
インド国会の下院は、The Sustainable Harnessing and Advancement of Nuclear Energy for Transforming India (SHANTI) Bill 2025(2025年インド変革のための原子力の持続可能な活用と発展法)を12月18日に可決し、20日に立法手続きが完了した。
このSHANTI法は、1962年原子力法と2010年原子力損害民事責任法を廃止し、原子力損害に対する民事責任制度を改正するとともに、民間企業が原発建設に参入できるようにするものだ。
2010年原子力損害民事責任法は、原発事故時の賠償責任を事業者だけでなく、原発供給者(原発メーカー)にも追及できる規定を設けており、フランス・米国・日本などからインドへの原発輸出における最大の障壁となってきた。
SHANTI法による原発推進に反対する
反核運動全国連合(NAAM) 2025年12月16日
[1] この滑稽な自己正当化的逆成語「SHANTI」は、欺瞞的かつ誤解を招くだけでなく、サンスクリット語の「シャーンティ」を「至高の平和」を意味する言葉として大切にしてきたインド国民の感情を著しく侮辱するものである。
このオーウェル的で化粧的な名称は、深い精神的意味を込めて『バガヴァッド・ギーター』の章句の終わりに「シャーンティ、シャーンティ、シャーンティ」と唱えるこの国のヒンドゥー教徒にとって、冒涜的ですらある。
[2] 1962年原子力法および2010年原子力損害民事責任法という、簡潔かつ明確で目的のはっきりした法律を廃止し、民間企業の原発建設・開発への参入を促し、原子力産業への外国直接投資を呼び込むことを狙ったSHANTI法案は、法体系を著しく混乱させ、インド国民を大きく裏切るものとなっている。
[3] SHANTI法案は、一見すると包括的で広範な管理体制を備えているように見えるが、実際には従来どおりの「原子力省の机と椅子」による規制儀式を再生産しているにすぎない。
原子力規制委員会を包括的な監視機関であるかのように見せているが、規制全体が内部処理となり、市民社会はおろか政治社会が関与する余地もほとんど存在しない。霧を晴らすどころか、この「規制」体制はむしろ不透明さを一層深めるものである。
[4] SHANTI法案は、第3章第11条第1項において、「原子力施設の運転者は、原子力事故によって生じた損害について責任を負う」と規定している。輸送や事業者間関係など多くの側面を網羅しているように見える一方で、運転者責任には上限が設けられている。
本法案は、2010年責任法と同様に、「各原子力事故に関する最大責任額は、3億SDR(特別引出権)相当額、または中央政府が通知で定めるそれ以上の額とする」と規定している。15年を経ても責任額の上限が変わらないことは奇妙である。SDRとは、国際通貨基金(IMF)が創設した国際準備資産である。
これは事故1件あたり4億6,000万ドル(約700億円)にすぎない。このような微額な上限を、災害規模にかかわらず設けること自体が、到底容認できず、憤りを覚えるものである。この額は、1984年のボパール化学工場毒ガス流出事故の被害者に支払われた4億7,000万ドルの補償金(著しく過小評価であった)をも下回っている。巨大な原子力災害はボパール事故をはるかに凌駕する可能性があることを考えれば、この責任上限は国民への侮辱に等しい。
補償額が3億SDR(約700億円)を超える場合、中央政府はIAEA主導の「原子力損害補完的補償条約(CSC)」に基づく国際基金を利用できるとされている。しかし、いかなる場合においても、供給者(原発メーカー)責任が追及されることはない。本法案は、補償責任のすべてを運転者に負わせ、供給者を完全に免責している。
運転者が供給者に対して求償権を行使できるのは、書面契約に明記されている場合、または故意による損害発生の場合に限られる。事実上、供給者責任が問われる可能性は皆無に近い。
これは、企業の利益を露骨に擁護し、国民を犠牲にする動きであり、インド憲法第21条で保障された「生命の権利」を侵害するものである。
[5] 原子力救済諮問評議会、原子力損害請求委員会などの新設は、国内における原子力官僚制と文化の支配を一層強める。
原子力省はすでに「聖域」と化しており、言論での反対でさえ国家反逆罪として扱われかねない。いかなる政党や政治指導者も、非国民の烙印を恐れて原子力政策を批判できないのが現状である。
本法案は、2070年までの脱炭素化と2047年までに原発1億kWを達成するという野心的目標を掲げている。その結果、ウラン鉱山、トリウム採掘、原発群、小型モジュール炉(SMR)、深地層処分場、さらには核兵器に至るまで、原子力化が国土全体に広がることになる。紛争、違反、犯罪、請求と反訴も増大するであろう。
原子力委員会を頂点とする軍産学複合体が支配する社会となり、私たちは原子力化される。
その結果は、共和国の民主的基盤、国民の安全、安心、そして真のシャーンティに深刻な悪影響を及ぼすものである。(抜粋)
SHANTI = So Hell Arrives Now Throughout India (こうして地獄は今、全インドに到来する)
S.P.ウダヤクマール(反核運動全国連合)
現在、インド原子力発電公社(NPCIL)は、全国7か所で24基の原発を運転しており、設備容量は878万kWである。
現在NPCILは、以下の7基(計610万kW)の原発を建設中である。ラジャスタン原発8号機(70万kW)、クダンクラム原発3・4・5・6号機(ロシア製、各100万kW)、ゴラクプール原発1・2号機(各70万kW)。
インド政府は、国産加圧重水炉(PHWR、70万kW)10基の建設について、以下の地点において、行政承認および財政認可を与えている。カルナータカ州カイガ、ラジャスタン州マヒ・バンスワラ、ハリヤナ州ファテハバード県ゴラクプール、マディヤ・プラデーシュ州マンドラ県チュッカ。
これらすべての計画が段階的に完成すれば、総設備容量は2031~32年までに2198万kWに達する見込みである。さらに政府は、2047年までに原発容量1億kWを達成することを目標としている。
国際協力の下で、大型の輸入軽水炉が、マハーラーシュトラ州ジャイタプールと、アーンドラ・プラデーシュ州コバーダに建設される計画である。また、マディヤ・プラデーシュ州セオニ県キンドライ村、ケララ州カサラゴド県チーメニ村、西ベンガル州プルバ・メディニプール県ハリプール村も、原発建設候補地として検討されている。
SHANTI法が12月20日に成立すると直ちに、アダニ財閥は、ウッタル・プラデーシュ州政府と協議を開始し、同州に20万kW小型モジュール炉(SMR)を8基建設する計画を進めている。国営のバーバ原子力研究センターがSMRの設計・開発を担当し、NPCILが同コンツェルンのために運転を担う予定である。プロジェクト全体は5~6年で完了すると見込まれている。
タタ・グループ、リライアンス・インダストリーズ、JSWグループといった他のインド大手財閥も、原子力分野への参入を狙って競り合っているという。
こうしてインドは、ウラン鉱山、トリウム鉱山、製錬施設、テーリング池、原発、原子力パーク、SMR、AFR(原発外施設)、DGR(深地層処分場)、原子爆弾、水素爆弾など、次々と増殖する「核」によって核武装化されていく。簡潔に言えば、「ここにも核、あそこにも核、どこもかしこも核、核、核」である。
SHANTIの真の意味が、ここに明らかになる。So Hell Arrives Now Throughout India ― こうして地獄は今、全インドに到来するのである。
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★ノーニュークス・アジアフォーラム通信198号
(26年2月20日発行、B5-32p)もくじ
・ヨングァンでハンビッ1号機「永久停止宣言式」(小原つなき)
・脱核非常時局 宣言文 (韓国・脱核非常時局会議)
・ハンビッ・コリ・ハヌル、すべてで使用済み核燃料貯蔵施設建設を推進 (ヨン・ソンロク)
・声明:原発の再稼働計画に断固反対する (台湾環境保護連盟)
・新型原発の投機的な喧伝に追随するな、SMRは安全な選択肢ではない (緑色公民行動連盟)
・SHANTI法による原発推進に反対する (インド・反核運動全国連合)
・SHANTI = So Hell Arrives Now Throughout India (S.P.ウダヤクマール)
・原発建設が遅延する一方、トルコでは再エネが加速 (森山拓也)
・フィリピン政府が原発計画を発表 (ジゼル・オンベイ)
・原発の是非は「私たち県民が決める」と声をあげれる人を増やしたい (佐々木かんな)
・原発の安全性を無視する中電は、浜岡原発から手を引け (沖基幸)
・基準地震動を捏造した中部電力 (早川しょうこ)
・青森から (中道雅史)
・川内原発・乾式貯蔵施設建設阻止の闘い (杣谷健太)
・「ALPS処理汚染水」と廃炉等についての国・東電と住民との県南説明意見交換会 (片岡輝美)
・「風と光のミライ」で原発と自然エネルギーのファクトを発信 (木村結)
・ノーニュークス・アジアフォーラム通信 No.186~197 主要掲載記事一覧
・No Nukes Asia Forum in Philippines - 開催のお知らせ
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