「オーストラリアの原子力潜水艦の契約は、未来の危険」「原潜推進における南オーストラリア州の役割に大きな疑問」

「オーストラリアの原子力潜水艦の契約は、未来の危険」

ジム・グリーン(FoE オーストラリア)  RenewEconomy 9月17日

2019年、国会の環境エネルギー常任委員会は「Not without your approval」と題した原子力に関する報告書を発表した。この報告書では、国民の支持なしに原子力を推進することはないと強調していた。

にもかかわらず今月、国民の承認なしに、政府は原子力潜水艦を米英の技術供与により取得することを決定した。


しかし、原子力潜水艦の計画は、経済的理由 ― 原子力潜水艦8隻で1000億豪ドル(約8兆円)以上の費用がかかり、廃炉や廃棄物処理にも同じくらいの費用がかかる可能性がある ― や、他の選択肢があること、国民や政治家の反対など、さまざまな理由で破綻する可能性がある。


■ 代替案


政府内での議論や国際交渉が秘密にされてきたため、代替案が適切に検討されたかどうかを知るすべはない。


原子力が自然エネルギーとバックアップの蓄電よりもはるかに高価であるにもかかわらず、与党の国会議員の多くが、原子力を禁止する連邦法の撤廃を支持している。


ピーター・ダットン国防相の頭の中には、「原子力は良いもの。バッテリーは悪いもの、リベラリストのもの」という単純化されたイデオロギー的な思考があるのだ。


■ 原発へ


原子力潜水艦を運用している国は、5つの核兵器国とインドであり、原発と核兵器の双方を保有している。


原子力潜水艦を支える国内の原子力産業を構築するには、天文学的なコストがかかり、他の面でも問題がある。


スコット・モリソン首相は、原子力潜水艦の提案がオーストラリアでの原子力発電所の推進につながることはないと主張していた。しかし、AUKUSの発表から数時間後、オーストラリア鉱物評議会(MCA)は、オーストラリアでの原子力発電を禁止する法律を廃止するよう求めた。


石炭推進・原発推進・再生可能エネルギー反対のMCAは「オーストラリアが小型原子炉を使用する原子力潜水艦を保有しようとする今、民生用のSMR(小型モジュール原子炉)を検討しない理由はない」と述べ、SMRは「24時間365日、最も安価なゼロエミッションの電力を提供する」と付け加えた。


SMRによる電力は、従来型の原発よりも高価であり、自然エネルギーとは比べものにならないほど高い。


■ 核兵器について


政府は密かに、原子力潜水艦プログラムを通じて、オーストラリアを核兵器保有国に近づけようとしているのだろうか。


モリソン政権が国連の核兵器禁止条約への署名を拒否し、あらゆる段階で積極的に条約を弱体化させてきた理由の一端がそれで説明できるだろうか。


過去にも1960年代後半、ジョン・ゴートン政権が原発・核兵器開発を検討し、オーストラリアが国連の核拡散防止条約(NPT)に署名することに反対したことがある。


原子力潜水艦は、それが計画に含まれているかどうかにかかわらず、オーストラリアを核兵器保有国に近づけることは確かである。原子力潜水艦計画のために訓練を受けたスタッフが、後に核兵器計画に携わることになるかもしれない。


原子力潜水艦を建造することになる南オーストラリア州の州都アデレードの北郊外は、シドニーの南のルーカスハイツにあるオーストラリア原子力科学技術機構の研究用原子炉施設と並ぶ、オーストラリアの第2の核専門家の拠点となるだろう。(オーストラリア原子力科学技術機構の前身であるオーストラリア原子力委員会は、1960年代に核兵器開発に大きく関与していた)。


モリソン政権は、潜水艦交渉の一環として、オーストラリアが原子炉製造能力を身につけるために、米英に対してある程度の技術移転を要求するだろうか。それが政府の真意を問うことになるが、もちろん交渉は秘密裏に行われるので、他の人々は推測するしかない。


オーストラリアが原子力潜水艦を追求すると、他の国が同じことをするのではないか? たとえば、インドネシアは核兵器の保有に近づくため、原子力潜水艦か原発、あるいは、その両方を手に入れようとするだろう。


■ ウランの濃縮


原子力潜水艦の多くは、高濃縮ウラン(HEU)燃料を使用している。原子力潜水艦におけるHEU燃料の使用は大きな問題であり、HEUの非兵器使用の大部分を占めている。


では、オーストラリアは低濃縮ウラン(LEU)燃料の使用を主張するのだろうか。LEUも濃縮工場の存在と稼働を前提としているため問題はあるが、核兵器に直接使用できない点では望ましい。その場合、潜水艦の性能、原子炉の寿命、燃料補給の必要性などにどのような影響があるのか。


オーストラリアでもウラン濃縮を推進する動きが出てくるだろう。


ウラン濃縮の研究開発にオーストラリアが関わったのは、1965年にルーカスハイツの研究用原子炉施設の21号棟の地下で行われた「口笛プロジェクト」である。関係者は21号棟の前を通るときに口笛を吹き、濃縮作業については何も言わないことになっていた。


政府は、原子力潜水艦の追求は国連の核拡散防止条約(NPT)を損なうものではないと主張している。しかし、10年前、オーストラリアは米国と共謀し、NPT非加盟国との核取引を禁止するNPT原則に違反して、インドとの核取引(およびインドへのウラン販売)を認めた。


原子力潜水艦、高濃縮ウランの拡散はNPTのさらなる弱体化につながるだろう。


■ 核廃棄物


原子力潜水艦から発生する高レベル放射性廃棄物と中レベル放射性廃棄物の処分について、政府は沈黙を守っている。


世界のどの国も高レベル放射性廃棄物の処分場を持っていない。


原子力潜水艦から出る放射性廃棄物は、アボリジニの土地に投棄されることになるのではないか。現在、政府はオーストラリアの放射性廃棄物を南オーストラリア州のキンバに投棄する計画を進めようとしている。バンガラの伝統的土地所有者が満場一致で反対しているにもかかわらず。


核廃棄物の投棄に対するアボリジニの満場一致の反対を無視しようとしているのは、連邦政府と南オーストラリア州政府の粗野な人種差別主義を物語っている。連邦政府は、いわゆる「地域社会調査」から伝統的土地所有者を除外するために争ったこともあった。南オーストラリア州労働党は、核廃棄物処分場を含むいかなる原子力施設の計画に対しても、伝統的土地所有者は拒否権を持つべきだという方針を掲げている。


原子力潜水艦から発生する高レベル放射性廃棄物と長寿命の中レベル放射性廃棄物は、海外のコスト試算によると、処分に何百億ドルもかかると言われている。


南オーストラリア州の核燃料サイクル王立委員会は、高レベル放射性廃棄物処分場の建設、運営、廃炉にかかる費用を120年間で1,450億豪ドルと見積もっている。


政府がこのような巨額の長期コストを検討した可能性は極めて低い。潜水艦の廃炉もまた、将来の世代が直面する高価で危険な悪夢となる可能性が高い。

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「原潜推進における南オーストラリア州の役割に大きな疑問」

ケビン・ノートン InDaily 9.28


オーストラリアの原子力潜水艦の推進については、未知のことが多い。


将来、原子力潜水艦に搭載される原子炉と1隻あたり220トン以上の核廃棄物をどうするのか? 潜水艦が退役した後、解体が必要な潜水艦の部品は何か、オーストラリアにその能力はあるのか。退役した潜水艦からは3段階の放射性物質(熱を発し続ける核燃料、原子炉圧力容器ほか、さまざまな中低レベル放射性廃棄物)が発生するため、取り扱い、輸送、処分方法に課題がある。


オーストラリアには、放射性廃棄物を処分するための施設がなく、現在は国内100カ所以上の場所に保管されている。過去には、南オーストラリア州のウーメラ付近やノーザンテリトリー(北部準州)のマカティ付近などに、放射性廃棄物処分場を建設しようとしたが、地域住民の懸念や州政府の抵抗により、失敗に終わった。


2015年、南オーストラリア州のジェイ・ウェザリル首相(当時)が「核燃料サイクル王立委員会」を設置した。同委員会は2016年に次のような報告を行った。


「南オーストラリア州には、国際的な使用済み核燃料を安全に管理・処分する属性と能力があり、それは地域社会に大きな世代間利益をもたらすだろう。この活動を進めるためには、社会と地域の同意が基本となる」。そして報告書では、使用済み核燃料の処分施設の建設を追求するため、法律上の制約を取り除くよう提言している。


しかし、この報告書を検討するために設置された市民陪審は、提案に反対した。当時の野党党首であったスティーブン・マーシャルは、核廃棄物処分施設の推進は「もはや死んだも同然」と述べた。


今年、再び、南オーストラリア州のキンバでの低レベル放射性廃棄物処分場建設計画が提案されている。


オーストラリア政府は、南オーストラリア州のアデレードで潜水艦を建造するという意向をもっている。

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★ノーニュークス・アジアフォーラム通信172号
(10月20日発行、B5-28p)もくじ

・月城原発、24年間にわたり放射能漏れ (ヨン・ソンロク)
https://nonukesasiaforum.org/japan/archives/2489           

・1003事件から30年目の公民投票で、第四原発を終結させよう(台湾環境情報センター)

・オーストラリアの原子力潜水艦の契約は、未来の危険 (ジム・グリーン)     

・原潜推進における南オーストラリア州の役割に大きな疑問(ケビン・ノートン)ほか

・トルコの人々は日本の原発輸出にどう向き合ったのか
     ―『原発と闘うトルコの人々』を出版 ― (森山拓也)

・CoP 26 市民社会の声明 (世界252団体)

 ・東電に核を扱う資格はない ― 柏崎刈羽原発再稼働反対 ― (竹内英子)    

・東北電力は、被災原発・女川原発2号機の再稼働をするな! (日野正美)   

・避難計画の実効性を地元同意の要件に ~島根原発再稼働反対~ (山中幸子)   

・伊方原発仮処分、なるか3度目の差止め (小倉正)              

・10月停止の老朽原発・美浜3号機をそのまま廃炉に追い込み、原発全廃に前進しよう! (木原壯林) 

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