「大韓民国の津々浦々まで持って行け、核廃棄物」キャンペーン、9泊10日の旅

核廃棄物がなくなるその日まで
「大韓民国の津々浦々まで持って行け、核廃棄物」キャンペーン、9泊10日の旅

キム・ヒョンウク(釜山エネルギー正義行動)  脱核新聞83号より

 核廃棄物ドラム缶の模型をトラックに載せた「大韓民国の津々浦々まで持って行け、核廃棄物」キャンペーンが、10月24日に釜山(プサン)を出発し、ソウルまで10日間のキャンペーンをくり広げた。蔚山(ウルサン)、慶州(キョンジュ)、蔚珍(ウルチン)、大邱(テグ)、霊光(ヨングァン)、大田(テジョン)を経由し、核廃棄物の問題を全国の市民にアピールした。
 釜山で開催した出帆式には、コロナ禍にもかかわらず60人あまりが参加した。そのあと、20個の核廃棄物ドラム缶の模型を引きながら3kmほど離れた宋象賢広場まで行進し、「10万年の責任」である核廃棄物の問題点を釜山市民にアピールした。市民からは、「(コロナ禍の)こんな時期に集会を開くなんて」「道路まで占拠して」などという批判の視線も注がれたが、実物大の「核廃棄物ドラム缶の模型」は、釜山市民らの脳裏に焼き付いたはずだ。実は、前日の夜、ドラム缶を載せたトラックをマンションの駐車場に止めておいたところ、警察に通報されるというハプニングもあった。結局、深夜にトラックを他の場所に移さなければならなかった。翌25日、釜山の代表的な観光地である海雲台や広安里海水浴場で、ダイイング・パフォーマンス(死のパフォーマンス)をし、蔚山に向かった。

 蔚山市北区では、今年の6月に民間主導で行われた住民投票で、94.8%の住民がマクスター(使用済み核燃料の乾式貯蔵施設)の建設に反対するという結果がでた。しかし、マクスターの追加建設は決まってしまった。それでも蔚山市民たちは挫折せず今も熱烈にたたかっている。毎週月曜日には、慶州のナア里の住民たちと共にマクスター建設反対のスタンディングを行っている。
 蔚山では26日に記者会見を開き、蔚山市庁前の車道を30人あまりが行進した。道路全体の車線を占拠したときは、少々解放感のようなものも感じられた。

 次の慶州で、「月城(ウォルソン)原発隣接地域移住対策委員会」のファン・ブンヒさんは「キャンペーンを見た多くの慶州市民が、漠然としていた核廃棄物のイメージを現実のものとして感じることができたようです。心の奥底で回避し忘れようとしていた存在を自覚することになったと思います。今回のような「核廃棄物ドラム缶行進」を、今後も、月に一度でも実施できればと思います」と語った。ファン・ブンヒさんの切実な思いが伝わってきた。

●「私、知っているよ、これ核廃棄物でしょ」

 ドラム缶を載せたトラックは、また走り始めた。蔚珍に到着した晩、私たちは、明日の記者会見に出席する方が運営する宿舎に泊まった。蔚珍社会政策研究所の所長がわざわざ宿舎を訪ねてくれて、蔚珍の現在の状況を私たちに説明してくれた。蔚珍は、新ハンウル原発3・4号機の建設計画が撤回されて一安心していたが、先日、郡議会の原発特別委員会が文書を発表したという。「新ハンウル原発3・4号機の建設の再推進を要求」する内容だ。こうした中、私たちキャンペーン団が蔚珍に来てくれたのは大変ありがたいと彼は言った。そして、彼は「全国の脱原発活動家たちと連携し、核廃棄物の問題についてももっと深く地域社会で議論しなければならない」と語った。
 蔚珍では地域住民と密接に話をすることができ、最も記憶に残った。
 また、蔚珍市場では、露店商のおばあさんたちが予想以上に、キャンペーンに興味を示してくれた。「私、知っているよ、これ核廃棄物でしょ」といいながら、マッコリをくれた。喜んで一杯いただき、歌も一曲歌ったら、これまでの疲れがすっかり解消した。
 10月28日は、大邱に向かった。大邱では懇談会が設けられた。大邱は反核運動が「不毛の地」だと言われてきたが、2011年の福島事故以後から現在まで毎週「脱原発火曜デモ」をくり広げている。合計で264回に及ぶという。懇談会では、新規の原発建設と原発の寿命延長の禁止を法制化しなければならないという意見を交わした。「脱原発基本法」草案を作り、実際に法制定まで進めることができれば、核廃棄物の問題に全国のすべての市民が正しく責任を負うことになるのではと感じた。

● 投げつけたい核廃棄物

 29日、霊光を訪れた。キャンペーン団が釜山を出発し霊光に到着するまでのあいだに、霊光にあるハンビッ原発5号機がまた稼動停止した。180日間の整備期間中に数百億ウォンをかけて蒸気発生器を交換して、再稼働するやいなや数日後に問題が生じたのだ。全羅道では数年前から「『核廃棄物をソウルに持って行け』という運動が必要だ」と主張されてきた。原発で生産される多くの電気はソウルと首都圏のために作られているにもかかわらず、その責任は原発が立地する地域住民たちに押し付けられようとしているからである。しかし原発立地地域の活動家たちにとって、「核廃棄物をどこかに持っていけ」という言葉を簡単に発することはできない。核による危険と不平等を誰よりもよく知っているからだ。本当に核廃棄物を投げ出したくなってしまった。
 30日、大田に向かった。大田の韓国原子力研究院の前で、地域の政党や市民社会団体らとともに記者会見を行った。
 ソウルへと向かう途中の世宗市では、産業通商資源部(経産省にあたる)の核廃棄物処理再検討委員会(以下、再検討委員会)が行った全国民の意見収斂の結果を発表する説明会と討論会が行われた。私たちは、世宗市政府総合庁舎に向かった。私たちは、「止めろ!でたらめ公論調査」と、声を張り上げて叫び、各地域の声明書も朗読した。しかし、再検討委員会は、「公論調査で国民の60%が『原子力の持続的な発展が必要だ』という結論を出した」と発表した。我々は抑えられない憤りを胸に、終着地のソウルに向かった
 31日、終着地のソウル駅では多くの人たちが私たちを出迎えてくれた。核のドラム缶の模型を引っ張って駅舎の中に入った。国会議事堂前にも行った。

 11月1日には、朝から雨が降り始めるなか、ソウル大学正門を訪れた。光化門(クァンファムン)では、雨が激しく降っていたが、パフォーマンスを始めると、うそのように雨がやんでくれて、まるで我々を助けてくれているようだった。

● 大統領府前の噴水広場、公権力が私たちを阻止

 11月2日、ついに大統領府前に到着した。しかし大統領府に行く道は険しかった。警察に囲まれ、一歩も動くことができなかった。警察は「集会はだめ、道路占有もだめ」で、何もかもだめだと主張した。私たちも一歩も引くことはできなかった。これ以上怒りを我慢できなかった。この日は、「脱原発市民行動」や「高レベル核廃棄物全国会議」など全国の脱原発団体が産業部の推し進めた再検討委員会と公論調査の過程を糾弾する記者会見を行った。各地の原発地域の住民も集まった。大統領府前では、ダイイング・パフォーマンスをしなかった。警察の前で、通り過ぎる市民もない中、パフォーマンスを行う理由はなかった。
 原発40年間の歴史の苦痛と痛みをだれよりも知っているからこそ、簡単に口にしたくなかったその言葉、「持って行け、核廃棄物」。みんなが責任を負わなければならない核廃棄物をどうするのか、国民すべてが自分の問題として共に悩み、その責任について共に話し合おうと、釜山を出発し全国を回り、ついに大統領府前まで行ったのに、結局、「持って行け核廃棄物、大統領が責任を負え」はスローガンだけで終わった。大統領府の前の噴水台広場には、結局、進入できなかったのだ。
 「大韓民国の津々浦々まで持って行け、核廃棄物」キャンペーンの9泊10日の旅は、こうして終わった。私たちは、いつか再び、核廃棄物の問題を訴えるためにソウルに向かうはずだ。10万年の責任を真剣に議論するその日まで、これ以上核廃棄物が発生しないその日まで、私たちは止まらないだろう。キャンペーン団と各地域で出会った皆さんに心から感謝します。

― 解説 ―
 現政権は、前朴槿恵政府が作った「高レベル放射性廃棄物管理基本計画」の問題点を認識し、2017年に「公論調査を通じて使用済み核燃料政策を再検討する」とした。
 2018年、主管部署である産業通商資源部は、市民社会と原発地域をメンバーに迎えて「再検討準備団」を構成した。しかし、産業部は再検討準備団内で合意しなかった事案を残したまま、2019年5月、一方的に市民社会と原発地域を排除し、「使用済み核燃料管理政策再検討委員会」を発足させた。
 再検討委員会は、月城原発使用済み核燃料保存施設である「マクスター」追加建設について、「地域実行機構」を構成したが、放射線非常計画区域内に含まれる蔚山市を地域実行機構の構成から除外した。
 また、再検討委員会と慶州地域の実行機構が20年7月に「建設賛成が多数」という結果を発表した「月城原発使用済み核燃料保存施設の建設賛否を問う地域公論調査」では、慶州市民だけで構成した145名の市民参加団のうち、韓国水力原子力(株)の利害当事者が20名以上参加したという「公論操作」疑惑が浮上している。
 「大韓民国の津々浦々まで持って行け、核廃棄物」キャンペーンは、現政権が「国民と疎通し、核廃棄物管理政策を樹立する」と約束した計画が、拙速で不誠実に実施されていることを批判し、高レベル核廃棄物の危険と社会的責任を市民に知らせるという趣旨で企画された。 (訳/小原つなき)

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★ノーニュークス・アジアフォーラム通信167号
(12月20日発行、B5-32p) もくじ

・ロシアの反核運動:諸問題、抗議活動とそれに対する報復の数々<前編>
 (ロシア社会エコロジー連合/地球の友ロシア)

・「大韓民国の津々浦々まで持って行け、核廃棄物」キャンペーン
 (キム・ヒョンウク)
  
・光州で世界人権都市フォーラム「原子力発電所と人権」 (キム・ジョンピル)
    
・オーストラリア上院が放射性廃棄物処分場計画を拒否
       
・子どもたちに核のゴミのない寿都を! (本田英人)
                
・「県民は同意していない!」
― 村井宮城県知事の女川2号機再稼働の「同意」に抗議の嵐 ― (舘脇章宏)
       
・原発バックフィット・停止義務づけ訴訟 
(青木秀樹) 
              
・12月4日 大阪地裁判決
原告勝訴! 大飯原発3・4号の設置許可取り消しを国に命じる
(島田清子)     

・「老朽原発うごかすな!」10・11・12月連続闘争 
(木原壯林)            

・老朽原発再稼働の地元同意に当たって慎重な検討を求める申し入れ 
(関電の原発マネー不正還流を告発する会・関電株主代表訴訟原告団・脱原発弁護団全国連絡会)                                   

・第2次「黒い雨」広島地裁判決控訴に抗議し 取り下げを求める共同声明に賛同を   

・東日本大震災と福島原発事故を題材にした小説を語る(6) (宇野田陽子)    

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