【宣言】すべての人に、安全で、手頃な価格で、気候にやさしいエネルギーを

ベルギーのブリュッセルで3月21日、国際原子力機関(IAEA)とベルギー政府の共催による史上初の「原子力サミット」が開催された。30か国の首脳や閣僚、300名以上の原子力関係者らが出席し、共同宣言で、多国籍の開発銀行や国際金融機関などに原発計画への融資支援を求めた。

しかし、ビジネス情報紙「ブルームバーグ」の3月22日付の記事によると、欧州投資銀行などは、「原発のリスクは高すぎる。欧州の貸付機関は、風力と太陽光に融資を優先し続ける。原発を増やすならば、銀行ではなく、納税者がその費用を負担しなければならない」と反応した。記事は「原子力サミットの参加者たちは、無駄な情熱を抱いてブリュッセルに到着したが、銀行家たちのぬるい反応に落ち込んで帰った」とした。

この原子力サミットに対して、世界56か国の619団体が共同で下記の宣言を発表した。
(賛同団体は、https://dont-nuke-the-climate.org/blog/iaea-nuclear-fairy-talesに掲載)

【宣言】すべての人に、安全で、手頃な価格で、気候にやさしいエネルギーを

2024年3月21日、ブリュッセルで、国際原子力機関(IAEA)とベルギー首相に招聘され、国際原子力ロビーが原子力サミットを開催します。原子力ロビーは、気候にやさしいという外観を装い、人々や地球を犠牲にして、巨額の資金を環境問題の真の解決策からそらそうとしています。

世界は、たくさんの社会的、環境的、経済的危機に直面しています。人々は、日々の生活費や気候変動からくる極端な気象現象、そして毎日の光熱費に不安を感じています。原子力サミットに参加するロビイストと政治家たちは、新しい原発の建設こそがこれらの問題への解決策であると提示するでしょう。ですが、それは全く現実的とは言えません。


気候非常事態対策として原発は遅すぎます。現在進行中の原発の開発は大幅に遅れていて、今世紀中の炭素排出量削減への有意義な貢献は期待できません。地球の気温上昇を1.5℃以内に制限するために、2030年までの温室効果ガス排出の大幅な削減が必要とされるなか、現在公表されているどの原発も、この期限を大幅に遅れてからしか送電を開始することはできないでしょう。原発の新設はエネルギー転換を邪魔して遅らせます。その代わりに化石燃料からの迅速な移行のために焦点を当てるべきは、100%再生可能なエネルギーシステムの構築、そしてそれと共に、エネルギー消費の効率化と対策によって過剰なエネルギー消費を避けることです。そしてこれらの複合的なとりくみによって、公平で、環境に優しく、達成可能なエネルギーで世界の需要を満たせるでしょう。


原発は再生可能エネルギーよりもずっとお金がかかります。原発の計画がコストの急騰による大幅な予算超過と中止に直面する一方で、再生可能エネルギーはこれまでになく低価格で、相対的なコストは原発に比べて急激に低下しています。2023年の世界原子力産業現状報告書によれば、新しい原発建設は、風力発電所のほぼ4倍の費用にまで上昇しています。各国政府は、実行できる保証のない小型モジュール原子炉のような高額な実験にではなく、家の断熱材や公共交通機関、そして再生可能エネルギーなど実証済みの気候変動対策に投資する必要があります。


原発は危険です。ウランの採掘から放射性廃棄物まで、原発は人間の健康と安全、そして環境にとっての脅威です。また、原子力は軍事目標として使用される恐れもあり、劣化ウランや原爆のような核兵器が世界中に広がる危険性を増加させています。気候危機もまた原発の危険性を増加させます。熱波、干ばつ、嵐、洪水などの自然災害の増加は、発電所自体、そして事故を防ぐための防護機能への深刻な脅威となり得ます。


私たちは気候緊急事態下に生きています。時間は貴重です。その限りある時間を原発という「おとぎ話」で無駄にする政府が多すぎます。私たちが望むのは、ただ安定した雇用があり、地球上に住む私たちすべての命を守ってくれる、安全で再生可能で手頃なエネルギーシステムへの移行なのです。
(本文訳は原子力資料情報室より)

『原子力サミット』会場前での国際共同抗議アクション。韓国のイ・ホンソク氏のメッセージも読み上げられた。

★ノーニュークス・アジアフォーラム通信187号
(24年4月20日発行、B5-24p)もくじ

・「未来世代の絶叫」 (チャン・ヨンシク)
・ハンビッ1・2号機 寿命延長阻止大会・決議文                
・福島13年 慶尚北道 脱核行進・宣言                    
・7政党が「新建設禁止法・寿命延長禁止法制定」にすべて同意 (ヨン・ソンロク)
・台湾【重要署名】老朽化した危険な原発を延長するな
 ― 原発延長法案反対、安全を最優先に! (全国廃核行動平台)

・トルコ・シノップで反原発派市長が当選 (森山拓也)
・【宣言】すべての人に、安全で、手頃な価格で、気候にやさしいエネルギーを  
・非核バターン運動の若者たちからの連帯メッセージ (片岡輝美)
・柏崎刈羽原発、再稼働してしまうのか! 崖っぷちのたたかい (星野幸彦)
・「Stop!女川原発再稼働 さようなら原発全国集会in宮城」決行 (いのまた由美)
・東海第二原発は廃炉に (相沢一正)
・島根原発2号機の再稼働は中止すべきだ (芦原康江)
・上関町中間貯蔵施設建設計画・その後 (三浦みどり)
・3.31「老朽原発ただちに廃炉!美浜全国集会」400人超が結集 (木原壯林)
・50年前と現在のプロゴフから学んだこと (林えな)
・子どもと原子力災害 保養資料室 ≪ほよよん≫ へようこそ (宇野田陽子)

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【重要署名】老朽化した危険な原発を延長するな ー 原発延長法案反対、安全を最優先に!

*台湾の126団体による「全国廃核行動平台」は、3月11日、下記の署名運動を開始した。

台湾の老朽原発3カ所6基は、運転免許が満了(4基)、または満了間近(2基)で、法に基づく廃炉の実施、または準備段階に入っている。

しかし、今期の国民党の新立法委員(国会議員)らは、原発を延長させるための法改正を提案する予定であり、原発が再び政治的な攻撃と防御の焦点となる。


このため私たちは、立法院が「台湾社会が負担するリスクと代償」を明確にして社会的合意をする前に法改正を急ぐべきではない、と強い懸念を表明する。


私たちは、原発を延長できるかどうかの最大の鍵は、法的適用期間ではなく、老朽原発が人々に安全上の脅威をもたらすかどうかであると考える。核廃棄物の解決策はあるのか? そして人々は、延長による高いリスクと高額なコストを負担しなければならないことを知っているのだろうか?


このため、市民社会団体は、「原発の運転を延長するかどうかは、政治的決定ではなく、安全性を最優先にすべきである」と主張する共同請願を提案することを決定した。延長するかどうかについての議論が行われる前に、それが確認されることになる。

● なぜ危険で老朽化した原発の運転延長に反対するのか?

老朽原発には次のようなリスクがある。

  1. 原発の設備は老朽化が進んでおり、複数の故障履歴があり、核災害につながる可能性がある。
  2. 原発の敷地は活断層に近く、強い地震が発生すると核災害を引き起こしやすい。
  3. 台湾は人口が密集しており、核災害時の避難は困難で、対応能力がほとんどない。
  4. 原発の燃料プールは満杯で、使用済み核燃料を置く場所がない。
  5. 核廃棄物の最終処分場を見つけるのは依然として困難だ。

まず、3カ所の原発は、それぞれ安全性や核廃棄物保管の問題を抱えており、それらが解決できなければ運転を延期することは事実上不可能である。

次に、福島原発事故後、国際的な原発安全基準が大幅に改善され、原発の運転コストが上昇し続けている。老朽原発の運転を延長する場合、法律に従って老朽化評価報告書と安全分析報告書を提出することに加え、最新の国際安全基準を遵守し、老朽原発の改善に資源を投資しなければならない。議論するには、必要な時間と費用をより正確に見積もり、開示する必要がある。


最後に、核廃棄物が処分されない場合、原発は不当なエネルギー源であり、使用期間の延長によってさらに多くの核廃棄物が発生することになる。台湾は、適切な最終処分場をまだ見つけておらず、高レベル核廃棄物(使用済み核燃料)処分の法的根拠も欠如しており、高レベル核廃棄物は依然として原発内に危険な状態で保管されている。ランユ島の核廃棄物もまだ撤去されていない。核のゴミは、原発を使うか使わないかを決める最も難しい問題であり、与野党が責任を持って積極的に向き合わなければならない。

● 署名者は次のように主張する

与野党の立法委員と行政機関はイデオロギー論争から決別すべきだ。政治的な舌戦だけでは原発が安全かどうかを決めることはできない。

  1. 老朽原発の安全上の懸念が明確になる前に、また核廃棄物の解決策が見つかる前に、老朽原発を延期すべきではない。
  2. 行政院、経済部、原子力安全委員会は、最も厳格な国際基準に従って、原発安全分析、地質リスク評価、その他の報告書を提出し、運転延長のリスクとコストを完全に開示し、核廃棄物処分対策も提案し、それらを国民に公開して、社会的議論を行うべきである。
  3. すべての政党と立法委員は、自らのイデオロギーを脇に置き、国民に対する原発延長のリスクとコストを確認し、核廃棄物処分に関する立法を開始すべきである。

能登半島地震と原発リスク

北野進(志賀原発を廃炉に!訴訟原告団)

1.阻止できて本当によかった「珠洲原発」

元日に発生した能登半島地震によって奥能登の風景、人々の暮らしは一変してしまいました。珠洲市や輪島市では多くの地域が壊滅状態です。さらに被害は中能登地域から金沢市内へ、さらには富山県、新潟県にまでも拡大しました。

マグニチュード7.6、最大震度7という今回の大地震の震央は、かつての珠洲原発の予定地・高屋のすぐ近く、関西電力が立地可能性調査を計画していたエリアの裏山です。高屋では激しい揺れに加え、がけ崩れも多数発生し多くの住宅が倒壊しました。港の岸壁にも多数の大きな亀裂や陥没が生じ、原型をとどめていません。何より驚くのは地盤の隆起です。予定地前の海岸にはきれいな遠浅の海が広がっていましたが、今そこには岩場が広がっています。防波堤を見れば隆起が約2mにも及んでいることが確認できます。いうまでもなく隆起したのは海域だけではありません。原発が建設されたであろう陸域にまで及んでいることは間違いありません。

(関電の原発予定地、高屋の防波堤。北野さんの身長以上、約2メートル隆起)

かつて、原発計画があった当時、電力会社や国は「原発は強固な岩盤の上に建てるから大きな地震が来ても大丈夫。万が一大きな地震が起きたら発電所構内に逃げ込んでもらえば一番安全だ」などと豪語していました。当時の知見では高屋の沿岸域に大断層が走っていることを把握できておらず、調査する気もありませんでした。地盤の隆起など想像すらしていなかったのではないでしょうか。

高屋の集落は地震後孤立し、その後もしばらくは自衛隊の車両しか入れない状況が続きました。高屋の東方約8kmにある中部電力の予定地・寺家(じけ)でも1m程度の隆起がありました。近くの集落では激しい揺れに加え、津波が襲い、沿岸部の家並みは見る影もありません。現在の防災計画ではPAZ(原発から5km圏内)に該当する地域であり、「全面緊急事態で即時避難」ですが、住民は高台に駆け上がるのが精一杯です。

高屋、寺家に限らず奥能登全体が地震後はほぼ孤立状態でしたから、もし原発が立地されていれば、重大事故でも避難すらできず、福島以上に悲惨な原発震災となっていたかもしれません。珠洲原発の反対運動を応援していただいた全国の皆さんにあらためて感謝申し上げたいと思います。

2.止まっていて幸運だった「志賀原発」

今回の大地震は、まったく予想されていなかったわけではありません。珠洲を中心とした奥能登では3年前から群発地震が続き、1昨年は震度5強、昨年5月5日には震度6強の揺れが市内を襲いました。専門家からは「さらに大きな揺れに警戒を」との声が上がっていました。マグニチュード7クラスの地震を引き起こす大断層が能登半島の北部沿岸を走っていることが今では明らかとなっており、一連の群発地震がこの断層を刺激し、大地震の引き金となる可能性を指摘していたのです。

北陸電力が志賀原発2号機の適合性審査のために原子力規制委員会に提出している資料によれば、「能登半島北部沿岸域断層帯」として長さ96km、想定マグニチュード8.1とされていました。今回の地震は、マグニチュードは北電の想定を下回りましたが、動いた断層は約150kmとされ、北電の想定を大きく上回りました。北電が想定していなかった断層の連動があったと言わざるをえません。どの断層が動いたのかは今後の分析を待たなければなりませんが、佐渡方向ではNT2、NT3という2つの断層の存在が知られ、今回の震源域に含まれます。北電は審査会合の中で連動の可能性すら検討しておらず、規制委も検討すべきとの指摘すらしていませんでした。全くのノーマーク状態です。西側(志賀原発沖合側)では、2007年の能登半島地震の震源となった笹波沖断層帯との距離が近いことから北電は連動の可能性を検討し、「連動しない」との判断を示していました。規制委もその判断を追認する方向で議論は進んでいました。今回の地震は、事実をもって北電、規制委の活断層評価能力を否定したと言えます。

昨年の北電株主総会で私は笹波沖断層帯との連動の可能性や、志賀原発へのリスクについて問いました。これに対して北電の小田常務は「設備に影響を及ぼす可能性のある断層を確実に把握し、耐震設計に反映している」とし、笹波沖断層帯の連動を否定し、能登半島北部沿岸域断層帯マグニチュード8.1でも志賀原発は大丈夫と答えたのです。ところが実際は東西さらに活動域は広がり、しかもマグニチュード7.6の規模でしたが、1系統2回線で外部電源が受電できなくなり、非常用ディーゼル発電機も一台が自動停止するなど発電所内では多数のトラブルが発生したのです。今年の株主総会では北電の能力・資質についてさらに追及しなければなりません。

原発の防災対応でも欠陥や限界が露呈しました。今回、志賀町は震度7、そして大津波警報が発令されたことから志賀原発は警戒事態に至りました。原子力規制庁と内閣府は合同警戒本部を立ち上げ、志賀現地では石川県も加わり現地警戒本部が立ち上がりました。しかしそれは形だけで、その対応はお粗末極まりありません。石川県など地元自治体は地震対応だけで大混乱で、原子力災害に手が回らないことは明らかでした。北電の危機管理能力のなさは一連のプレス発表の混乱からも明らかです。迅速・正確な情報発信は到底期待できません。原子力防災は初動対応の段階ですでに破綻です。

このように原発を運転する資格のない北陸電力ですが、志賀原発は1、2号機ともに2011年3月から停止中だったことから、今回は幸運にも危機的な事態は回避することができました。再稼働を許さず今日までこれて本当によかったと思います。

3.能登半島地震は最後の警告

一方、北電には「幸運だった」との認識が全くなく、1月31日、能登半島地震後初の記者会見に臨んだ松田光司社長は「志賀原発の安全確保に問題はなく、原子力の重要性は変わらない」と強気の姿勢を貫きました。

こうした中、私が地震の翌日から心配しているのは「果たして今回の大地震で3年前から続く一連の地震活動は収束するのだろうか。次の大地震へのカウントダウンが始まったのではないか」ということです。今回の地震が周辺断層の新たなひずみを生み、新たな地震のリスクが高まっているとの指摘も専門家から相次いでいます。

北陸電力が志賀1、2号機の設置許可を申請した当時は、能登半島周辺には大きな活断層はないとされていました。しかし、現在北電が規制委に提出している資料を見ると、能登半島周辺には能登半島北部沿岸域断層帯以外にもマグニチュード7クラスの大地震が想定される活断層が何本も走っています。連動すればさらに大きな揺れとなります。また、志賀原発の10km圏内に絞ってみれば、東側にはわずか1kmに福浦断層、西側には兜岩沖断層、碁盤島沖断層、そして北側には富来川南岸断層と、志賀原発は三方活断層に囲まれていることがわかります。基準地震動を引き上げればいいという次元ではなく、地表の変位が心配されます。再稼働を許さず、一日も早く廃炉に追い込まなければなりません。

能登半島地震は地下の流体が原因とされる一連の群発地震が引き金となり、大きな断層の連動につながったと見られていますが、群発地震や断層の連動は、現在の地震学でも知見の積み重ねが少ない分野です。原発に内在する莫大なリスク、リスクを回避できない地震学の限界、そして原子力規制委員会の限界を直視すれば、国内すべての原発の再稼働はありえません。再稼働した原発の運転継続もありえません。被災地を抱え、地元の運動は遅れ気味ですが、アジアの脱原発の潮流を確実なものにできるよう、全国の仲間、アジアの仲間と一緒に頑張りたいと思います。

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★ノーニュークス・アジアフォーラム通信186号
(24年2月20日発行、B5-32p)もくじ

・若者たちが公設市場でバターン原発再建反対署名運動
韓国核発電所の地域の概要と懸案 (ヨン・ソンロク)            
・『海島核事』― 台湾反核運動の軌跡 (鈴木真奈美)            
・未稼働の第四原発 ― 楊貴英と呉文通 (王舜薇)              
非核のアジアを夢見て (王舜薇)                    
能登半島地震と原発リスク (北野進)                  
・能登半島地震 ― それでもなお、原発回帰、再稼働を続けるのか (多名賀哲也)
・令和6年能登半島地震を踏まえた意見書 (脱原発弁護団全国連絡会)    
・3.23「ストップ!女川原発再稼働 さようなら原発全国集会in宮城」に参集を! (多々良哲)
・女川原発2号機の再稼働を止める (舘脇章宏)               
・上関町の中間貯蔵施設建設計画を止めよう (小中進)
・青森県の再処理と中間貯蔵の現状 (小熊ひと美)             
・ノーニュークス・アジアフォーラム通信 No.174~185 主要掲載記事一覧

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