脱核への舵を取った韓国の人びと(とーち)

147-1
動かないままのクレ―ンたち。新コリ原発5・6号機は建設中断中

脱核への舵を取った韓国の人びと (前編)
とーち(奥田亮)

8月10日から15日まで、佐藤大介さんとともに韓国を訪れた。案内・通訳でキム・ボンニョさんに大変お世話になった。

ムン・ジェイン大統領が脱原発宣言をして2か月ほど。しかし脱原発宣言とはいうもののそこには多くの課題が含まれている。

建設現地の人々に白紙撤回すると約束していた新コリ原発5・6号機は、3ケ月間の公開討論(公論化委員会が管理)を行なった後に結論を出す、また工事を中断するとしていた完成間近の3基の原発は完成させ、設計寿命まで運転を認めるという。

2079年という未来にようやく脱原発が実現するというこの政策が、脱原発の名に値するのか、私には疑問に思えた。

が、同時に、本気で実現するための戦略的なものである可能性を期待したい期待ももちろんあった。

そしてこれまで激烈な闘いを続けてきた韓国の人々は、本心ではこれをどうとらえているのだろうか。

今回はその旅の速報として、お会いした大統領の核政策ブレインの一人である東国大のキム・イクチュン教授の話の一部をまずお伝えしたい。

■ 一貫している大統領の脱原発政策

キム・イクチュン氏によると、朴槿恵に敗北した2012年の大統領選挙の前、ムン・ジェイン氏は東日本大震災後の日本を訪れ、そこで脱原発を公約にすると発表したという。しかし帰国後、多くの批判にさらされることになり、キム氏に電話をかけてきた。いたずら電話かと疑って何度も確認したのち要件を聞くと、脱原発公約が選挙戦の攻撃材料にされているので、防御してほしい、ということだった。キム氏は二つ返事でそれを引き受け、今に至っている。

よく、ブレインの作ったウケのよい公約として脱原発を述べているだけではないか、と言われることがあるが、それは全く当たっていない。2012年から彼自身の考えで脱原発に至り、今ではそれがさらに強固になっていると思われる。そして、それはムン・ジェイン氏の自宅と関係がある。

■ 大統領の故郷と慶州地震

ムン・ジェイン氏の自宅はヤンサンで、コリ原発から20kmしか離れていない。母親は今もヤンサンに住んでおり、いわば原発現地を故郷に持っているといえる。

だからこそ2016年9月の慶州地震のとき、地震の2時間後に、翌日ウォルソン原発に行きたいとキム氏に電話をかけてきた。そして実際、翌日いっしょに訪れた。国会議員の中で一番早くかけつけた議員となった。

その際、地震計の測定値などの報告を受けたが、最も大きな地震による加速度を計測したのは1号機だった。

しかし、のちにこの1号機の2つある地震計のうち、1つは壊れていたことがわかる。ムン・ジェイン氏が訪れたときにはその事実を隠していたのだ。

ムン・ジェイン氏はそういう経験を積み重ねて、前回あれほど攻撃材料とされた脱原発を再び公約に掲げて、そして勝ったのです、とキム氏は語った。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA
ウォルソン原発。寿命の1号機、廃炉になるか

■ 脱核への舵を取った韓国のひとびと

ムン・ジェイン氏自身が脱原発を志向しているという指摘は、その後他の人からも聞くことができた。

そのように大統領のエピソードを聞いているうち、私も彼が実現可能な脱核の道を模索しているのだと思えてきた。

そしてなにより彼を選択したことで、この国を脱核へと向かう舵を握っていることに、人々が改めて気が付いた、そのことこそが、もっとも重要な脱核への道のはじまりではないか、と思えた。

*後編のお知らせ
マグニチュード5.8の慶州地震を体験したウォルソン原発近くの住民のお話、その原発のPR館の前でテントを張って抗議を続ける方の声、写真家チャン・ヨンシク氏とともに新コリ原発を間近に撮影し、間近すぎて、警備会社の車がやってきたりなんかして、そして民主化闘争を経て中東、中国、日本と渡り歩きサムチョクで原発反対を続けながら、帰農して大規模イチゴハウスを経営する型破りな人、さらにNNAFではおなじみのイ・ホンソク氏らとの密談などなど、お楽しみに。

147-4
サムチョク原発白紙化記念塔

(ノーニュークス・アジアフォーラム通信No.147より)

**************************************

★ノーニュークス・アジアフォーラム通信147号(8月20日発行、B5-28p)もくじ

・脱核への舵を取った韓国の人びと(とーち)
・ムン・ジェイン大統領の脱原発宣言
・韓国で原爆被害者が、米国政府らに民事調停請求、原爆資料館も開館
(高野聡)
・トルコ・反原発ドキュメンタリー映画「ニュークリア・アラトゥルカ」制作を支援して下さい(Nuclear alla Turca Documentary Film Project)
・原住民の日に全島で旗を掲げ、核廃棄物をランユ島から搬出するよう求める
(蘭嶼青年行動聯盟)
・高レベル処分場「適地マップ」公表される(末田一秀)
・メーカー訴訟原告のみなさまへ(笠原一浩)
・刑事裁判が始まった - 明らかになる証拠
支援団に結集し、公正な裁判を求めよう!(佐藤和良)
・北朝鮮のミサイルを唯一の申立理由とする原発運転差止め仮処分
・《声明》誰も安全を確認しない原発輸出の無責任体制(FoE Japanほか)
・「ジャドゥゴダ・ウラン鉱山、ゆっくりと蝕む暴力」について(福永正明)
・NNAF全記録DVD (渡田正弘・小木曾茂子)

年6回発行です。購読料(年2000円)
見本誌を無料で送ります。事務局へ連絡ください
sdaisukeアットマークrice.ocn.ne.jp

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です