【北野進、台湾立法院公聴会・台湾大学などで講演、能登半島地震は「最後の警告」】
1.はじめに
「台湾で能登半島地震の話をしませんか」と、佐藤大介さんから訪台の提案を受けたのは7月8日のこと。来年5月に脱原発を実現する予定の台湾の情勢が風雲急を告げている。立法院で多数を占める野党国民党が原発の稼働延長法案を4月に提出していたが、6月30日に「7月から審議入り」と発表された。
台湾では2017年に蔡英文総統が「脱原発」を決定し、2021年の公民投票で第四原発の稼働も認められないことが確定。来年5月にはすべての原発が運転期限の40年を終えて「アジア初の脱原発」を実現するスケジュールが進んでいる。こんな中での延長法案である。少しでも力になれることがあるのならば、という思いはあるが、台湾は1995年の第3回NNAFで訪れて以来である。さらに私自身、海外旅行自体が実は23年ぶり。元日の能登半島地震を受け、年明け以降、国内はあちこち出かけているが、海外となると気持ち的にはかなりハードルが高い。躊躇していると、「夏から秋、延長法案の攻防となる。屋外集会などの行動日程が組まれているが、能登地震の教訓の学習会も必要だろう」と、佐藤さんの言葉巧みな話にのせられていく。実現しない可能性もあるし、打診してみるくらいまあいいかと、「7月末なら日程空いてますよ」とつい答えてしまったのである。
台湾は日本と同じく地震大国であり、今回の能登半島地震への関心も高く、私は4月3日に「鏡週刊」という雑誌の取材を受けていた。佐藤さんが台湾環境保護連盟と緑色公民行動連盟にメールを送ると、彼らは「鏡週刊」の特集記事も見ており、すぐに翌9日、「歓迎し、受け入れ準備を進める」旨の連絡があり、急な訪台計画が一気に動き出すことになる。こうなれば貴重な機会に感謝するしかない。
とはいえ講演内容で悩む前に、まずはパスポート申請である。この日からバタバタと訪台準備が始まり、7月29日には小松空港から台湾へと飛び立つこととなった。
2.3か所で能登半島地震の報告
台湾での日程は、講演が3か所。まず30日の午前中、立法院で公聴会が組まれている。イメージとしては院内集会に近いと思うが、范雲立法委員と施信民教授(台湾環境保護連盟の創始者で現在は総統府の国策顧問も務める)のあいさつから始まり、私は通訳含め1時間「能登半島地震と原発リスク」というテーマで報告させてもらう。続いて佐藤さんも日本の老朽原発の危険性などについて報告。さらに台湾電力の原子力発電部・副部長が志賀原発の地震によるトラブルの発生とその対応状況などについて発表。原子力規制委員会を通じて情報を入手しているのだろう。原子力安全委員会主任秘書、台湾の環境団体の代表者らの発言も続き、約3時間の公聴会を終える。
午後は第二原発の近く金山の金泰豊人文館で、緑色公民行動連盟の江櫻梅さんら地元の皆さんが集まっての学習会。第二原発は1号炉が2021年12月27日に、2号炉は2023年3月14日に、稼働から40年を迎え、運転を停止した。しかし今回の延長法案で国民党は第二原発の再稼働も含め画策しているので地元の皆さんも真剣である。
翌31日の夜は台湾大学で緑色公民行動連盟主催の集会が開かれる。ここでの発言時間は通訳含め90分なので、珠洲の運動にも話題を広げて報告する。4月に能登半島地震と珠洲原発の取材で珠洲を訪れた「鏡週刊」記者の尹俞歓さんとも再会できた。彼女の記事が台湾の環境団体の多くの皆さんの目に留まっていたことも今回の訪台につながった。
2日間の講演は、幸いマスコミなど報道関係者の関心も高く、新聞やテレビ、ネット配信記事などを含めると10社以上が報道してくれた。
3.大地震が台湾の原発を襲わなかったことは幸運
私の講演内容について少し補足しておきたい。基本は活断層評価も含め地震学には限界があること、そして原発震災が起これば逃げようがないという能登半島地震の教訓を伝えることが柱となる。ただし能登半島地震固有の問題ではなく、台湾が抱えている課題との共通点も意識し、報告させてもらった。
まず台湾は日本と同じく地震大国だと言われるが、日本の地震回数との比較を示す。4月3日にもマグニチュード7.2の地震が発生し、花蓮で甚大な被害が生じている。台湾は日本の国土面積の約10分の1、九州程度の面積である。対して大地震の発生回数は、海域もあるので厳密な比較ではないが、ほぼ5分の1。つまり2倍ほどの地震リスクがあるということ。
日本同様、台湾でも原発敷地内や周辺の活断層調査は軽視されてきており、国民党が稼働延長をめざす第三原発の敷地内でも活断層の存在が指摘されている。この40年、大地震が原発を襲わなかったことは幸運と言わなければならない。
加えて今回の能登半島地震の大きな特徴である隆起の問題も台湾にとって他人ごとではない。4月の地震でも45cmの隆起が確認されているが、台湾自体、ユーラシアプレートとフィリピン海プレートが非常に複雑にぶつかり合ってできており、多くの景勝地は隆起も含めた地殻変動によって形成されたところがほとんどである。29年前に訪れたときに立ち寄った第二原発の近くの野柳地質公園には奇岩がたくさんあり、観光気分で「女王の頭」で記念写真も撮ったが、ここも実は複雑な隆起がくり返されてできているそうだ。
4.関心が高まった避難計画の破綻問題
前回1995年の訪問時は福島第一原発事故前ということもあり、台湾の避難計画に特段大きな関心を抱いた記憶はない。しかし、今回の能登半島地震では、福島後の原子力災害対策指針や、それを踏まえた自治体の避難計画の破綻が明らかとなった。はて、台湾の避難計画は?と聞いてみると半径8キロが避難対象区域とのこと。事故発生時には8km圏外に避難するとのことだが、残念ながら詳細な規定は確認できなかった。原発問題に関心がある人たちの間でも、避難計画問題はやや関心が低かったのではと感じる。
実は第一原発、第二原発から30km圏のラインを引くと人口約250万人の台北市はほぼ全域が圏内となり、さらに台北市を取り囲むように位置する人口約400万人の新北市の人口密集地も30km圏内である。30km圏にはなんと世界最多の約600万人が居住しているのである。東海第二原発は30km圏人口が92万人にのぼり、避難計画を策定できないと言われているが、まさに桁違いの人口密集地に台湾の原発は存在しているのだ。
安全対策では日本の原子力政策を真似るところが多いと言われた台湾の原発だが、避難計画を真似ようにもこれでは真似ようがない。講演後のインタビューなどでは避難計画問題にも多くの質問があった。台湾は日本以上に人口が密集している。避難計画は、国民党独裁の戒厳令下、安全神話に依拠して建設された台湾の原発の大きなアキレス腱であり、稼働延長など論外である。
5.第四原発運転阻止から、延長法案阻止、脱原発実現へ
講演日程の他、29日夕方には、今回の訪台の受け入れでお世話になった環境保護連盟の皆さんとの食事会、翌30日の午後は第二原発、31日には第四原発の現地貢寮へも案内してもらった。2001年の韓国でのNNAFで知り合った元台湾国立海洋大学の郭金泉先生には4日間にわたって大変お世話になった。
29年前の訪台時にも貢寮を訪れ、地元の住民の皆さんとの交流会にも参加したことを覚えているが、一番大きな変化は海岸に建つ抗日記念碑の背後に1号炉、2号炉の建屋がほぼ完成していることである。1895年に、当時の大日本帝国が下関条約で清朝から台湾の「割譲」を受け、日本軍が最初に上陸した地点が貢寮。そこにいま、東芝、日立、三菱による日本初の原発輸出として建設された第四原発1号炉、2号炉が建っているのである。申し訳なさと悔しさがこみ上げてくるが、同時に稼働を阻止した大きな実績にもぜひ注目したい。
第四原発阻止は、この日お会いできた楊貴英さんや呉文通さん(二人は昨年、台湾政府から環境保護生涯功労賞を受賞している)ら、地元の皆さんの長年にわたる粘り強い運動や、21年の公民投票勝利で明らかなように脱原発を選択した台湾の皆さんの行動と決断の結果であることは言うまでもない。
ただ、貢寮の皆さんが日本の人たちにもとても感謝していることを、この機会にぜひ紹介しておきたい。先ごろ亡くなられた伴英幸さんをはじめ多くの人たちが、台湾そして貢寮を訪れ、台湾の皆さんと一緒に第四原発阻止のたたかいを担ってきた。今回私を台湾に連れて行ってくれた佐藤大介さんはこの30年間、実に50回も台湾に通い、台湾と日本の運動をつないできた。楊貴英さんや呉文通さんの大歓待ぶりを見るだけでもこの間の深く長い交流のあゆみが伝わってくる。
国境を超えて原発推進体制を構築している原子力ムラに対する、アジア民衆の連帯による勝利としても、第四原発稼働阻止の意義を語っていかなければいけない。
もちろん稼働阻止で地元の運動が終わったわけではない。今後の跡地利用のプランにも目が離せない。台湾でも大きな問題となっている核廃棄物を持ち込もうなどというとんでもない発言も一部にはあるとのこと。脱原発社会に向かう台湾の象徴的な施設として活用されていくことを期待したいし、呉文通さんらも積極的に提言を行っている。
原発延長法案阻止、来年5月17日のアジア初の脱原発実現を共に祝い合えるよう、私も引き続き応援の声を上げていきたい。
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環境団体が公聴会を開催、日本の元議員が能登半島地震の二つの教訓を共有
聯合報 7月30日 (抜粋)
台湾環境保護連盟と立法委員范雲らは、本日、「地震による原発への脅威に関する公聴会」を開催した。公聴会では、日本の石川県能登半島出身の元県会議員である北野進と、非核アジアフォーラム日本事務局長の佐藤大介が、年初に発生した能登半島地震後の教訓を共有した。
北野進は、能登半島の地震が示した教訓は二つあると指摘した。第一に、現時点の地震学の知識は限られており、地震の発生を予測することはできず、次の大地震が台湾の原発を襲う可能性があることである。第二に、現在の避難計画には欠陥があり、地震と原子力災害が重なった場合、避難が困難であるということである。
今年1月1日に能登半島で発生したマグニチュード7.6の地震は、石川県、福井県、新潟県など広範囲に影響を及ぼした。北野進は、この能登半島地震の際、多くの日本人が、かつて建設が予定されていた珠洲原発が建設されなかったことや、志賀原発が13年間停止していることを幸運に思ったと述べた。さもなければ、結果は想像を絶するものであっただろう。
また彼は、日本の原子力災害対策指針にも欠陥があると指摘し、地震と原子力災害が重なった場合、避難が困難であり、外部支援も困難になるだろう。住民は災害地域に閉じ込められ、放射線に曝露される恐れがある。日本では、原発周辺30km圏内を原子力災害対策の重点地域と定めているが、台湾の第一・第二原発の30km圏内には500万人以上が居住しており、重大事故に備えた避難計画を策定することはほぼ不可能である。
北野進は、台湾が日本と同様に地震が頻発する国であり、経済、社会、文化の面での交流も非常に活発であると強調した。来年5月17日に第三原発2号機が順調に停止し廃止されれば、台湾はアジアで初めて非核家園(核のないふるさと)を実現することになる。これは非常に重要な意義を持ち、日本の脱原発運動の目標となるだろう。
公聴会に出席した台湾電力と原子力安全委員会の代表者は、第二・第三原発では耐震補強が行われており、安全性に問題はないと報告した。
しかし、緑色公民行動連盟の崔愫欣秘書長は、台電の報告は抽象的であり、原発の耐震性能が不十分である事実を覆い隠すことはできないと指摘した。彼女は、台電は補強措置に関するデータを公開するべきであると要求した。
台湾環境保護連盟の創立会長であり、政府の気候変動対策委員会の委員でもある施信民は、台湾が原子力を発展させる条件を持っていないことを強調した。
能登半島地震で核災害避難問題が注目、北野進「台湾の原発は延命すべきではない」
自由時報 8月1日
今年元旦、日本石川県能登半島で7.6の地震が発生し、現在も地震で破壊された道路が復旧していない。北野進は、この地震により外部との連絡道路が深刻に損壊したことを指摘し、過去の避難訓練では想定されていなかった事態が発生したと述べた。幸いにも原発は運転していなかった。もし核災が発生していたら住民は逃げ場を失う恐れがあったとして、能登の経験を警鐘とし、台湾の原発は延命すべきではないと訴えた。
北野進は、石川県で30年以上にわたり反原発運動を推進してきた。珠洲原発建設を阻止し、「志賀原発を廃炉に!訴訟」の原告団長も務めてきた。
今回の能登半島地震は、福島核災害の記憶をもう一度呼び起こさせたと述べた。地震発生時、全国の人々は災害地域近くに原発があるかどうかに注目し、福島核災の再発を懸念したという。
幸いにも珠洲原発は建設されておらず、志賀原発も福島核災以降停止していた。もし珠洲原発が建設されていたら、今回の地震で被害を受け、状況は福島核災以上に深刻だった可能性があると指摘した。
また、今回の能登半島地震で、地震と核災害が重なった時の避難計画の欠陥が明らかになったと述べた。過去の志賀原発の避難訓練では、1本の道路が通行不能になるシナリオしか想定されていなかったが、今回の地震では原発近くの数十箇所の道路が通行不能となり、半年経っても多くの道路が復旧していない。核災が発生した場合、住民は災害地域に閉じ込められ、放射線の脅威にさらされる恐れがあり、外部からの支援も難しい。海上からの脱出についても、地震による津波のリスクを考慮する必要がある。
日本政府はグリーントランスフォーメーション(GX)法案を通過させ、原発の活用を強化し、運転年限を延長する新たな措置を採用した。また、台湾でも野党の立法委員が法改正を通じて原発の延命を主張している。北野進は、日本では原発の延命は「厳格な安全審査」を前提としているが、安全性には疑問が残ると述べた。たとえば、安全審査で全ての部品を検査できるのか、40年以上使用した原子炉の耐久性や脆弱性を正確に評価できるのかが問題である。
原発の利用による二酸化炭素削減について、北野進は、日本にはカーボンニュートラルを考慮して原発を再稼働させるべきと主張する人もいるが、実際には原発を増やすと同時に火力発電も維持する必要があるため、原発と火力発電はセットであり、原発は低炭素ではないと述べた。また、原発の再稼働が再生可能エネルギーの発展を阻害するとし、たとえば九州電力は川内と玄海の二つの原発を再稼働させた後、太陽光発電計画を減少させ、出力制御させた。
北野進は、台湾と日本は共に地震が多い国であり、次の大地震がいつ来るか、どこの原発を襲うかは、誰もわからないと述べ、能登半島地震を経験した立場から、台湾は原発を延命させるべきではないと呼びかけた。
彼は、来年台湾がアジアで初めて非核家園(核のないふるさと)を実現することを期待しており、これは日本の脱原発運動にとって最大の模範となるだろうと述べた。
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【台湾立法院、原発延長法案を採決せず】
野党国民党は、第二原発・第三原発の寿命延長を求めて、原発延長法案を提案していた。立法院教育文化委員会は7月10日、原発延長法案(原子炉施設管理法の改正案)を審議したが、柯志恩議長(国民党)は最終的に、「さらなる議論が必要である」とし、採決を見送った。立法院の現在の会期は7月16日に終了し、次の会期は9月に始まる。
国民党など野党が数的優位で原発延長法案を可決することを恐れていた全国廃核行動平台(ネットワーク)は前日、立法院前で1000人が抗議集会を行い、法案の撤回を求めた。
第一原発2基、第二原発2基は40年寿命ですでに廃止となっており、第三原発1号機は7月27日に、2号機は来年5月17日に停止し、台湾は原発ゼロとなる。
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台湾は2025年5月17日、アジア初の脱原発を実現する
台湾の人々に学び、私たちも続こう
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★ノーニュークス・アジアフォーラム通信189号
(24年8月20日発行、B5-24p)もくじ
・アジア初の脱原発実現を! ― 29年ぶりの台湾訪問 ― (北野進)
<北野進、台湾立法院公聴会・台湾大学などで講演、能登半島地震は「最後の警告」>
・環境団体が公聴会を開催、日本の元議員が能登半島地震の二つの教訓を共有
・能登半島地震で核災害避難問題が注目、北野進「台湾の原発は延命すべきではない」
・台湾立法院、原発延長法案を採決せず
・ハンビッ原発寿命延長公聴会、6つの自治体ですべて取り消し (小原つなき)
・インド、マヒ・バンスワラ原発建設に対する村人の抗議 (デカン・ヘラルド)
・ジャビルカの貴重な文化遺産が永久に保護される
(グンジェイミ・アボリジニ・コーポレーション)
・ALPS処理汚染水を海に捨てないで! 海洋投棄を止める活動
1000万円クラウドファンディングへの応援メッセージ
(デイブ・スウィーニー、非核バターン運動、キム・ヨンヒ、イ・サンホン)
・「海風宣言」 ― 2024 海といのちを守るつどい ―
・パレスチナと8・6広島 (田浪亜央江)
・玄海町「最終処分場に関する文献調査」住民不在で受け入れ (石丸初美)
・能登半島地震から半年 (中垣たか子)
・新潟県柏崎刈羽原発をめぐる状況 (中山均)
・「再稼働するな!」の声が26年ぶりに女川の街に響きわたる、
この力で11月再稼働を止めよう! (舘脇章宏)
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