ヨン・ソンロク (韓国・脱核新聞より)
自然災害により、原発はいともたやすく停止を余儀なくされた。至上最大規模といわれた今回の台風は、主に韓半島の東海岸に位置する原発の安全に大きな影響を及ぼした。台風や大雨、猛暑など、今後ますます頻繁になると考えられる異常気象に備え、原発の安全対策を強化し、早急な脱核が必要だという指摘がでている。
台風9号「メイサーク」によって、9月3日と4日、釜山の古里(コリ)原発1・2・3・4号機と新古里原発1・2号機で、外部電源を喪失する事故が発生した。発電所の外部電源が切れると同時に、これら6基の原発のすべての緊急ディーゼル発電機が起動した。このうち運転中だった4基は自動停止した。
新古里3・4号機は、稼動が中断することはなかったが、変圧器の停電が発生し、新古里3号機のタービン建屋の屋根の一部が破損した。
6基の発電所の外部電源が喪失した正確な原因は、9月14日まで発表されなかった。韓国水力原子力(韓水原)と原子力安全委員会は、送変電の設備異常、塩分流入などが原因だという一部の内容を発表した。
9月7日には、台風10号「ハイシェン」の影響で、慶州の月城(ウォルソン)原発2・3号機が稼働中断した。タービン発電機が停止したため、原子炉の出力を減少させ運転を停止した。
続いて7日午後、慶北の蔚珍(ウルチン)にあるハンウル原発1・2号機の液体放射性廃棄物の蒸発器で放射線警報が発生した。14日現在、ハンウル1・2号機は正常稼働中であり、韓水原と原子力安全委員会は、放射能の外部漏れはないことを明らかにした。
原発の外部電源の喪失事故は大きな事故につながる可能性がある。原子力安全委員会によると、現在、国内の原発は、外部電源の喪失に備えて、各号機ごとに緊急ディーゼル発電機2台と代替交流発電機、1MW級の小型移動型発電機を備えている。また、発電所ごとに3.2MW級の移動型発電車を備えている。緊急ディーゼル発電機は、自動起動が可能であり、代替交流発電機は、運転員が手動で操作しなければならない。
台風によって原発の事件・事故が多く発生したことで、専門家のあいだでは、事故原因の調査を事業者と規制当局のみに任せず、外部の調査委員会を構成する必要があると指摘している。韓水原が台風に備えて事前に原子炉を手動停止しなかったことも批判の対象となっている。
原発が台風で一時停止したのは今回が初めてではない。2014年には局地的集中豪雨により古里2号機の循環ポンプ室が浸水し原子炉が停止した。2003年9月の台風「メミ」の際には、古里1〜4号機と月城2号機が停止する事故があった。
■ 釜山と蔚山で原発の安全対策強化を要求
― 原発の早期閉鎖と脱原発を訴える ―
9月3日と7日に直撃した台風により、国内原発26基のうち10基で事件・事故が発生した。これにより、釜山と蔚山(ウルサン)をはじめ全国で、原発の安全対策の強化と、早期閉鎖など早急な脱原発と、透明な情報公開などを政府に求める声が高まっている。
脱核釜山市民連帯は、台風9号「メイサーク」により古里原発の稼動が中断される事故が起きるやいなや、緊急に声明を出した。続いて9日には釜山市役所で記者会見を開き、政府に早急な脱原発の推進を促した。記者会見では「台風の被害がでた日から悪夢のような日々を送っている」と訴え、釜山市に対しても対策を促した。「釜山市は、原子力安全条例を通じて、原発事故の危険から市民の安全を積極的に保護する任務を明文化したにもかかわらず、今回の件について釜山市民に何の情報も通知せず、現場調査や事態の把握にも積極的に動かなかった」と批判した。そして、これら原発の被害状況を市民が直接確認し、原因と後続措置の状況が正しく確認され履行されるように、官民合同の真相調査団を構成することを要求した。
■ 原子力安全委員会に安全対策の強化を要求する公文書提出、
蔚山市には外部調査委員会の構成を要求
脱核蔚山市民共同行動は、9月3日、4日、7日と相次いで3回にわたって声明を発表した。そして10日には、原子力安全委員会に公文書を送り、公式懇談会の開催と安全対策の強化を要求した。また、原発の安全性を高めるために、▲外部電源喪失に備えた緊急発電設備の強化、▲集中的に立地する原発の安全性評価の実施、▲原発再稼働への自治体の同意権を明記する法改正、▲放射能漏れに対応した「行政機関の対応マニュアル」のほか、「市民行動マニュアル」の作成と配布の義務付け、▲気候危機による安全設備の強化と放射能漏れ事故対応マニュアルの強化、▲テロ防止のための原発の設備強化などを要求した。
脱核蔚山市民共同行動は、報道機関に配布した3日の声明で、気候危機と台風に対し原発は安全性を担保することができないとし、政府に対し、月城2・3・4号機と古里2・3・4号機の早期閉鎖の決断を促した(月城1号機と古里1号機は寿命によりすでに閉鎖されている)。4日には、古里3・4号機で外部電源の喪失が追加的に発生すると、「6基すべての外部電源を喪失するのは初めての事態」であり、原発の安全基準の強化を促し、市民の知る権利のために原発の事件・事故に関して携帯のメッセージ通知を行なうように促した。7日には、月城2・3号機でタービン発電機の異常が確認されたことにより、蔚州郡と蔚山市が先頭に立って外部調査委員会を構成しなければならないと促した。
また、環境運動連合とエネルギー正義行動、緑の党なども声明を出し、「気候危機の時代において、原発は危険を抱えているに過ぎず、決して代案とはならない」と主張し、政府に早急な脱原発を促した。
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★ノーニュークス・アジアフォーラム通信166号(10月20日発行、B5-20p)もくじ
・韓国 自然災害に無防備な原発
― 台風により10基の原発で事件・事故 ― (ヨン・ソンロク)
・トルコ シノップ原発、肯定的な環境影響評価に市民が抗議 (森山拓也)
・フィリピン 「バターン住民は原発再開を断固拒否する」
・声明:日立製作所の英ウィルヴァ原発事業からの完全撤退を歓迎
(FoE Japan)
・核のごみ最終処分場の建設は許さない (佐藤英行)
・女川原発の再稼働を止めよう! 9.26宮城県民大集会の報告 (多々良哲)
・「老朽原発うごかすな!大集会in おおさか」に1600人が結集 (木原壯林)
・関電原発不正マネー 検察捜査で真相に迫れるか (末田一秀)
・「黒い雨」控訴に関する抗議声明 (ひだんれん他)
・東日本大震災と福島原発事故を題材にした小説を語る(5) (宇野田陽子)
・【声明】いまこそ日韓関係の改善を
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