韓国・脱核新聞編集委員会 (脱核新聞84号より)
1.使用済み核燃料管理政策の「密室」公論調査
2019年5月に市民・社会(団体)や利害当事者を排除して発足した産業通商資源部(経産省にあたる)の「使用済み核燃料管理政策再検討委員会」は、19年11月から専門家の意見収集を始めた。
また、使用済み核燃料中長期管理政策に関する全国からの意見収集は、2020年5月23日から8月2日まで実施され、「月城(ウォルソン)原発使用済み核燃料の乾式貯蔵施設」(以下、マクスター)建設の可否を問う慶州地域の意見収集は、6月27日から7月19日までの3週間行われた。
専門家で構成された検討グループの11名は20年1月に、「形式的な手続きとして行われる公論調査(公論化)を廃棄すること」を要求し、辞退の記者会見を開いた。
全国の市民・社会は5月23日、全国の意見収集のための説明会の開催に抗議し、14地域中、12地域でデモをした。慶州地域住民説明会は、住民と市民社会の抗議で白紙に戻された。
その過程でチョン・チョンファ再検討委員長は、6月26日、公論調査の公正性の担保が難しいとし、委員長職を辞任した。
産業部と再検討委は、キム・ソヨンを新任再検討委員長に任命し、「コロナ19」を言い訳に密室の中の公論調査を続けた。
全国脱原発陣営は、政府に抗議し、大統領府の前で「使用済み核燃料のでたらめな公論調査の無効を宣言」した。
再検討委は21年上半期に「使用済み核燃料管理政策意見収集の最終勧告報告書」を産業部に提出する予定だ。
2.5万人が参加した蔚山住民投票
蔚山(ウルサン)市は、月城(ウォルソン)原発の基準放射線非常計画区域内に属し、約100万人が暮している。しかし、産業部と再検討委は、マクスター建設賛否意見収拾の過程から蔚山を排除した。
蔚山市民社会と労働組合などはこれに抗議し、「月城原発の使用済み核燃料保存施設(マクスター)の追加建設賛否を問う蔚山北区住民投票」を実施した。住民投票は5月28日から6月6日まで、事前投票、オンライン投票、本投票と、3段階で行われた。蔚山北区有権者の17万5138人のうち、5万479人(28.82%)がこの投票に参加した。投票者のうち、94.8%に当たる4万7829人がマクスター建設に反対した。
住民投票運動本部は住民投票以後、大統領府が投票結果を受け入れるよう求め、7月27日から8月25日まで、大統領府前で座り込みをした。
蔚山北区住民投票では、本投票の投票所を34か所に設置した。また、選挙事務員とボランティアは合計1081名が参加した。延べ3千人を越えるスタッフで開催した自主住民投票であった。
3.マクスター建設反対のたたかいは現在進行形
産業部と再検討委員会は、7月24日、慶州地域の意見聴取の結果を発表した。「145人の市民参加団のうち、81.4%がマクスター建設に賛成した」と。
産業部はこれを首相に報告し、首相は計画通りにマクスター建設をすすめることを指示、韓水原は7月31日にマクスターの建設着工式を行った。
しかし、慶州(キョンジュ)市と陽南面(ヤンナムミョン)、蔚山市の住民と市民団体は、「市民参加団」に韓水原の利害当事者が20人以上参加した事実を証拠として提示した。募集団の分布を反映しない市民参加団の構成など、公論操作疑惑を提起した。陽南・慶州・蔚山住民と市民団体は、産業部と国会に「公開検証」を要求したが、行われなかった。
住民と市民団体は今でも、月城原発の前で「マクスター反対」毎週ピケットデモと、海上デモなどをしている。全国833人の市民は、原子力安全委員会を相手にマクスター建設許可の取り消し訴訟も行っている。
4.台風で止まった核発電所
9月4日の台風9号の影響で、古里(コリ)1~4号機と新古里1・2号機の外部電源を喪失し、非常ディーゼル発電機が起動した。このうち運転中だった4基が運転停止した。新古里3号機も、台風で屋根の一部が損傷し、大気補助変圧器が停電した。9月7日の台風10号の際には、月城2・3号機もタービン発電機が停止し、運転停止した。
原子力安全委員会は、古里1~4号機は機械用変圧器に塩分が吸着し「フラッシオーバ」現象が発生し、スイッチヤードにある遮断機が開放され、外部電源を喪失したと発表した。新古里1・2号機は、送電するジャンパー線が送電塔に近づいたことによってフラッシオーバが発生し、外部電源を喪失したとした。
市民社会は真相調査委員会の設置を求めたが、原安委は再稼働を容認した。
新古里3・4号機は、7月23日の集中豪雨の際にも、スイッチヤード管理棟と送電設備が浸水した。
5.大田、都心の河川に放射能が流れる
20年1月、大田(テジョン)市の都心に位置する韓国原子力研究院の周辺の雨水管と河川の土壌で、セシウム137、セシウム134、コバルト60などの放射性物質が検出された。研究院の裏手の雨水管の入口では、セシウム濃度が最高138ベクレル/kgまで検出されており、これは平均濃度の59倍に達する。
3月20日、原子力安全委員会は、原子力研究院でセシウム汚染水が毎年約400~500リットルずつ、30年で1万5千リットル、河川に流れたと発表した。原子力安全委員会は、放射性物質が原子力研究院の内部の廃棄物自然蒸発施設から流れたことを確認した。
6.古里原発1号機の解体計画の公聴会
韓国水力原子力㈱が、20年7月1日から60日間、「古里1号機の最終解体計画書」の供覧と説明会を行った。さらに、住民たちの要求によって11月20日から、釜山広域市、釜山機張(キジャン)郡、蔚山市蔚州(ウルチュ)郡、蔚山広域市を対象に公聴会を行った。
韓水原は、2022年に古里1号機の解体計画が承認されれば、2025年までに使用済み核燃料を搬出し、2031年には敷地の復元に着手、2032年12月に解体を終了するという計画だ。
古里1号機の解体計画に関する全ての説明会や公聴会では、住民たちが「使用済み核燃料を十分に処分できないなら、完璧な解体とは言えない」と反発した。これに対し韓水原は、使用済み核燃料を政府政策に則って処分すると述べた。使用済み核燃料の処分をめぐって今後の難航が予想される。
7.霊光ハンビッ原発3号機、再稼動
格納容器で空隙が多数発見された霊光(ヨングァン)のハンビッ3号機が、20年11月14日から再稼動した。
ハンビッ3号機は、2018年5月11日から始まった計画予防整備期間(919日)において、格納容器で空隙、グリス漏油、鉄板腐食などが確認された。韓水原は124か所の空隙と、184か所の鉄筋露出部を反映した構造健全性評価を通じて、格納容器の健全性に異常がないことを確認したと発表した。
しかし、脱核エネルギー転換全羅北道連帯と全羅北道民衆行動などは、「3号機の構造健全性評価は、拙速・不良・セルフ評価であり、グリス漏油による亀裂要素と空隙の進行性の有無が反映されなかった」と主張した。また、建設工事の欠陥の責任を問わなければならない韓国電力技術㈱に、構造健全性評価を任せた過ちを批判して、責任者処罰を要求した。
8.ハンビッ原発5号機、原子炉ヘッド不良溶接
ハンビッ5号機の原子炉ヘッドの貫通管の不良溶接が、20年7月25日に初めて確認された。当時、作業者は、溶接材質が作業指示書に書かれたインコネル690材質ではない、ステンレス材質であることを確認し、7月26日の真夜中にこれを報告した。原子力安全委員会は、2日後の7月29日になって、不良溶接部の削除および再溶接を許可した。
当時、原子力安全委員会と韓水原は、これを作業者のミスだとした。しかし、10月29日、情報提供者を通じて、原子炉ヘッド不良溶接が、すでに明らかになったもの以外にも存在するということが分かった。
以降、原子力安全委員会は、84の原子炉ヘッドの貫通管のうち、3つの不良溶接を確認した。また、25の貫通管は映像不良などで確認できていない。さらに、原子力安全委員会は、手抜き工事に関連して、12月1日、光州(クァンジュ)地検に捜査を依頼した。
市民社会は原子力安全委員会が、7月に不良溶接をきちんと検証せず、作業の再開を許容したことに対して批判し、真相調査や責任者処罰を要求している。
9.新古里原発5・6号機訴訟、新古里原発4号機訴訟
グリーンピースと全国の市民など合計560人が原子力安全委員会を相手に提起した新古里5・6号機建設許可処分取り消し訴訟の二審判決が、2021年1月8日、ソウル高等裁判所で行われる予定だ。
この訴訟は、2016年9月に始まっており2019年2月に行われた一審(ソウル行政裁判所)では、重大事故の場合の放射線影響に対する評価が正しく行われなかったことなど、原子力安全委員会の一部の違法を認めたが、建設を中断した場合の損失が大きく、公共福利のために建設許可を取り消すことができないという「事情判決」を下した。
これとは別に、新古里4号機の運転許可取り消し訴訟も進行中だ。この訴訟は蔚山、釜山、慶州などを中心に全国732人が共同訴訟に参加し、2019年5月1日、原子力安全委員会相手に起こした訴訟であり、現在、一審裁判が進められている。
10.甲状腺がん共同訴訟、一審の最終段階
甲状腺がん共同訴訟の一審裁判が詰めの段階にさしかかっている。20年10月14日、釜山地方裁判所で裁判が開かれて以後、未だ弁論期日は決まっていないが、裁判部は、弁論を終結する意向をちらつかせた。
核発電所地域対策委員会らは、11月3日、「甲状腺がん被害者国会証言大会『ここに人がいる』」を開催した。核発電所地域対策委と市民社会は一審の裁判終結に先立って989人の嘆願書を集めており、これを裁判部に提出する予定だ。
この訴訟を触発した「ギュンド家族の訴訟」は、一審では勝訴したが、二審で敗訴、最高裁に上告したが、最高裁は、「審理不続行」として上告を棄却した。ギュンド家族の訴訟の二審で裁判部は、原発の周辺地域の住民の甲状腺がんの発病について、原発が排出する放射性物質との因果関係を証明できないとし、韓国水力原子力の側の主張を認めた。
11.福島原発汚染水対応
日本政府は、20年10月末、福島原発汚染水の海への放流の決定を延期した。11月20日、在韓日本大使館当局者は韓国の記者たちとの懇親会で「断言はできないが、今年中に放流案を決定する可能性がある。2022年夏頃を放流の時点として想定している」と明らかにした。
汚染水海洋放出の計画に対して、日本をはじめ、国際的な反対の声が高まっている。環境運動連合は「福島汚染水の海洋放流反対キャンペーン」を進行中であり、グリーンピースも持続的な反対活動をしている。
日本の市民団体である原子力資料情報室は、汚染水貯蔵タンク増設、または汚染水固体化を代案として提示している。
福島汚染水の海への放出について、福島県内の基礎自治体の約70%が「反対」および「慎重な対応」を要求している。
12.「大韓民国の津々浦々まで持って行け、核廃棄物」
核廃棄物のドラム缶の模型をトラックにいっぱい積んだ「大韓民国の津々浦々まで持って行け、核廃棄物」キャンペーン団は、10月24日から9泊10日の日程で、釜山・蔚山・慶州・蔚珍・大邱・霊光・大田・ソウルを走り回った。
キャンペーン団は、「使用済み核燃料管理政策の再検討」の問題点と核廃棄物の実態を市民に知らせ、社会的責任を訴えた。
キャンペーン団は、各地域で脱原発団体と共同して、核廃棄物のドラム缶を押して街頭行進をくり返し、サイレンが鳴ると地面に倒れるというパフォーマンスを行った。
しかし11月2日、警察の制止のため、彼らは大統領府前の広場にはドラム缶を押して入ることができなかった。同日、全国の脱原発団体は、大統領府への進入路で「拙速・でたらめ・密室 公論調査(公論化)の無効を宣言」する記者会見を開いた。警察は同日、記者会見を集会法違反とし、環境運動連合の活動家に出頭要求書を送った。 (訳/小原つなき)