韓国・気候正義行進 & 東アジア脱原発青年交流会【報告】

 9月7日、韓国ソウルでの「907気候正義行進」に、615の市民団体、3万人が参加し、「気候じゃなくて、社会を変えよう」「気候正義の始まりは、脱原発から」と訴えた。
 気候正義行進への参加と合わせて、韓国・脱核新聞とノーニュークス・アジアフォーラム・ジャパンが、韓国、台湾、日本の若者たちによる「東アジア脱原発青年交流会」を開催した。気候正義運動と脱原発運動をつなげ、国境を越えて互いを理解し、共感を深める機会とするための若者同士の交流を強化すること、そして、2025年に台湾で開催予定の「NNAF青年交流会」につなげることを目的とした。
 

「核発電は気候危機の代案ではない!」
【ドローン空撮映像】https://www.youtube.com/watch?v=OHUbNnGRZyc


【報告】 渡辺あこ(일팬solidarityclub)

9月7日の午前中は、西大門刑務所を訪問した。市民の抵抗と暴虐な権力の歴史を改めて感じることができた。ランチには、脱核法律家の会「ひまわり」のキム・ヨンヒ弁護士も参加して、携わっている気候訴訟についての話を伺った。8月29日に憲法裁判所が、炭素中立基本法に対して、2031~49年の削減目標を示していないため将来世代の環境権などを保護していないと指摘し、憲法違反だとする判決を下したのだ。

14時、大企業本社が集中する江南(カンナム)で、907気候正義行進に参加

まず、前段の脱原発集会。初めのあいさつで、脱核蔚山(ウルサン)市民共同行動の天道僧侶は、憲法裁判所の炭素中立法・憲法不合致判決にふれて、「高レベル核廃棄物(使用済み核燃料)も、未来に過重な負担を負わせている。安全なエネルギーへの転換が政府の緊急課題だ」と訴えた。

ハンビッ核発電所対応湖南圏共同行動の小原つなき政策チーム長は、「原発が気候危機の代案だという主張は、あまりにも安易な考えだ」と批判した。そして「ハンビッ(ヨングァン)原発の寿命延長手続きが一方的に強行されており、韓国水力原子力は、福島原発のような事故を想定せず、住民避難対策をまともに検討していない」「真のエネルギー転換、安全な社会のために脱原発を成し遂げよう」と強調した。

脱核慶州市民共同行動のイ・サンホン委員長は、「私たちの運動は、希望がいっぱいの闘争」と言い、9月21日に開かれる月城(ウォルソン)原発・移住対策委テント座り込み10周年大会開催を予告した。

緑の党のコン・シヒョン脱核委員長は、「脱原発が気候正義だ。再生エネルギーを抑制し原発を拡大する政府は許せない」とアピールした。

15時からの本集会には、615団体、3万人が参加し、様々なスタイルでアピールが行われた。

907気候正義行進・共同執行委員長のチョン・ロクさんは開会あいさつで、「労働、人権、女性、環境、反貧困運動など多様な領域で、新たな社会をつくるために奮闘してきた私たちは『気候正義運動』で互いを行き来しながら結ばれ、今日このように集まった」と発言した。

気候正義行進の3つの基調は、「気候危機時代のなかで、尊厳ある暮らしを守るための闘争」「脱原発・脱化石燃料と、再生エネルギーへの転換」「新空港・国立公園ケーブルカー・四大河川開発事業など、生態系破壊事業の中断」である。

韓国労総・金属労連のキム・ジュンヨン委員長は、「気候災害は、労働者の生命も脅かし、雇用も脅かす」「正義的な転換のためには、労働者の雇用問題と共に、脆弱階層がより大きな被害を受ける社会的不平等を解消しなければならない」と話した。

青少年気候行動のユン・ヒョンジョンさんは、8月29日、憲法裁判所が炭素中立基本法に対して憲法不合致の判決を下したことについて述べ、「これからが本格的なスタート」と誓った。彼女は、「青少年たちは、自らが変化の主体になることを選択した。私たちの人生を守る最前線を共に作っていこう」と訴えた。

脱核蔚山市民共同行動のパク・チニョンさんは、「私たちが電気を使うことによって生じる高レベル核廃棄物(使用済み核燃料)について、もう一度考えて、戻る道を考えてみる時だ」「脱原発こそが、再生エネルギーを拡大する」「尹錫悦政府の原発暴走政策を防ぎ、市民の安全を守る気候正義のために、いち早く脱原発を」と主張した。

放射性廃棄物のドラム缶の模型も

マーチでは、参加者たちが、カラフルなプラカードや、旗や被り物などで盛り上げた。脱原発を訴える市民も多くいた。

パレスチナの国旗や、レインボーフラッグを掲げている人の姿もあり、様々なセクターから参加者が集まっていることが見てとれた。歌手のイ・ランさんのパフォーマンスや、バンドチームの参加もあり、アートを用いての連帯行動もあった。3万人で、ダイ・インも行った。この、まるでお祭りのような楽しい姿は、マーチやデモの一つのロールモデルとして記憶したい。

翌日は、朝から東アジア脱原発青年交流会が開かれた。3カ国語が飛び交う新鮮な空気感の中、若者参加者がそれぞれの活動報告をした。

前列左から、李其丰さん、李若慈さん、林正原さん、
中列左から、小原つなきさん、ピョン・イニさん

岡本直也さんは、自身の居住地である祝島について紹介をした。対岸の原発計画が進めば、島の人たちが大切にしている精神的な文化までも奪うことを強調した。

長野誠さんは、鹿児島県の川内原発について話した。地方自治体故の脆弱性や、県議会による県民投票条例案の否決があったことにも言及した。

川崎彩子さんは、自身が参加している気候訴訟や、若者中心の運動体であるFridays For Future や、ワタシのミライでの活動を報告した。

私は、日本のK-POPファンの視点から、気候正義や、歴史的不正義に着目した活動の報告と、意義について話した。

台湾からは、緑色公民行動連盟のメンバーである林正原さん、李其丰さんが、台湾で行われている脱原発運動の現状を報告した。特に、来年の原発ゼロ達成が揺らいでいるという状況には、会場の参加者から不安の声が多く集まった。李さんは、そんな中でも、市民の関心を脱原発運動へ集めるために、より親しみやすく楽しい啓発活動に力をいれていると語った。過去に行ったイベントでは、脱原発へ向けたメッセージやイラストの入った版画制作体験を参加者へ提供したそうだ。写真からも参加者の楽しそうな声が聞こえてくるようだった。

また、Their Nuke Story創設者である李若慈さんは、台湾の原発現地を巡り、地域住民のポートレート写真を撮影し、聞き取りを行っている。原発の問題点は、科学知識にのみ依拠するものではなく、そこに住む人の人権や生活が脅かされることである、という視点の可視化に努めている。

韓国・脱核新聞編集委員の小原つなきさんは、韓国全体の原発の現状と、原発の寿命延長のための公聴会プロセスにおける暴力性や、いい加減さについて話した。

チョン・スヒさんは、密陽住民の送電塔建設反対闘争に対して政府が物理的に弾圧したことを報告にあげた。また、密陽でこれまで運動を支えてきた世代の高齢化に対する不安を話した。

ピョン・イニさんは、2022年からグリーンコリアに参加する若者だ。社会福祉士として生活をしているうちに、村の地域コミュニティに関心を持つようになったという。今は、どんな言葉がより多くの市民の共感を得られるのか、模索しながらコンテンツづくりに励んでいる。

皆、住む地域は違えど、目指すものや、そこにたどり着くまでの葛藤の部分では、共に共感しあえる希望的な時間だったように感じる。各々の活動報告の後の討論会では、脱原発運動における世代交代の懸念に関してと、気候危機運動に脱原発運動をどのように携わらせるかという題で議論した。これらの論点において、台湾と韓国からの参加者は、気候危機対策のひとつとして、原発稼働が謳われてしまうことが、気候正義運動から脱原発運動を遠ざけている要因になっているのでは、と指摘した。気候正義も、脱原発も、問題の核や、ゴールは同じはずであり、互いに協力しあえることを強調した。一方で、東京でさまざまな市民運動に関わる川崎彩子さんは、ゴールは共有できるということを前提に、運動体が問題の交差性を理解することが必要ではないか、と提示した。

声をあげ続けるために、その場が安全であることや、互いにケアをしあい、運動参画の在り方にジャッジをしない関係性を築いていくことの重要性を共有していくことが、今後の脱原発運動の課題と言えそうだ。また、来年の台湾でのノーニュークス・アジアフォーラムでも、若者が中心となって話し合える場を設ける計画を話し合った。

受け入れコーディネーターの金福女さん(通訳も)、小原つなきさん、イ・ホンソクさん、キム・ヒョヌさんほかの韓国のみなさん、ありがとうございました。

*今回のとりくみは、一般社団法人アクト・ビヨンド・トラストの2024年度助成を受けて実施されました。

■「気候正義行進 in ソウル(1分動画)」 (作成:ilpensolidarityclub)
https://youtu.be/u4rveTl7v3I

■「韓国気候正義行進・東アジア脱原発青年交流会(3分動画)」 (同上)
https://youtu.be/WjTqF5bDYSA

■報告会「韓国・気候正義行進 & 東アジア脱原発青年交流会」 24.10.12 (渡辺あこ・岡本直也・長野誠・川崎彩子)
録画 https://youtu.be/13l0o9xMYOs

■ 気候正義行進と 東アジア脱原発青年交流会に参加して

川﨑彩子(Fridays For Future Tokyo、ワタシのミライ、若者気候訴訟原告)

907気候正義行進に参加した私は、日頃からFFFで「気候正義」を軸に活動している一人として、その概念が、3万人が行進するマーチのタイトルになるほど社会で共有されていることに驚きを隠せなかった。

集会とマーチでは、脱原発や気候危機対策を求めるグループだけでなく、動物愛護、パレスチナ虐殺反対など、様々な観点から気候正義が掲げられていた。

私が最も驚いたことは、火力発電所の労働者との連帯。気候正義に基づくエネルギーの移行には、火力・原子力発電の労働者の生活が守られることは必要不可欠だ。

市民的不服従の強さも印象深かった。市民が使っている車線に車が入り込み、整備がうまくいかない警察に市民が声を荒げる。マーチによる通行止めに怒る運転手らに対しても、彼ら・彼女らは一切折れず、自分たちの権利を存分に行使していた。

4年前に日本に留学しに来ていた友達と韓国で再会し、マーチの話をした。友達は「そういう場面があるから、デモは面白いんだよね」と言っていた。

ダイ・インで熱いコンクリートに寝転がって今までにない角度から樹木を眺めたり、ドラムのリズムに乗りながら、言葉の通じない人々との連帯も感じた。

西大門刑務所歴史館を訪れたことも、社会運動にとりくむ者として意義深かった

私は、韓国と台湾からの参加者と話すとき、日本の歴史的な加害性を意識せずにはいられなかった。

エネルギー分野においても、日本は石炭火力・原発を輸出してきている。それはいまだにアジア各国への植民地主義がかたちを変えて続いていることを表している。

交流会では、参加者の日頃の活動、運動への想い、地域の人々の現状をきき、自分の脱原発への想いも一層強くなるのを感じた。

私が特に関心を持ったのは、同い年のEtta(李若慈)さんの研究。原発のある地域の人々の言葉や心情の変化を、文化人類学の観点から研究するというもの。それは必ず、脱原発運動を構築するナラティブに視座を与えるものだと思う。私が住む東京の運動では、地域の人々を代弁する言葉を聞くことが多い。それに問題意識を持っていた私にヒントをくれた。

次は台湾での闘いの歴史も、もっと現地で聞くことができたらと思った。

私はこれまで、気候危機と原発の関係性について少しずつ声を上げてきた。しかし、若年層で脱原発の声がなかなか上がらない現実に、何か新しいこともしたいと思っていた。

「気候正義」が大きな連帯の可能性を持っているのならば、どのような語りが人々をつなげるのか、日本国内の文脈にも即して考えたい。

今回のようなアジアでの連携は続けながらも、国内で幅を広げられるようなものを企画するつもりだ。来年は、台湾の脱原発とともに日本からも進捗をお伝えしたい。

長野誠(原発ゼロをめざす鹿児島県民の会)

鹿児島県にある川内原発、1号機が今年の7月に20年延長運転に入った。

昨年、鹿児島県では「20年運転延長の是非を問う県民投票条例制定」を求める直接請求署名集めを行った。「是非を」としたのは、原発賛成派の人からも署名を集めるためと、県民が県政へ自分の意思を表す機会をつくるためだ。

法定数50分の1、約2万6千筆を2か月で集めなければならない。鹿児島も国内他県と同じく原発に関わる活動者の高齢化が著しく、しかも離島や山間地域の多い鹿児島県全域で、川内原発の説明、署名の意図の説明、直接請求署名の書き方の説明をしなければならなかった。

夏の猛暑・雨の中、毎日署名を依頼し続けた結果、最終的に法定数を超える約5万筆が集まった。法定数の倍近く集まるとは思っておらず、県庁へ署名を届けた際はその量と重さに驚きと感動を覚えた。

しかし、原発推進派議員が多い県議会は県民投票条例設置を不採択とした。これまでの県民投票署名や延長運転開始など、地元テレビや新聞で取り扱いはされていたが、大きく扱われたという印象は極めて低い。このまま行けば2号機も来年延長運転に入るだろう。

この現状や報道の熱の低さは、「関心ある人が声をあげられる雰囲気が弱い」「若い人の関心が低い」「若い人、新しい住民が参加しづらい」という、今回の東アジア脱原発青年交流会に参加した日本各地で抱える同様の問題が大きく関係していると考える。

一方、韓国で参加した気候正義行進ではその規模や人数にも驚いたが、若者や学生が非常に多く参加していることに驚いた。しかし報告の中で、「若者が減っている」というのだから日本にいる身としては輪をかけて驚かされた。

行進では複数のリズム隊が力強くも軽快な音を刻み、進行ルート各所で違うコールが行われ、飽きさせない。体力に合わせて途中退場も途中参加も自由。訴えに合わせてルート上でのパフォーマンスをする団体。デモ行進に反対の人だろうか、車からクラクションが鳴ったとしても、「応援されている」と余裕の態度で手を振り返す行進者たち。様々な工夫が各所に見られ、目から耳から刺激を受け、長距離長時間の行進でも、疲れどころか進行先の楽しみを生んでくれる。

デモ行進が活動の全てではないが、それだけでも多くの学びがあった。国内では経験できなかったであろう、世代問わず活動に加わりやすい環境・仕組み・宣伝を作っていく貴重な学びとなった。

ヨングァン原発の寿命延長に反対して岡本さんも発言した

岡本直也(上関原発を建てさせない祝島島民の会)

私は、上関原発予定地からわずか4km先にある離島、祝島に東京から移住して15年になる。2009年には上関原発建設の海の埋め立て工事が着工したが、祝島や支援者の抗議行動、座り込みで、2011年の福島原発事故によって工事が一時中断されるまで、阻止することができた。

11年前に、韓国で反原発の活動をしている方々が祝島に来て交流し、その経緯から私は韓国を一度訪れていたので、今回の参加では、いくつもの再会と出会いがあった。

宿舎でも交流し、それぞれの活動について話したり聞いたりができた。台湾の若者たちとは、片言の英語でコミュニケーションができた。

気候正義行進に参加する前に、西大門刑務所を見学した。日本の加害の歴史を知ることができる、拷問と処刑がされていた場所だ。

気候正義行進の集会会場に着いて、まず驚いたのは集会の規模だった。参加団体の多様さ、子供から年配の方まで広い年齢層。そして、集会の演説やデモ行進でも10代や20代くらいの若者たちが目立った。

ここまで大きな集会にできたのは、気候正義という大きなテーマの中に多くの団体や市民が集まっていたからのようだ。反原発もその中のメッセージのひとつ。火力発電所に勤める方が気候対策を訴えて演説していたのも驚きだ。集会で各団体の演説が終わってからデモ行進に移ったのだが、演説の間にも歌や踊りがあったり、デモ行進でも吹奏楽や太鼓のリズム隊がいたり、進路の所々で、トリの着ぐるみを着た子供たちがいたり、大きな人物の造形品があったり、放射性廃棄物を模したドラム缶が置いてあったりと、お祭りに似たような楽しさを感じた。デモの活気など、日本にないものに感銘を受け、発想も広げてくれた。

翌日の青年交流会の後、労働者の劣悪な状況の改善を訴えて焼身自殺を決行し、労働運動の原点になった若者、チョン・テイルの記念館に案内してもらった。ソウルの街中に「労働者の道」というのも残されている。以前、韓国を訪れたときは光州事件など、民主化を求めて闘った市民・学生たちの資料館やお墓にも行かせてもらった。市民が闘いの中で権利を手にしていった歴史が、活動家や市民の中に息づいているのだろうか。気候正義行進にこれだけ人が集まれる背景が気になる。

日程を終えた後、金福女さん、小原つなきさん、チョン・スヒさんに反原発運動の現場に案内していただいた。

韓国西南にあるヨングァン原発では、ちょうど11日が、寿命延長のための公聴会の開催日だった。町から原発に近づくと道は整備されているが歩く人は見なかった。PR館の前にはバスが一台停まっていて、迷彩柄の軍服を着た軍人たちが見学に来ていた。原発の映り込む撮影は警備上一切禁止と警備員から警告された。何より近隣の集落と原発が立ち並ぶ光景は怖かった。

公聴会を開こうとしたのは今回が二度目で、7月の公聴会が住民の反対によって中止になったことを理由に、会場が結婚式場に移された。原発問題に地元も何もないと思うが、入場できるのは地元の人間のみ。軍人上りの警備員と警察が警戒に当たっている中、他の人はモニターで様子を見ることしかできない異様なものだった。

雨が降り始め、韓国水力原子力の関係者が車で駐車場に入って行く中、農民会の方やシスターや市民たちが集まり、抗議の集会をした。私も発言した。

二回開催しようとしたという既成事実があれば手順は踏んだとされるため、今回は無理に中止させることはしなかった。

モニター越しに見た公聴会。反対意見を持った住民が質問すると、質問の内容が難しいとか他の質問者の妨げになるとかの理由で会場の退去を命じられてしまった。誰の何のための公聴会か。そんな問いしか浮かばない。時間が許せば現場にいた方々ともっと交流したかった。

翌12日は釡山から車で、コリ原発と、10年前に送電塔建設反対闘争が暴力的に弾圧された密陽へ、チョン・スヒさんが案内、説明してくれた。

10年前に密陽を訪れたとき、山間で農業を営むおじいちゃん、おばあちゃんたちが土地を守るために体を張って土木作業員や機動隊と対峙していた。その姿が、海を守るために海保や機動隊、土木作業員と対峙する祝島の姿と重なっていて、もう一つの自分たちを見たような印象を残していた。再び同じ場所に訪れた今、送電塔が立ち並ぶ風景はつらく切なかった。

あのときのおばあちゃんに会うことができた。あれからずっとおばあちゃんたちのことが気になっていたことを伝えると、「覚えていてくれてありがとう。私たちは負けてないですよ。あなたたちみたいな若い人たちがまだ頑張ってくれているのだから」と言ってもらった。

密陽では客人を手ぶらで帰すなという風習があると、帰り際に手作りのお菓子をいただき、その足で韓国から日本への帰路に着いた。

韓国でも日本でも核施設があるところには、それによる地域活性を謳った看板や横断幕を見たが、地域の分断や疲弊は付きものであることを確信した。

同じ核問題にとりくむ人々と交流し、お互いの抱える問題を共有することで、他人事ではなく身近になる。

大きく変える力を持つことは誰もが難しいが、交流を続けることで、自分たちの活動もより強くしてくれると感じた。今回、関わってくれた人たちに感謝したい。

渡辺あこ일팬solidarityclub)

私は、「일팬(イルペン-日本のK-popファン)が今も、これからもK-popを公正に愛し続けるには?」をテーマに、様々な人権課題を取り扱った『일팬 Solidarity Club』(以下、ISC)というSNSアカウントを運営しています。主に、日本の歴史的不正義と、その責任放棄を今も続けていることで起きている現状の被害などについて、K-POPファンの視点から問いかけを行っています。

実は、ISCでも以前、福島第一原発の汚染水海洋投棄反対を表明する市民活動を取り上げたことがあります。「もう、これ以上加害国にはなりたくない」というコメントと共にSNSへ投稿したのですが、「韓国の大統領が(海洋放出に対して)理解を示しているのに、お前はそれより偉いのか」とコメントされました。この一件だけでなくとも時々、ISCの活動に対して、韓国の現政権(=社会)の流れに反している。と攻撃されます。

日本もそうですが、政治というのが必ずしも市民の声の総意だとは言えないはずです。「尹錫悦政権は、市民の声を政治に反映していないことが問題だ」と言ってしまいたかったのですが、韓国市民との交流を経ず、日本に住む自分がそのように発言することは無責任なのではないか、と葛藤を抱いていました。今回の参加は、そんな葛藤を手放させてくれるような経験になったと言えます。

気候危機や、脱原発の文脈での活動は、「報告」で記述したため、ここでは個人的に計画し訪問をした「戦争と女性の人権博物館」について触れることにします。従軍慰安婦については、水曜行動に参加をしていたり、何本か映画も観たりと、事前学習はそれなりにしていた身ですが、博物館では、何度か胸が握りつぶされそうな感覚になりました。

日本には、脆弱な立場からみる歴史学習ができる場所がほとんどありません。権力の暴走によって苦しめられるのは、いつも市民であるという認識が共有されにくい社会の中で私たちは生活しているということではないでしょうか。韓国でも、歴史修正主義的風潮があるようですが、そんな中でも、抵抗と記憶の灯を絶やさない力強さに、希望を感じた時間でもありました。

アジア脱原発連帯の道

イ・ホンソク  (脱核新聞10月号より)

韓国、日本、台湾の若者たちが9月8日、ソウルで開かれた東アジア脱原発青年交流会で、各国の脱原発運動の状況と未来について話し合った。脱核新聞メディア協同組合とノーニュークス・アジアフォーラム日本事務局が共同主催した。

★ 地域住民の声を反映させるためのとりくみ

交流会で台湾の李若慈さんは「原発問題は、科学的問題ではなく、住民の暮らしの問題だ」と強調した。彼女は2018年から「彼らの核物語(Their Nuke Story)」というプロジェクトを通じて、原発周辺地域住民が体験する生態的・経済的影響を記録し、これをポッドキャストとSNSを通じて知らせる活動をくり広げてきた。彼女は、「原発問題に対して、住民が直接経験した観点からアプローチすることが重要だ」と強調し、「地域住民の声が十分に反映されていない現実を改善しなければならない」と述べた。

鹿児島の川内原発反対運動を続けている長野誠さんも、地域住民の声が十分に反映されていない現実を指摘した。川内原発の場合、昨年10月に原発の寿命延長住民投票を推進したが、県議会の反対で、住民投票自体が実施されなかった。住民の声を反映しようとする試みさえ阻止されたのだ。長野さんは、「地方の場合、人口高齢化によって住民の要求が反映されにくい現実だ」と説明し、「住民が安全に暮らそうとする要求を尊重しなければならない」と強調した。

人口減少と高齢化で急激に変化する地域社会の声を伝えるための悩みは、新規原発反対運動が40年以上続いている祝島の事例でも明らかになった。都市生活をやめて祝島に住んでいる岡本直也さんは「約10年前までは直接工事を阻止するなどの行動をくり広げたが、現在は地域住民の高齢化によりこのような活動が容易ではない」と説明した。これは、時間が経つにつれ、地域住民が原発建設を阻止しようとする力が弱くなっている現実を示し、これを解決する案づくりが急がれることを示している。

★ 気候運動との結びつき、若者世代の悩み

気候危機と関連した活動では、日本の青年活動家たちが脱原発運動と気候運動を融合させ、青年層の声を反映するために努力している。東京で「未来のための金曜日」(Fridays For Future)の活動を行っている川崎彩子さんは、気候運動と脱原発運動の結びつきを中心に事例を発表した。彼女は、若い世代の声が政府の政策に反映されない日本社会の特性に言及し、気候正義運動と脱原発運動が協力しなければならないと強調した。「未来のための金曜日」(FFF)は、東京をはじめ京都、名古屋、福岡、札幌など9ヶ地域で活動を進行中だ。彼女は最近、日本の温室効果ガス排出企業10社を対象に、10代から20代の青年たちが原告として参加する訴訟を起こしたと話した。このような活動を通じて青年たちが直接、気候危機問題に対応し、温室効果ガス排出削減を要求するなど、社会的変化を引き出している。彼女は、気候運動と脱原発運動が共同する過程で考えの違いが存在するが、これを克服して連帯する方案を探すことが重要だと説明した。

K-pop4planetで活動中の渡辺あこさんは、K-popファンとして社会運動をくり広げている。彼女が紹介したネットワークでは、気候正義のような声だけでなく、従軍慰安婦問題、パレスチナ戦争など多様なイシューが扱われている。彼女は、K-popファンダムを活用して社会問題に対する議論を引き出すことが重要だと話した。これは伝統的な社会運動とは全く違う新しい試みだ。

交流会には、霊光ハンビッ原発の寿命延長反対運動をする小原つなきさん、密陽送電塔対策委のチョン・スヒさん、緑色連合のピョン・イニさんが参加し、韓国の脱原発運動の状況と悩みを交わした。

また、台湾の緑色公民行動連盟の林正原さんと李其丰さんは、台湾の高レベル核廃棄物(使用済み核燃料)処分場の敷地選定をめぐる議論の経過と、2025年5月の原発ゼロ達成に向かう政治状況を説明した。

★ 2025年5月、台湾でノーニュークス・アジアフォーラムが開催される

来年5月に台湾で行われるノーニュークス・アジアフォーラムに合わせて、今回の交流会のような別途の青年プログラムを進行することも提案された。

こうしたことを通じて、青年層が主導する脱原発と気候正義運動の重要性をもう一度強調し、若者たちがアジア脱原発運動の中心で活動できる機会を拡大する計画だ。

今回の東アジア脱原発青年交流会は、各国の若者たちが、脱原発と気候危機問題を解決するための連帯と協力の重要性を確認する契機になった

今後も、韓国、日本、台湾の若者たちと地域住民が共に作っていく脱原発の旅路が期待され、これを通じて原発のないアジアに向けた流れは続くだろう。

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★ノーニュークス・アジアフォーラム通信190号
(24年10月20日発行、B5-32p)もくじ

・韓国気候正義行進 & 東アジア脱原発青年交流会【報告】 (渡辺あこ)
・気候正義行進と東アジア脱原発青年交流会に参加して
            (川﨑彩子、長野誠、岡本直也、渡辺あこ)
・アジア脱原発連帯の道 (イ・ホンソク)
・バングラデシュ政変 ~ どうなるルプール原発 (藤岡恵美子)
・米先住民のウラン採掘・精錬の被害実態 〜来日したディネの女性たち〜(振津かつみ)
・中国の原発開発状況 (松久保肇)
・「フィリピンの原発開発に反対する」 NFBM(非核バターン運動)声明     
・動かすな!女川原発 ― 東日本で初、BWR初の再稼働を許さない (多々良哲)
・いのちや暮らしを守りたい。島根原発2号機再稼働中止を訴える (芦原康江)
・新潟県柏崎刈羽原発をめぐる状況 (有田純也)
・青森、新潟、首都圏、福井、関西、そして全国は連帯しよう (中道雅史)
・文献調査が始まってから ― 寿都町の今 ― (槌谷和幸)
・上関町での中間貯蔵施設計画に反対する (原真紀)
・9.23「老朽原発うごかすな!高浜全国集会 -地震も事故もまったなし-」に360人が結集 (木原壯林)

・311子ども甲状腺がん裁判 (阿部ゆりか)

ノーニュークス・アジアフォーラム通信は、年6回発行。購読料:年2000円。
見本誌を無料で送ります。連絡ください → sdaisuke アット rice.ocn.ne.jp

10.12報告会「韓国・気候正義行進 & 東アジア脱原発青年交流会」

■ 10.12報告会「韓国・気候正義行進 & 東アジア脱原発青年交流会」  
10月 12日(土)14:30~16:30 
リアル、オンライン併用です 【参加費:無料】  

★ 会場:新大阪セミナーオフィスO-1 (14:00開場) 【申し込みはいりません】 (新大阪駅東口より徒歩1分、東口ステーションビル3F、コンビニの隣が入口)*一番下に図あり https://seminar-osaka.com/%e3%82%a2%e3%82%af%e3%82%bb%e3%82%b9/  

★ オンライン(Zoom) 【事前に申し込んでください】 後日、録画視聴が可能です
申込フォーム https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSf5HYbxw92SaAVVtze62hojAvgERMG7PtjZAeasPFLrNQj4-Q/viewform?usp=sf_link

zoomのリンクは報告会前日に申込者にメールで送ります

  [お話]
渡辺あこ:ilpensolidarityclub、気候運動などに参加
岡本直也:祝島在住(子供は祝島小)、上関原発と中間貯蔵施設の建設に反対
川崎彩子:フライデーズ・フォー・フューチャー・東京、「ワタシのミライ」
長野 誠:鹿児島県在住、川内原発の寿命延長反対運動  

● 9月7日、ソウルで3万人が参加し、お祭りのような楽しいデモで 「気候じゃなくて、社会を変えよう」「気候正義の始まりは、脱原発から」と訴えました

翌日には『東アジア脱原発青年交流会』が行われ、 台湾・韓国・日本の若者たちがそれぞれの運動を紹介しました

*ヨングァン原発寿命延長「公聴会」への現地抗議集会に参加した報告もあります  

共催・ilpensolidarityclub   ノーニュークス・アジアフォーラム・ジャパン

アジア初の脱原発実現を! ー 29年ぶりの台湾訪問 ー 北野進(珠洲市)

北野進、台湾立法院公聴会・台湾大学などで講演、能登半島地震は「最後の警告」

録画映像:YouTube「綠盟講座で検索

1.はじめに

「台湾で能登半島地震の話をしませんか」と、佐藤大介さんから訪台の提案を受けたのは7月8日のこと。来年5月に脱原発を実現する予定の台湾の情勢が風雲急を告げている。立法院で多数を占める野党国民党が原発の稼働延長法案を4月に提出していたが、6月30日に「7月から審議入り」と発表された。

台湾では2017年に蔡英文総統が「脱原発」を決定し、2021年の公民投票で第四原発の稼働も認められないことが確定。来年5月にはすべての原発が運転期限の40年を終えて「アジア初の脱原発」を実現するスケジュールが進んでいる。こんな中での延長法案である。少しでも力になれることがあるのならば、という思いはあるが、台湾は1995年の第3回NNAFで訪れて以来である。さらに私自身、海外旅行自体が実は23年ぶり。元日の能登半島地震を受け、年明け以降、国内はあちこち出かけているが、海外となると気持ち的にはかなりハードルが高い。躊躇していると、「夏から秋、延長法案の攻防となる。屋外集会などの行動日程が組まれているが、能登地震の教訓の学習会も必要だろう」と、佐藤さんの言葉巧みな話にのせられていく。実現しない可能性もあるし、打診してみるくらいまあいいかと、「7月末なら日程空いてますよ」とつい答えてしまったのである。

台湾は日本と同じく地震大国であり、今回の能登半島地震への関心も高く、私は4月3日に「鏡週刊」という雑誌の取材を受けていた。佐藤さんが台湾環境保護連盟と緑色公民行動連盟にメールを送ると、彼らは「鏡週刊」の特集記事も見ており、すぐに翌9日、「歓迎し、受け入れ準備を進める」旨の連絡があり、急な訪台計画が一気に動き出すことになる。こうなれば貴重な機会に感謝するしかない。

とはいえ講演内容で悩む前に、まずはパスポート申請である。この日からバタバタと訪台準備が始まり、7月29日には小松空港から台湾へと飛び立つこととなった。

2.3か所で能登半島地震の報告

台湾での日程は、講演が3か所。まず30日の午前中、立法院で公聴会が組まれている。イメージとしては院内集会に近いと思うが、范雲立法委員と施信民教授(台湾環境保護連盟の創始者で現在は総統府の国策顧問も務める)のあいさつから始まり、私は通訳含め1時間「能登半島地震と原発リスク」というテーマで報告させてもらう。続いて佐藤さんも日本の老朽原発の危険性などについて報告。さらに台湾電力の原子力発電部・副部長が志賀原発の地震によるトラブルの発生とその対応状況などについて発表。原子力規制委員会を通じて情報を入手しているのだろう。原子力安全委員会主任秘書、台湾の環境団体の代表者らの発言も続き、約3時間の公聴会を終える。

台湾環境保護連盟は、范雲立法委員、郭昱晴立法委、洪申翰立法委員とともに公聴会を開催した。聯合報 7月30日)

午後は第二原発の近く金山の金泰豊人文館で、緑色公民行動連盟の江櫻梅さんら地元の皆さんが集まっての学習会。第二原発は1号炉が2021年12月27日に、2号炉は2023年3月14日に、稼働から40年を迎え、運転を停止した。しかし今回の延長法案で国民党は第二原発の再稼働も含め画策しているので地元の皆さんも真剣である。

昨年廃止になったが、延長・再稼働がねらわれている第二原発のゲート前で

翌31日の夜は台湾大学で緑色公民行動連盟主催の集会が開かれる。ここでの発言時間は通訳含め90分なので、珠洲の運動にも話題を広げて報告する。4月に能登半島地震と珠洲原発の取材で珠洲を訪れた「鏡週刊」記者の尹俞歓さんとも再会できた。彼女の記事が台湾の環境団体の多くの皆さんの目に留まっていたことも今回の訪台につながった。

2日間の講演は、幸いマスコミなど報道関係者の関心も高く、新聞やテレビ、ネット配信記事などを含めると10社以上が報道してくれた。

「民視TVニュース」24.7.30

3.大地震が台湾の原発を襲わなかったことは幸運

私の講演内容について少し補足しておきたい。基本は活断層評価も含め地震学には限界があること、そして原発震災が起これば逃げようがないという能登半島地震の教訓を伝えることが柱となる。ただし能登半島地震固有の問題ではなく、台湾が抱えている課題との共通点も意識し、報告させてもらった。

1900年1月1日~

まず台湾は日本と同じく地震大国だと言われるが、日本の地震回数との比較を示す。4月3日にもマグニチュード7.2の地震が発生し、花蓮で甚大な被害が生じている。台湾は日本の国土面積の約10分の1、九州程度の面積である。対して大地震の発生回数は、海域もあるので厳密な比較ではないが、ほぼ5分の1。つまり2倍ほどの地震リスクがあるということ。

日本同様、台湾でも原発敷地内や周辺の活断層調査は軽視されてきており、国民党が稼働延長をめざす第三原発の敷地内でも活断層の存在が指摘されている。この40年、大地震が原発を襲わなかったことは幸運と言わなければならない。

加えて今回の能登半島地震の大きな特徴である隆起の問題も台湾にとって他人ごとではない。4月の地震でも45cmの隆起が確認されているが、台湾自体、ユーラシアプレートとフィリピン海プレートが非常に複雑にぶつかり合ってできており、多くの景勝地は隆起も含めた地殻変動によって形成されたところがほとんどである。29年前に訪れたときに立ち寄った第二原発の近くの野柳地質公園には奇岩がたくさんあり、観光気分で「女王の頭」で記念写真も撮ったが、ここも実は複雑な隆起がくり返されてできているそうだ。

4.関心が高まった避難計画の破綻問題

前回1995年の訪問時は福島第一原発事故前ということもあり、台湾の避難計画に特段大きな関心を抱いた記憶はない。しかし、今回の能登半島地震では、福島後の原子力災害対策指針や、それを踏まえた自治体の避難計画の破綻が明らかとなった。はて、台湾の避難計画は?と聞いてみると半径8キロが避難対象区域とのこと。事故発生時には8km圏外に避難するとのことだが、残念ながら詳細な規定は確認できなかった。原発問題に関心がある人たちの間でも、避難計画問題はやや関心が低かったのではと感じる。

実は第一原発、第二原発から30km圏のラインを引くと人口約250万人の台北市はほぼ全域が圏内となり、さらに台北市を取り囲むように位置する人口約400万人の新北市の人口密集地も30km圏内である。30km圏にはなんと世界最多の約600万人が居住しているのである。東海第二原発は30km圏人口が92万人にのぼり、避難計画を策定できないと言われているが、まさに桁違いの人口密集地に台湾の原発は存在しているのだ。

安全対策では日本の原子力政策を真似るところが多いと言われた台湾の原発だが、避難計画を真似ようにもこれでは真似ようがない。講演後のインタビューなどでは避難計画問題にも多くの質問があった。台湾は日本以上に人口が密集している。避難計画は、国民党独裁の戒厳令下、安全神話に依拠して建設された台湾の原発の大きなアキレス腱であり、稼働延長など論外である。

5.第四原発運転阻止から、延長法案阻止、脱原発実現へ

講演日程の他、29日夕方には、今回の訪台の受け入れでお世話になった環境保護連盟の皆さんとの食事会、翌30日の午後は第二原発、31日には第四原発の現地貢寮へも案内してもらった。2001年の韓国でのNNAFで知り合った元台湾国立海洋大学の郭金泉先生には4日間にわたって大変お世話になった。

29年前の訪台時にも貢寮を訪れ、地元のテキスト ボックス:   住民の皆さんとの交流会にも参加したことを覚えているが、一番大きな変化は海岸に建つ抗日記念碑の背後に1号炉、2号炉の建屋がほぼ完成していることである。1895年に、当時の大日本帝国が下関条約で清朝から台湾の「割譲」を受け、日本軍が最初に上陸した地点が貢寮。そこにいま、東芝、日立、三菱による日本初の原発輸出として建設された第四原発1号炉、2号炉が建っているのである。申し訳なさと悔しさがこみ上げてくるが、同時に稼働を阻止した大きな実績にもぜひ注目したい。

第四原発阻止は、この日お会いできた楊貴英さんや呉文通さん(二人は昨年、台湾政府から環境保護生涯功労賞を受賞している)ら、地元の皆さんの長年にわたる粘り強い運動や、21年の公民投票勝利で明らかなように脱原発を選択した台湾の皆さんの行動と決断の結果であることは言うまでもない。

ただ、貢寮の皆さんが日本の人たちにもとても感謝していることを、この機会にぜひ紹介しておきたい。先ごろ亡くなられた伴英幸さんをはじめ多くの人たちが、台湾そして貢寮を訪れ、台湾の皆さんと一緒に第四原発阻止のたたかいを担ってきた。今回私を台湾に連れて行ってくれた佐藤大介さんはこの30年間、実に50回も台湾に通い、台湾と日本の運動をつないできた。楊貴英さんや呉文通さんの大歓待ぶりを見るだけでもこの間の深く長い交流のあゆみが伝わってくる。

国境を超えて原発推進体制を構築している原子力ムラに対する、アジア民衆の連帯による勝利としても、第四原発稼働阻止の意義を語っていかなければいけない。

もちろん稼働阻止で地元の運動が終わったわけではない。今後の跡地利用のプランにも目が離せない。台湾でも大きな問題となっている核廃棄物を持ち込もうなどというとんでもない発言も一部にはあるとのこと。脱原発社会に向かう台湾の象徴的な施設として活用されていくことを期待したいし、呉文通さんらも積極的に提言を行っている。

原発延長法案阻止、来年5月17日のアジア初の脱原発実現を共に祝い合えるよう、私も引き続き応援の声を上げていきたい。

楊貴英さん(右から4人目)の自宅で、ご家族と、呉文通さん(右から2人目)も

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環境団体が公聴会を開催、日本の元議員が能登半島地震の二つの教訓を共有 

聯合報 7月30日 (抜粋)

台湾環境保護連盟と立法委員范雲らは、本日、「地震による原発への脅威に関する公聴会」を開催した。公聴会では、日本の石川県能登半島出身の元県会議員である北野進と、非核アジアフォーラム日本事務局長の佐藤大介が、年初に発生した能登半島地震後の教訓を共有した。

北野進は、能登半島の地震が示した教訓は二つあると指摘した。第一に、現時点の地震学の知識は限られており、地震の発生を予測することはできず、次の大地震が台湾の原発を襲う可能性があることである。第二に、現在の避難計画には欠陥があり、地震と原子力災害が重なった場合、避難が困難であるということである。

今年1月1日に能登半島で発生したマグニチュード7.6の地震は、石川県、福井県、新潟県など広範囲に影響を及ぼした。北野進は、この能登半島地震の際、多くの日本人が、かつて建設が予定されていた珠洲原発が建設されなかったことや、志賀原発が13年間停止していることを幸運に思ったと述べた。さもなければ、結果は想像を絶するものであっただろう。

また彼は、日本の原子力災害対策指針にも欠陥があると指摘し、地震と原子力災害が重なった場合、避難が困難であり、外部支援も困難になるだろう。住民は災害地域に閉じ込められ、放射線に曝露される恐れがある。日本では、原発周辺30km圏内を原子力災害対策の重点地域と定めているが、台湾の第一・第二原発の30km圏内には500万人以上が居住しており、重大事故に備えた避難計画を策定することはほぼ不可能である。

北野進は、台湾が日本と同様に地震が頻発する国であり、経済、社会、文化の面での交流も非常に活発であると強調した。来年5月17日に第三原発2号機が順調に停止し廃止されれば、台湾はアジアで初めて非核家園(核のないふるさと)を実現することになる。これは非常に重要な意義を持ち、日本の脱原発運動の目標となるだろう。

公聴会に出席した台湾電力と原子力安全委員会の代表者は、第二・第三原発では耐震補強が行われており、安全性に問題はないと報告した。

しかし、緑色公民行動連盟の崔愫欣秘書長は、台電の報告は抽象的であり、原発の耐震性能が不十分である事実を覆い隠すことはできないと指摘した。彼女は、台電は補強措置に関するデータを公開するべきであると要求した。

台湾環境保護連盟の創立会長であり、政府の気候変動対策委員会の委員でもある施信民は、台湾が原子力を発展させる条件を持っていないことを強調した。

能登半島地震で核災害避難問題が注目、北野進「台湾の原発は延命すべきではない」

自由時報 8月1日

今年元旦、日本石川県能登半島で7.6の地震が発生し、現在も地震で破壊された道路が復旧していない。北野進は、この地震により外部との連絡道路が深刻に損壊したことを指摘し、過去の避難訓練では想定されていなかった事態が発生したと述べた。幸いにも原発は運転していなかった。もし核災が発生していたら住民は逃げ場を失う恐れがあったとして、能登の経験を警鐘とし、台湾の原発は延命すべきではないと訴えた。

北野進は、石川県で30年以上にわたり反原発運動を推進してきた。珠洲原発建設を阻止し、「志賀原発を廃炉に!訴訟」の原告団長も務めてきた。

今回の能登半島地震は、福島核災害の記憶をもう一度呼び起こさせたと述べた。地震発生時、全国の人々は災害地域近くに原発があるかどうかに注目し、福島核災の再発を懸念したという。

幸いにも珠洲原発は建設されておらず、志賀原発も福島核災以降停止していた。もし珠洲原発が建設されていたら、今回の地震で被害を受け、状況は福島核災以上に深刻だった可能性があると指摘した。

また、今回の能登半島地震で、地震と核災害が重なった時の避難計画の欠陥が明らかになったと述べた。過去の志賀原発の避難訓練では、1本の道路が通行不能になるシナリオしか想定されていなかったが、今回の地震では原発近くの数十箇所の道路が通行不能となり、半年経っても多くの道路が復旧していない。核災が発生した場合、住民は災害地域に閉じ込められ、放射線の脅威にさらされる恐れがあり、外部からの支援も難しい。海上からの脱出についても、地震による津波のリスクを考慮する必要がある。

日本政府はグリーントランスフォーメーション(GX)法案を通過させ、原発の活用を強化し、運転年限を延長する新たな措置を採用した。また、台湾でも野党の立法委員が法改正を通じて原発の延命を主張している。北野進は、日本では原発の延命は「厳格な安全審査」を前提としているが、安全性には疑問が残ると述べた。たとえば、安全審査で全ての部品を検査できるのか、40年以上使用した原子炉の耐久性や脆弱性を正確に評価できるのかが問題である。

原発の利用による二酸化炭素削減について、北野進は、日本にはカーボンニュートラルを考慮して原発を再稼働させるべきと主張する人もいるが、実際には原発を増やすと同時に火力発電も維持する必要があるため、原発と火力発電はセットであり、原発は低炭素ではないと述べた。また、原発の再稼働が再生可能エネルギーの発展を阻害するとし、たとえば九州電力は川内と玄海の二つの原発を再稼働させた後、太陽光発電計画を減少させ、出力制御させた。

北野進は、台湾と日本は共に地震が多い国であり、次の大地震がいつ来るか、どこの原発を襲うかは、誰もわからないと述べ、能登半島地震を経験した立場から、台湾は原発を延命させるべきではないと呼びかけた。

彼は、来年台湾がアジアで初めて非核家園(核のないふるさと)を実現することを期待しており、これは日本の脱原発運動にとって最大の模範となるだろうと述べた。

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【台湾立法院、原発延長法案を採決せず】

野党国民党は、第二原発・第三原発の寿命延長を求めて、原発延長法案を提案していた。立法院教育文化委員会は7月10日、原発延長法案(原子炉施設管理法の改正案)を審議したが、柯志恩議長(国民党)は最終的に、「さらなる議論が必要である」とし、採決を見送った。立法院の現在の会期は7月16日に終了し、次の会期は9月に始まる。

国民党など野党が数的優位で原発延長法案を可決することを恐れていた全国廃核行動平台(ネットワーク)は前日、立法院前で1000人が抗議集会を行い、法案の撤回を求めた。

第一原発2基、第二原発2基は40年寿命ですでに廃止となっており、第三原発1号機は7月27日に、2号機は来年5月17日に停止し、台湾は原発ゼロとなる。

7月9日、立法院前で1000人が抗議集会
4月27日 『427反核占拠行動10周年集会』「反対! 原発延長法案」

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関連:『台湾廃核運動史』(NNAFJ事務局)

台湾は2025年5月17日、アジア初の脱原発を実現する
台湾の人々に学び、私たちも続こう

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★ノーニュークス・アジアフォーラム通信189号
(24年8月20日発行、B5-24p)もくじ

・アジア初の脱原発実現を! ― 29年ぶりの台湾訪問 ― (北野進)
<北野進、台湾立法院公聴会・台湾大学などで講演、能登半島地震は「最後の警告」>
・環境団体が公聴会を開催、日本の元議員が能登半島地震の二つの教訓を共有
・能登半島地震で核災害避難問題が注目、北野進「台湾の原発は延命すべきではない」 
・台湾立法院、原発延長法案を採決せず
・ハンビッ原発寿命延長公聴会、6つの自治体ですべて取り消し (小原つなき)
・インド、マヒ・バンスワラ原発建設に対する村人の抗議 (デカン・ヘラルド)
・ジャビルカの貴重な文化遺産が永久に保護される 
  (グンジェイミ・アボリジニ・コーポレーション)
・ALPS処理汚染水を海に捨てないで! 海洋投棄を止める活動
  1000万円クラウドファンディングへの応援メッセージ
(デイブ・スウィーニー、非核バターン運動、キム・ヨンヒ、イ・サンホン)
・「海風宣言」 ― 2024 海といのちを守るつどい ― 
・パレスチナと8・6広島 (田浪亜央江)
・玄海町「最終処分場に関する文献調査」住民不在で受け入れ (石丸初美)
・能登半島地震から半年 (中垣たか子)
・新潟県柏崎刈羽原発をめぐる状況 (中山均)
・「再稼働するな!」の声が26年ぶりに女川の街に響きわたる、
  この力で11月再稼働を止めよう! (舘脇章宏)

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密陽送電塔6.11行政代執行10年「尹錫悦核暴走 源泉封鎖 決意大会」

2014年6月11日、密陽行政代執行。警察に暴力で排除される住民たち

韓国・環境運動連合  [報道資料・抜粋]

密陽(ミリャン)送電塔6.11行政代執行から10年となる6月8日、「尹錫悦核暴走源泉封鎖決意大会」が密陽で開かれた。大会前には、5つの村に分かれて、事前行事「電気は依然として涙に乗って流れる」が行われ、その後、密陽トゥンチ公園で決意大会が開かれた。この大会は、全国223団体が共同主催し、全国15地域から、20台の「再び乗る密陽希望バス」が出発し、1,500人余りが結集した。

韓国における代表的な国家暴力事件である6.11密陽送電塔行政代執行から10年が経ったが、暴力鎮圧の責任者は誰も処罰されないまま10年が流れ、送電塔は撤去されなかった。当時、密陽警察署長だったキム・スファンは出世して現在、警察庁次長、序列2位の治安正監になっている。

先月発表された「第11次電力需給基本計画」の実務案は、尹錫悦政府の暴走する核政策をそのまま示した。電力需給基本計画には、すべての老朽原発の寿命延長だけでなく、大型原発3基とSMR(小型モジュール原発)の新規建設が含まれている。このまま電力需給基本計画が確定すれば、「電気は涙に乗って流れる」というスローガンが主張した「不正義からの転換」どころか、気候危機対応にも失敗するだろう。


送電塔が建てられた後も依然として送電塔に反対して生きている住民たちが本大会に参加し、「密陽闘争は終わっていない」と断固として訴え、「エネルギー生産、輸送、消費の全過程で誰の犠牲もあってはならない」という正義のエネルギー転換を求めた。

大会では十数名が発言したが、抜粋して紹介する

▼キム・オクヒ(密陽ヨンフェ村住民)


連帯者の皆様、行政代執行10周年の行事にご参加いただき、誠にありがとうございます。私たちの対策委では小さな行事を行おうとしましたが、全国からこんなにたくさんいらっしゃるとは本当に夢にも思いませんでした。10年で山河も変わるというのに、変わらずに、このように密陽を守るために来てくれた連帯者の皆様、密陽の住民として本当に感謝します。


▼いるか(済州島イルカを守る会)


「だめなことはだめだ!」という密陽のおばあさんたちの断固たるお言葉のように、私たちももう一度一緒にこの資本主義による不平等と尹錫悦核暴走に立ち向かってたたかいましょう。そうして、平等で自由な、お互いがお互いのために一緒に暮らす世界を作りましょう。


▼ファン・ブンヒ(月城原発現地住民)


私たちはウォルソン原発の近くに住んでいますが、政府は「放射能が体の中に入っていても基準値以下だから、そのまま生きなさい」と犠牲を迫っています。私も甲状腺癌の手術をしましたが、いま甲状腺癌患者が多く発生しています。私たちはウォルソン原発の前で10年間テントろう城闘争をしてきましたが、韓水原からテントを撤去せよと警告状がきました。未来の子供たちに、こんな世の中を残してはいけません。再生可能エネルギーに変えていきながら、原発の数を減らしていかなければなりません。ウォルソン原発2、3、4号機の寿命延長を防がなければなりません。


▼イ・ヨン(ソンミサン学校)


私は小学校6年生の時から密陽に来ています。密陽を訪れるたびに多くの方々が歓待してくださって、密陽は故郷のようなところになりました。密陽は私たちに抵抗と闘争を教えてくれた学びの場であり、共同体でした。密陽から勇気と愛を学び、正義を実現する闘いを学び、新しい世界を夢見る方法を学びました。私たちが密陽を通じて学んだことは、まさに愛です。生命が尊く、それぞれ美しく生きていくことができ、自由で平和に存在できるために。私たちが闘争するのは、革命を夢見るからであり、すべての生きている生命を愛するからです。


▼パク・ギュソク(公共運輸労組・発電HPS支部)


政府が何の対策もなしに老朽化した石炭火力発電所の閉鎖を決定し、働き口を失う危機に直面した私たち労働組合は、気候正義活動家たちとともに正義のエネルギー転換を要求して2日間ストライキを行いました


発電非正規職労働者と密陽住民は、急激な産業転換過程で無視され、国家権力に踏みにじられた犠牲者という点で、同じだと思います。密陽に加えられた国家暴力と、密陽のおばあさんたちの涙を胸に深く刻み、不正義に対抗した密陽のおばあさんたちの闘争を忘れません。「電気は涙に乗って流れる」という言葉を必ず覚えておきます。終わっていない密陽闘争を共にたたかいます。


▼パク・ウンスク(密陽送電塔反対対策委住民代表)


密陽を再び訪ねてくださって本当にありがとうございます。私たち143世帯の住民たちはまだ合意しておらず、この不当な工事を認めることができません。


韓国電力は、暴力的で非人間的な工事強行と村共同体破壊に対して責任を持って謝罪せよ! 10年前の6月11日、101番の穴蔵で大きな切断機とカットナイフで、もがきながら抵抗する住民たちの首に巻いた鎖を断ち切った韓電のやつら、警察のやつら。その目つきが身震いするほど鮮やかです。


尹錫悦政府が、老朽原発をすべて寿命延長し、新規の原発を4つもさらに建設するそうです。新しい超高圧送電塔なしには新規の原発は作れません。密陽のようなおぞましいことが二度とくり返されてはいけません。全国民が力を合わせて、原発と送電塔を防ぎましょう。第11次電力需給基本計画を廃棄させましょう。

大会は決議文を通じて、△暴力鎮圧責任者キム・スファン警察庁次長の謝罪、△新規原発建設、老朽原発寿命延長、石炭火力発電所など超高圧送電塔を拡大する11次電力需給基本計画廃棄、△密陽と清道の超高圧送電塔撤去および東海岸・新加平超高圧送電線路建設計画撤回、△住民と労働者、皆を考慮した正義のエネルギー転換推進、を要求した。とくに「6.11行政代執行10年を記憶し、11次電力需給基本計画を防ぎ、正義のエネルギー転換を成し遂げるために共に闘うこと」を強調した。

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★ノーニュークス・アジアフォーラム通信188号
(24年6月20日発行、B5-32p)もくじ


・密陽送電塔6.11行政代執行10年「尹錫悦核暴走 源泉封鎖 決意大会」 (韓国・環境運動連合)
・月城住民テント座り込み10年、私たちがお世話になった (イ・サンホン)
・427反核占拠行動10周年集会  (台湾・全国廃核行動平台)
・インドネシアの市民社会団体がボルネオ島の原発計画に抗議行動 (イルファン・マウラナ)
・フィリピン・エネルギー省、原子力エネルギー部門を設置
・核のない未来のために声をあげよう、外国の核廃棄物への扉を閉めよう (デイヴ・スウィーニー)

・広島パレスチナともしび連帯共同体の8か月 (湯浅正恵)
・最高裁は被ばくから子どもを守れ (片岡輝美)
・住民への説明なし、玄海町の核ごみ最終処分場文献調査受け入れ (牧瀬昭子)
・むつ中間貯蔵施設を許せば、原発の再稼働・延命・新増設につながる (中道雅史)
・上関町の使用済み核燃料中間貯蔵施設について思うこと (國弘秀人)
・女川原発2号機の見切り発車は許さない (日野正美)
・能登半島地震から学ぶことを恐れる柏崎市長と刈羽村長 (菅井益郎)
・6.9とめよう!原発依存社会への暴走 大集会に1400人 (稲村守)
・志賀原発を廃炉に!訴訟・第42回口頭弁論 意見陳述書  (北野進)
・伴英幸先生への追悼文 (韓国脱核新聞)
・伴英幸氏を偲ぶ (台灣環境保護聯盟)
・東アジア脱原発青年交流会(@韓国) 帯同メンバー【SNS発信担当】を募集します
・汚染水差し止めのクラウドファンディング挑戦中 (大賀あやこ)

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インドネシアの市民社会団体が、ボルネオ島の原発計画に抗議行動

西カリマンタン反原発連合は西カリマンタン州の州都ポンティアナックのゲグリス記念碑前で抗議行動を行った

イルファン・マウラナ (Mongabay 5月14日)

インドネシア最大の環境保護団体ワルヒ(インドネシア環境フォーラム)は、ボルネオ島(カリマンタン島)の西カリマンタン州ベンカヤン県に計画されている原発に反対して、ジャカルタと西カリマンタン州で抗議行動を行った。 

「私たちは、西カリマンタンを核災害の脅威から遠ざけるよう主張しています」と、ワルヒ西カリマンタン支部の事務局長ヘンドリクス・アダム氏は述べた。


1964年にインドネシア初の実験用原子炉である TRIGA Mark II が バンドン市で稼動した。しかし、それ以来、この国はまだ本格的な原発を建設していない。


2023年3月、インドネシアと米国貿易開発庁(USTDA)は、SMR(小型モジュール型原発)を建設するためのパートナーシップ協定を締結した。この合意には、インドネシア国営電力会社PLNへの、実行可能性調査費用100万ドルの補助金が含まれていた。


PLNは西カリマンタン州での46万kW(7.7万kW×6基)のSMR建設を計画しており、このSMRには米国のオレゴン州に本拠を置くニュースケール社が提供する技術が使用されることになる。


4月26日にジャカルタで行われたワルヒの抗議行動では、参加者たちが「インドネシアはチェルノブイリではない」と書かれた横断幕を広げた。チェルノブイリ原発事故と福島原発事故からの教訓は、インドネシアの市民社会運動に多くの情報を与えている。


「人間と環境の悲劇の歴史は、原発が完全には制御できないことを示しています」とアダム氏は語った。


彼はまた、ボルネオ島が、ジャワ島、スマトラ島、スラウェシ島などの島々ほど地震活動が活発ではないことを理由に選ばれたことについて疑問を呈した。


「カリマンタンがこの災害から安全であるという仮定は、もちろん真実ではありません」とアダム氏は語った。「カリマンタンには、メラトゥス断層、マンガバヤル断層、タラカン断層、サンプルナ断層、パテルノスター断層などの地震源があります」


また、ワルヒのエネルギーキャンペーン・リーダーのファニー・クリスチャント氏は語った。「インドネシアでは太陽光やその他の再生可能エネルギーの普及が遅れており、クリーンエネルギーに移行している他国で見られるような補助金が出されていない。私たちにはエネルギー移行のための選択肢がたくさんあるのに、なぜ再生可能エネルギーではなく危険なテクノロジーを選択しなければならないのでしょうか」


ジョコ・ウィドド大統領は、温室効果ガス排出量を2030年までに30%削減するという国連気候変動枠組条約会議COP26に合意している。


西カリマンタン反原発連合のコーディネーターであるアビット・ニブラス・トリラナン氏は、「原発の建設には費用と時間がかかりすぎることが判明している」と述べた。アビット氏はまた、原発を監視する国家機関の能力にも疑問を呈した。


別の民間企業であるPT ThorCon Power Indonesiaは、スマトラ島沖のバンカ・ブリトゥン州の小さな島に実験用原子炉を建設する計画を立てている。


インドネシア国家研究イノベーション庁(BRIN)の主任専門家であるスーパーマン氏は、「インドネシアの28カ所の地域が原発建設の候補地とされているが、主な焦点は西カリマンタン州である」と指摘した。


「将来的には、大型の原発が段階的に建設される可能性がある」とスーパーマン氏は述べた。

4月26日、ジャカルタのエネルギー鉱物資源省前で抗議行動



【宣言】すべての人に、安全で、手頃な価格で、気候にやさしいエネルギーを

ベルギーのブリュッセルで3月21日、国際原子力機関(IAEA)とベルギー政府の共催による史上初の「原子力サミット」が開催された。30か国の首脳や閣僚、300名以上の原子力関係者らが出席し、共同宣言で、多国籍の開発銀行や国際金融機関などに原発計画への融資支援を求めた。

しかし、ビジネス情報紙「ブルームバーグ」の3月22日付の記事によると、欧州投資銀行などは、「原発のリスクは高すぎる。欧州の貸付機関は、風力と太陽光に融資を優先し続ける。原発を増やすならば、銀行ではなく、納税者がその費用を負担しなければならない」と反応した。記事は「原子力サミットの参加者たちは、無駄な情熱を抱いてブリュッセルに到着したが、銀行家たちのぬるい反応に落ち込んで帰った」とした。

この原子力サミットに対して、世界56か国の619団体が共同で下記の宣言を発表した。
(賛同団体は、https://dont-nuke-the-climate.org/blog/iaea-nuclear-fairy-talesに掲載)

【宣言】すべての人に、安全で、手頃な価格で、気候にやさしいエネルギーを

2024年3月21日、ブリュッセルで、国際原子力機関(IAEA)とベルギー首相に招聘され、国際原子力ロビーが原子力サミットを開催します。原子力ロビーは、気候にやさしいという外観を装い、人々や地球を犠牲にして、巨額の資金を環境問題の真の解決策からそらそうとしています。

世界は、たくさんの社会的、環境的、経済的危機に直面しています。人々は、日々の生活費や気候変動からくる極端な気象現象、そして毎日の光熱費に不安を感じています。原子力サミットに参加するロビイストと政治家たちは、新しい原発の建設こそがこれらの問題への解決策であると提示するでしょう。ですが、それは全く現実的とは言えません。


気候非常事態対策として原発は遅すぎます。現在進行中の原発の開発は大幅に遅れていて、今世紀中の炭素排出量削減への有意義な貢献は期待できません。地球の気温上昇を1.5℃以内に制限するために、2030年までの温室効果ガス排出の大幅な削減が必要とされるなか、現在公表されているどの原発も、この期限を大幅に遅れてからしか送電を開始することはできないでしょう。原発の新設はエネルギー転換を邪魔して遅らせます。その代わりに化石燃料からの迅速な移行のために焦点を当てるべきは、100%再生可能なエネルギーシステムの構築、そしてそれと共に、エネルギー消費の効率化と対策によって過剰なエネルギー消費を避けることです。そしてこれらの複合的なとりくみによって、公平で、環境に優しく、達成可能なエネルギーで世界の需要を満たせるでしょう。


原発は再生可能エネルギーよりもずっとお金がかかります。原発の計画がコストの急騰による大幅な予算超過と中止に直面する一方で、再生可能エネルギーはこれまでになく低価格で、相対的なコストは原発に比べて急激に低下しています。2023年の世界原子力産業現状報告書によれば、新しい原発建設は、風力発電所のほぼ4倍の費用にまで上昇しています。各国政府は、実行できる保証のない小型モジュール原子炉のような高額な実験にではなく、家の断熱材や公共交通機関、そして再生可能エネルギーなど実証済みの気候変動対策に投資する必要があります。


原発は危険です。ウランの採掘から放射性廃棄物まで、原発は人間の健康と安全、そして環境にとっての脅威です。また、原子力は軍事目標として使用される恐れもあり、劣化ウランや原爆のような核兵器が世界中に広がる危険性を増加させています。気候危機もまた原発の危険性を増加させます。熱波、干ばつ、嵐、洪水などの自然災害の増加は、発電所自体、そして事故を防ぐための防護機能への深刻な脅威となり得ます。


私たちは気候緊急事態下に生きています。時間は貴重です。その限りある時間を原発という「おとぎ話」で無駄にする政府が多すぎます。私たちが望むのは、ただ安定した雇用があり、地球上に住む私たちすべての命を守ってくれる、安全で再生可能で手頃なエネルギーシステムへの移行なのです。
(本文訳は原子力資料情報室より)

『原子力サミット』会場前での国際共同抗議アクション。韓国のイ・ホンソク氏のメッセージも読み上げられた。

★ノーニュークス・アジアフォーラム通信187号
(24年4月20日発行、B5-24p)もくじ

・「未来世代の絶叫」 (チャン・ヨンシク)
・ハンビッ1・2号機 寿命延長阻止大会・決議文                
・福島13年 慶尚北道 脱核行進・宣言                    
・7政党が「新建設禁止法・寿命延長禁止法制定」にすべて同意 (ヨン・ソンロク)
・台湾【重要署名】老朽化した危険な原発を延長するな
 ― 原発延長法案反対、安全を最優先に! (全国廃核行動平台)

・トルコ・シノップで反原発派市長が当選 (森山拓也)
・【宣言】すべての人に、安全で、手頃な価格で、気候にやさしいエネルギーを  
・非核バターン運動の若者たちからの連帯メッセージ (片岡輝美)
・柏崎刈羽原発、再稼働してしまうのか! 崖っぷちのたたかい (星野幸彦)
・「Stop!女川原発再稼働 さようなら原発全国集会in宮城」決行 (いのまた由美)
・東海第二原発は廃炉に (相沢一正)
・島根原発2号機の再稼働は中止すべきだ (芦原康江)
・上関町中間貯蔵施設建設計画・その後 (三浦みどり)
・3.31「老朽原発ただちに廃炉!美浜全国集会」400人超が結集 (木原壯林)
・50年前と現在のプロゴフから学んだこと (林えな)
・子どもと原子力災害 保養資料室 ≪ほよよん≫ へようこそ (宇野田陽子)

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【重要署名】老朽化した危険な原発を延長するな ー 原発延長法案反対、安全を最優先に!

*台湾の126団体による「全国廃核行動平台」は、3月11日、下記の署名運動を開始した。

台湾の老朽原発3カ所6基は、運転免許が満了(4基)、または満了間近(2基)で、法に基づく廃炉の実施、または準備段階に入っている。

しかし、今期の国民党の新立法委員(国会議員)らは、原発を延長させるための法改正を提案する予定であり、原発が再び政治的な攻撃と防御の焦点となる。


このため私たちは、立法院が「台湾社会が負担するリスクと代償」を明確にして社会的合意をする前に法改正を急ぐべきではない、と強い懸念を表明する。


私たちは、原発を延長できるかどうかの最大の鍵は、法的適用期間ではなく、老朽原発が人々に安全上の脅威をもたらすかどうかであると考える。核廃棄物の解決策はあるのか? そして人々は、延長による高いリスクと高額なコストを負担しなければならないことを知っているのだろうか?


このため、市民社会団体は、「原発の運転を延長するかどうかは、政治的決定ではなく、安全性を最優先にすべきである」と主張する共同請願を提案することを決定した。延長するかどうかについての議論が行われる前に、それが確認されることになる。

● なぜ危険で老朽化した原発の運転延長に反対するのか?

老朽原発には次のようなリスクがある。

  1. 原発の設備は老朽化が進んでおり、複数の故障履歴があり、核災害につながる可能性がある。
  2. 原発の敷地は活断層に近く、強い地震が発生すると核災害を引き起こしやすい。
  3. 台湾は人口が密集しており、核災害時の避難は困難で、対応能力がほとんどない。
  4. 原発の燃料プールは満杯で、使用済み核燃料を置く場所がない。
  5. 核廃棄物の最終処分場を見つけるのは依然として困難だ。

まず、3カ所の原発は、それぞれ安全性や核廃棄物保管の問題を抱えており、それらが解決できなければ運転を延期することは事実上不可能である。

次に、福島原発事故後、国際的な原発安全基準が大幅に改善され、原発の運転コストが上昇し続けている。老朽原発の運転を延長する場合、法律に従って老朽化評価報告書と安全分析報告書を提出することに加え、最新の国際安全基準を遵守し、老朽原発の改善に資源を投資しなければならない。議論するには、必要な時間と費用をより正確に見積もり、開示する必要がある。


最後に、核廃棄物が処分されない場合、原発は不当なエネルギー源であり、使用期間の延長によってさらに多くの核廃棄物が発生することになる。台湾は、適切な最終処分場をまだ見つけておらず、高レベル核廃棄物(使用済み核燃料)処分の法的根拠も欠如しており、高レベル核廃棄物は依然として原発内に危険な状態で保管されている。ランユ島の核廃棄物もまだ撤去されていない。核のゴミは、原発を使うか使わないかを決める最も難しい問題であり、与野党が責任を持って積極的に向き合わなければならない。

● 署名者は次のように主張する

与野党の立法委員と行政機関はイデオロギー論争から決別すべきだ。政治的な舌戦だけでは原発が安全かどうかを決めることはできない。

  1. 老朽原発の安全上の懸念が明確になる前に、また核廃棄物の解決策が見つかる前に、老朽原発を延期すべきではない。
  2. 行政院、経済部、原子力安全委員会は、最も厳格な国際基準に従って、原発安全分析、地質リスク評価、その他の報告書を提出し、運転延長のリスクとコストを完全に開示し、核廃棄物処分対策も提案し、それらを国民に公開して、社会的議論を行うべきである。
  3. すべての政党と立法委員は、自らのイデオロギーを脇に置き、国民に対する原発延長のリスクとコストを確認し、核廃棄物処分に関する立法を開始すべきである。

能登半島地震と原発リスク

北野進(志賀原発を廃炉に!訴訟原告団)

1.阻止できて本当によかった「珠洲原発」

元日に発生した能登半島地震によって奥能登の風景、人々の暮らしは一変してしまいました。珠洲市や輪島市では多くの地域が壊滅状態です。さらに被害は中能登地域から金沢市内へ、さらには富山県、新潟県にまでも拡大しました。

マグニチュード7.6、最大震度7という今回の大地震の震央は、かつての珠洲原発の予定地・高屋のすぐ近く、関西電力が立地可能性調査を計画していたエリアの裏山です。高屋では激しい揺れに加え、がけ崩れも多数発生し多くの住宅が倒壊しました。港の岸壁にも多数の大きな亀裂や陥没が生じ、原型をとどめていません。何より驚くのは地盤の隆起です。予定地前の海岸にはきれいな遠浅の海が広がっていましたが、今そこには岩場が広がっています。防波堤を見れば隆起が約2mにも及んでいることが確認できます。いうまでもなく隆起したのは海域だけではありません。原発が建設されたであろう陸域にまで及んでいることは間違いありません。

(関電の原発予定地、高屋の防波堤。北野さんの身長以上、約2メートル隆起)

かつて、原発計画があった当時、電力会社や国は「原発は強固な岩盤の上に建てるから大きな地震が来ても大丈夫。万が一大きな地震が起きたら発電所構内に逃げ込んでもらえば一番安全だ」などと豪語していました。当時の知見では高屋の沿岸域に大断層が走っていることを把握できておらず、調査する気もありませんでした。地盤の隆起など想像すらしていなかったのではないでしょうか。

高屋の集落は地震後孤立し、その後もしばらくは自衛隊の車両しか入れない状況が続きました。高屋の東方約8kmにある中部電力の予定地・寺家(じけ)でも1m程度の隆起がありました。近くの集落では激しい揺れに加え、津波が襲い、沿岸部の家並みは見る影もありません。現在の防災計画ではPAZ(原発から5km圏内)に該当する地域であり、「全面緊急事態で即時避難」ですが、住民は高台に駆け上がるのが精一杯です。

高屋、寺家に限らず奥能登全体が地震後はほぼ孤立状態でしたから、もし原発が立地されていれば、重大事故でも避難すらできず、福島以上に悲惨な原発震災となっていたかもしれません。珠洲原発の反対運動を応援していただいた全国の皆さんにあらためて感謝申し上げたいと思います。

2.止まっていて幸運だった「志賀原発」

今回の大地震は、まったく予想されていなかったわけではありません。珠洲を中心とした奥能登では3年前から群発地震が続き、1昨年は震度5強、昨年5月5日には震度6強の揺れが市内を襲いました。専門家からは「さらに大きな揺れに警戒を」との声が上がっていました。マグニチュード7クラスの地震を引き起こす大断層が能登半島の北部沿岸を走っていることが今では明らかとなっており、一連の群発地震がこの断層を刺激し、大地震の引き金となる可能性を指摘していたのです。

北陸電力が志賀原発2号機の適合性審査のために原子力規制委員会に提出している資料によれば、「能登半島北部沿岸域断層帯」として長さ96km、想定マグニチュード8.1とされていました。今回の地震は、マグニチュードは北電の想定を下回りましたが、動いた断層は約150kmとされ、北電の想定を大きく上回りました。北電が想定していなかった断層の連動があったと言わざるをえません。どの断層が動いたのかは今後の分析を待たなければなりませんが、佐渡方向ではNT2、NT3という2つの断層の存在が知られ、今回の震源域に含まれます。北電は審査会合の中で連動の可能性すら検討しておらず、規制委も検討すべきとの指摘すらしていませんでした。全くのノーマーク状態です。西側(志賀原発沖合側)では、2007年の能登半島地震の震源となった笹波沖断層帯との距離が近いことから北電は連動の可能性を検討し、「連動しない」との判断を示していました。規制委もその判断を追認する方向で議論は進んでいました。今回の地震は、事実をもって北電、規制委の活断層評価能力を否定したと言えます。

昨年の北電株主総会で私は笹波沖断層帯との連動の可能性や、志賀原発へのリスクについて問いました。これに対して北電の小田常務は「設備に影響を及ぼす可能性のある断層を確実に把握し、耐震設計に反映している」とし、笹波沖断層帯の連動を否定し、能登半島北部沿岸域断層帯マグニチュード8.1でも志賀原発は大丈夫と答えたのです。ところが実際は東西さらに活動域は広がり、しかもマグニチュード7.6の規模でしたが、1系統2回線で外部電源が受電できなくなり、非常用ディーゼル発電機も一台が自動停止するなど発電所内では多数のトラブルが発生したのです。今年の株主総会では北電の能力・資質についてさらに追及しなければなりません。

原発の防災対応でも欠陥や限界が露呈しました。今回、志賀町は震度7、そして大津波警報が発令されたことから志賀原発は警戒事態に至りました。原子力規制庁と内閣府は合同警戒本部を立ち上げ、志賀現地では石川県も加わり現地警戒本部が立ち上がりました。しかしそれは形だけで、その対応はお粗末極まりありません。石川県など地元自治体は地震対応だけで大混乱で、原子力災害に手が回らないことは明らかでした。北電の危機管理能力のなさは一連のプレス発表の混乱からも明らかです。迅速・正確な情報発信は到底期待できません。原子力防災は初動対応の段階ですでに破綻です。

このように原発を運転する資格のない北陸電力ですが、志賀原発は1、2号機ともに2011年3月から停止中だったことから、今回は幸運にも危機的な事態は回避することができました。再稼働を許さず今日までこれて本当によかったと思います。

3.能登半島地震は最後の警告

一方、北電には「幸運だった」との認識が全くなく、1月31日、能登半島地震後初の記者会見に臨んだ松田光司社長は「志賀原発の安全確保に問題はなく、原子力の重要性は変わらない」と強気の姿勢を貫きました。

こうした中、私が地震の翌日から心配しているのは「果たして今回の大地震で3年前から続く一連の地震活動は収束するのだろうか。次の大地震へのカウントダウンが始まったのではないか」ということです。今回の地震が周辺断層の新たなひずみを生み、新たな地震のリスクが高まっているとの指摘も専門家から相次いでいます。

北陸電力が志賀1、2号機の設置許可を申請した当時は、能登半島周辺には大きな活断層はないとされていました。しかし、現在北電が規制委に提出している資料を見ると、能登半島周辺には能登半島北部沿岸域断層帯以外にもマグニチュード7クラスの大地震が想定される活断層が何本も走っています。連動すればさらに大きな揺れとなります。また、志賀原発の10km圏内に絞ってみれば、東側にはわずか1kmに福浦断層、西側には兜岩沖断層、碁盤島沖断層、そして北側には富来川南岸断層と、志賀原発は三方活断層に囲まれていることがわかります。基準地震動を引き上げればいいという次元ではなく、地表の変位が心配されます。再稼働を許さず、一日も早く廃炉に追い込まなければなりません。

能登半島地震は地下の流体が原因とされる一連の群発地震が引き金となり、大きな断層の連動につながったと見られていますが、群発地震や断層の連動は、現在の地震学でも知見の積み重ねが少ない分野です。原発に内在する莫大なリスク、リスクを回避できない地震学の限界、そして原子力規制委員会の限界を直視すれば、国内すべての原発の再稼働はありえません。再稼働した原発の運転継続もありえません。被災地を抱え、地元の運動は遅れ気味ですが、アジアの脱原発の潮流を確実なものにできるよう、全国の仲間、アジアの仲間と一緒に頑張りたいと思います。

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★ノーニュークス・アジアフォーラム通信186号
(24年2月20日発行、B5-32p)もくじ

・若者たちが公設市場でバターン原発再建反対署名運動
韓国核発電所の地域の概要と懸案 (ヨン・ソンロク)            
・『海島核事』― 台湾反核運動の軌跡 (鈴木真奈美)            
・未稼働の第四原発 ― 楊貴英と呉文通 (王舜薇)              
非核のアジアを夢見て (王舜薇)                    
能登半島地震と原発リスク (北野進)                  
・能登半島地震 ― それでもなお、原発回帰、再稼働を続けるのか (多名賀哲也)
・令和6年能登半島地震を踏まえた意見書 (脱原発弁護団全国連絡会)    
・3.23「ストップ!女川原発再稼働 さようなら原発全国集会in宮城」に参集を! (多々良哲)
・女川原発2号機の再稼働を止める (舘脇章宏)               
・上関町の中間貯蔵施設建設計画を止めよう (小中進)
・青森県の再処理と中間貯蔵の現状 (小熊ひと美)             
・ノーニュークス・アジアフォーラム通信 No.174~185 主要掲載記事一覧

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韓国核発電所の地域の概要と懸案

ヨン・ソンロク(脱核新聞編集委員長) *2023NNAF韓国での報告より

1. 釜山(プサン)

 万kW運転開始 
コリ1591978. 4永久停止
コリ2651983. 7延長申請
コリ3951985. 9延長申請
コリ4951986. 4延長申請
新コリ11002011. 2 
新コリ21002012. 7 
[釜山広域市機張郡長安邑]

コリ1号機は韓国で最初の原発で、1978年4月に商業運転を開始し、設計寿命が30年なのに1回寿命延長(10年)して約40年稼働後、永久停止した。事業者はさらにもう1回の寿命延長を図ったが、釜山市民をはじめとする全国の強力な永久停止要求があり、2015年6月に永久停止を決定した。

2017年6月19日、事業者である韓国水力原子力と文在寅大統領は「コリ1号機永久停止宣布式」を行い、6月18日24時を期して発電を停止した。

コリ1号機は2012年2月、計画予防整備期間に12分間ブラックアウトが発生したが、事業者がこれを隠して、1ヶ月後に事実が知られ、韓国社会に波紋を呼んだ。

韓国水力原子力は1985~86年に、コリ原発から出た核廃棄物46,000トンを長安邑吉川里の林野(山)に不法に埋めた

現在、事業者がコリ2~4号機の寿命延長手続きを進めている。

韓国原子力研究院は2022年9月から、釜山機張郡で「輸出用新型研究炉および付帯施設」建設工事を始めた。これは、下部駆動制御装置、板型核燃料など最新技術を適用した1.5万kW級の研究用原子炉を建設する工事だ。事業者は「この研究炉によって、放射性同位元素の国内需給安定化と製品輸出能力を確保する」としている。

釜山市民社会は、コリ2~4号機の寿命延長と高レベル核廃棄物(使用済み核燃料)の敷地内貯蔵を防ぐ活動を展開している。

2. 蔚山(ウルサン)

 万kW運転開始 
セウル11402016.12 
セウル21402019. 9 
セウル3140 建設中
セウル4140 建設中
*セウル1・2・3・4 = 新コリ3・4・5・6
[蔚山広域市蔚州郡西生面]

事業者が2022年に、新コリ3~6号機の名前を、セウル1~4号機に変更した。セウル1~4号機は、韓国水力原子力が「独自開発した韓国型原発APR-1400」と広報しており、設備容量が140万kWで大容量だ。APR-1400はアラブ首長国連邦に韓国が輸出した炉型でもある。

釜山と蔚山の原発は、行政区域が異なるだけで、河川一つを挟んで同じ敷地だ。したがって、釜山と蔚山は、コリ原発、新コリ原発、セウル原発の事故時にその影響を同時に受けることになる。

釜山と蔚山の原発放射線非常計画区域は、380万人が居住する世界最大の人口密集地域だ。同じ敷地に10基(建設中2基含む)も密集しており、世界的にも例がない。

蔚山は、北の月城原発、南のコリ原発に挟まれており、計16基の原発に囲まれた都市だ。放射線非常計画区域に蔚山市民110万人のうち100万人が含まれる。蔚山は石油化学団地など大規模な国家産業団地が2つあるところで、事故時に、その影響は非常に大きいだろう。

蔚山では、市民社会と労働組合と進歩政党などが積極的に脱原発運動をくり広げており、2020年に「高レベル核廃棄物貯蔵施設建設阻止」のための住民投票をした経験がある。

最近、原発所在地の西生面の住民が、セウル原発5・6号機を誘致するという署名運動を行っており、蔚山市民社会などは寿命延長と新規原発建設阻止、高レベル核廃棄物(使用済み核燃料)の敷地内貯蔵を防がなければならない課題がある。

3. 慶州(キョンジュ)

 万kW運転開始 
月城1681983. 4永久停止
月城2701997. 7 
月城3701998. 7 
月城4701999.10 
新月城11002012. 7 
新月城21002015. 7 
[慶尚北道慶州市陽北面]

韓国で唯一の重水炉型原発、月城(ウォルソン) 1~4号機があり、重水炉型は三重水素(トリチウム)排出量が軽水炉型より10倍多い。

天然ウランを核燃料として使用する月城1~4号機は、使用済み核燃料の発生量も軽水炉型より著しく多く、韓国では唯一、原発敷地内に、高レベル核廃棄物(使用済み核燃料)の乾式貯蔵施設がある。

月城1~4号機から放射性物質が漏出していた事実が2019年11月に明らかになり、現在、政府が民間調査団を構成して原因を調査中だ。月城1号機では、使用済み核燃料貯蔵プールの亀裂も発見された。

政府は月城1号機の寿命延長を許可したが、全国脱原発陣営が、最新技術基準の未適用など違法事項をあげて、寿命延長許可の取消訴訟を提起した。裁判所は違法事項を認め、政府が許可した寿命延長許可は取り消された。以後、事業者は2019年12月に永久停止を決定した。

月城には、中低レベル放射性廃棄物処分場もある。しかし、地下水の流入など問題が発生している。

韓国原子力研究院が慶州に「文武大王科学研究所」を建設中であり、ここでSMR(小型モジュール炉)の実証実験を行う計画だ。

月城1~4号機は三重水素(トリチウム)排出量が多く、住民の健康被害が深刻な状況だ。発電所の隣接地域住民の尿検査の結果、住民100%の尿で三重水素が検出された。環境省が最近実施した住民健康調査の結果、やはり住民の健康に異常があることが確認された。

「月城原発隣接地域住民移住対策委員会」が、移住を要求して、月城原発前のろう城テントで座り込みをしていて、現在9年目になる。

核関連総合百貨店と呼ばれる慶州での脱原発運動は慶州環境運動連合が主軸となり求心点の役割をしている。

4. 霊光(ヨングァン)

 万kW運転開始 
ハンビッ1951986. 8延長申請
ハンビッ2951987. 6延長申請
ハンビッ31001995. 3 
ハンビッ41001996. 1 
ハンビッ51002002. 5 
ハンビッ61002002.12 
[全羅南道霊光郡弘農邑]

もともと霊光原発という名前を使用していたが、「霊光クルビ(イシモチ)」など地域水産物販売の影響などの理由で、事業者が発電所名をハンビッ原発に変更した。

ハンビッ3・4号機で働いていた労働者の妻が、1988年と89年に、二度も無脳児を出産して社会的な波紋を巻き起こし、この事件は放射線被害を広く知らせた。政府はこれを収拾するため、1990年から約20年間、「原発従事者および周辺地域住民疫学調査」を実施した。

ハンビッ3・4号機は「不良工事の代名詞」と呼ばれている。「ハンビッ原発民官合同調査団」は、格納容器の157cmの空隙を発見した。200個近い格納容器の空隙が発見されている。

しかし、約5年7ヶ月稼働停止したハンビッ4号機が2022年12月から再稼働に入り、地域住民の反発が大きい状況だ。

ハンビッ1・2号機では、全数調査を通じて、これまで1号機で2330個、2号機で1508個の鉄板の腐食が発見された。

事業者は、ハンビッ1・2号機の寿命延長申請書を政府に提出し、地方自治体への放射線環境影響評価書(草案)公覧を準備中だ。

政府が2003年に、霊光付近の扶安(プアン)郡の蝟島を核廃棄場候補地として発表した後、扶安郡民と霊光郡民などの強力な闘争でこれを白紙化させた。

霊光の脱原発運動は住民中心性が強い。ハンビッ原発のすぐ隣に高敝(コチャン)郡があり、高敝郡住民と市民社会も「核のない社会のための高敝郡民行動」を中心に活発に脱原発活動をしている。

5. 蔚珍(ウルチン)

 万kW運転開始 
ハヌル1951988. 9 
ハヌル2951989. 9 
ハヌル31001998. 8 
ハヌル41001999.12 
ハヌル51002004. 7 
ハヌル61002005. 4 
新ハヌル11402022.12 
新ハヌル21402023.12 計26基
[慶尚北道蔚珍郡北面]

8基もの原発が稼働しているのは、世界でも蔚珍だけである。

事業者は、ハヌル7・8号機を、新ハヌル1・2号機と呼んでいる。これは、一つの地域に原発が多数あることを希釈する意図があるといえる。

新ハヌル1・2号機は、周辺に航空機滑走路があり航空機災害の評価などが不十分だという指摘を受け、水素除去装置も安全性問題が提起されたが、原子力安全委員会は運転を許可した。

新ハヌル2号機は、政府の「核振興政策」の影響で、原子力安全委員会が審査会議を4回だけ行って41日で運転を許可した。新ハヌル1号機の審査は7ヶ月もかかったのに。

原子力安全委員会の一部の委員は、審査の対象である事故管理計画書が含まれていない状態で運転許可を審議・議決したことは重大な欠陥であり違法だと主張している。

文在寅政府が新ハヌル3・4号機建設計画を白紙化したが、現政府が再び新ハヌル3・4号機の新規建設計画を推進している。

蔚珍原発には、国内で唯一の「中低レベル核廃棄物ガラス固化」設備があり、ガラス固化作業も進めている。

蔚珍は政治的保守性が強く、地方自治体と住民団体などが原発に友好的な性向がある。周辺の状況が難しい中、「核から安全に暮らしたい人々」という市民団体が脱原発活動をしている。

6. 原発と核廃棄場候補地だった 三陟と盈徳

(1) 三陟(サムチョク)

三陟住民の反核闘争は、原発建設計画を2回白紙化し、中低レベル放射性廃棄場誘致計画も1回防いだ。

政府は1991年に、三陟市近徳面に原発を建設すると発表した。住民たちは反対対策委を結成し、里長(村長)集団辞表など、反対運動に乗り出した。93年8月29日、住民たちは総決起大会を開いた。98年には国会前集会、光化門決議大会などで最高潮に達した。結局、政府は98年12月、三陟原発建設予定地指定を解除した。

これを記念して、住民たちは99年、近徳面に8・29記念公園を作り、「原発白紙化記念塔」と碑石を建てた。

2010年、キム・デス三陟市長が原発誘致を強力に推進すると公言した。12年9月、政府が再び、三陟を原発予定地に指定した。

住民たちは三陟市長選挙で、原発建設計画白紙化を公約に掲げたキム・ヤンホ氏を当選させ、三陟市長と市民は、2014年10月9日、「三陟原発建設賛否住民投票」を行い、建設反対84.9%と反対意思を明らかにした。

2019年6月5日、文在寅政府が三陟原発予定地指定を解除して、白紙化を成し遂げた。以後住民たちは8・29記念公園に2番目の原発白紙化記念塔を建てた。

政府は現在、三陟でも抜群に美しい海岸に石炭火力発電所建設を進めている。原発建設白紙化のためにたたかった住民たちは、いま、石炭火力発電所建設阻止のために全力を注いでいる。

(2) 盈徳(ヨンドク)

1988年、核廃棄場候補地として盈徳と蔚珍、迎日など東海岸の3地域が選ばれた。住民たちはその事実を知らなかったが、1989年2月に国会でこの事実が知られると、盈徳住民たちは街に飛び出して大規模デモを行って核廃棄場建設計画を防いだ。これは韓国初の核廃棄場反対運動だった。

2012年9月、政府が盈徳と三陟を原発予定地に指定した。三陟が住民投票を通じて原発建設反対意思を確認した翌年の2015年11月、盈徳住民たちも自主住民投票を推進した。投票の結果、全投票権者のうち32.5%が投票に参加し、そのうち91.7%が反対意思を明らかにした。そして2021年3月29日、政府は盈徳の原発予定地の指定を撤回した。

7. 大田(テジョン)

韓国原子力研究院があり、3万kW級の研究用原子炉を運転している。このハナロは、1995年に韓国が自力で設計した多目的研究用原子炉だ。ハナロは頻繁な稼働停止などで住民の不安を高めている。しかし、設計寿命がなく、まだ廃止していない。

大田には、研究や実験などのために、全国の原発から持ってきた使用済み核燃料が1699本もある。また、中低レベル放射性廃棄物も約3万ドラムある。
大田にある韓電原子燃料工場が、韓国のすべての原発が使用する核燃料棒を生産している。

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設計寿命満了
2023年コリ2 
2024年コリ3 
2025年コリ4ハンビッ1
2026年ハンビッ2月城2
2027年月城3ハヌル1
2028年ハヌル2 
2029年月城4 
月城原発の設計寿命は30年、他は40年

「老朽原発10基の寿命を延長するな!」

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★ノーニュークス・アジアフォーラム通信186号
(24年2月20日発行、B5-32p)もくじ

・若者たちが公設市場でバターン原発再建反対署名運動
韓国核発電所の地域の概要と懸案 (ヨン・ソンロク)            
『海島核事』― 台湾反核運動の軌跡 (鈴木真奈美)            
未稼働の第四原発 ― 楊貴英と呉文通 (王舜薇)              
非核のアジアを夢見て (王舜薇)                    
能登半島地震と原発リスク (北野進)                  
能登半島地震 ― それでもなお、原発回帰、再稼働を続けるのか (多名賀哲也)
令和6年能登半島地震を踏まえた意見書 (脱原発弁護団全国連絡会)    
3.23「ストップ!女川原発再稼働 さようなら原発全国集会in宮城」に参集を! (多々良哲)
女川原発2号機の再稼働を止める (舘脇章宏)               
上関町の中間貯蔵施設建設計画を止めよう (小中進)
青森県の再処理と中間貯蔵の現状 (小熊ひと美)             
ノーニュークス・アジアフォーラム通信 No.174~185 主要掲載記事一覧

 
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