「ニュークリア・アラトゥルカ」 http://nuclearallaturca.com/
ドキュメンタリー映画プロジェクトについて
ジャン・ジャンダン監督
トルコの人々に放射能について尋ねると、彼らの頭にまず浮かぶのは「紅茶」です。紅茶はトルコで大切にされている国民的な飲み物です。それがなぜ、放射能と結び付けられているのでしょうか。話は1986年に遡ります。この年にはチェルノブイリ原発事故が発生しました。放射性物質を含んだ雲がトルコへも到来し、降雨を通じて農作物が汚染されました。このとき収穫期だった茶葉も汚染されたのです。
無責任な政治家たちがカメラの前で紅茶を飲み、何も問題はないと言わなければ、紅茶と放射能が関連付けられることはなかったでしょう。彼らは紅茶を飲むパフォーマンスをしただけではなく、ひどく道理に反したコメントで人々を騙そうとしました。
「少量の放射能は体に良い」
ジャヒット・アラル:産業通商大臣
「放射能を含んだ紅茶はより美味しい」
トゥルグット・オザル:首相
「放射能は骨の健康に良い」
ケナン・エヴレン:大統領
トルコは1960年代中頃から原発の建設をめざしてきましたが、50年以上にわたり進展はありませんでした。
しかし2010年、トルコはロシア政府(チェルノブイリ原発事故を引き起こした)と協定を結び、地中海沿岸のアックユに原発を建てることを決めました。続いて2013年には日本政府(福島原発事故を引き起こした)と協定を結び、黒海沿岸のシノップでの原発建設を決めました。さらに2016年には中国政府との間で、ブルガリア国境に近いイイネアダで原発を建設するための協定を結びました。
2011年の福島原発事故後に行なわれた世論調査では、65%以上のトルコ人が原発建設に反対でした。しかしそれは、実権を握るエルドアンと、彼の娘婿であるエネルギー大臣による非民主的な政府を思いとどまらせることはありませんでした。
彼らは最近、トルコ初の原子炉は2023年に運転を開始すると発表しました。2023年はトルコ建国100周年の年です。
周到に用意された原発推進のプロパガンダ・キャンペーンが2015年から衰えることなく続いていており、学校でも原発が宣伝されています。チェルノブイリ後の時代と同様に、フクシマ後の現代の政治家らも、ごまかしのレトリックを使い、人々の目を原子力の危険性から逸らせようとしています。
「リスクのない投資はない。私たちは飛行機に乗るではないか?」レジェップ・タイイップ・エルドアン:福島原発事故当時の首相
2011年の福島原発事故は多くの原発保有国を岐路に立たせました。
高度に工業化が進んだドイツのような古くからの原発保有国は原子力政策を転換し、原発に頼らず、再生可能エネルギーによる持続可能な未来を選択しました。
他方で、トルコのような原子力導入への転換期にある国々は、もう一つの先進工業国である日本の後を追い、原子力プロジェクトを継続しています。
福島原発事故からわずか数年後に、日仏企業連合(三菱重工・アレバ社)が新しい原発を地震のリスクが非常に高いトルコで建設するのは皮肉なことです。
チェルノブイリから来た雲が雨を降らせてから30年が経った今、トルコは原子力と核廃棄物を生産する国になるかどうかの瀬戸際に立っています。
私たちはまさにこの瀬戸際において、「ニュークリア・アラトゥルカ」を制作しようとしています。
この長編ドキュメンタリー映画は、数十年にわたるローカルとグローバルな「トルコ風の」原子力への歩みを描く、時に動揺を呼び、時に悲喜劇的で、そして不条理な「放射能を帯びた」トルコの物語です。
「アラトゥルカ」には、二つの意味があります。
一つは歴史的なもので、「トルコ風」「トルコスタイル」を意味するイタリア語の形容詞です。この言葉に関連して最も良く知られているのは、モーツァルトの1784年の作曲「ロンド・アラトゥルカ」です。この曲はピアノソナタ第11番第3楽章「トルコ行進曲」として知られています。「トルコ行進曲」はオスマントルコの軍楽隊から着想を得て作曲されたと言われています。
もう一つは、トルコ語に由来する軽蔑的な意味で、物事をでたらめで無秩序で、下手な方法で行なうことを指します。この言葉はまさに、トルコがどのように原子力と付き合ってきたかを良く表しています。
私たちはどのようにしてこの原子力への入口にたどり着いたのでしょうか。その途中、いったい何が起きたのでしょうか。
トルコはまだ原子力エネルギーを生産したことはありませんが、核兵器や核廃棄物を受け入れ、放射能漏れ事故を経験しました。
そしてトルコには反原発運動も存在します。トルコの原子力の歴史は、原子力に関する世界中の悲劇、災害、そして闘いの歴史とつながっています。
「ニュークリア・アラトゥルカ」は、トルコの原子力の歴史を、グローバルな視点を持ったローカルな物語として描きます。
チェルノブイリから雲が到来した時代を生き、無責任な政府に騙され裏切られたと感じた一人のトルコ人として、一人の環境活動家として、この国の未来を心配する一人の親として、私はこの映画を作り上げる使命を感じています。
また最近のトルコの抑圧的な政治状況の下では特に、この映画を観る人々にオルタナティブな声を届けることに大きな意味があります。手遅れになる前に原子力に関する理解を広め、未来に関する発言権を得るために、「ニュークリア・アラトゥルカ」によって原子力に関する批判的議論を呼び起こしたいと思います。
「ニュークリア・アラトゥルカ」はトルコの人々に原子力を問い直す機会を与えるだけでなく、世界中の人々に原子力の歴史を振り返る機会を与えます。
私たちは1年半にわたって「ニュークリア・アラトゥルカ」のための調査を行ない、現在は制作の真っ最中です。これまで、メディア・アーカイブの調査、ストーリーの収集、撮影地の事前調査、何人かの人物へのインタビュー等を行なってきました。
作品には日本に関するストーリーも含まれます。1945年に米軍が広島と長崎に原発を投下したことをトルコの人々は報道を通じて知り、深い印象を受けました。世界的に有名なトルコの詩人ナーズム・ヒクメットの作品「死んだ女の子」は、佐々木貞子さんの悲劇を基にしています。また、彼の「日本の漁夫」は、キャッスル・ブラボー核実験と第五福竜丸についての作品です。
福島原発事故の後には、アートディレクターの丹下紘希さんが原発の危険性を訴えるビデオメッセージをトルコへ送りました。丹下さんはトルコ語で、日本政府がトルコへ原発を売ろうとしていることについて謝っています。
私たちのドキュメンタリー映画の一部は、日本で撮影したいと思っています。
政府や商業利益から独立し、必要なことを自由に表現するため、私たちは「ニュークリア・アラトゥルカ」をインディペンデント作品として制作しています。そのため、私たちの以前の作品と同様に、支援してくれる世界中の団体や個人からの寄付を募ります。核のない未来をめざす全ての人々や団体の力が必要です。現在、インターネットのクラウドファンディングを通じて、作品制作への支援を募っています。 *キャンペーン・サイト:
www.support.nuclearallaturca.com.
ソーシャルメディアでも私たちをフォローし、多くの人に宣伝してください。
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■ ジャン・ジャンダン / Can Candan
(トルコの映画監督・プロデューサー)
ドキュメンタリー映画製作者。イスタンブールのボアジチ大学で教鞭をとる。米国ハンプシャー大学(1992年卒業)、テンプル大学大学院(1999年修了)で映画製作とメディア・アーツを専攻。2000年まで米国、その後トルコの複数の大学や機関で映画とメディア・アーツを指導。現在は映画製作、映画関連のプロジェクトや論文の指導に加え、ドキュメンタリーの歴史、理論、批評について指導している。トルコにおけるクルド・ドキュメンタリー映画についてや、トルコのドキュメンタリー映画の歴史についての著書がある。ドクイスタンブール・ドキュメンタリー・スタディーズ研究センター(docIstanbul Center for Documentary Studies)創設メンバー。
監督・プロデューサーとして制作した3作品は、賞を受け、世界中で配給された。長編ドキュメンタリー映画「壁(DUVARLAR, MAUERN, WALLS)」(2000年)では、ベルリンの壁崩壊後のドイツにおけるトルコ人移民を描いた。他に、悪名名高いトルコの大学入試を描いた「3時間(3 HOURS)」(2008年)や、トルコでLGBTの子を持つ親たちのグループを描いた「私の子供(MY CHILD)」(2013)がある。「ニュークリア・アラトゥルカ」は4作目の長編ドキュメンタリー映画となる。
*プロフィール詳細:http://boun.academia.edu/CanCandan
(訳:森山拓也)
(ノーニュークス・アジアフォーラム通信No.148より)
❤ 映画制作支援金(1000円~)を下記へ (日本での目標50万円)
郵便振替 口座番号:00940-3-276634
口座名:ストップ原発輸出キャンペーン
ゆうちょ口座:099(ゼロキユウキユウ)店 当座0276634
❤ 支援金ありがとうございます! (1月8日現在、148名、計614,000円)
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