ソナリ・フリア (The Leaflet 6月28日)
インドのテレビの議論では中国の台山原発が非難されているが、インド自身の大規模な原子力エネルギー拡張計画や、マハラシュトラ州ラトナギリ地区で世界最大級となるジャイタプール原発建設計画を堂々と推進していることへの言及は都合よく避けられている。
ジャイタプールの「グラム・サバ(住民総会)」は、生活問題、放射能による漁業、健康、生物多様性への悪影響、核廃棄物、設計と安全性に欠陥のあるEPR(欧州加圧水型炉)技術そのものを理由に、原発建設計画に反対する全会一致の決議を日常的に行ってきた。
歴代の政府は、環境、健康、人権への配慮や民主主義のプロセスを踏みにじってきたと、ソナリ・フリアは書いている。
インドのテレビでは、中国南部沿岸の広東省の台山原発で発生した「放射能漏れ事故」をめぐって激しい議論が展開された。
中国を「ならず者国家」と断定するかのような議論から、中国の驚異的な数の原発建設を許した国際社会の無関心さを問うような議論へと発展した。NATOのような国際機関が、暴走する中国を抑制し、際限のない原発建設の野望を阻止できるのではないかという「専門家」の意見も出た。
このようにインドのメディアは、台山原発のEPR(欧州加圧水型炉)の安全性の問題や、マハラシュトラ州でのジャイタプール原発建設計画への影響に議論を広げることなく、中国の失敗にひたすらこだわっている。
■ 台山で何が起こったのか?
こうした議論のきっかけとなったのは、CNNが報じた台山原発での「放射能漏れ」である。台山原発のEPRを設計し、現在も運転に携わっているフランスのフラマトム社は、「性能上の問題」と「差し迫った放射能の脅威」の可能性を警告した。
当然のことながら、中国外務省の最初の対応は、こうした報道を否定し、サイトの放射線レベルは「正常」であり、心配する必要はないと主張するものだった。
しかし、その後、中国政府は1号機の一次系冷却水で放射線量の上昇が見られたことを認め、一部の燃料棒(5本前後?)が損傷したことによる、希ガスの蓄積が原因であると発表した。
台山の2基の原発は、中国広核集団とフランス電力公社(EDF)の合弁企業である広東台山核電合営有限公司が運営している。
この原発は、最も先進的でエネルギー効率が高いとされる第3世代EPR技術を採用し、安全性も強化されているという。
インドのジャイタプール、英国のヒンクリーポイントC、フランスのフラマンビル、フィンランドのオルキルオトなどの同様のEPRプロジェクトでは、建設上の問題や機器の欠陥に起因する数年に及ぶ大幅な遅延や大幅なコスト増が続いているが、現在、台山はEPRが稼働している唯一のサイトとなっている。
■ EPR(欧州加圧水型炉)の問題点
EPR技術には、設計上の問題点などが指摘されている。
2005年にオルキルオトで初のEPRが建設開始されてからわずか2年後、フィンランドの原子力安全当局は、「EPRの安全性と品質に関する1,500の問題」を挙げ、中には「重大な問題」も含まれていた。
フランスの原子力規制機関である原子力安全局も、フラマンビルのEPRの設計における深刻な安全上の欠陥を容赦なく告発している。設計上の脆弱性に関する再三の警告を受けて、2019年にはフラマンビル原発を安全監視対象としたほどだ。
台山原発での詳細は、まだ明らかにされていないが、フランスの原子力産業にとって取り返しのつかないトラブルが続いているのではないか?
台山原発の2018年の商業運転開始は、他のEPRプロジェクトが頓挫している中での「数少ない朗報」であった。
■ インドへの影響
マハラシュトラ州の生態系が多様なラトナギリ海岸沿いのジャイタプールに、台山原発と同じ設計のEPR原子炉を備えた巨大な原発が建設されようとしている。
21年5月、フランス電力公社(EDF)は、ジャイタプール原発建設計画の詳細案をインドに提示した。現在、交渉の最終段階に入っている。
ジャイタプール原発は、160万kW級のEPR、6基で構成され、完工すれば世界最大のプロジェクトとなる。
2008年に最初の合意がなされて以来、独立した専門家、原子力規制当局の元職員、環境保護活動家や民主主義活動家から、安全性、コスト、関連する多くの深刻な問題が指摘されている。
ニュースキャスターやスタジオの「専門家」たちが台山に焦点を当てていたため、不都合なジャイタプールの詳細は、テレビの討論会では目立たないままだった。
このように台山に焦点を当てた議論では、インドの大規模な原子力エネルギー拡張計画や、歴代政府が環境、健康、人権に関する懸念や民主主義のプロセスを無視して進めてきたジャイタプールEPR建設計画への言及が都合よく避けられていた。
インド原子力発電公社(NPCIL)は、ジャイタプールの敷地は「地震が起きやすい場所ではない」と一貫して主張してきたが、独立した調査や専門家の意見では、この敷地は「地震による時限爆弾の可能性がある」とされている。
また、ジャイタプールの「グラム・サバ(住民総会)」は、生活問題、放射能による漁業、健康、生物多様性への悪影響、核廃棄物、設計と安全性に欠陥のあるEPR技術などを理由に、原発建設計画に反対する決議を全会一致で行っている。
■ 懸念の無視
このように草の根レベルでの抵抗や、重要な問題が提起されているにもかかわらず、ラトナギリ地区のマドバン、ニヴェリ、カレル、ミスガヴァネ、ヴァルリワダの各村の農民たちは、すでに立ち退きを命じられている。また、土地取得法の緊急条項(第17条)に基づいて土地が収用され、なんの説明会、公聴会もないまま、怪しげな環境影響評価が行われている。生活、海洋生物、生物多様性、放射性物質の放出による影響など、重要な問題もあっさりと片付けられてしまった。
ジャイタプール原発建設計画の原子炉調達の不透明さ、サイト固有の安全性を含む安全性の懸念、EPR設計とその増大し続けるコストについて疑問を呈した独立した専門家は、無視されるか、抑圧されている。
さらに、ラトナギリのような生態系が多様な地域でEPRの大規模原発建設を行うに際して、環境や健康への影響が懸念されることや、地域の何千もの農民や漁師などの生活の問題について、コミュニティとの信頼できる対話は行われていない。また、ジャイタプール原発建設計画を推進する上で、透明性や説明責任を全く欠き、平和的な反対意見を封じ込めており、刑法第144条やボンベイ警察法の「不法集会」禁止条項が日常的に発布され、日常的に逮捕され、「殺人未遂」などの容疑をかけられ、地元の抗議集会も監視されている。
■ 沈黙の中で
台山原発の状況は非常に憂慮すべきものである。アナリストは、台山原発の問題は昨年10月から蓄積されてきたと指摘しているが、中国とフランスの事業者はこれについて沈黙を守っている。さらに、中国の国家核安全局が、「台山原発の運転を継続するために、原発の外での放射線検出の許容限界を引き上げる」ことを承認したとされる報道もある。
しかし、台山原発をめぐるインドの主要メディアの論調は大きく歪んでいる。今回の台山原発の件で中国を悪者扱いするのは、インドの原子力拡張計画や、ジャイタプールでの説明会・公聴会の欠如、原子力安全規制機関の独立性の強化が急務であることなど、差し迫った懸念事項を回避して、国民の視線を逸らそうとしているのではないかと疑ってしまう。
台山原発問題は中国問題ではなくEPR問題だ。地域住民や独立した専門家が10年以上前から提起してきたジャイタプールEPR原発建設計画に関する懸念について、より多くの情報を得たうえで議論を行うべきである。
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★ノーニュークス・アジアフォーラム通信171号
(8月20日発行、B5-24p)もくじ
・第四原発とお別れしよう! ― 12.18公民投票 (全国廃核行動平台)
https://nonukesasiaforum.org/japan/archives/2260
・脱原発アジェンダを確定し、大統領選挙に対応しよう (ヨン・ソンロク)
・中国・台山原発の「放射能の脅威」が、なぜ、インドで懸念されるのか
(ソナリ・フリア)
・ライナス社レアアース製錬工場の現状報告 (和田喜彦)
https://nonukesasiaforum.org/japan/archives/2240
・「第二の原発」リニア中央新幹線にも関心を (石橋克彦)
・広島原爆「黒い雨」訴訟の成果 (湯浅正恵)
・美浜原発3号機の運転禁止仮処分について (中野宏典)
・伊方原発廃炉のために (名出真一)
・柏崎刈羽原発反対50年 (後編) (矢部忠夫)
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