ノーニュークス・アジアフォーラム通信No.139より
第17回NNAF ダイジェスト 胡桃沢伸・渡田正弘
3月22日
今回のNNAFの会場は、いわき市湯本温泉の老舗旅館「古滝屋」。昼過ぎから参加者が続々と宿に到着。参加者は、韓国6、台湾12、香港1、フィリピン3、インド2、トルコ2、福島県内と日本各地から40名が参加。夕方から10階の「松の間」で交流会開始。
佐藤和良さんと「古滝屋」の若旦那の里見喜生さんが歓迎挨拶。「震災前には140人いたスタッフが今は20人」と語る里見さんの挨拶には胸を打たれた。その後は、参加者が一人ずつ自己紹介。発言者の言葉が各国語の通訳者によって翻訳され聞き手に届けられてゆく。NNAFでおなじみの光景が展開(通訳のみなさん、ありがとうございました)。
3月23日
9時から各国報告。日本からは松久保肇さんが再稼働とそれに抗う差し止め訴訟など、韓国からはパク・ヘリョンさんが原発予定地ヨンドクでの住民投票のたたかい、台湾からはジュディ・イェンさんが福島事故後に展開された大規模な反核運動、フィリピンからはフランシスコさんがバターン原発の運転を阻止したたたかいと今も新規の原発建設構想が経済発展を口実に続く現状、インドからはラリター・ラームダースさんが核開発とセットで情報の公開がないまま進む原発建設の現状とクダンクラム原発での反対運動、トルコからはメティン・ギュルブズさんとプナール・デミルジャンさんが地震・テロ・チェルノブイリ事故の経験等があり到底原発を受け入れることのできない市民感情と日本が原発輸出を計画するシノップでの反対運動、香港からはタンさんが中国の原発への対応の難しさを報告した。
昼食と休憩を挟んで報告は続き、予定時間を大幅にすぎて午後のプログラム「福島の人々からの報告」が始まった。
佐藤和良さんからは「福島原発事故の原因と真相はまだわからない。原子力緊急事態宣言はまだ解除されていない」「福島原発は35メートルの崖を削って海面から10メートルのところに建屋を作った。地下水が流れ出てずぶずぶで、もともと池の中に浮かんでいるような状態だった」「原発は差別と分断によって作られたもの」など、報告がなされた。
武藤類子さんは「福島原発事故はなかったことにしたほうが国にとって都合が良い。そのために帰還政策と、放射能は怖くないという教育が行なわれている。福島は世界の一部ではないみたい。国、県、東電は責任をとっていない」と話した。
続けて、「原発いらない福島の女たち」の木幡ますみさん、佐々木慶子さん、橋本あきさんのお話しを聞いた。
その後、NNAFの次回開催地を決める話し合いが行なわれ、第一候補インド、第二候補フィリピン、第三候補韓国に決まった。
夕食交流会も同じく「松の間」で行なわれ、バンド「いわき雑魚塾」のライブコンサートが開かれた。「でれすけ原発」「ヤマユリの花」などどれも原発事故後の福島を歌ったすばらしい曲だった。なかでも、汚染水に汚される海を歌った「福島の海よ」には涙ぐむ人が何人もいた。
3月24日
9時から、前日の福島の人々の話を聞いて各国参加者が感じた疑問を福島の人々に尋ねて、討論するプログラム。福島からさらに古川好子さん、飛田晋秀さんも参加してくれた。
「地域の住民同士の対立について」「防災訓練について」などの質問が出、福島の人々の回答に各国参加者は耳を傾けていた。住民感情の変化の歴史的経緯については佐藤和良さんから丁寧な解説があり、311以後、脱原発については一致していても避難については「ふるさとを捨てるのか」という葛藤・対立が生じているという報告があった。
昼食後、「反核世界社会フォーラム(核と被ばくをなくす世界社会フォーラム)」の参加者たちと合流し、バスに分乗して富岡町などへのフィールドワークに出発。汚染土を詰めたフレコンバックの山、無人の商店街、汚染があって何も栽培できないにもかかわらず、帰還を促すために草取りをしてきれいに整備された畑。どれも原発事故の被害を教えてくれていた。各国の参加者はそれぞれの経験を自国に持ち帰って伝えてくれることと思う。
夜は、いわき労働者福祉会館で、反核世界社会フォーラムの集会に参加。NNAFは各国の代表が発言した。
3月25日
午前中、いわき市内のいわき放射能市民測定室「たらちね」を訪問。80人以上なので、最初に海外参加者が訪問し、時間をずらし日本からの参加者が訪問。「たらちね」事務局長の鈴木薫さんから設立趣旨と現状報告を受ける。
「たらちね」は、汚染された食品の摂取による内部被曝を防止・軽減するために2011年に市民団体等による寄付やカンパで設立された。公的資金は一切入れないで寄付などにより運営を続け、主婦を中心に10人のスタッフが働く。
常に市民目線で運営され、ベクレルモニター(4台)による食料や土などの測定とホールボディカウンターによる体内被曝測定が中心。測定結果はすぐに説明して伝える。子供たちの沖縄での保養プロジェクトも担っている。測定依頼が減少している測定室が多いが、ここは少しずつ増加しているそうだ。被曝労働者も測定に来られる。2015年からは草の根レベルで日本唯一といえる「ベータ線」測定設備も完備。
市民自身が、命を守り、心を守り「生きるための測定室」をめざす「たらちね」の活動をみんなで応援し続けたい。「たらちね」スタッフのみなさん、今回は大勢で押しかけてご迷惑をかけ申し訳ありませんでした。
午後は、東京へ移動。宿泊先の韓国YMCAで夕食交流会。一人ずつ、福島の感想など、全員が発言した。その後、韓国参加者の部屋に有志おおぜいが集まり深夜まで討論。
3月26日
代々木公園で開催されたNo Nukes Day「原発のない未来へ!3.26全国大集会」に参加。第2ステージ(野外音楽堂)で台湾からの仲間がアピール。第3ステージ(けやき並木)ではインド・トルコからの参加メンバーが「原発輸出しないで!」とアピール。海外からの参加者が「日本での再稼働を止めるだけでなく、原発輸出も止める必要がある!」と生の声で強く訴えたことに意味がある。集会参加者は約3万5千人。
そして、渋谷駅までデモ。「ノー・ニュークス!」などのシュプレヒコールをあげながら歩いた。台湾からの参加メンバーも日本語で「再稼働反対!」と力強く叫んでいた。
夕方には、反核世界社会フォーラムの分科会として、①映画「サクリファイス」上映と監督の歓迎会、②クライメート・ジャスティスの観点からCOP21交渉と原発再稼働を考える、が開催された。
②の分科会では、昨年12月パリで開催された「気候変動枠組条約第21回締約国会議」(COP21)で激論の末に合意されたパリ協定の分析と批判の意見が出された。今回の合意で、温暖化が最も深刻な途上国にも先進国と同様な温室効果ガスの削減義務が課せられたことは公正さに欠けること、CO2を排出しないという身勝手な理屈で原発を推進する日本の政策は容認できないこと、原発は決して温暖化対策にはなりえないこと、などが強調されていた。
3月27日
午前中は、反核世界社会フォーラム・分科会「原発を輸出しないで!~アジアの人びとの叫び」で、各国からの参加メンバーが映像を使用して状況報告。
トルコからは、日本語が堪能なプナール・デミルジャンさん(脱原発プロジェクト)が、トルコは地震国であり、チェルノブイリ原発事故の放射能被害を直接受け、政府による情報隠しの苦い経験もある。トルコ市民は日本からの原発輸出にNOである、と全体状況を報告。1976年に地中海沿岸のアックユが原発建設候補地にあげられ、粘り強い反原発運動がスタート。放射能に関するスキャンダルなどに住民たちが激しく抗議、2011年の福島原発事故で運動がさらに高揚した。そんな状況を無視するかのように安倍政権は2013年にトルコと原子力協定を結び、黒海沿岸のシノップに三菱重工がフランスのアレバと合弁で新型原発を建設・販売予定。それに対する反対運動をシノップ現地から参加したメティン・ギュルブズさん(シノップ反原発プラットフォーム)が報告。シノップ住民は大きな反対運動を起こし、2015年4月には3万人以上が集まり集会・デモを開催し「日本は原発を輸出しないで!」と声を上げた。
インドからは、ベテラン活動家のラリター・ラームダースさん(核廃絶と平和のための連合)が、インドの核兵器開発の歴史から原発推進の現状までを報告。核兵器保有国のインドに東芝、日立、三菱重工など日本企業が原発を輸出することは核兵器増強に加担することであり、安倍政権とモディ政権による日印原子力協定は認められないと強調。現在、ロシアが建設したクダンクラム原発現地やフランスが建設予定のジャイタプール原発予定地では、大規模な反対運動が展開され、死傷者が出るなど激しい弾圧下にある。反対運動現場を記録する写真家のアミルタラージ・スティフェンさん(反核運動全国連合)は、現地住民が苦しめられている状況を訴えた。
フィリピンからは、NNAF 設立時からの仲間であるコラソン・ファブロスさん(非核フィリピン連合)が、反原発運動の歴史とバターン原発(1985年に完成したが現在も閉鎖中)反対運動を説明。また、バターン原発再開の動きがたびたびあったが、反対運動も負けていないと長年の活動家フランシスコ・F・ホンラさん(非核バターン運動)が報告。
韓国は、頼れるリーダーのイ・ホンソクさん(エネルギー正義行動)。1987年以降の民主化運動を背景に開始された新規建設や核廃棄物処分場建設に対する力強い反原発運動の歴史と現状を報告。福島原発事故後は、日本同様に原発推進政策を堅持する韓国政府に抗して粘り強く多様な活動を展開。最近ではサムチョクやヨンドクでの住民投票による反対運動が大きな力を発揮している。
そして、台湾環境保護連盟の明るく元気な2名(王俊秀さん、郭金泉さん)が日本語でアピール。台湾では、1987年の戒厳令解除後に高揚した民主化運動のなかで「第四原発」反対運動が大きな政治課題となり、民進党が「原発反対」を綱領に。とくに福島原発事故以降は、幅広い層が参加する全島をあげての原発廃止デモを展開。2014年には、中台サービス貿易協定に抗議する前代未聞の立法院占拠「ひまわり学生運動」に続き、第四原発廃止を訴えて5万人が台北駅前の8車線道路を15時間占拠。馬英九政権からついに「稼働凍結」を勝ち取った。そして、今年1月の総統選・立法院(国会)選挙で民進党が圧勝し、立法院では初めて単独過半数を獲得し、2025年までの原発全廃が現実味を増した。
続いて、福永正明さんが「日印原子力協定阻止キャンペーン」への参加と協力を訴えた。また、多くの原発訴訟を担ってきた河合弘之弁護士が、裁判運動の現状の報告と、映画「日本と原発」を紹介し、NNAF事務局の宇野田陽子さんが最終まとめをし『原発をとめるアジアの人びと』の英語版制作が進行中と報告。
午後からは、各分科会に参加。分科会のテーマは、①「福島での犯罪と命の救済」、発言は、飛田晋秀(写真家)、松本徳子(郡山からの母子避難者)ほか、②「広島・長崎・ビキニ・福島を体験した国で、原発はなぜ再稼働されてしまうのか?」、発言は、松久保肇(原子力資料情報室)、加藤一夫(ビキニ市民ネット焼津)ほか、③「被爆労働問題の現状~フランス・ウクライナ・韓国・日本」、発言は、フィリップ・ビヤール(仏、原発下請け労働者)、ムィコラ・ヴォズニューク(ウクライナ、チェルノブイリ原発事故処理作業者)ほか、④「エートス問題と国際原子力ロビー~無知の戦略」、発言は、ヴラディーミル・チェルトコフ、松井英介ほか。
3月28日
午後、参議院議員会館講堂で院内集会。国会議員の参加もあり、トルコの2人とインドの2人が「原発を輸出しないで」と訴えた。
その後、衆議院議員会館で、政府と交渉を行なった(10~12ページに記事)
今回のフォーラムは「福島原発事故は続いている」をテーマに、アジア各国の参加者に福島の現実を知って自国に持ち帰ってもらうことを目的とした。福島の人たちとの交流会では各国から質問が飛び交い、各国政府と国際原子力産業の福島原発事故を消し去ってしまおうとする動きに抗い、原発立地各所での活動に力を与えるフォーラムになったと思う。
そして、問われているのは日本である。参加者の一人はこう述べた。「日本の原発輸出は、行き詰る世界の核産業に力を与え、アジアの軍事緊張を促進する。福島、広島、長崎を経験した日本が原発を輸出するのは、日本の非核の願いをも壊すものだ」 ― アジアの友人のこの声に耳を傾けたい。
●「原発を輸出しないで!~アジアの人びとの叫び」(3.27反核世界社会フォーラム)の映像、写真集ほか (脱被ばく実現ネットのブログ)
○インド:ラームダース
【《非暴力・直接行動》で立ちむかう】
http://fukusima-sokai.blogspot.jp/2016/04/2016_11.html
○トルコ:ギュルブズ
【チェルノブイリの記憶に突き動かされて】
http://fukusima-sokai.blogspot.jp/2016/04/2016_15.html
○韓国:イ・ホンソク
【住民投票で原発をとめる】
http://fukusima-sokai.blogspot.jp/2016/04/2016_64.html
○フィリピン:ファブロス
【《バターンの怪物》をとめ続ける不屈の人々】
http://fukusima-sokai.blogspot.jp/2016/04/2016_58.html
○台湾:王俊秀
【第四原発の完全廃止をともにめざす】
http://fukusima-sokai.blogspot.jp/2016/04/2016_72.html
●写真集
NO NUKES DAY(東京デモ)
https://flic.kr/s/aHskxAjAf5
NNAF&反核世界社会フォーラム
https://flic.kr/s/aHskxtwPhG
●台湾環境保護連盟のウェブサイト
(中国語ですが写真たくさんあり)
3月23日
http://www.tepu.org.tw/?p=14412
http://www.tepu.org.tw/?p=14420
http://www.tepu.org.tw/?p=14425
http://www.tepu.org.tw/?p=14431
3月24日
http://www.tepu.org.tw/?p=14439
http://www.tepu.org.tw/?p=14448
3月25日
http://www.tepu.org.tw/?p=14454
http://www.tepu.org.tw/?p=14459
●原発輸出・世界各国から批判される日本3.29東京新聞1
http://www.nonukesasiaforum.org/jp/Tokyoshinbun0329a
●原発輸出・世界各国から批判される日本3.29東京新聞2
http://www.nonukesasiaforum.org/jp/Tokyoshinbun0329b
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★ノーニュークス・アジアフォーラム通信139号(4月20日発行)もくじ
第17回ノーニュークス・アジアフォーラム報告
●第17回NNAF ダイジェスト
(渡田正弘・胡桃沢伸)
●インド参加者のNo Nukes Dayスピーチ
●「原発輸出に反対するインド・トルコの市民からの日本政府への要請」報告(松久保肇)
●日本の原発輸出はやはり無責任で他人任せだった(田中龍作)
●より多くの課題を確認したNNAF2016(キム・ヒョヌ)
●福島原発事故5年、真の文明への回復を思い描いて・・・(ヒオックス)
●福島の生の声をインドへ ~原発に抗う市民の交流~(藤岡恵美子)
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★本『原発をとめるアジアの人々』推薦文:広瀬隆・斎藤貴男・小出裕章・海渡雄一・伴英幸・河合弘之・鎌仲ひとみ・ミサオ・レッドウルフ・鎌田慧・満田夏花
http://www.nonukesasiaforum.org/jp/136f.htm