韓国2019年 記憶すべき脱原発ニュース

韓国「脱核新聞」より

「2019年 記憶すべき脱原発ニュース」を日付順にまとめました。文在寅政権が脱原発政策を発表したにもかかわらず、原発の建設と運転許可が続いており、原発技術関連産業と輸出計画は依然として拡大中です。また、最低でも10万年間の責任を議論しなければならない高レベル核廃棄物管理政策の見直しが拙速に進められています。脱核新聞は「2019年 記憶すべきニュース」をまとめることで、改めて問題を想起し、各地域や現場でくり広げられるであろう2020年の闘いに少しでも力となれればと思います。
(まとめ:ジョン・スヒ、ヨン・ソンノク、キム・ヒョヌ、パク・ヒョンジュ、イ・ホンソク)(訳:高野聡)

1.核廃棄物の搬入が中断した慶州(キョンジュ)の中・低レベル核廃棄物処分場

2019年1月から慶州の中・低レベル核廃棄物処分場への核廃棄物搬入が中断された。これは原子力研究院による核種分析のエラーのためであり、規制当局の原子力安全委員会は、原子力研究院が15年以降に処分場へ運んだ核廃棄物を調査した結果、2600個のドラム缶のうち、2111個のドラム缶で3260件に及ぶ核種分析のエラーが検出されたと発表した。処分場を運営する原子力環境公団は核廃棄物の試料を採取して分析しており、結果は近々出る予定だ。一時期、処分場にあるすべての核廃棄物を取り出して再調査すべきだという問題提起や、韓国水力原子力と原子力安全委員会の責任も問うべきだとの主張もあったが、現在は沈静化した状態だ。

2.安全処置が不十分ながらも新コリ4号機に運転許可

19年2月1日、原子力安全委員会は、蔚山(ウルサン)の新コリ原発4号機の運転を承認した。加圧器安全放出バルブの漏洩などがあったにもかかわらず、原子力安全委員会は、主要設備の安全性確保を放置したまま、本格審査1日のみで運転許可を下した。

脱原発陣営は4月に蔚山を中心に「新コリ原発4号機運転許可処分取り消し訴訟」を開始した。訴訟人団の募集期間は一週間しかなかったが、全国で732人の市民が訴訟に参加した。訴訟は現在、ソウル行政裁判所で進行中であり、20年1月9日、2次弁論が行なわれる予定である。

一方、韓国水力原子力は19年12月6日に新コリ3・4号機の竣工式を行なった。

3.違法にもかかわらず工事を中止しない新コリ5・6号機

19年2月14日、ソウル行政裁判所行政第14部は、グリーンピースと市民599人が提起した「新コリ原発5・6号機建設許可処分取り消し訴訟」で、欠格事由のある原子力安全委員会委員が建設許可の決定に参加した点、放射線環境影響評価書にシビア・アクシデントの記載が抜け落ちている点を認定し、違法であると判断した。

しかし、建設を中断する場合、複雑な法律的争点が発生する上、建設中断による損失が大きいという理由をあげ、建設を継続してよいという「事情判決」を下した。

これに対し訴訟団は直ちに控訴し、ソウル高等法院で11月19日に控訴審3次弁論が行なわれた。現在新コリ5・6号機の工事は続いており、11月28日に5号機の原子炉が設置された。

4.ハンビッ1号機原子炉出力急上昇事故

5月10日、霊光(ヨングァン)にあるハンビッ原発1号機の出力が急上昇する事故が発生した。韓国水力原子力は、ハンビッ1号機の熱出力が18%急上昇したにもかかわらず、すぐに原子力安全委員会に報告せず、12時間近く運転を停止しなかった。

また、韓国水力原子力は運転を停止しなかった理由について、「原子炉出力急上昇の事実を知らなかった」と原子力安全委員会に虚偽の報告をした。

検察の捜査の結果、 韓国水力原子力はハンビッ1号機の再稼働の時期が延期になることを懸念し、無資格者が制御棒を操作した事実を隠して、不正確な資料と虚偽の陳述書を提出して調査に混乱を与えた。その結果、韓国水力原子力の関係者7人が起訴された。

しかし原子力安全委員会は根本的な改善策のないままハンビッ1号機の再稼働を許可し、11月2日には1号機が再稼働した。

霊光、高敞(コチャン)、光州(クァンジュ)、全州(チョンジュ)、井邑(ジョンウプ)など湖南(コナン)圏の市民団体と脱原発団体はハンビッ1号機の閉鎖を要求している。

5.プサン市機張(キジャン)の研究炉に運転許可。大田(テジョン)のハナ炉研究炉で相次ぐ自動停止

5月10日、原子力安全委員会はプサン市機張郡の研究用原子炉(熱出力1万5千kW)の建設を許可した。この研究炉は2022年3月までに完成する予定で、建設費は4389億ウォンにのぼる。プサンの市民団体は機張研究炉の運転許可取り消しを求めている。

大田にあるハナ炉研究炉(熱出力3万kW)は12月6日、再稼働の3日後に再び自動停止した。これを受け、廃炉を主張する市民社会の声はさらに大きくなった。ハナ炉はトリチウムやヨウ素などの気体放射性廃棄物の排出量が商業用原発並みに多い。

6.でたらめな高レベル核廃棄物見直し議論

産業通商資源部(産業部)が5月29日に「使用済み核燃料管理政策再検討委員会」を設置し、見直しの議論を進めている。再検討委員会は11月21日に「月城(ウォルソン)原発使用済み核燃料慶州地域実行機構」と協約式を結び、慶州実行機構を発足させた。全国の脱原発陣営は、再検討委員会と慶州地域実行機構の解体を求めている。産業部は、慶州地域実行機構を通じて、使用済み核燃料の「乾式貯蔵施設」を建設するかどうかを決定する予定だ。

しかし慶州実行機構は慶州市民だけで構成されているため、となりの蔚山(ウルサン)市の住民が強く反発している。蔚山市は月城原発の放射線非常計画区域内に人口100万人以上が居住している。蔚山市の中区庁、北区庁、東区庁などは市民団体とともに再検討委と慶州地域実行機構を批判する記者会見を開いた。

現在の高レベル核廃棄物の見直し議論は最終処分場が確定されるまで、使用済み核燃料を各原発立地地域が保管することを前提としている。国民が核廃棄物の問題をどのようにとりくむか議論する前に、核廃棄物の問題を地域住民に押しつけるものだ。

さらに悪いことには、再検討委は「乾式貯蔵施設」の問題を原発が所在する自治体が決定できるようにすることで地域社会に大きな対立と混乱を引き起こしている。

7.三陟(サムチョク)指定告示解と新蔚珍(ウルチン)3・4号機論争

5月31日、産業部は三陟の大津(テジン)原発予定地の指定告示を解除した。しかし、同じく新規原発の予定地に指定されている盈徳(ヨンドク)では、まだ告示が撤回されていないままだ。

このほか、新蔚珍(新ハヌル)3・4号機も白紙化の手順が正常に進んでいない。新蔚珍3・4号機は建設工事に着手してはいないが、2017年2月に産業部が発電事業を許可した状態だ。

現行の電気事業法は、事業者が法に違反したり、欠格事由がある場合にのみ、発電事業の許可を取り消すようにしている。文在寅政権は第8次電力需給計画を策定する際に、新蔚珍3・4号機は今後の電力生産がないものとみなして、再生可能エネルギーの拡大政策を打ち立てた。しかし政府は新蔚珍3・4号機建設白紙撤回の措置を迅速に行なっておらず、論争となっている。

原発「推進」陣営は、地域経済と原発産業活性化のために新蔚珍3・4号機の建設が必要だとして50万人の署名を大統領府に渡した。

8.低線量被曝労働の労災認定と不認定。原子力安全委員会の規定、一部の疾病は労災不認定

19年、注目すべき原発労働者の業務上疾病判定があった。低線量放射線被曝を業務上の疾病に認めたのだ。勤労福祉公団は7月3日、月城原発の日雇い労働者として勤務したAさんの血小板減少症(骨髄異形成症候群、白血病の一種)を業務上の疾病と認定した。勤務期間中の放射線被曝は基準値(実効線量1年累積基準値50mSv)以下だったが、血小板減少症は被曝により発症したと判断したのだ。

一方、勤労福祉公団は、月城原発で327日間働いて放射線にさらされたキム・ジョンイル氏の「ホジキンリンパ腫」については労災認定をしなかった。がん発症との関連性の根拠が弱いという理由だが、現在この件は訴訟へと至り、第二審が進行中である。この判定には、原子力安全委員会の「放射線作業従事者等の業務上の疾病範囲」の規定が影響を及ぼしたという指摘もある。この規定は、ホジキンリンパ腫を業務上の疾病の範囲から外している。

9.157cmの巨大な穴が発見されたハンビッ4号機

7月24、霊光(ヨングァン)のハンビッ4号機の格納容器のコンクリートで157cmに達する巨大な空隙(すき間)が発見された。格納容器のコンクリートの厚さが167cmなので、10cmの壁で原発を20年もの間稼動してきたということだ。

原子力安全委員会は、2016年6月にハンビッ2号機格納容器の鉄板の腐食が発見されて以来、全国19基の原発の格納容器で空隙と鉄板の腐食が生じていないか点検してきた。その結果、19年9月までに鉄板の腐食は10基で777カ所、空隙は8基で295カ所発見された。一方、霊光では「ハンビッ原発の安全性確保官民合同調査団」を組織し、韓国水力原子力と原子力安全委員会が発見できなかった安全上不安な点などを相次いで発見するという成果をあげた。霊光を除く他地域の原発の鉄板とコンクリートの状態に関する情報は詳細に伝えられていない。

10.警察庁長官、密陽(ミリャン)と青島(チョンド)に謝罪

7月25日、警察庁長官が密陽と青島の送電塔建設反対住民に直接会い、警察が行なった人権侵害について謝罪した。これは「警察庁人権侵害事件真相調査委員会」の勧告に従ったものだ。

真相調査委は、送電塔の建設強行とそれに伴う警察を大規模に動員した暴力的鎮圧、住民の取り調べや監視、通行制限、カメラ撮影、住民への買収などの人権侵害に関する事実を確認した。真相調査委は、警察庁長官の公式謝罪のほか、再発防止に向け、情報警察の業務と役割を統制する方法、住民通行権の保障、集会やデモの安全対策、カメラ撮影の規則改正など制度の補完を行なうよう勧告した。さらに密陽・青島の住民の精神的・身体的健康被害に関する実態調査を行ない、その結果に従った治療方法を策定することを勧告した。

しかし、警察庁長官の謝罪以外には、勧告に対する警察庁や政府の履行はまともに行なわれていない。

11.一審勝訴判決を覆したキュンド一家訴訟二審判決。最高裁に上告

8月14日、2012年に始まったキュンド一家訴訟の二審判決があった。一審の判決(訳注:14年10月、コリ原発近隣住民の甲状腺がんについて原発との因果関係を認めた)と異なり、二審の裁判所は、低線量放射線被曝とがん発症の関係は証明できず、科学的・医学的・生物学的根拠が不足だとし、キュンド一家の訴えを棄却した。訴訟団は直ちに上告し、現在最高裁判所の判決を待っている。

一方、キュンド一家の一審勝訴後に進められていた全国の原発立地地域住民による甲状腺がんの共同訴訟は、キュンド一家の二審判決の結果を見てから再訴することにしていたが、二審敗訴を受け裁判を延期した状態だ。

12.月城1号機の永久停止いまだ確定せず

慶州の月城原発1号機は、2012年に設計寿命(30年)を終えた。2015年に多くの物議を醸しつつ寿命の延長が決定されたものの、15年と16年に慶州・浦項(ポハン)大地震が発生した。裁判所は17年2月に、原子力安全委員会の「月城1号機の寿命延長」の決定は違法との判決を下した。

文在寅政権は新コリ5・6号機公論化の直後、「エネルギー転換ロードマップ」を発表し、月城1号機の閉鎖を約束し、これを第8次電力需給基本計画に反映させた。そして18年6月、韓国水力原子力は、理事会で月城1号機の永久停止の決定を行ない、19年2月に原子力安全委員会に月城1号機永久停止に向けた「運転変更許可申請書」を提出した。

しかし原子力安全委員会は、事業者が運転を中断したにもかかわらず、永久停止の決定を出さずにいる。(訳注:19年12月24日に原子力安全委員会は月城1号機の永久停止を決定した)

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★ノーニュークス・アジアフォーラム通信162号(2月20日発行、B5-24p)もくじ

・韓国2019年 記憶すべき脱原発ニュース  (脱核新聞より)
・トルコ、くすぶり続けるシノップ原発建設の動き (森山拓也)
・南オーストラリア・キンバでの放射性廃棄物処分場建設計画に500人が抗議
・伊方原発3号機差し止め仮処分決定に歓喜
― そして、電源一時喪失 燃料冷却43分停止 ― (大野恭子)
・被災した女川原発の再稼働を阻止しよう (舘脇章宏)
・「老朽原発うごかすな!大集会inおおさか」に集まろう (橋田秀美)
・ドキュメンタリー映画『サマショール 遺言 第六章』公開によせて (豊田直巳)
・演劇に原発を (くるみざわしん)
・東日本大震災と福島原発事故を題材にした小説を語る(1) (宇野田陽子)
・ノーニュークス・アジアフォーラム通信 No.144~161 主要掲載記事一覧
・NNAF 27年VTR  ― Korean/日本語/English//Mandarin ―

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