キロもの地域が放射能汚染されかねません。

東京電力福島第一原発事故という人類史上でも最悪の原発事故をくり返さないために、また自分の住む町を放射能汚染で失わないために、老朽原発を動かすな。この災害列島で、どの原発も動かすな。

原発のない、そして無用な被ばくのない日本を、皆で実現したいと強く思っています。

■ 関電第三者委員会の報告を受けて

 末田一秀(はんげんぱつ新聞編集委員・関電の原発マネー不正還流を告発する会)

関電役員らが高浜町元助役森山氏らから金品を受領していた問題について調査していた第三者委員会が、3月14日に調査結果を公表した。関電の金品受領者は、当初の社内調査委員会が明らかにしていた20人から75人に変わり、総額も3億6千万円相当になった。森山氏の求めに応じて、関連会社に入札を経ずに工事発注をしていたことなど、様々な便宜行為や不正行為が認定されている。

関電が第三者委員会に提出した1994年の資料には、森山氏の10数件の関電への「貢献」が記されており、「公開ヒアリングを取り仕切って成功させた」「チェルノブイリ事故に際し、地元団体からの陳情書を町限りにとどめ公にしなかった」「原発内での業者の圧死事故に際し、警察・地元関係に対する無言の圧力により穏便に済ますことができた」などが挙げられている。関電が被害者でないことは明らかだ。

関電自体の企業統治が崩壊していたと断じざるをえず、関電に原発運転の資格はない。関係した役員や隠蔽に手を貸した監査役らの責任は極めて重く、関電は関係役員らの責任追及訴訟を提起すべきである。

関電は社外取締役を活用した会社形態「指名委員会等設置会社」への移行などの再発防止策を検討していると報じられているが、企業統治の強化は委員会など形を作ることだけでは達成できない。情報公開と説明責任の徹底を図り、市民の監視下に企業経営が置かれるべきである。

第三者委員会の報告書をもってしても、なお私たちの疑問には解消しない点がある。不当な金品により工作された全容は解明されたのか? 原発関連マネーが政治家へ流れていなかったのか? 寄付金名目で流されたお金は適正だったのか? などである。

これらの解明には、捜査権限を持つ検察が動く必要がある。12月13日に3000人を超える市民が行なった告発を、本稿執筆時点で大阪地検は受理すらしていない。直ちに受理して捜査を尽くし、実態を解明すべきである。

■ とことん腐敗している関電を許さない

 滝沢あつこ(脱原発へ!関電株主行動の会)

昨年発覚した関電原発マネー不正還流は怒りが頂点に達するできごとでした。私たち株主は年1回の株主総会で、名前があがっている役員の顔を見、答弁を聞いています。寄付金や報酬額の質問には答えません。森山氏に国税庁が入った一昨年も、内部告発文書が取締役に届けられた昨年も、株主には何も公表されませんでした。今年厳しく追及する所存です。

いま関電の不正を糺すために株主だからできること、それは株主代表訴訟です。昨年11月27日、株主のメンバー5人で関電監査役に対して「取締役に対する責任追及訴訟提起請求書」を提出しました。これは 取締役が会社に損失を与えたので、監査役として取締役を提訴しなさいというものです。請求後60日以内に提訴しなければ、私たち株主が監査役に代わって株主代表訴訟を起こします。期限は今年1月末でしたが、監査役から代理人弁護士に「第三者委員会の報告を待ってから決定する」と返答がありました。

3月14日、関電原発マネー不正還流の調査にあたった第三者委員会の報告がありました。精査はこれから行なわれると思いますが、放漫な金の使い方が露わになりました。報告書によると関電は、福島事故後の赤字に際して行なわれた役員報酬カットの分を業績回復時には補填すると決定していました。また高額の金品を受け取っていた豊松、森中、鈴木、大塚の各氏の追加納税分を会社が肩代わりすると決定していました。実際、豊松氏に昨年6月から報酬補填分90万円、追加納税分30万円、報酬と合わせて毎月490万円が支払われています。責任を問われ退任した元副社長豊松氏はエグゼクティブフェローという肩書きで報酬を受けていたのです。

とことん腐敗しているとしか言いようがありません。取締役は会社の社会的信頼を失墜させました。会社が損なった利益を取締役に請求し、会社に返却させることができるのは株主代表訴訟です。これから提訴の準備をしていきます。

■ 関電は再エネ先進企業として再生を

 笠原一浩(大飯原発差止訴訟・福井弁護団)

●歴史的な福井地裁判決

福井地方裁判所は、2014年5月21日、大飯原発3・4号機の運転差し止めを認める歴史的判決を言い渡しました。判決が言い渡された瞬間、弁護団や原告団事務局のメンバーが、それぞれ「差し止め認める」「司法は生きていた」という垂れ幕を掲げましたが、とくに後者について、深い共感を寄せた市民は多かったことでしょう。

この判決は、仮処分決定を別とすると、福島第一原発事故後初めての、原発裁判における司法判断です。福島第一原発事故の被害をふまえ、行政庁の判断を追認してきた裁判所の姿勢に変化が生じることが、多くの市民から期待されていましたが、この判決は、その期待に十二分に応えるものとなりました。

残念ながらこの判決は、4年後、名古屋高等裁判所金沢支部により覆されてしまいました。しかし、高裁判決も、福井地裁判決の事実認定そのものは否定していません。むしろ、地震に関する科学の限界について、福井地裁判決の指摘や島崎先生の知見を肯定しています。高裁判決は、私たちの訴えについて「立法論であって司法の役割ではない」と逃亡することによって、福井地裁判決の結論を覆してしまいましたが、両判決のいずれが正しかったのかは、翌年、歴史が証明することになりました。

●関電スキャンダルが意味すること

現在、関電スキャンダルが大問題となっていますが、この問題も結局のところ、原発という発電手段は、正常な方法では実現できないということを意味しています。

私たちが7年前に大飯原発差止訴訟を始めたのも、決して関西電力を倒すことをめざしたものではなく、より地域(関西一円)に愛される企業になっていただくことをめざしたものです。

私はこの裁判と無関係に一般業務で関西電力の関係者と接することも少なくありません。個々の従業員を見る限りでは、優秀で誠実な人が多いといえます。むしろ、今までのエネルギー政策では、この春に学校を出て関西電力に就職した人が、定年まで勤められないおそれが高いといえます。

再エネに舵を切ってこそ、関西電力にとっても今後50年、100年にわたって存続できるようになるといえますし、国のエネルギー政策に最も必要なことも、電力会社のそのような転換を応援することです。

私は刑事告発の弁護団にも加わりましたが、この事件を通じて、「再エネ先進企業としての新しい関西電力」の展望が開かれることを強く期待します。

 

韓国2019年 記憶すべき脱原発ニュース

韓国「脱核新聞」より

「2019年 記憶すべき脱原発ニュース」を日付順にまとめました。文在寅政権が脱原発政策を発表したにもかかわらず、原発の建設と運転許可が続いており、原発技術関連産業と輸出計画は依然として拡大中です。また、最低でも10万年間の責任を議論しなければならない高レベル核廃棄物管理政策の見直しが拙速に進められています。脱核新聞は「2019年 記憶すべきニュース」をまとめることで、改めて問題を想起し、各地域や現場でくり広げられるであろう2020年の闘いに少しでも力となれればと思います。
(まとめ:ジョン・スヒ、ヨン・ソンノク、キム・ヒョヌ、パク・ヒョンジュ、イ・ホンソク)(訳:高野聡)

1.核廃棄物の搬入が中断した慶州(キョンジュ)の中・低レベル核廃棄物処分場

2019年1月から慶州の中・低レベル核廃棄物処分場への核廃棄物搬入が中断された。これは原子力研究院による核種分析のエラーのためであり、規制当局の原子力安全委員会は、原子力研究院が15年以降に処分場へ運んだ核廃棄物を調査した結果、2600個のドラム缶のうち、2111個のドラム缶で3260件に及ぶ核種分析のエラーが検出されたと発表した。処分場を運営する原子力環境公団は核廃棄物の試料を採取して分析しており、結果は近々出る予定だ。一時期、処分場にあるすべての核廃棄物を取り出して再調査すべきだという問題提起や、韓国水力原子力と原子力安全委員会の責任も問うべきだとの主張もあったが、現在は沈静化した状態だ。

2.安全処置が不十分ながらも新コリ4号機に運転許可

19年2月1日、原子力安全委員会は、蔚山(ウルサン)の新コリ原発4号機の運転を承認した。加圧器安全放出バルブの漏洩などがあったにもかかわらず、原子力安全委員会は、主要設備の安全性確保を放置したまま、本格審査1日のみで運転許可を下した。

脱原発陣営は4月に蔚山を中心に「新コリ原発4号機運転許可処分取り消し訴訟」を開始した。訴訟人団の募集期間は一週間しかなかったが、全国で732人の市民が訴訟に参加した。訴訟は現在、ソウル行政裁判所で進行中であり、20年1月9日、2次弁論が行なわれる予定である。

一方、韓国水力原子力は19年12月6日に新コリ3・4号機の竣工式を行なった。

3.違法にもかかわらず工事を中止しない新コリ5・6号機

19年2月14日、ソウル行政裁判所行政第14部は、グリーンピースと市民599人が提起した「新コリ原発5・6号機建設許可処分取り消し訴訟」で、欠格事由のある原子力安全委員会委員が建設許可の決定に参加した点、放射線環境影響評価書にシビア・アクシデントの記載が抜け落ちている点を認定し、違法であると判断した。

しかし、建設を中断する場合、複雑な法律的争点が発生する上、建設中断による損失が大きいという理由をあげ、建設を継続してよいという「事情判決」を下した。

これに対し訴訟団は直ちに控訴し、ソウル高等法院で11月19日に控訴審3次弁論が行なわれた。現在新コリ5・6号機の工事は続いており、11月28日に5号機の原子炉が設置された。

4.ハンビッ1号機原子炉出力急上昇事故

5月10日、霊光(ヨングァン)にあるハンビッ原発1号機の出力が急上昇する事故が発生した。韓国水力原子力は、ハンビッ1号機の熱出力が18%急上昇したにもかかわらず、すぐに原子力安全委員会に報告せず、12時間近く運転を停止しなかった。

また、韓国水力原子力は運転を停止しなかった理由について、「原子炉出力急上昇の事実を知らなかった」と原子力安全委員会に虚偽の報告をした。

検察の捜査の結果、 韓国水力原子力はハンビッ1号機の再稼働の時期が延期になることを懸念し、無資格者が制御棒を操作した事実を隠して、不正確な資料と虚偽の陳述書を提出して調査に混乱を与えた。その結果、韓国水力原子力の関係者7人が起訴された。

しかし原子力安全委員会は根本的な改善策のないままハンビッ1号機の再稼働を許可し、11月2日には1号機が再稼働した。

霊光、高敞(コチャン)、光州(クァンジュ)、全州(チョンジュ)、井邑(ジョンウプ)など湖南(コナン)圏の市民団体と脱原発団体はハンビッ1号機の閉鎖を要求している。

5.プサン市機張(キジャン)の研究炉に運転許可。大田(テジョン)のハナ炉研究炉で相次ぐ自動停止

5月10日、原子力安全委員会はプサン市機張郡の研究用原子炉(熱出力1万5千kW)の建設を許可した。この研究炉は2022年3月までに完成する予定で、建設費は4389億ウォンにのぼる。プサンの市民団体は機張研究炉の運転許可取り消しを求めている。

大田にあるハナ炉研究炉(熱出力3万kW)は12月6日、再稼働の3日後に再び自動停止した。これを受け、廃炉を主張する市民社会の声はさらに大きくなった。ハナ炉はトリチウムやヨウ素などの気体放射性廃棄物の排出量が商業用原発並みに多い。

6.でたらめな高レベル核廃棄物見直し議論

産業通商資源部(産業部)が5月29日に「使用済み核燃料管理政策再検討委員会」を設置し、見直しの議論を進めている。再検討委員会は11月21日に「月城(ウォルソン)原発使用済み核燃料慶州地域実行機構」と協約式を結び、慶州実行機構を発足させた。全国の脱原発陣営は、再検討委員会と慶州地域実行機構の解体を求めている。産業部は、慶州地域実行機構を通じて、使用済み核燃料の「乾式貯蔵施設」を建設するかどうかを決定する予定だ。

しかし慶州実行機構は慶州市民だけで構成されているため、となりの蔚山(ウルサン)市の住民が強く反発している。蔚山市は月城原発の放射線非常計画区域内に人口100万人以上が居住している。蔚山市の中区庁、北区庁、東区庁などは市民団体とともに再検討委と慶州地域実行機構を批判する記者会見を開いた。

現在の高レベル核廃棄物の見直し議論は最終処分場が確定されるまで、使用済み核燃料を各原発立地地域が保管することを前提としている。国民が核廃棄物の問題をどのようにとりくむか議論する前に、核廃棄物の問題を地域住民に押しつけるものだ。

さらに悪いことには、再検討委は「乾式貯蔵施設」の問題を原発が所在する自治体が決定できるようにすることで地域社会に大きな対立と混乱を引き起こしている。

7.三陟(サムチョク)指定告示解と新蔚珍(ウルチン)3・4号機論争

5月31日、産業部は三陟の大津(テジン)原発予定地の指定告示を解除した。しかし、同じく新規原発の予定地に指定されている盈徳(ヨンドク)では、まだ告示が撤回されていないままだ。

このほか、新蔚珍(新ハヌル)3・4号機も白紙化の手順が正常に進んでいない。新蔚珍3・4号機は建設工事に着手してはいないが、2017年2月に産業部が発電事業を許可した状態だ。

現行の電気事業法は、事業者が法に違反したり、欠格事由がある場合にのみ、発電事業の許可を取り消すようにしている。文在寅政権は第8次電力需給計画を策定する際に、新蔚珍3・4号機は今後の電力生産がないものとみなして、再生可能エネルギーの拡大政策を打ち立てた。しかし政府は新蔚珍3・4号機建設白紙撤回の措置を迅速に行なっておらず、論争となっている。

原発「推進」陣営は、地域経済と原発産業活性化のために新蔚珍3・4号機の建設が必要だとして50万人の署名を大統領府に渡した。

8.低線量被曝労働の労災認定と不認定。原子力安全委員会の規定、一部の疾病は労災不認定

19年、注目すべき原発労働者の業務上疾病判定があった。低線量放射線被曝を業務上の疾病に認めたのだ。勤労福祉公団は7月3日、月城原発の日雇い労働者として勤務したAさんの血小板減少症(骨髄異形成症候群、白血病の一種)を業務上の疾病と認定した。勤務期間中の放射線被曝は基準値(実効線量1年累積基準値50mSv)以下だったが、血小板減少症は被曝により発症したと判断したのだ。

一方、勤労福祉公団は、月城原発で327日間働いて放射線にさらされたキム・ジョンイル氏の「ホジキンリンパ腫」については労災認定をしなかった。がん発症との関連性の根拠が弱いという理由だが、現在この件は訴訟へと至り、第二審が進行中である。この判定には、原子力安全委員会の「放射線作業従事者等の業務上の疾病範囲」の規定が影響を及ぼしたという指摘もある。この規定は、ホジキンリンパ腫を業務上の疾病の範囲から外している。

9.157cmの巨大な穴が発見されたハンビッ4号機

7月24、霊光(ヨングァン)のハンビッ4号機の格納容器のコンクリートで157cmに達する巨大な空隙(すき間)が発見された。格納容器のコンクリートの厚さが167cmなので、10cmの壁で原発を20年もの間稼動してきたということだ。

原子力安全委員会は、2016年6月にハンビッ2号機格納容器の鉄板の腐食が発見されて以来、全国19基の原発の格納容器で空隙と鉄板の腐食が生じていないか点検してきた。その結果、19年9月までに鉄板の腐食は10基で777カ所、空隙は8基で295カ所発見された。一方、霊光では「ハンビッ原発の安全性確保官民合同調査団」を組織し、韓国水力原子力と原子力安全委員会が発見できなかった安全上不安な点などを相次いで発見するという成果をあげた。霊光を除く他地域の原発の鉄板とコンクリートの状態に関する情報は詳細に伝えられていない。

10.警察庁長官、密陽(ミリャン)と青島(チョンド)に謝罪

7月25日、警察庁長官が密陽と青島の送電塔建設反対住民に直接会い、警察が行なった人権侵害について謝罪した。これは「警察庁人権侵害事件真相調査委員会」の勧告に従ったものだ。

真相調査委は、送電塔の建設強行とそれに伴う警察を大規模に動員した暴力的鎮圧、住民の取り調べや監視、通行制限、カメラ撮影、住民への買収などの人権侵害に関する事実を確認した。真相調査委は、警察庁長官の公式謝罪のほか、再発防止に向け、情報警察の業務と役割を統制する方法、住民通行権の保障、集会やデモの安全対策、カメラ撮影の規則改正など制度の補完を行なうよう勧告した。さらに密陽・青島の住民の精神的・身体的健康被害に関する実態調査を行ない、その結果に従った治療方法を策定することを勧告した。

しかし、警察庁長官の謝罪以外には、勧告に対する警察庁や政府の履行はまともに行なわれていない。

11.一審勝訴判決を覆したキュンド一家訴訟二審判決。最高裁に上告

8月14日、2012年に始まったキュンド一家訴訟の二審判決があった。一審の判決(訳注:14年10月、コリ原発近隣住民の甲状腺がんについて原発との因果関係を認めた)と異なり、二審の裁判所は、低線量放射線被曝とがん発症の関係は証明できず、科学的・医学的・生物学的根拠が不足だとし、キュンド一家の訴えを棄却した。訴訟団は直ちに上告し、現在最高裁判所の判決を待っている。

一方、キュンド一家の一審勝訴後に進められていた全国の原発立地地域住民による甲状腺がんの共同訴訟は、キュンド一家の二審判決の結果を見てから再訴することにしていたが、二審敗訴を受け裁判を延期した状態だ。

12.月城1号機の永久停止いまだ確定せず

慶州の月城原発1号機は、2012年に設計寿命(30年)を終えた。2015年に多くの物議を醸しつつ寿命の延長が決定されたものの、15年と16年に慶州・浦項(ポハン)大地震が発生した。裁判所は17年2月に、原子力安全委員会の「月城1号機の寿命延長」の決定は違法との判決を下した。

文在寅政権は新コリ5・6号機公論化の直後、「エネルギー転換ロードマップ」を発表し、月城1号機の閉鎖を約束し、これを第8次電力需給基本計画に反映させた。そして18年6月、韓国水力原子力は、理事会で月城1号機の永久停止の決定を行ない、19年2月に原子力安全委員会に月城1号機永久停止に向けた「運転変更許可申請書」を提出した。

しかし原子力安全委員会は、事業者が運転を中断したにもかかわらず、永久停止の決定を出さずにいる。(訳注:19年12月24日に原子力安全委員会は月城1号機の永久停止を決定した)

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★ノーニュークス・アジアフォーラム通信162号(2月20日発行、B5-24p)もくじ

・韓国2019年 記憶すべき脱原発ニュース  (脱核新聞より)
・トルコ、くすぶり続けるシノップ原発建設の動き (森山拓也)
・南オーストラリア・キンバでの放射性廃棄物処分場建設計画に500人が抗議
・伊方原発3号機差し止め仮処分決定に歓喜
― そして、電源一時喪失 燃料冷却43分停止 ― (大野恭子)
・被災した女川原発の再稼働を阻止しよう (舘脇章宏)
・「老朽原発うごかすな!大集会inおおさか」に集まろう (橋田秀美)
・ドキュメンタリー映画『サマショール 遺言 第六章』公開によせて (豊田直巳)
・演劇に原発を (くるみざわしん)
・東日本大震災と福島原発事故を題材にした小説を語る(1) (宇野田陽子)
・ノーニュークス・アジアフォーラム通信 No.144~161 主要掲載記事一覧
・NNAF 27年VTR  ― Korean/日本語/English//Mandarin ―

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