非常事態宣言下のシノップ反原発集会 ― 大統領制への移行で原発事業加速をめざすトルコ ―

4月22日、シノップでの原発反対集会、高校生たちもたくさん参加

2017年4月22日、トルコのシノップではチェルノブイリ原発事故から31年目に合わせて反原発集会が開催された。日仏企業連合による原発建設が予定されているシノップでは毎年、チェルノブイリ原発事故のあった4月に反原発集会が続けられている。

今年の集会は非常事態宣言が続く中で、さらに大統領権限強化のための憲法改正を決めた国民投票から1週間後の開催となった。本稿ではシノップ反原発集会と、国民投票をめぐるトルコ政治の近況について紹介する。

4月22日、シノップでの原発反対集会

■ 大統領の権限強化を決めた国民投票

今年のシノップ反原発集会から1週間前にあたる4月16日、トルコでは大統領権限強化のための憲法改正を問う国民投票が行なわれた。結果は賛成51.4%、反対48.6%で、憲法改正による大統領制への移行が決まった。

現在のトルコは議院内閣制を採用しており、大統領は象徴的な存在に留まる。改憲により、大統領には強力な実権が与えられることになる。改憲案によると首相職が廃止され、大統領は閣僚や複数の大統領の任命権、司法の人事権や国会の解散権を持つようになる。また、大統領個人の判断で非常事態の宣言も可能となる。

トルコでは2015年以降、国内でクルド系武装組織、左派過激派、ISなどによるテロ事件が相次ぎ、大勢の犠牲者を出してきたのに加え、2016年7月には軍の一部によるクーデター未遂事件も起きた。クーデター未遂事件以降、トルコでは治安と安定の回復のために非常事態が宣言され、大統領を中心とする政府の権限が大幅に強化された。今回の憲法改正は、昨年から続く政府への権限集中の制度化を決めたことになる。

憲法改正への賛成派は、国の安定を取り戻し、民主主義を守るために強い大統領が必要であると訴えた。他方で反対派は、トルコの大統領制は米国の大統領制のような行政・立法・司法の三権分立が保証されておらず、大統領がすべてを支配する独裁につながると批判してきた。

なお、トルコでは過去に何度も憲法改正が行なわれている。今回は憲法改正自体が問題となったのではなく、改正の内容が問題視された。

反原発運動をはじめとする環境運動の参加者らは、大統領制が実現すれば環境や社会への影響を顧みない開発事業が大統領個人の権限で押し進められるようになるとし、憲法改正への反対を訴えてきた。

トルコでは昨年7月以降の非常事態宣言の下ですでに、開発事業に法人税や関税の控除、環境影響評価の省略などのインセンティブが与えられている。

最近の報道によると、原発事業は閣議決定によって国による優先事業に指定された(1)。

トルコ共和国建国100周年にあたる2023年までの原子炉初稼働に向け、原発建設事業が今後加速される可能性がある。

■ 祝祭的雰囲気の中で行なわれた集会

以上の国民投票から1週間後であるにもかかわらず、シノップ反原発集会には大勢の参加者が集まった。集会には地元住民や県外のシノップ出身者のほか、トルコ各地の環境団体や専門家団体、政党などが参加し、色とりどりのプラカードや横断幕を掲げてシノップ中心街を行進した。

集会が行なわれた広場のステージでは、チェルノブイリ原発事故の際のトルコ政府の対応への批判、原発はコストが高く経済性がないこと、原発導入はエネルギーの外国依存を強めることなどについてスピーチが行なわれた。

司会を務めたジャーナリストのオズギュル・ギュルブズは、福島で増え続ける汚染土のフレコンバックを示しながら、福島原発事故が今も続いていることや、放射性廃棄物の最終処分に関して世界のどこにも解決策がないことを訴えた。

ステージ上では、トルコの詩人ナーズム・ヒクメットの誌「死んだ女の子」の朗読も行なわれた。この作品はナーズム・ヒクメットが広島の原爆被害に関心を寄せて詩作したものだ(2)。

集会の最後には音楽のコンサートも行なわれ、参加者らが広場で踊り続けた。集会の祝祭的な雰囲気からは、厳しい政治的状況にもかかわらず参加者たちの希望が感じられた。

今回のシノップ反原発集会では、「ハユル(NO)」と書かれたプラカードを多く目にした。一週間前の国民投票に向けたキャンペーンでは、「ハユル」と「エヴェット(YES)」のスローガンが溢れていた

■ 苦境に立つ原子力産業と新興・途上国

現在、ロシア企業による原発建設が先行するアックユ原発では、原発建設は環境に無害であるとした環境影響評価の取り下げを求める裁判闘争が環境団体らによって行なわれている。だが大統領制への移行が進めば司法の独立性も脅かされることになる。

シノップでは原発事業の実施可能性調査が続く中、原発建設予定地で森林伐採が加速している(3)。

大統領制への移行が決まり、民主主義の縮小が懸念される中、トルコの反原発運動が以前より厳しい状況に置かれていることは確かだ。その一方で、東芝やシノップ原発事業を担うフランスのアレバ社をはじめ、世界の原子力産業は苦境に立たされている。

原発の危険性や非経済性も明らかとなり、原発の新設は国による強い関与がなくては難しい。国による強い関与は、とくに新興・途上国では民主主義の枠外で進められることもある。

シノップ反原発集会では、自国で原発を減らしながら、原子力産業保護のためにトルコのような新興・途上国に原発を輸出しようとする国の態度を批判するスピーチもあった。

先進国の原子力産業維持のために、トルコのような国の人々の生活や民主主義が犠牲になることがあってはならない。(NNAFJ特派員/写真も)

注:
(1) Birgün, [2017], “AKP nükleer santralleri ‘öncelikli yatırımlar’ arasına aldı!,” May 3.
http://www.birgun.net/haber-detay/akp-nukleer-santralleri-oncelikli-yatirimlar-arasina-aldi-157963.html.
(2) 元ちとせが歌う「死んだ女の子」は若松孝二監督の映画『キャタピラー』の主題歌ともなった。ナーズム・ヒクメットは『ヒロシマ』と題した詩集なども刊行している。
(3) Cumhuriyet, [2017], “Sinop nükleere
kurban ediliyor,” May 21.
http://www.cumhuriyet.com.tr/haber/cevre/745454/Sinop_nukleere_kurban_ediliyor.html.

「シノップをチェルノブイリにするな」の横断幕

(ノーニュークス・アジアフォーラム通信No.146より)

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○対トルコ原発輸出を加速=安倍首相(時事通信 6/22)

「安倍晋三首相は22日、トルコのチャブシオール外相と首相官邸で会談し、三菱重工業などの日仏企業連合が進めるトルコ北部の原発建設計画について「プロセスを加速化させるべきだ」との認識で一致した。
日本はトルコとの間で、原発輸出を可能にする原子力協定を締結している。
チャブシオール氏は、首相に早期のトルコ訪問を招請した」

○アックユ原子力発電所建設計画でトルコ企業3社がプロジェクト会社に出資へ(原子力産業新聞 6/21)http://www.jaif.or.jp/170621-a/
 「2023年の初号機の営業運転開始に向けて大きく前進」
「主要な建設許可は2018年3月までに取得できるとANPP社は予想しており、これにより原子炉系統部分で最初のコンクリート打設が可能になる」

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★ノーニュークス・アジアフォーラム通信146号(6月20日発行、B5-32p)もくじ

  • トルコ・非常事態宣言下のシノップ反原発集会(NNAFJ特派員)
  • 日印原子力協力協定 参議院可決による国会承認議決 抗議声明
  • 「日印原子力協定国会承認阻止キャンペーン」活動報告(大久保徹夫)
  • 参議院外交防衛委員会 意見陳述(川崎哲)
  • 日印原子力協定を承認・批准しないことを求める請願署名
  • ジャドゥゴダ・ウラン鉱山、ゆっくりと蝕む暴力(アンエリス・ルアレン)
  • ミティビルディ原発建設計画、環境裁判所が許可を撤回、しかし政府は原発建設計画をコバーダにシフトして継続(クリシュナカント)
  • モディ政権による新規原発10基建設という発表に抗議する(NAAM)ほか
  • 高レベル処分場、適地提示を機に反撃を(末田一秀)
  • 岡山の高レベル廃棄物問題(妹尾志津子)
  • ムン・ジェイン大統領の「脱原発宣言」に対する声明(エネルギー正義行動)
  • 5.18民主化運動37周年 記念辞(ムン・ジェイン)

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