
「非核家園、No Nukes TAIWAN、No Nukes ASIA」を 台湾電力ビルに投影(撮影・豊田直巳)
【台湾NNAFダイジェスト映像 LET’S follow Taiwan(台湾に続こう)】 (6分30秒)
https://youtu.be/c6bnrpV7gIQ
台湾は非核家園の実現へ
環境団体は No Nukes TAIWAN と訴える
1978年に台湾が原発を開始してから1万日余りを経て、5月17日、ついに正式に「非核家園(非核の国)」へと歩みを進めることとなった。環境団体は台湾電力本社前に再び集まり、No Nukes TAIWANのスローガンを掲げ、それをビルに投影し、台湾の持続可能な発展への道を祝福した。
非核家園への最後の一里である第三原発2号機は、17日午後に出力を下げ始め、夜10時すぎに送電網から切り離され、正式に運転を停止する。
反核運動において重要な役割を果たしてきた台湾環境保護連盟は、今夜、反核運動の象徴的な場所である台湾電力本社前に再び集まり、「迎接非核家園」夜会を開催した。同地は1988年に同連盟が台北で初の反核集会を実施した歴史的地点である。
夜会は午後8時に開始され、台湾環境保護連盟、緑色公民行動連盟、台湾再生エネルギー連盟などの複数の環境団体のほか、日本、韓国、フィリピン、インド、インドネシア、タイ、トルコの反核団体、さらには第四原発建設反対のために断食した民進党の弁護士・林義雄が設立した人民作主志工団などが参加した。参加者は何度もNo Nukes TAIWANを唱和した。
台湾環保連盟会長の謝志誠氏は、台湾では16,965日間、原発が動かされたが、天の加護により大きな災害なく過ごせたこと、そして台湾電力の原発従業員の尽力に感謝を示した。過去に原発ではトラブルが相次いだが、大きな原子力災害は回避されたと語った。
緑色公民行動連盟の崔愫欣秘書長は、今日は祝うべき日であるが、依然として多くの擁核派や野党が原発の再稼働を望んでいることに懸念を示した。来週には立法院で第三原発再稼働の国民投票を決定しようとする動きもある。台湾の反核運動はこれまで幾多のたたかいを経験してきたが、もし8月に国民投票が実施されるならば、それを最後のたたかいとし、台湾を真の非核家園とすべきであると語った。
ノーニュークス・アジアフォーラム日本事務局のToach氏も、台湾の脱原発は民主主義の成果であると述べ、台湾が今後もアジアの民主主義先進国として、アジアを非核の道へと導く存在であり続けてほしいと期待を示した。
台湾環保連盟の創設会長である施信民氏も、報道陣のインタビューに応じて過去の反核運動と台湾電力との関係について詳細に語り、民進党政権による非核家園の方針に強く賛同すると述べた。
歌手パナイも、参加者たちと共に「非核家園」の歌を高らかに歌い、「子どもたちに非核家園を」との願いを込めた。
そして最後に、台湾電力本社ビル外壁に「非核家園、No Nukes TAIWAN、No Nukes ASIA」のスローガンを投影し、台湾が正式に非核家園へと歩みを進めたことを祝した。 (中央通信 5月17日)
2025 NNAF 非核亜洲論壇 議程
■ 5月16日
【開会式】
挨拶:謝志誠(台湾環境保護連盟会長)、施信民(非核亜洲論壇・台湾招集人)、陳培瑜(立法委員)、水戸喜世子、村上正子、伴英幸氏への黙祷
【基調講演】
木原省治「日本被団協ノーベル賞の喜びと責任」
【各国報告】
台湾:李卓翰、日本:松久保肇、韓国:ユ・エスダー、フィリピン:Djoannalyn Janier、インド:ヴァイシャリ・パティル、トルコ:プナール・デミルジャン、タイ:プラソン・パンソリ、インドネシア:トゥバグス・アマディ
【若者セッション(世代をつないで)1 】
とーち、廖彬良、イ・ホンソク、エッタ・リー、黃醫雯、川﨑彩子・佐久間いぶき、オ・ソンイ
★「台湾反核運動40年写真展」見学
■ 5月17日
【課題共有】
張雅惇「再生エネルギーの経済性」、明日香壽川「将来のエネルギーミックス」、林子倫「エネルギー転換の戦略」、北野進「能登地震と原発」、中道雅史「日本の使用済み核燃料」、豊田直巳「福島復興の虚構」、大賀あや子「福島原発事故による被害と被曝」
【若者セッション(世代をつないで)2 】
黃品涵、陳曼麗、陳秉亨、渡辺あこ、コン・ヘウォン、エンリケ・ベレン、ジョシュア・カマチョ
【共同声明討議/次回開催国について】
★立法院前と自由広場でスタンディング
【非核家園・夜会(脱原発実現・記念集会)】
謝志誠、艾文アイウェン(歌)、高茹萍、ツィ・スーシン、パナイ(歌)、高成炎、孫一信、小川みさ子、とーち、佐藤大介、韓国参加団パフォーマンスほか
■ 5月18日
【曽文生・台湾電力会長との懇談会】
【第三原発訪問】
【第三原発現地・恒春住民との交流】
■ 5月19日
【屏東県ソーラーシェアリングなど見学】
【周春米・屏東県知事との面談】
【地球公民基金会との交流会】
【若者交流会】(台北・緑色公民行動連盟事務所にて)
■ 5月20日
【第四原発訪問】(貢寮の楊貴英さん・呉文通さん)
【第一原発・乾式貯蔵施設視察】【第二原発訪問】
・主催:台灣環境保護聯盟、台灣再生能源推動聯盟、野薑花公民協會、媽媽氣候行動聯盟、綠色公民行動聯盟、全球綠人台灣之友會、台灣教師聯盟、守望文教基金會、綠台文教基金會、環盟北海岸分會、環盟東北角分會、環盟花蓮分會、環盟台東分會、環盟台南分會、環盟澎湖分會
・共催:人民作主志工團、公民監督國會聯盟、生態關懷者協會、主婦聯盟環境保護基金會、台灣人權促進會、台灣社、台灣北社、台灣永社、台灣客社、台灣綠黨、爸爸非核陣線、綠主張綠電合作社
★ 参加者(台湾以外) 日本:藍原寛子(福島在住ジャーナリスト)、明日香壽川(東北大学)、稲垣美穂子(ジャーナリスト)、宇野田陽子(NNAFJ事務局)、大賀あや子(「避難の権利」を求める全国避難者の会)、小川みさ子(鹿児島県議会議員)、川﨑彩子(原子力資料情報室)、北野進(志賀原発を廃炉に!訴訟原告団)、木原省治(広島市原爆被害者の会)、佐藤大介(NNAFJ事務局)、曽根俊太郎(元高校生平和大使)、とーち(NNAFJ事務局)、徳井和美(NNAFJ事務局)、豊田直巳(フォトジャーナリスト)、中道雅史(核燃料廃棄物搬入阻止実行委員会)、七沢潔(ジャーナリスト)、松久保肇(原子力資料情報室)、水戸晶子(応援カレンダープロジェクト)、水戸喜世子(子ども脱被ばく裁判の会)、村上正子(原子力市民委員会)、森山拓也(気候ネットワーク)、吉野太郎(関西学院大学)、渡辺あこ(Ilpen Solidarity Club)、渡田正弘(上関原発止めよう!広島ネットワーク)
韓国:エネルギー正義行動、グリーンコリア、環境運動連合、仏教環境連帯、脱核新聞など25名
フィリピン:非核バターン運動3名、インドネシア:WALHI、タイ:Nakhon Nayok Environment Heritage、インド:反核運動全国連合、トルコ:Nukleersiz
■ NNAF台北会議・発表者資料(PPTまたはスピーチ原稿)
https://drive.google.com/drive/folders/1COOFZGGg49fae-ccIV34sS7bRwdwJ7ox
■ Youtube中継録画(日本語通訳音声) https://www.youtube.com/@NoNukesAsiaForum
*若者セッション・若者交流会は、一般社団法人アクト・ビヨンド・トラストの2025年度助成を受けて実施されました。

2025 非核亞洲論壇 開幕挨拶
施信民(非核亞洲論壇台灣召集人)
おはようございます。「2025 ノーニュークス・アジアフォーラム」にご参加いただき、誠にありがとうございます。
今回のフォーラムには、日本、韓国、フィリピン、インドネシア、タイ、インド、トルコなど、国外から60名を超える方々をお迎えでき、大変嬉しく思っております。
原発の拡大と核兵器の拡散に反対し、クリーンで持続可能なエネルギーの使用を促進するため、アジア地域の人々は、1993年に日本で初めて「ノーニュークス・アジアフォーラム」を開催しました。
その後、フォーラムはアジア各国で順番に開催されてきました。台湾ではこれまでに6回(1995年、2002年、2005年、2010年、2014年、2019年)開催しており、今年で7回目の主催となります。
明日、第三原発が停止し、台湾は正式に「非核国家」となります。この成果を達成できたのも、皆さまから長年にわたって台湾の反核団体への励ましとご支援をいただいたおかげです。心より感謝申し上げます。
とはいえ、国内外の原発推進勢力は依然として強大であり、「非核家園」を守るための大きな挑戦が私たちの前に立ちはだかっています。
私たちはここに、台湾およびアジアのすべての人々に向けて訴えます――原発が危険で高コスト、かつ何万年にもわたり害を及ぼすものであるという本質を直視し、「非核家園」政策を支持し、民衆の力で原発利権集団の反撃に立ち向かおう、と。
今回のフォーラムは、台湾環境保護連盟が国内の多くの団体に呼びかけて共に開催します。この場を借りて、企画・運営に携わってくださったすべての団体と関係者の皆さまに、心からの感謝を申し上げます。
フォーラムは5月16日から20日までの5日間にわたり、国際会議、夜会、視察活動などが行われます。この5日間の議論と交流を通じて、私たちがお互いの理解を深め、共通の認識を築き、「非核アジア」という目標に向かって団結していくことを願っています。
久しぶりにお会いする多くの旧友の皆さま――反核運動における長年のご尽力に深く敬意を表します。また、今回初めてお会いする新しい友人の皆さまにも、心より歓迎と感謝を申し上げます。このアジア反核の祭典で、皆さまが有意義な経験を得られることを願っております。
台湾での滞在が安全で楽しいものになりますよう、また、皆さまのご健康とご多幸をお祈り申し上げます。

第21回ノーニュークス・アジアフォーラム in 台湾 ダイジェスト
■ 5月16日
台湾大学図書館地下の国際会議ホールにて、開幕式は台湾環境保護連盟(TEPU)会長の謝志誠さん、NNAF台湾代表の施信民さんの挨拶で始まった。「明日、第三原発が停止し、台湾は正式に原発ゼロになる」という言葉を聞き、「本当のことなのだ」という実感が湧いた。
続いて、今年90歳という水戸喜世子さんの挨拶だ。台湾や韓国での脱原発をめぐる交流の思い出とともに、福島原発事故後の日本の被ばくの状況にも触れ、核廃絶に向けた民衆の愛の力の結集を呼びかけた。水戸さんは虐殺行為が続くパレスチナへのアクションを呼びかけることも忘れなかった。続いて、2024年6月に亡くなった原子力資料情報室の伴英幸さんを偲び、アジアの盟友たちと黙とうささげた。
基調講演は、日本被団協のノーベル平和賞を記念して、広島の木原省治さん。被爆80年目の今、被爆者のこれまでの経験や願いを語り、戦争において核爆弾を使わせなかった先人たちの平和運動を引き継いでいくという課題の重さを語られた。また、核被害という観点において原爆と原発は区別できないとして、核廃絶・脱原発におけるアジアの連帯を呼びかけた。
各国の原発やエネルギーの現状を報告し合うセッションのトップバッターは台湾の李卓翰さん(TEPU元事務局長)。学生の頃から脱原発運動を始め、ついに脱原発を達成することをうれしそうに語っていたが、台湾の電力の8割はいまだ化石燃料が占めており、再エネは15%。再エネを増やすとともに、エネルギー効率を高めることや省エネを今後の課題として挙げた
日本からは松久保肇さん。政府のエネルギー政策が原発や火力の維持を優先し、再エネを抑制的に扱っている現状とともに、福島原発事故後の廃炉の困難な状況を詳しく解説し、ひとたび原発事故が起きれば大量の放射性廃棄物の処理に追われるのであり、各国で脱原発を進めることが重要であることを改めて強調した。
韓国からはユ・エスダーさん(KFEM)。「原発で国を豊かにする」ことをかかげていた尹錫悦前政権のもとでの市民のたゆまぬ抵抗運動の紹介があった。また、新大統領に決まった李在明氏は、原発について積極的な発言をしなくなっているとのことで、韓国にとって重要な転換期にあるとして、118もの社会改革の項目をまとめるなど、市民が力強く活動を続けている様子が報告された。
フィリピンからは、Djoannalyn Janierさん。マルコス・ジュニア大統領のもと、原発13カ所、SMR(小型原発)14カ所の候補地が設定される一方、再生エネは伸びていない(現在22~25%)現状を報告した。市民の6割以上は原発に否定的であり、民主化や気候危機に反する現状の政策に対し、市民の力が必要だと語った。
インドからはヴァイシャリ・パティルさん。インドでは国家安全上の理由で、原発にかかわる調査研究が禁じられ、国会で議論もされない現状にふれ、厳しい状況に置かれても民衆が力を維持しつづけることの重要性を説いた。
トルコについてはプナール・デミルジャンさん。アックユとシノップという二つの原発計画があり、アックユでは現在、2万人以上の労働者による工事が進んでいる。トルコでも抗議活動を行う学生が逮捕・拘束される状況が続いており、プナールさんもまた民主化運動の継続の重要性を訴えた。
タイは、プラソン・パンソリさん。タイには本格的な原発計画はないが、研究用の原子炉があり、最近ではSMRに強い関心を持っているという。隣国のミャンマーやカンボジアでもSMRの計画が進んでおり、阻止するために運動を学んでいきたいと語った。
最後の報告となったインドネシアについては、トゥバグス・アマディさん。気候変動対策として原発建設への圧力が高まっている状況にあり、西カリマンタンでは東南アジア最初のSMR建設が期待されているという。他にも二か所(バンカ、ムリア)の計画がうごめいており、政府に対して公正性、透明性、法的根拠を求め、活動をしている状況が報告された。 (村上正子)
■ 5月16日・若者セッション1
ユースの発表を中心に報告する。
台湾の活動家Ettaは、文化人類学の研究者でもある。原発の国民投票が行われた2018年から、Their Nuke Storyというとりくみを始め、原発立地地域の人々の声を調査し始めた。そこには、生きてきた現実と、普遍的な科学とは異なる批判的な視点があるという。
Ettaは、social decommissioning(社会的廃炉)という言葉を用いて文化人類学的観点の重要性を説明した。廃炉は、原発や廃棄物についてだけでなく、社会や人々の感情も含めたより広い影響についても含まれるべきだという。ある住民は、第三原発を見ると、40年間原発で働いたという亡くなった父親のことを思い出すと語った。Their Nuke Storyは、そこにいる人びとの声を、その人の言葉(文化)で可視化する試みで、市民の複雑な想いを複雑なまま取り上げていることも重要な点であった。
「原発・気候問題は単に科学的なエネルギーの問題ではない」。最も強調されていたメッセージに、きっと参加者は強く共感した。
次に、各国の気候訴訟の報告が行われた。
台湾の気候訴訟は、先住民、漁民、農民など、気候変動によって暮らしを脅かされる人々を中心に、100人以上が起こしたものである。日本と同様、憲法によって環境権が保障されておらず、その明記を求めるとりくみでもある。台湾は世界全体の温室効果ガス排出の1%にも満たないが、だからといって対策をしなくてもよいというわけではなく、1つひとつの国がその責任を負うべきということを話していた。
韓国からは昨年判決が出た訴訟について報告があった。胎児を含めた若い世代が原告となり、2020年に提訴。気候危機から安全が守られることが環境権として認められ、2031-2049年まで温室効果ガス排出削減目標が設定されていないことは違憲であることなどが確認された。
日本からは、「明日を生きるための若者気候訴訟」原告として、筆者と、台湾に留学中の大学生が発表した。この訴訟は、対政府の台湾・韓国のとりくみとは異なって、火力発電事業者を相手取っ
これらは単なる訴訟ではなく、大きな気候正義運動を作るものであると認識している。韓国の勝訴に続き、日本と台湾でも世論を高め、気候対策を前進させることができるかが問われている。
原発の問題は、一部のユースにとっては非常に関心の高いことであるが、依然としてとして高年齢層中心の運動になっている。NNAFも例外ではない。とくに日本における脱核運動は、継承と同時にアップデートが必要である。そのため、多世代での国際会議は互いの関心や価値観を聴き合う重要な場であった。 (川﨑彩子)

■ 5月17日
張雅惇さんはNGOの立場から「再生エネルギーの経済性」について話した。講演の最後に、議員など連携先にどのように伝えるか、市民環境団体と環境省の連携、一般の人々にエネルギー政策を認識してもらうにはどうすればよいのかを考えること、3点の重要性を語った。
明日香壽川さんは、日本における将来のエネルギーミックスについて。多くの人が再生可能エネルギーは高価であるというまちがった認識を持っていることを指摘し、労働組合や若い人を含む関係者のコミュニケーションが必要と述べた。
林子倫さんは、2050年に向けた台湾のネットゼロ(温室効果ガス実質ゼロ)政策について講演した。エネルギー転換・産業転換・ライフスタイル転換・社会転換の4つがストラテジーであり、製造業の部署からのとりくみの必要性、グリーンエネルギーが雇用を増やすことも示した。
北野進さんは「能登地震と原発」。昨年発災した能登地震は、志賀原発にも影響が及んでいる。もし原発が動いていたらどうなったのか、住民は避難できたのか。地震学が進んでもいつどこで地震が起きるかはわからないこと、原発震災が起こると住民は逃げることができないことを指摘した。
中道雅史さんは「日本の使用済み核燃料」について。1985年4月9日に青森県知事が県議会で「核燃料サイクル施設」を六ヶ所村に受け入れると宣言してから現在に至る状況を示し、青森県には、大間原発、東通原発、米軍基地、自衛隊基地、軍事レーダー、軍事施設、むつ使用済み核燃料中間貯蔵施設などもあることを述べた。
豊田直巳さんは「フクシマの『復興』。消される風景と消えない放射能」。パレスチナ・ガザの状況や軍事と原発のつながりについて言及した後、3.11直後から何度も福島を訪れ撮影した写真を見せていった。朽ちた建物が次に撮影したときには更地に変わるだけでなく、「原子力正しい理解で豊かなくらし」「原子力郷土の発展豊かな未来」という看板が外されていくこと、商店街の痕跡が無くなっていくことなどを示した。
大賀あや子さんは「福島原発事故による被害と被曝」。3.11の被害は今もなお続いている。事故直後から今に至るまでのさまざまな放射線分布マップを示した。そして原発事故避難者がいまだ6~7万人いることを述べ、被曝健康被害なども含め、棄民政策であるとして国の責任を求めた。
「若者セッション2」のあと、最後に、共同声明案が示され、意見交換が行われた。そして、次回(2026年)のNNAF開催国はフィリピンに決定。大きな拍手で承認された。 (吉野太郎)
■ 5月17日・若者セッション2
台湾から3名、韓国から1名、フィリピンから2名の一組。日本からは私が発表をしました。
mom loves Taiwanや、SHARE (center for Sexual rigHts And Reproductive justicE)や、日本の加害歴史文脈から話をした私もそうですが、「脱原発」運動がメインの活動ではない登壇者が多かったように思います。
脱原発運動家というのが色濃く出ていたのは、フィリピンの2人でした。日本や、韓国の原発輸出国からの参加者の前で、バターン原発の話をしてくださいました。彼らのスライドの中には、フィリピンのマルコス大統領と、韓国の前大統領の尹錫悦が優雅に乾杯をしている写真がありました。「栄光」とか、「友好」とかのタイトルが付けられそうなきらびやかな写真です。その裏で、24歳のEricと、23歳のJoshuaが、自身の生活を投げうって脱原発を訴えている。こういう状況を許している世界で、私たちは生きていることを虚しくも感じます。
ちなみに、フィリピンの2人の発表の前には、SHAREのへウォンさんが尹の弾劾デモの様子などを見せてくれていましたが、改めて、あの人は弾劾されるべきだな〜、と感じましたし、それができる韓国市民社会を尊敬します。へウォンさんの発表では、とくに密陽から始まった脱核への声が、イシューの垣根を超え、人権の話に発展して運動の連帯を深めていったこと。また、気候危機文脈での連帯の現状や、その重要性について語られました。正直、日本の脱核運動に足りない視点は、まさに「人権」なのではないか。と思います。韓国や台湾と比べて、日本の脱原発運動の場では、原発問題以外の社会問題に関心がない人や、「マイノリティ」が運動のなかに存在していることに無自覚な人が多いと思います。そういう意味で、SHAREで活動をしながら、脱核を訴えるへウォンさんのような存在は、大切だと感じました。
台湾からは、冒頭にあげたmom loves Taiwanからの発表が印象に残っています。まず、名前からわかるように、「mom-母」の視点から、気候危機・脱核を訴えるというコンセプトに感心しました。みんな、社会の中で、それぞれの役割があります。自分が社会とどのように関わっているのか。自分目線での語りができると、より多くの共感が得られるはずです。 (渡辺あこ)
■ 5月17日・「非核家園」夜会
今日は、台湾の「非核家園」(非核国家)達成を皆で喜び合う記念日である。

夕方、立法院前と、民主化運動のシンボルである「自由広場」前を経由して、「非核家園」夜会を開く台湾電力本社前へ。
本社前で、人民作主志工団(民主化運動指導者で反原発運動の象徴的人物の林義雄さんが設立した団体)など、台湾の人びとと共に集会に参加。
集会開始は8時過ぎで、主催者あいさつは謝志誠さん(台湾環境保護連盟会長)。「この台湾電力本社前は台湾の反原発運動の歴史を象徴する場所である」「原発が動かされたが、天の加護により大きな災害なく過ごせたこと、そして台湾電力の原発従業員の尽力に感謝する」と述べた。
続いて台湾人歌手の艾文アイウェンさんが台湾愛を歌いあげてムードを盛り上げる。次に高茹萍さん、ツィ・スーシンさん(緑色公民行動連盟)などが現在までの運動の歴史を踏まえ報告。ツィさんは、「依然として多くの原発推進派や野党が原発の再稼働を望んでおり、油断せず闘い続ける」と述べた。原住民女性歌手のパナイさんが魂のこもった歌を歌い、参加者と一緒に合唱。
昔から反原発運動をしてきた高成炎さんが若き活動家の孫一信さんを紹介し、彼が熱い連帯の挨拶。日本の参加者から、小川みさ子さん、とーちさん、佐藤大介さんが祝福と連帯の挨拶をした。
いつも元気でパフォーマンス好きの韓国人グループからの挨拶があり、ハングル「脱核」の巨大バナーを広げ「ノーニュークス・ 台湾、ノーニュークス・アジア」を連呼!!

最後に参加者一同でこぶしを振り上げ「ノーニュークス・台湾、ノーニュークス・ アジア」を連呼し記念撮影。そして、最後の原発が正式に運転停止される夜10時という節目の時間を迎えた。すると、本社ビルの壁に巨大な緑色の文字「非核家園、 No Nukes TAIWAN、No Nukes ASIA」が道路の反対側から投射された!
驚いた私たちが台湾人スタッフに聞くと、台湾電力からは「短時間ならOK」と了解済みとのこと。側にいた女性警察官に「大丈夫なの?」と聞くと「大丈夫、OKよ」と笑って答えてくれた! これは台湾市民社会の力強さの証明であり、他国ではありえない。 (渡田正弘)
■ 5月18日
朝からバスで台北駅へ向かい、新幹線で左営駅まで移動、そこから貸し切りバスで第三原発のある南端の恒春へと向かった。大都会の台北とは違い、しばらく走るとパイナップル畑やヤシの木やエビの養殖場が広がり、のどかで美しい田園風景が広がる。
到着した第三原発では、PR館に隣接した立派な会議室に通された。約80人の参加者がゆったり座れるように椅子とテーブルが配置され、テーブルには軽食や飲み物などが並べられている。脱原発を掲げてこのように歓待されることに、なんだか不思議な思いだった。

しかも、この会合に出てきてくれたのは、台湾電力のトップである曽文生会長。そこで話されたことは、「台湾の脱原発は時代的な流れだ」「原発がすべての面で優れているなら、なぜ原子力産業は成長しつづけないのか」「寿命が終わった原発を修理したり、10年以上のリードタイムをかけて新規建設するより、再生可能エネルギーを増やす方が安定的で効率的だ」というような明確な内容であった。
その後、昨夜運転終了したドーム型の第三原発が見える美しいビーチへ立ち寄り、しばしの休憩。よくもまあ、原発というのは世界中どこでも風光明媚なところを選んで建てられてきたものだ。厚かましいことこの上ない。

その夜は、地元の住民も参加しての夕食会。その食事の素朴ながら美味しかったこと! その場に参加してくれた地元の農民、張清文さんは、次のように語った。「私は約60年間、ここに住んでいますので、第三原発が建設されていくところをずっと見てきました。そしてこのたび第三原発は運転を終了し、今度は廃炉を見届けていくことになります。廃炉とはどいうものなのか、安全性に不安はないのか、わからないことだらけです。これから仲間と廃炉を監視していくうえで、私たちは助けを必要としています。みなさん、ぜひ私たちをサポートしてください」
食事の後は、屏東のビジネスホテルへ移動して宿泊。チェックインしていると、翌日面会予定の県知事から歓迎のパイナップルが届けられた。ホテルのエントランス前にパイナップルが山積みにされ、一人の女性が華麗なナイフさばきでどんどんパイナップルの皮を切り落として葉の部分を持って食べられるよう手際よく切っては参加者に手渡していく。夜のとばりのなか、エントランスの照明に照らされながらアジア各国の人々が嬉しそうにパイナップルをほおばる様子は、とても美しかった。 (宇野田陽子)
■ 5月19日
この日の午前中は台湾政府と屏東県が10年前から進めてきた原発の代替エネルギーの開発現場を視察した。2台のバスはパイナップル畑や椰子のプランテーション、魚の養殖場が点在する広大な農業地帯を走り、10時に最初の目的地の屏東持続可能環境グリーンエネルギー公園に到着した。
長い脚柱を池の水に浸しながら立つ大きなソーラーパネルの一群。ここは元々農地だったが、台風などによる水害で何度も水没、海水も入り込んで耕作不能に追い込まれたという。地域の高齢化率は75%、後継者もなく再起が難しい農家の救済を兼ねて、屏東県が実験教育施設として太陽光発電の施設を建設、土地を貸す農家には借地料が支払われている。道路を挟んで2つの施設があり発電容量はそれぞれ23MW。生産された電気は台湾電力公社に1kw時あたり3NTD(台湾ドル=元)で、民間の会社なら5NTDで買い上げられる。
次に訪れたのはソーラーパネルを屋根に組み込んだバニラ豆の栽培実験施設。香草であるバニラはアイスクリームやタバコ、香水などに用いられるが、元々熱帯雨林に生息し直射日光に弱い。そのためここではソーラーパネルの屋根が日陰を作って豆を保護する。農業省が推進する穀物生産とソーラーシステムの連動モデルで、農業収入に太陽光発電による売電収入が上乗せされて土地の利用効率が高まる。
すでに6年の実績があり、バニラ豆は地元の他に日本、韓国や欧米に輸出される。栽培面積は0.2ha、台湾全体で5ha。発電した電気は地元の火力発電の会社に販売している。
午後は屏東県庁で県知事と会見。14時、NNAF参加者が待ち受ける会議室に周春米知事が入ると歓声が沸き起こった。
台湾からの参加者たちの多くが所属する台湾環境保護連盟は、2016年に政権についた民進党の脱原発政策に助言し続けてきた。
立法院で野党が提出した原発の寿命を20年延長可能にする法案が可決され、第三原発の再稼働をめぐる国民投票が予定される中、停止したばかりの原発を抱える県のトップに「ぶれない」脱原発姿勢を取り続けるよう激励する意図も感じた。

「励まし、ありがとう」と甲高い声で応じた周知事は、「時間をかけ民意を集めて進めてきた対話を反故にして、十分な議論もせずに再稼働できるようにした」と野党の強引な立法を批判、「安全を軽視し、屏東の未来を踏みじるものだ」と怒りをあらわにした。会見後、かつて立法院で議員として周氏と同僚だったある参加者は私に「彼女とは一緒に脱原発の道を歩んできた。今さらぶれることはないと信じている」とコメントした。 (七沢潔)
■ 5月19日・若者交流会
夜、台北の緑色公民行動連盟の事務所で、若者交流会が開かれました。台湾、日本、韓国、フィリピンから18名の若者が集い、原発のない未来をめざして、それぞれの経験や思いを語り合いました。
プログラムの中心は、各国代表による発表と、発表後の質疑応答。日本からは福島原発事故後の現状や市民のとりくみ、韓国・台湾からは地域で続いてきた粘り強い反原発運動が紹介されました。
もっとも印象的だったのはフィリピンの発表でした。若者たちの活動は始まったばかりで、資金も人手も限られている。それでも「家族や友人のためだけでなく、国の未来、そして地球全体のために運動を広げていきたい」と語った若者の言葉には、静かで強い決意が宿っていました。
この発言に対し、他の国の参加者から「私たちにできることはあるか?」と自然に声が上がった場面は、国境を越えた連帯の瞬間でした。
発表後には、各国に対して他国が2つまで質問できるセッションがありました。日本に対しては「子どもの甲状腺がんの現状」と「若者の運動参加の広がり」についての質問が寄せられ、関心の高さがうかがえました。
私自身、反原発や環境運動にとりくむ中で、どうすれば同世代に関心を広げられるのか悩んできました。けれど今回の交流を通して、その悩みは国を超えて共通するものだと知り、孤独ではないという安心感と、あらためて頑張ろうという気持ちを得ました。
違う国に生きる同世代が、同じ未来を願い、言葉を交わす。それ自体が希望であり、この出会いは今後の活動に確かな力を与えてくれるものとなりました。 (曽根俊太郎)

■ 5月20日
最終日の視察先は、台湾の北部。反対運動の激化で建設中止となり2014年に封印された第四原発(龍門)、次に運転期間40年満了で2018、2019年に閉鎖した第一原発(金山)、2021、2023年に同じく閉鎖した第二原発(國聖)でした。
第四原発の敷地には入れなかったが、同行の松久保氏がドローン撮影した画像を共有下さった。その近辺にある「抗日紀念碑」にも立ち寄る時間がなかった。
地元・貢寮の人たちとの交流会では、楊貴英さん、呉文通さんの話を聞いた。第四原発建設のため最高のビーチが荒らされ、環境や経済資源でもある観光産業も大きな打撃を受けていて、自然豊かな地域にとって、原子炉に核燃料が入らなかったものの、輸出したのは日本であり、第二の侵略と言われているとのこと。
台湾では2021年に公民投票(国民投票)が行われ脱原発政策が強く支持され、再生可能エネルギーへの転換を進めてきた。
2016年の時点で再生可能エネルギーの比率は4.8%だったが、2024年には11.9%に達し、今年2025年3月時点で14.6%にまで増加。一方で、原子力の比率は2016年に12%、2024年に4%まで下がり、5月16日には3%台、5月17日には遂に原発ゼロを達成。
午後、我々が次に向かった第一原発は受付でパスポートを掲示、ボディチェックして専用バスで使用済み核燃料の乾式貯蔵施設に案内された。原発で発生した使用済み核燃料は各原発のプールで冷却されているがプールが満杯になっているため、台湾で初めてプールから乾式貯蔵に移され、この5月から20年貯蔵を開始した(現在、112体)。。
そして、台湾電力から廃炉についての説明を聞いた。廃炉による物質の処理や放射能測定のことなどだ。再利用できる鉄等、ゴミ減容化、品質管理について、年間に受ける放射線量が10マイクロシーベルトというIAEAの基準で策定したクリアランスプログラムを原子力安全委員会がOKしているとのこと。第一原発には多くの視察・訪問があるという。質疑応答で避難計画、敷地内外のモニタリングポストなどについて聞いた。
第二原発の温排水排出口の視察で行程は終了した。かつては大量の温排水が勢いよく流れていたところだ。 (小川みさ子)

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★ノーニュークス・アジアフォーラム通信194号
(25年6月20日発行、B5-32p)もくじ
・台湾は非核家園の実現へ、環境団体は No Nukes TAIWAN と訴える
・2025 NNAF非核亜洲論壇 議程
・2025 非核亞洲論壇 開幕挨拶 (施信民)
・第21回ノーニュークス・アジアフォーラム in 台湾 ダイジェスト
(村上正子、川﨑彩子、吉野太郎、渡辺あこ、渡田正弘、宇野田陽子、七沢潔、曽根俊太郎、小川みさ子)
https://nonukesasiaforum.org/japan/archives/3299
・核のない世界に向かって共に歩もう (韓国参加団)
・原発にノー、安全で公正な未来にイエス! (非核バターン運動)
・「非核家園」夜会(脱原発実現記念集会)でのスピーチ (ツィ・スーシン)
・「2025 NNAF」参加の皆さまへ (フィリップ・ワイト)
・老朽原発の再稼働に反対する! 国民投票を政治の道具にするな!
(台湾・全国廃核行動プラットフォーム)
・NNAF in 台湾 に参加して
(藍原寛子、明日香壽川、稲垣美穂子、宇野田陽子、大賀あや子、小川みさ子、川﨑彩子、北野進、木原省治、佐藤大介、曽根俊太郎、とーち、徳井和美、豊田直巳、中道雅史、七沢潔、松久保肇、水戸晶子、水戸喜世子、村上正子、森山拓也、吉野太郎、渡辺あこ、渡田正弘、プナール・デミルジャン、チャン・ヨンシク)
・「6歳の時に福島原発事故を経験した青年はいま」 曽根俊太郎インタビュー (韓国脱核新聞)
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